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催促

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シルヴェスト公爵家に勤めているハンナとレナの二人は、女主人であるアリスティア付きの侍女。そのため使用人の中でもアリスティアと時間を共にする事が特に多い。女嫌いのシルヴェスト公爵事、アレクセイの屋敷では侍女など女性の使用人の数が元々少なかった。それがアリスティアが嫁いで来る時に、侍女が少ないのは不憫だろうと人員が少し追加された。

その比較的新しく加わった侍女にハンナとレナも含まれている。二人はアレクセイが夫婦の寝室に入っていったのを確認すると、主人夫妻について話し始めた。


「旦那様は今日も奥様のお部屋に行かれたみたいね。二人で何をしていてるのか知らないけど」

「毎晩寝室で一緒にお茶を飲まれているみたいよ」

「普段は奥様に話しかけようとすらなさらないのに……。二人きりだと一体何をお話しされているのかしら?……もしかして、何か自分に不利な状況になった時に、奥様を蔑ろにしてないと私達に証言させるための偽造とかじゃないわよね?毎晩短時間だけ、事務的に会いに行くなんて」

ハンナの考察を聞いていたレナは途端に青ざめた。

「まさか…、そんな…だとしたら許せないわっ」

特にアリスティア贔屓の二人ではあるが、アレクセイは冷たい表情と普段の態度のせいで、他の侍女達からも大体このような印象と疑いを持たれている。





一方寝室では、アレクセイは正座をさせられながら、羞恥と情欲の色を孕んだ瞳で目の前の妻を見上げていた。
足の間にある屹立が既に昂ぶっているのは、既に知ってしまった快楽への期待か、それとも自身の妻に向けての物なのか。
アレクセイはアリスティアが目の前にいると、いつも視線の置き場に困っていた。

少女のような見た目の中にも、思慮深さを感じさせる美しい顔立ち。しなやかな足も、華奢な腰も全てが魅力的に見えて同じ空間にいるだけで無駄に意識してしまう。

女性に対してこんな風に思う日が来るなんて思わなかった。

床に正座をしながら夢のひと時を待ちわびるアレクセイだが、いつまで経ってもアリスティアは何もしてくる気配がない。あまりのもどかしさで遂に催促し始めた。

「どうした…?早く…」

「早く?どうされたいのですか?」

「両足でして欲しい」

「どうしてですか?」

「どうして……?足でして欲しいからに決まっているだろう」

焦らすような態度のアリスティアに、アレクセイは上目遣いで訴えかける。

「どうして足でして欲しいのですか?」

「足でしてもらうと気持ちが良いからだ」

正座で下半身を露出させながら、真面目な顔でこのような台詞を言うのは、国中探しても彼くらいかもしれない。


「まぁ、そうなんですのね」

「早くしてくれ」

澄まし顔で吐き捨てる。
そんなアレクセイを見下ろしながら、アリスティアは静かに、だが通る声音で話し始める。

「それが人に物を頼む態度ですか?わたくしは止めてもいいのですよ?
誰にどうして欲しいのですか、何故それをされたいのですか?もう一度はっきりと、大きな声でお聞かせ下さいませ。そうでないとわたくし、どのようにして差し上げたらいいのか分かり兼ねますわ」

「なんだと……!?アリスティアに足でしてもらうと、気持ちがいいのでお願いします!」


彼は今日も大きな声で妻にお願いをしていた。




今夜も事が終われば寝室から早々に追い出されたアレクセイ。未だ足で奉仕して貰う以外の事はして貰った事がない。
このままではいつまで経っても、閨を共に出来る日など来ないと、追い出され冷静になってからその事にようやく思い至った。
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