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占者が言ったので
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「何だこれはっ!?」
家具だ。だが、そんな事は分かっている。
アレクセイは急いで廊下に飛び出ると、夫婦の寝室の扉を忙しなく叩いた。
「アリスティア、アリスティアっ」
「何でしょうか?」
家具を思い切り蹴られた事で、アレクセイの到来を予測していたアリスティアは、すぐに部屋の扉を開けた。
扉が開かれるとアレクセイは寝室に入り込み、白のチェストを指差した。
そんなアレクセイの事を、大きなサファイヤブルーの瞳でキョトンと見上げてくる彼の妻。
「何だあれはっ」
「チェストですが?」
「そんな物は見れば分かるっ。何故家具を、続きの扉前に置いているのかと聞いている」
「隣に置いてある物と同じシリーズですから、並べて置いたら統一感が出て可愛いかと思いまして。バラバラに配置するより、お部屋もすっきり見えますし」
アレクセイの部屋へと続く扉の前には縦長のチェストが、その隣には横長のチェストが置かれている。アリスティアの言う通り、その二つは型が違うだけの同じ白素材で、金の取っ手がついた同じデザインの物だった。
「だからと言って、わざわざ扉の前に置かなくてもいいだろうっ」
アレクセイは正直かなり傷付いていた。
「全く使う必要のない扉のですから、壁と同じだと思いまして。ただの壁とみなしてチェストを置いてみました」
「くっ……!」
女嫌いであり、王命で侯爵令嬢の妻を娶ったにも関わらず閨を共にしないという、一生童貞宣言をかましたアレクセイである。
そう言われるとこれ以上文句は言えなかった。
「……どかしてくれ」
「まぁ、どうしてですか?」
「私が今後使うからだ」
「何のために使うのですか?」
「足で奉仕して貰う為……間違えた。今もアリスティアに聞きたい事があって来た。何か用がある時には、こっちの扉を使った方が早いからな」
性的に狂っていない時の彼は、未だ取り繕おうと抗っていた。
「殿下がどうしてもと言うのなら」
「頼む。……いや、お願いします」
しかし妻へのお願いは忘れない。
「それに例え使っていなくとも、扉の前を物で塞ぐのは、縁起が悪いそうだ。そう宮廷の占者が言っていた。ような気がする」
「そうでしたのね、殿下は博識ですわね。無知なわたくしに、教えて下さってありがとうございます。では、このチェストはそのうち移動させますね」
「明日の朝、すぐに退かせる」
「明日の朝ですか?随分急ぎますのね。それで、わたくしに聞きたい事とは何でしょうか?」
「ああ、そうだった。私のために桃を手配してくれたと聞いた。それのお礼も兼ねて、何かアリスティアに贈り物がしたくて。欲しい物や好きな物はないか?何でも言ってくれ」
「何でも良いと言われましても。こちらに嫁いで来る際に、ドレスも宝石も沢山用意して頂きましたし」
「そうか…では好きな花とかは?」
「お庭に素敵なお花が沢山咲いていますし。こちらの庭園は本当に素晴らしくて、毎日散歩しても飽きません」
「……急に聞くのは難しかったかもしれないな、では後日改めて聞くから考えておいて欲しい」
「分かりました、ありがとうございます。ではお休みなさい」
「ああ、おやす……まて」
アリスティアは洗練された所作で扉の元へ行き、流れるような動作で部屋の扉を開いて、夫を廊下に出るように促していた。笑顔で。
お陰で流されかけた。
「まだ何か?」
「今夜はまだ奉仕してもらっていないのだが?」
アレクセイは決して、毎晩妻におねだりする事を忘れはしない。絶対にだ。
家具だ。だが、そんな事は分かっている。
アレクセイは急いで廊下に飛び出ると、夫婦の寝室の扉を忙しなく叩いた。
「アリスティア、アリスティアっ」
「何でしょうか?」
家具を思い切り蹴られた事で、アレクセイの到来を予測していたアリスティアは、すぐに部屋の扉を開けた。
扉が開かれるとアレクセイは寝室に入り込み、白のチェストを指差した。
そんなアレクセイの事を、大きなサファイヤブルーの瞳でキョトンと見上げてくる彼の妻。
「何だあれはっ」
「チェストですが?」
「そんな物は見れば分かるっ。何故家具を、続きの扉前に置いているのかと聞いている」
「隣に置いてある物と同じシリーズですから、並べて置いたら統一感が出て可愛いかと思いまして。バラバラに配置するより、お部屋もすっきり見えますし」
アレクセイの部屋へと続く扉の前には縦長のチェストが、その隣には横長のチェストが置かれている。アリスティアの言う通り、その二つは型が違うだけの同じ白素材で、金の取っ手がついた同じデザインの物だった。
「だからと言って、わざわざ扉の前に置かなくてもいいだろうっ」
アレクセイは正直かなり傷付いていた。
「全く使う必要のない扉のですから、壁と同じだと思いまして。ただの壁とみなしてチェストを置いてみました」
「くっ……!」
女嫌いであり、王命で侯爵令嬢の妻を娶ったにも関わらず閨を共にしないという、一生童貞宣言をかましたアレクセイである。
そう言われるとこれ以上文句は言えなかった。
「……どかしてくれ」
「まぁ、どうしてですか?」
「私が今後使うからだ」
「何のために使うのですか?」
「足で奉仕して貰う為……間違えた。今もアリスティアに聞きたい事があって来た。何か用がある時には、こっちの扉を使った方が早いからな」
性的に狂っていない時の彼は、未だ取り繕おうと抗っていた。
「殿下がどうしてもと言うのなら」
「頼む。……いや、お願いします」
しかし妻へのお願いは忘れない。
「それに例え使っていなくとも、扉の前を物で塞ぐのは、縁起が悪いそうだ。そう宮廷の占者が言っていた。ような気がする」
「そうでしたのね、殿下は博識ですわね。無知なわたくしに、教えて下さってありがとうございます。では、このチェストはそのうち移動させますね」
「明日の朝、すぐに退かせる」
「明日の朝ですか?随分急ぎますのね。それで、わたくしに聞きたい事とは何でしょうか?」
「ああ、そうだった。私のために桃を手配してくれたと聞いた。それのお礼も兼ねて、何かアリスティアに贈り物がしたくて。欲しい物や好きな物はないか?何でも言ってくれ」
「何でも良いと言われましても。こちらに嫁いで来る際に、ドレスも宝石も沢山用意して頂きましたし」
「そうか…では好きな花とかは?」
「お庭に素敵なお花が沢山咲いていますし。こちらの庭園は本当に素晴らしくて、毎日散歩しても飽きません」
「……急に聞くのは難しかったかもしれないな、では後日改めて聞くから考えておいて欲しい」
「分かりました、ありがとうございます。ではお休みなさい」
「ああ、おやす……まて」
アリスティアは洗練された所作で扉の元へ行き、流れるような動作で部屋の扉を開いて、夫を廊下に出るように促していた。笑顔で。
お陰で流されかけた。
「まだ何か?」
「今夜はまだ奉仕してもらっていないのだが?」
アレクセイは決して、毎晩妻におねだりする事を忘れはしない。絶対にだ。
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