上 下
9 / 52

占者が言ったので

しおりを挟む
「何だこれはっ!?」

家具だ。だが、そんな事は分かっている。
アレクセイは急いで廊下に飛び出ると、夫婦の寝室の扉を忙しなく叩いた。


「アリスティア、アリスティアっ」
「何でしょうか?」

家具を思い切り蹴られた事で、アレクセイの到来を予測していたアリスティアは、すぐに部屋の扉を開けた。
扉が開かれるとアレクセイは寝室に入り込み、白のチェストを指差した。
そんなアレクセイの事を、大きなサファイヤブルーの瞳でキョトンと見上げてくる彼の妻。

「何だあれはっ」
「チェストですが?」

「そんな物は見れば分かるっ。何故家具を、続きの扉前に置いているのかと聞いている」

「隣に置いてある物と同じシリーズですから、並べて置いたら統一感が出て可愛いかと思いまして。バラバラに配置するより、お部屋もすっきり見えますし」

アレクセイの部屋へと続く扉の前には縦長のチェストが、その隣には横長のチェストが置かれている。アリスティアの言う通り、その二つは型が違うだけの同じ白素材で、金の取っ手がついた同じデザインの物だった。


「だからと言って、わざわざ扉の前に置かなくてもいいだろうっ」

アレクセイは正直かなり傷付いていた。

「全く使う必要のない扉のですから、壁と同じだと思いまして。ただの壁とみなしてチェストを置いてみました」

「くっ……!」

女嫌いであり、王命で侯爵令嬢の妻を娶ったにも関わらず閨を共にしないという、一生童貞宣言をかましたアレクセイである。
そう言われるとこれ以上文句は言えなかった。


「……どかしてくれ」
「まぁ、どうしてですか?」
「私が今後使うからだ」
「何のために使うのですか?」

「足で奉仕して貰う為……間違えた。今もアリスティアに聞きたい事があって来た。何か用がある時には、こっちの扉を使った方が早いからな」

性的に狂っていない時の彼は、未だ取り繕おうと抗っていた。

「殿下がどうしてもと言うのなら」
「頼む。……いや、お願いします」

しかし妻へのお願いは忘れない。

「それに例え使っていなくとも、扉の前を物で塞ぐのは、縁起が悪いそうだ。そう宮廷の占者が言っていた。ような気がする」

「そうでしたのね、殿下は博識ですわね。無知なわたくしに、教えて下さってありがとうございます。では、このチェストはそのうち移動させますね」

「明日の朝、すぐに退かせる」

「明日の朝ですか?随分急ぎますのね。それで、わたくしに聞きたい事とは何でしょうか?」

「ああ、そうだった。私のために桃を手配してくれたと聞いた。それのお礼も兼ねて、何かアリスティアに贈り物がしたくて。欲しい物や好きな物はないか?何でも言ってくれ」

「何でも良いと言われましても。こちらに嫁いで来る際に、ドレスも宝石も沢山用意して頂きましたし」

「そうか…では好きな花とかは?」

「お庭に素敵なお花が沢山咲いていますし。こちらの庭園は本当に素晴らしくて、毎日散歩しても飽きません」

「……急に聞くのは難しかったかもしれないな、では後日改めて聞くから考えておいて欲しい」

「分かりました、ありがとうございます。ではお休みなさい」

「ああ、おやす……まて」

アリスティアは洗練された所作で扉の元へ行き、流れるような動作で部屋の扉を開いて、夫を廊下に出るように促していた。笑顔で。
お陰で流されかけた。

「まだ何か?」

「今夜はまだ奉仕してもらっていないのだが?」

アレクセイは決して、毎晩妻におねだりする事を忘れはしない。絶対にだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

処理中です...