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死に損なった、先の話
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しおりを挟む『貴様の犯した罪、その私的な目的の為に手にかけた命の数、極刑に値する。しかし、その負の連鎖を止めたことも事実だ』
王は言った。
『この国に、いやこの世界に。貴様が害をなすのか、利益をもたらすのか見定める為に、その力を使え』
つまり、この国の戦争に加担し、どちらの味方なのかはっきりさせろと、そういうことだろう。
利益の大きさに免じて罪を裁定する。そう淡々と告げるこの国の王に、俺は頷いた。
もとより、決定権や、拒否権など、ありはしないのだけど。
「…か、……カナ、…………カナデ?」
柔らかく、自分を呼ぶ声が聞こえた。
いくら訂正しようと名前で呼ぶ彼の声に、無意識に答える。
「…俺は、…カナデじゃ、な……、」
「………カナデ。起きて、そろそろ着くよ」
「!」
その言葉に、勢いよく上半身を起こした。
パッと見渡せばそこは馬車の中で。ルイズさんの隊員が怪訝そうな顔で俺を見ている。
手首に視線を落とすと魔力制御の手枷がかけられていて、そうして、ようやく状況を把握した。
「(……あぁ、そうだ。これから前線に向かうところだった)」
そう把握して、自己嫌悪。こんな状況で熟睡するなんて、どんだけだよ。
頭を抱えるとルイズさんが気遣わしげな目で俺を見てくるものだから堪らない。もう本当にほっといてほしい。
「………ハハッ、まぁ怖気づいてないのはいいことだよなぁ?」
そんな俺たちのやり取りを冷ややかな目で見る隊員たちの中で、唯一空気を和らげようと笑い飛ばす声がして、そちらを見る。
「……ヘルス、さん」
「それともこんな緊張感には慣れっこか?」
「………いえ、そんなことは…」
ニカッと笑いかけてくる彼は、初対面からだいぶ態度が和らいだ。初めの突き放すような感じはなくなり、従来の友達、あるいは友人の息子に接するような態度に、最初は戸惑ったものだ。
…確か、王の断罪の後くらいだろうか。こんな感じになったのは。
「……緊張感が無いのも問題だと思います。副隊長」
鋭く固い声でそう言ったのはヘルスさん以外の隊員の男。
いかにも堅物そうな、真面目で実直さを感じさせるその男に、ヘルスさんは苦笑を漏らす。
「そんな固いこと言うなよ、ランス」
「………副隊長が、柔軟過ぎるだけです」
「はは、手厳しいな」
こうやって、隊員同士がギスギスしてるのもきっと俺の影響だ。
王から下された処罰にルイズさんは苦い顔をして、でもそれ以上何も出来なかったのか、思いの外あっさり納得したと思ったら、
『戦場に行くまでは私の隊で監視をします。異論はありませんよね?』
そう、騎士団長に満面の笑みで迫り、その権利を獲得したと聞いた時、俺は相当お冠だったことをようやく察したのだ。
余談だけど、部屋に帰った後にヘルスさんはルイズさんにこってりと絞られていた。彼は悪くないと俺が庇いだてしたのも琴線に触れたらしく、一緒に怒られる羽目になったのは、少し前の話だ。
「…………、」
隊員たちが言い合うのをぼーっと眺めていると、肩に優しくてが置かれ、視界にひょっこりとルイズさんが映る。
「…カナデ、喉乾いた? 水ならあるよ」
「……いえ、結構です」
彼がこうして何かと俺に構うのも嫌われている一因…、というか、一番の要因と言えるだろう。
部屋に軟禁されて居た時、食事を持ってきてくれたのはヘルスさんだけじゃなく、たまにルイズさんの隊の人たちが持ってきてくれていた。
一目見ても曲者だなと思う隊員たちに、唯一共通するものが『ルイズさんを尊敬している』ということだ。
威嚇されたり、嫌味を言われたり、興味なさそうな目で見ながらも役目を全うしたのは、『ルイズさんの命令』だから、に他ならないだろうし。
そう、ヘルスさんも語っていて、隊員たちの態度もそうと取れる。
だからきっと、ルイズさんの傍に俺がいることがどれだけの不利益を被るのか、彼らは正しく理解しているに違いない。
「(そうだ、俺は警戒されてしかるべき存在)」
そう、見捨てられて、切り捨てられてしかるべきなのに、それをしないのは、ルイズさんの甘さか、優しさか、どちらなのかは分からないけど。
ただ、感じるのだ。
俺は、彼の傍にいるべきじゃないと。周りの人間が、世界が、そう、言っている気がしてならない。
俺の妄想かもしれないけど、それでも、俺だって思うから。
この想い同様、俺の存在も消してしまうべきだとーーー
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