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死に損なった、先の話
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しおりを挟む「ーー顔は上げるな、目を閉じていろ」
開口一番にそう言われ、上げかけた視線を落とした。
静まり返った室内には、男と俺が大理石の上を歩く音と、室内に入る前にかけられた、魔法の発動を防止する手錠の鎖の音しかせず。
しかし、ヒリつくような視線だけは絶えず向けられていた。
…耳鳴りがしそうなほど、静かだ。息をする音さえ抑えたような場の空気に、改めて実感する。
どれだけ俺が危険視されていて。それ故に関心を集めていて…。そして、とてつもなく取り扱いが面倒な人間か。
「(でも、大丈夫)」
俺は、復讐を遂げた抜け殻だ。
息を詰めるほど、目を合わせたら危ないんじゃないかって思う程の、警戒をするに値しない。
もう、俺が俺自身に対して、感じていないのだから。
ーー生きる、意味を。
「……ここに立て」
「……………」
立たされた台の上、裁判所でいうところの、被告人席のような場所に誘導されて、思ったことはただ一つ。
「(これは、罪人を断罪するだけの場所だ)」
罪を、測るのではなく。罪を、断つ場所。
「ーー顔は伏せたまま、問われたことに答えよ」
上から降ってくる声には、腹が立つほどの臆病さと、傲慢さがあった。
けれど、ここで逆らって良いことはない。素直に「はい」と答えると、ふんと鼻を鳴らす音と、大人しく従う態度に対する、安堵と嘲り。
……見下されている、と感じるあからさまな態度に思わないことはないが、従順を貫いた。
「ーーではこれより、『異人』サツキに対する、処罰を下す」
自ら閉じた、暗闇の中。誰かがそう宣言し、断罪が始まった。
あぁほら、思った通り。
この世界に、俺の価値なんて、微塵もないのだ。
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