次元を歪めるほど愛してる

モカ

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「…お前はまだ子供だったんだ……っ、自分勝手で人を傷つけて当然だろうが! 現実を受け入れられなくて、目を瞑って顔を背けることだって、してしまうだろう…ただでさえあんな環境下で育ったのだから、自制が効くはずもない! そんなお前を、俺らが守ってやらなければならなかった…っ、それが出来なかったのは俺らの責任で、決してお前だけの所為じゃない……ッ!」


「………ッ……」


喉が震えた。

腹の底から湧き上がってくるそれを抑えようと、掴まれていない手で口を押さえた。

けれど見透かされているのだろう。気付いたその人がほんの少しだけ口角を上げて。


「……………っひ、…く、」


嗚咽が、漏れた。

どこまでもどこまでも自分が子供なことが、悔しくて悔しくて。

どれだけ足掻こうと、俺よりも大人なこの人には、敵わなくて。


「……………っ、」


涙が流れるのを感じながら、思う。

ーーあぁ、本当に。だから会いたくなかったんだ。遠目で見ているだけなら、こんな感情は蘇って来なかったのに。

会ってしまえば簡単に崩れる覚悟だと、分かっていたから。だから……いや、でもーーー


「……だから、そんなこと言うな」


「………うぅうううう……っ!」


あぁ! もう降参だ! 

涙が止まらない、想いが止まらない、この人が好きだって、心が叫んでる。

この人がいなければ、俺はずっと白い世界でひとりぼっちだったから。

俺の世界に入ってきた、初めての色。蒼穹のような空色が、新たな色を引き連れて。俺の世界は、白だけでは無くなったから。


「…………っ、おい、ちゃん……っ!」

「………アシュラ、」


嗚咽交じりの声に、穏やかな声が応える。応えてくれる。

この世界に生まれてずっと焦がれ続けた人が、俺の前にいる。手を差し伸べてくれる。


それをどうして拒めるだなんて思ったんだろう。


「………ひっ、…く、おいちゃ、……っ」

「……あぁ、ここにいる」

「……おいちゃ、おいちゃん……っ!」

「…あぁ、」

「……だい、好きだよっ、会いたかっ……また、あえ、てっ、……よかっ……!」

「…………っ、」

「…え…? ……ぅんっ」


涙で滲む視界に、空色が見えた。

唇を塞ぐ感触に思わず身動ぎをしたけど、覆い被さられている上に憔悴している今では、なんの抵抗にもならなくて。


「…ひぅっ、……ぁ、…んぅ、」


おいちゃんの膝が股に食い込んで、潜るように深くなるキスに、変な声が上がる。

それを合図に離れたその人を、ぽかんと見上げれば、細まった空色が険しい色を帯びた。


「……悪いが、今は時間も余裕もないんだ。あまり可愛いことを言ってくれるな。ーーーこの場で犯しそうになる」

「…おかっ、」


その意味に絶句する俺を見て、剣呑さを潜め笑んだその人に抱き起こされて、手から離れた杖を握らされる。

そして差し出された手に、見覚えのあるペンダントがあった。


「今日は見るだけの予定だったからな、もうあまり時間がない」


そう言って、おいちゃんは俺にそれを握らせた。


「……元々お前にやったものだ。持っておけ」

「……え、でも…、」

「……だから、約束しろ。迎えに来るから、それを持って待っていろ、アシュラ」

「………おいちゃ、」

「そしたら、今度は本当に何処へでも連れて行ってやる」

「!」



「もう、できない約束はしねぇ」



確固たる決意を、感じた。

まっすぐと見つめて来る空色が、嘘にはしないと、俺に語っていた。

全部ぜんぶ、前世では出来なかったことだ、成し得なかったことだ。

それを、今度は絶対に出来ると、果たすと、この人が言った。


なら俺の答えなんて、決まっている。




「……うんっ、いつまでも待ってるから、おいちゃん!」




今度こそ、絶対に。いつまでも貴方を、待ってるから。だから、迎えにきてくれた時は力強く抱きしめて、頭を撫でてほしいな。





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