【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。

モカ

文字の大きさ
上 下
31 / 42
【番外編】緻密な暴露

11

しおりを挟む






俺の話を聞き終わった後、父上は深く息を吐き出して抱きしめてきた。




「………俺の、早とちりということか…」


…あれ、なんか想像していた反応と違う。

浅はかだとか、爪が甘いとか、計画に対して苦言を呈されるかと思ったのに…何故かとても落ち込んでいないか?


「ち、父上。俺もきちんと訂正をしませんでしたし…そこまで落ち込まれなくても…」


おろおろと言葉を継ぐも、後ろにいる父上から言葉は返ってこない。

どうしたものかと頭を悩ませた始めたとき、ぽつりと父上が言葉を零した。


「…俺は元来、何に対しても執着が薄くてな」


囁くような声は、国王でも、父上でも、なく聞こえて。

思わず振り返って顔を見ようとした俺の身体は、キツく抱きしめられることで制された。元々顔を見ないで話したいと言ったのは俺なので、力を抜いて父上に身を委ねた。


「父親は、普通の男だった。俺が生まれ、その性質を察するや否や、俺の方が国王に向いていると言い出して、他に子を成すよりも俺を国王にすることに全力を注いだ」


確かに、俺が7歳の時にはもう国王だったし、若くして王座を継いだのは知っていたけれど、そんな背景があったなんて。


「俺のやる気はともかく、才能があったのは事実で、幼い頃から厳しく躾けられてきた。それに対して思うことは特になかった。俺は、物にも、人にも、執着が無かったからだ。用意された道を歩くことにもさして抵抗感は無かった。抗うのも面倒で、周りが望むならそれでいいかと諦観して、学を身につけ、用意された女と婚姻し、子を成して、ただ淡々と生きてきた。


ーーお前と出会うまでは」



すり、と項に父上の鼻筋が当たる感触がして、ちゅ、とあからさまな音を立てて口付けを落とされた。

そしてそのまま、まるで子供がぬいぐるみを抱きしめて駄々を捏ねるように、俺の後頭部へと顔を擦り付ける。

心臓がとてもはやく騒ぐのを自覚しながらも、湧き上がってくる熱に流されないように、手を握りしめた。


「一番最初にテオンについての報告を聞いたときは、面倒なことになったと思った。だが、報告書を読んだ後にとんでもないことをしてしまったと後悔したんだ。

…テオンには悪いことをしたと思っている。

俺が父親であってもなくても、貴族の子供として普通に生まれていれば、何不自由なく暮らせた。なのに俺の不注意で、飢えていたわけではなさそうだったが、苦労させたのは明確だった。

それからずっとテオンに対する贖罪について考えていた」


俺が馬鹿みたいに父上に見惚れている間にそんな真剣なことを考えていたなんて…と、自責の念に駆られていると、キツい抱擁が解かれて、腹の前に組まれていた大きな掌が身体を辿って頬まで登ってきて、ゆるりと撫でた。

もう片方の掌が握りしめていた俺の手を解き、指を絡めるように繋がれたあとに、促されるように顔を上げた。

許可が出て見上げた父上は、慈しむように俺を見下ろしながらも、黄金の瞳の奥にとんでもない熱を宿し、ゆるりと笑んでいた。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...