【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。

モカ

文字の大きさ
上 下
11 / 42
本編

11

しおりを挟む




翌朝。何故か背中の怪我を処置された上で寝台の上に寝ていた。

行き倒れているところを誰かが見つけてくれて手配してくれたのだろうか?こんな俺なんかに仕事が丁寧だ。

昨日よりはマシになったが、まだ鈍痛がする背中をなるべく刺激しないように横向きに寝転んで息を吐く。


「……さて、」


昨日あんなことがあったし、今王城で俺の立場がどんな風になっているのか分からない。このまま自室で謹慎しているのが一番か。朝食は…まぁ行き倒れてる俺を処置してくれるぐらいだし、誰か気付いて何か持ってきてくれるだろう。


だからもう少しこのままでもいいかなと、寝台の上で着替えもせずにゴロゴロしていると扉を叩く音が聞こえてくる。

返事をすると、いつも世話をしてくれる侍女たちや、外出する際に護衛してくれる兵士などがどやどやと入ってきて「部屋を移動するように仰せつかりました」と俺に告げる。


「………そう。朝早くからご苦労様」


もう幽閉が決まったのか?父上は仕事が早いな。

そう思いながら寝間着から比較的簡素な洋服に着替え終わると、侍女に「何をお持ちになられますか?」と聞かれた。

これから幽閉する、ほとんど罪人みたいな俺に言う意味が分からなかったが、もしかしたら父上の温情で何か一つだけ持っていけるのかもしれない、と思い至った。

けれど、それほど思い入れのあるものもないし、身の回りのものは殆ど必要に駆られて購入したもので、他は全て『王太子』への貢ぎ物だ。……父上からの贈り物もあるけれど。

俺が持っている資格なんて、ないだろう。


「特にないかな」


そう言うと侍女は変な顔をし「ですが…」と何故か食い下がってくる。

面倒になって「じゃあさっき着てた寝間着は持って行く」と言うと更に変な顔をしたが、きちんと綺麗に畳んでから「後ほど洗濯してからお持ちします」と言ってくれた。

そして案内されるがままについて行くと、着いたそこは何故か父上の離宮だった。


「………案内する場所、間違えてない?」

「いいえ。こちらです」

「…そう」


疑問を呈したがきっぱりと言い切られてしまった。…他に幽閉する所が無かったのだろうか?

さらに進んでいき「こちらが新しい部屋です」と指し示されたのは、離宮の中の王妃にあてがわれる部屋だった。


「……あの、さ、部屋間違えて」

「いません」

「……そ、そう」


食い気味に返答され、納得するしかなかった俺は大人しく部屋へと入った。

やはりというか、今まで使っていた自室よりも断然広い部屋、豪奢な調度品、そして、机の上に所狭しと用意された食事に気が遠くなってしまいそうになった。


「…これは?」

「朝食でございます」

「いや、にしても量多くないか…?誰か来るの?」

「いいえ。テオン殿下のためだけにご用意したものです」

「………えぇ…」


訳がわからない。なんだこれは。

俺は幽閉されるんじゃないのか?それなのにこれは…まるで歓迎しているようにも思えるのだけど。

困惑しながら侍女を見るがいつも通りの表情で控えているだけだったので、聞いても詳しくは教えてくれないだろうとため息を吐いた。


「…分かった。でもこれは一人じゃ食べ切れないから、残した分はお昼に回して。それと、夕飯はこれよりももっと控えめにするように料理長にお願いしてくれる?」

「……かしこまりました」


丁寧に頭を下げた侍女を横目に頑張って朝食を食したが、当たり前ながらあまり減らなかった。

申し訳なく思いながらも残った食事を下げてもらうと、そのまま護衛も侍女も部屋から出ていき「失礼します」の声の後、閉められた扉にガチャリと鍵をかけられた音がした。


「……………もう、何がなんだが分からない」


俺が使っていたのよりも大きな寝台に倒れ込むと、忘れていた背中の傷がズキリと痛んだ。

痛みを誤魔化すために身体を丸めて、滑らかな敷布に頬を押し付け窓に目を向けた。

一般的な構造ならその窓の先には露台があるはずなのだが、大きな窓はあれどそれは嵌め込み式になっているらしく、開閉するための部位が何一つとしてついていない。

故に、扉に鍵をかけられたら外に出られない。

もう一つ隣にある、国王の部屋に続く扉はあるけど…どちら側からも鍵がかけられる仕組みになっていたはずだから、こっちが開いていてもあちらは鍵がかかっているだろう。

どちらにせよ、閉じ込めるには最適の部屋ではある。


「父上…」


貴方は俺をどうしたいのですか?


父上の意図が読み取れず、ぐるぐるとする思考を無理矢理遮断した。

昨日のことで痛感した。父上は俺よりも何枚も上手だ。そんな相手の考えを汲み取ろうなんて無謀にも程がある。

このまま身を任せていればいいんだ。一応王子の身分である俺に命令出来るのは、父上しかいないんだから。


「………やっぱり、幽閉かな」


父上は人がいない離宮はあんまり好きじゃないと言ってた。執務も忙しくてあまりこっちには帰っていないとも聞いていたし、閉じ込めるのに都合が良かったのかも。

でもせめて、説明ぐらいはしてほしかったな。言ってくれれば大人しく閉じ込められるのに。…あぁでも、国税を無駄遣いするのは気が引けるな。明日から何も食べなければ、なるべく早く衰弱死出来るだろうか。

そんな事を考えているうちに疲れたのか眠っていたらしい。次に目を覚ましたのは、夜更けだった。








しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...