【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。

モカ

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翌朝。何故か背中の怪我を処置された上で寝台の上に寝ていた。

行き倒れているところを誰かが見つけてくれて手配してくれたのだろうか?こんな俺なんかに仕事が丁寧だ。

昨日よりはマシになったが、まだ鈍痛がする背中をなるべく刺激しないように横向きに寝転んで息を吐く。


「……さて、」


昨日あんなことがあったし、今王城で俺の立場がどんな風になっているのか分からない。このまま自室で謹慎しているのが一番か。朝食は…まぁ行き倒れてる俺を処置してくれるぐらいだし、誰か気付いて何か持ってきてくれるだろう。


だからもう少しこのままでもいいかなと、寝台の上で着替えもせずにゴロゴロしていると扉を叩く音が聞こえてくる。

返事をすると、いつも世話をしてくれる侍女たちや、外出する際に護衛してくれる兵士などがどやどやと入ってきて「部屋を移動するように仰せつかりました」と俺に告げる。


「………そう。朝早くからご苦労様」


もう幽閉が決まったのか?父上は仕事が早いな。

そう思いながら寝間着から比較的簡素な洋服に着替え終わると、侍女に「何をお持ちになられますか?」と聞かれた。

これから幽閉する、ほとんど罪人みたいな俺に言う意味が分からなかったが、もしかしたら父上の温情で何か一つだけ持っていけるのかもしれない、と思い至った。

けれど、それほど思い入れのあるものもないし、身の回りのものは殆ど必要に駆られて購入したもので、他は全て『王太子』への貢ぎ物だ。……父上からの贈り物もあるけれど。

俺が持っている資格なんて、ないだろう。


「特にないかな」


そう言うと侍女は変な顔をし「ですが…」と何故か食い下がってくる。

面倒になって「じゃあさっき着てた寝間着は持って行く」と言うと更に変な顔をしたが、きちんと綺麗に畳んでから「後ほど洗濯してからお持ちします」と言ってくれた。

そして案内されるがままについて行くと、着いたそこは何故か父上の離宮だった。


「………案内する場所、間違えてない?」

「いいえ。こちらです」

「…そう」


疑問を呈したがきっぱりと言い切られてしまった。…他に幽閉する所が無かったのだろうか?

さらに進んでいき「こちらが新しい部屋です」と指し示されたのは、離宮の中の王妃にあてがわれる部屋だった。


「……あの、さ、部屋間違えて」

「いません」

「……そ、そう」


食い気味に返答され、納得するしかなかった俺は大人しく部屋へと入った。

やはりというか、今まで使っていた自室よりも断然広い部屋、豪奢な調度品、そして、机の上に所狭しと用意された食事に気が遠くなってしまいそうになった。


「…これは?」

「朝食でございます」

「いや、にしても量多くないか…?誰か来るの?」

「いいえ。テオン殿下のためだけにご用意したものです」

「………えぇ…」


訳がわからない。なんだこれは。

俺は幽閉されるんじゃないのか?それなのにこれは…まるで歓迎しているようにも思えるのだけど。

困惑しながら侍女を見るがいつも通りの表情で控えているだけだったので、聞いても詳しくは教えてくれないだろうとため息を吐いた。


「…分かった。でもこれは一人じゃ食べ切れないから、残した分はお昼に回して。それと、夕飯はこれよりももっと控えめにするように料理長にお願いしてくれる?」

「……かしこまりました」


丁寧に頭を下げた侍女を横目に頑張って朝食を食したが、当たり前ながらあまり減らなかった。

申し訳なく思いながらも残った食事を下げてもらうと、そのまま護衛も侍女も部屋から出ていき「失礼します」の声の後、閉められた扉にガチャリと鍵をかけられた音がした。


「……………もう、何がなんだが分からない」


俺が使っていたのよりも大きな寝台に倒れ込むと、忘れていた背中の傷がズキリと痛んだ。

痛みを誤魔化すために身体を丸めて、滑らかな敷布に頬を押し付け窓に目を向けた。

一般的な構造ならその窓の先には露台があるはずなのだが、大きな窓はあれどそれは嵌め込み式になっているらしく、開閉するための部位が何一つとしてついていない。

故に、扉に鍵をかけられたら外に出られない。

もう一つ隣にある、国王の部屋に続く扉はあるけど…どちら側からも鍵がかけられる仕組みになっていたはずだから、こっちが開いていてもあちらは鍵がかかっているだろう。

どちらにせよ、閉じ込めるには最適の部屋ではある。


「父上…」


貴方は俺をどうしたいのですか?


父上の意図が読み取れず、ぐるぐるとする思考を無理矢理遮断した。

昨日のことで痛感した。父上は俺よりも何枚も上手だ。そんな相手の考えを汲み取ろうなんて無謀にも程がある。

このまま身を任せていればいいんだ。一応王子の身分である俺に命令出来るのは、父上しかいないんだから。


「………やっぱり、幽閉かな」


父上は人がいない離宮はあんまり好きじゃないと言ってた。執務も忙しくてあまりこっちには帰っていないとも聞いていたし、閉じ込めるのに都合が良かったのかも。

でもせめて、説明ぐらいはしてほしかったな。言ってくれれば大人しく閉じ込められるのに。…あぁでも、国税を無駄遣いするのは気が引けるな。明日から何も食べなければ、なるべく早く衰弱死出来るだろうか。

そんな事を考えているうちに疲れたのか眠っていたらしい。次に目を覚ましたのは、夜更けだった。








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