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1.虚無
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グロではありませんが、ヤバめの描写がありますのでご注意願います。
━━━━━━━━━━━━━━━
俺の名前はクァ。変な名前だろ?
この世界の言語で「空虚」とか「虚無」といった意味の名前だ。日本語だと「やあ、からっぽくん、こんにちは~」とか言われちゃう感じだ。悪口かな?
かなり親の感性を疑うような名前だが、「まっさら」だとか「純粋」だとか、ちょっといい感じの意味に解釈できなくもないので、まぁそっとしておいてほしい。ぶっちゃけ俺もかなり戸惑っている。「まっさらくん、こんにちは~」とか、それはそれでけっこう嫌だしな。
さて、この世界の、なんて言うと気取ったヤツだと思われるかもしれないが、別に格好つけてそんなことを言っているわけじゃない。ここは明らかに俺の知る世界ではないからだ。
ちらりと周りを見回せば、視界に入るのは黒い鉄格子と白い壁ばかり。刑務所なう、とでも言いたいところだが、鉄格子が溶接されて出入り口を潰されているところを見るに、牢屋ではないようだ。外国の刑務所だってこんなことしないだろうし。
何より、収容されている奴らが問題だ。
右を見ても左を見ても、そこにいるのは子ども、子ども、子ども。大人の姿はなく、三十人ほどの子どもだけが入れられた檻の中。そこが、今の俺の居場所である。
自分の手を見下ろしてみる。うん、相変わらず小さいなあ。
俺は子どもだけの檻に入れられている、そう、つまりは俺も子どもなのである。この世界に生まれ落ちてから早六年、俺はふにふにほっぺとぷよぷよのおなかを持つ、完全無欠のショタなのだ。あらやだかわいい。これで人間だったら文句なかったんだけどなぁ…。
灰色の小さな手を見下ろしながら、俺はそっとため息をついた。
…何を隠そう、俺は亜人なのだ。
それもただの亜人ではなく、人間からたまに産まれてくるという珍しいタイプの亜人だ。
「特別な配色の人間に近い何か」ーーこれを人間に対して【変色亜人種】と呼ぶのだが、変色と付くその名の通り、見た目での人間との違いは色くらいだ。某ポケットなモンスターの「色違い」に近いのかもしれない。縮めて【変色】と言われることもある。
変色亜人種に分類される条件は、肌がうっすらと灰色がかっていること、そして髪の色が黒、金、こげ茶以外であること、目の色が青、緑、黒以外であること。他にも条件はあるが、大体はこんなところだ。
そして俺は亜人なのだが、俺の持つ常識の中では、亜人なんてものは存在しない。
なのでここは日本でないどころか、おそらくは地球でさえないところだ…と俺は考える。この世界──ややこしいので日本がある方をA世界、こちらをB世界とするが、このB世界は俺の常識からはことごとく外れた世界なのだ。
もしかしたら俺の頭が狂っているだけで、本当はA世界の方が存在していないのかもしれないが、妄想と片付けるにはあまりに細部まで作り込まれている気がする。A世界は六歳児が思い付ける範囲を超えている。
というわけで、俺はA世界の存在を信じているし、このB世界をおかしいと思っている。六年生きてきたことは確かなので、現実であることは受け入れているのだが。
さて、ここは知らない国の、知らない地域の、大きな倉庫の一室に鉄格子を嵌めたような場所だ。だいたい体育館くらいの広さがある石床の部屋を、鉄格子で半分に区切っている。
鉄格子は出入り口が溶接されており、正規の手段では開けられない。窓もなく、部屋の出口にある丸い扉は冷たく閉ざされている。
白と黒と灰色を背景に、色とりどりの髪や瞳を持つ子どもたちがじっとうずくまっている。灰色の肌をした子どもたちは少々不気味だが、俺自身も肌は灰色なので人のことは言えない。
ほんのりと明かりの灯る天井の下、灰色のカラフルな子どもたちを眺める。今よりもっと幼いころから、俺は、俺たちは、ずっとここで飼われている。
「飯の時間だ。」
ガラガラとドアが回る音が聞こえ、子どもが一斉にそちらを見た。
この建物のドアは円形で、取っ手を掴んで福引きのようにぐるぐると回すと、玉が出ない代わりに入り口ができる。ドアと俺がいるところを隔てる鉄格子さえなければ、俺はきっと年相応にはしゃいでドアを回し、外の世界へ飛び出していたことだろう。
部屋の中に入ってきたのは、でかい男が二人。一人は肩幅がでかくて少し太り気味のハゲ。もう一人は頭でっかちのマッチ棒のようなひょろ長。二人とも四十歳くらいだろうか。名前は知らないし、興味もない。
男らは手に持った質の悪い布袋を逆さにすると、中身を鉄格子の中へと振り落とした。どちゃべちゃぴちゃと嫌な音がする。
床に小盛りになった生肉を見て、子どもたちはそわそわと姿勢を正した。俺の眉間には思いっきりシワが寄ったが、もちろん男たちに見られるような愚は犯さない。
「今日もかわいいなあお前たちは。たんと食べろ。」
「ランムサカの、肉だ。ご馳走、だぞ。」
猫なで声でハゲが言い、几帳面に言葉を区切りながらひょろ長が続ける。その目は人間を見る目ではなく、しかし動物園の動物を見る飼育員のように愛情がこもっていた。
優しい目をして、男らは言う。この生肉はお前たちの食事なのだ、と。
鉄格子スレスレまで近寄った子どもが、次々に手を伸ばして生肉を鷲掴む。俺もそこに混じって生肉を取るふりをして、男らから見えない角度でむさぼり食うような動作をした。
たまたま俺の隣にいた子どもにひょろ長の手が伸びて、額から頭頂部までを繰り返し撫でる。俺は横目でそれを見ながら、唾液まみれになった手をむき出しの太ももに擦り付けた。
あっという間になくなった生肉に満足そうに頷いて、「いい食いっぷりだ」とハゲがにこやかに言う。本当に動物のような扱いだ。
「では、また、来る、からな。」
「おとなしくしているんだぞ。ははは。」
ガラガラと音を立てて、ドアの入り口が月が欠けるように閉じていく。満月から三日月になり、そして三日月が爪のように細くなって、ついには新月になってしまった。鉄格子のせいでドアに近づくこともできないのに、ああ、と名残惜しい吐息が漏れる。
ここは刑務所などではなく、とある研究施設だ。
B世界の人間は、国家が金を出して亜人などを研究させており、この施設はその対象が【変色亜人種】なのだ。俺も研究対象の一人で、親に売られてここへやって来た。
「クソ」
ぽつりと落とされたスラングに、ふっと意識が現実に戻る。忌々しげに吐き捨てたのは、ラァフマという女の子だった。名前の意味は「声」や「喉」で、歌が上手くなるようにと付けられる名前のはずだ。その声帯は、今や悪態をつくことに使われている。
こいつの親も、まさか娘が鉄格子のある部屋で飼われることになろうとは思ってもいなかっただろう。願いを込めて付けた名に逆らうように、スラングばかりを吐くことになる、とも。
「何を怒っているの?」
心細げにそう聞いたのは、「泉」という意味の名を持つサザマラ。こいつは小さいが男だ。ここに連れて来られたのはかなり幼いころで、こいつは今の状況をおかしいとも思っていない。これが普通だと思っているようなフシがある。
「お前に言っても分かんねえだろ、白チビ! あたしはここが気に入らねえのさ。」
サザマラは髪が白いのでそう呼ばれる。呼び始めたのはラァフマだ。彼女は悪意あるあだ名を付ける天才なのである。
「なにが気に入らないの?」
「何もかもだ。」
「一番気に入らないのはなに?」
「お前のうるせぇ減らず口!」
サザマラはしおらしく口を閉じた。こいつは気が弱いので、口論になるとすぐ黙ってしまう。気の毒なのであまり怒鳴らずにやってほしいものだ。
何となしに見ていると、今度はこちらに火の粉が飛ぶ。
「おいクァ。何か文句あんのか?」
「無い。」
「ケッ、どうせお前もあたしをバカにしてんだろ!」
「微塵も。」
「ハァ、虚無野郎が。」
ニークァとは、俺のあだ名のようなもの。この世界では人の名前に何かしら意味のある単語を使うので、名前の頭に野郎やクソを付けるだけでお手軽な侮辱になるのだ。
イライラと赤茶けた頭を掻き毟るラァフマから目を外し、俺はやれやれと蹲った。
俺がこんなところへ連れて来られたのは、たしか四歳くらいの時だ。
「クァ。ごめんね。」
「お前を満足に育てられない俺たちを許してくれ…。」
記憶にあるこの世界の両親は、俺に繰り返しそんなことを言う。口減らしの意味も込めて、俺を出稼ぎに出すことにしたからだ。
「ごめんね。」
「ごめんな。」
【変色亜人種】は人間から産まれる亜人だ。つまり、両親は普通の人間なので、亜人を育てるのは難しい。加えて、亜人は国が積極的に研究しているので金になる。
しかも、亜人は人間だと認められていないので、一般家庭で育てると周りから孤立する。【変色亜人種】を産んでしまったら売るしかないのだ。
それでも俺の両親は、きっと良心的なほうなのだろう。亜人は体力があり力も強く、見た目的にも珍しいので、労働奴隷や性奴隷にするほうが何倍も金になったはずだ。けれど、俺の両親は最低限命と食事は保証されている「実験協力体」として研究機関へ売った。
「実験協力体」とは、実験体、またはその保護者が希望して、実験体が自ら研究施設へ入るというものだ。死ぬような無茶なことはされないし、「出稼ぎ」の扱いになるので世間体も良い。
俺の髪色はやや透き通った薄緑で、目は黄色だ。わずかに黄味がかった白目に同化しそうな、こちらもやや透き通った黄色である。こんな研究施設で実験体なんぞやっていなければ、明らかにファンタジーっぽい色彩に大はしゃぎしていただろう。
けれど、B世界ではファンタジーっぽい奴ほど迫害される。動物のように飼われ、生肉を食い、檻に閉じ込められていても、まだマシだと言えるくらいには、この世界は人外に厳しい。
なぜこんな世界で俺は亜人なのか。
かつて、俺は人間だったはずなのだ。
俺には前世の記憶がある。気が狂っていなければの話だが、俺は以前は人間で、地球という惑星の日本という国で生活していた。「西村純平」という名の、しがないFラン大学生である。
ニ十歳の誕生日にどういうわけかこの世界に転生してしまった、とてもとても哀れな男だ。
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俺の名前はクァ。変な名前だろ?
この世界の言語で「空虚」とか「虚無」といった意味の名前だ。日本語だと「やあ、からっぽくん、こんにちは~」とか言われちゃう感じだ。悪口かな?
かなり親の感性を疑うような名前だが、「まっさら」だとか「純粋」だとか、ちょっといい感じの意味に解釈できなくもないので、まぁそっとしておいてほしい。ぶっちゃけ俺もかなり戸惑っている。「まっさらくん、こんにちは~」とか、それはそれでけっこう嫌だしな。
さて、この世界の、なんて言うと気取ったヤツだと思われるかもしれないが、別に格好つけてそんなことを言っているわけじゃない。ここは明らかに俺の知る世界ではないからだ。
ちらりと周りを見回せば、視界に入るのは黒い鉄格子と白い壁ばかり。刑務所なう、とでも言いたいところだが、鉄格子が溶接されて出入り口を潰されているところを見るに、牢屋ではないようだ。外国の刑務所だってこんなことしないだろうし。
何より、収容されている奴らが問題だ。
右を見ても左を見ても、そこにいるのは子ども、子ども、子ども。大人の姿はなく、三十人ほどの子どもだけが入れられた檻の中。そこが、今の俺の居場所である。
自分の手を見下ろしてみる。うん、相変わらず小さいなあ。
俺は子どもだけの檻に入れられている、そう、つまりは俺も子どもなのである。この世界に生まれ落ちてから早六年、俺はふにふにほっぺとぷよぷよのおなかを持つ、完全無欠のショタなのだ。あらやだかわいい。これで人間だったら文句なかったんだけどなぁ…。
灰色の小さな手を見下ろしながら、俺はそっとため息をついた。
…何を隠そう、俺は亜人なのだ。
それもただの亜人ではなく、人間からたまに産まれてくるという珍しいタイプの亜人だ。
「特別な配色の人間に近い何か」ーーこれを人間に対して【変色亜人種】と呼ぶのだが、変色と付くその名の通り、見た目での人間との違いは色くらいだ。某ポケットなモンスターの「色違い」に近いのかもしれない。縮めて【変色】と言われることもある。
変色亜人種に分類される条件は、肌がうっすらと灰色がかっていること、そして髪の色が黒、金、こげ茶以外であること、目の色が青、緑、黒以外であること。他にも条件はあるが、大体はこんなところだ。
そして俺は亜人なのだが、俺の持つ常識の中では、亜人なんてものは存在しない。
なのでここは日本でないどころか、おそらくは地球でさえないところだ…と俺は考える。この世界──ややこしいので日本がある方をA世界、こちらをB世界とするが、このB世界は俺の常識からはことごとく外れた世界なのだ。
もしかしたら俺の頭が狂っているだけで、本当はA世界の方が存在していないのかもしれないが、妄想と片付けるにはあまりに細部まで作り込まれている気がする。A世界は六歳児が思い付ける範囲を超えている。
というわけで、俺はA世界の存在を信じているし、このB世界をおかしいと思っている。六年生きてきたことは確かなので、現実であることは受け入れているのだが。
さて、ここは知らない国の、知らない地域の、大きな倉庫の一室に鉄格子を嵌めたような場所だ。だいたい体育館くらいの広さがある石床の部屋を、鉄格子で半分に区切っている。
鉄格子は出入り口が溶接されており、正規の手段では開けられない。窓もなく、部屋の出口にある丸い扉は冷たく閉ざされている。
白と黒と灰色を背景に、色とりどりの髪や瞳を持つ子どもたちがじっとうずくまっている。灰色の肌をした子どもたちは少々不気味だが、俺自身も肌は灰色なので人のことは言えない。
ほんのりと明かりの灯る天井の下、灰色のカラフルな子どもたちを眺める。今よりもっと幼いころから、俺は、俺たちは、ずっとここで飼われている。
「飯の時間だ。」
ガラガラとドアが回る音が聞こえ、子どもが一斉にそちらを見た。
この建物のドアは円形で、取っ手を掴んで福引きのようにぐるぐると回すと、玉が出ない代わりに入り口ができる。ドアと俺がいるところを隔てる鉄格子さえなければ、俺はきっと年相応にはしゃいでドアを回し、外の世界へ飛び出していたことだろう。
部屋の中に入ってきたのは、でかい男が二人。一人は肩幅がでかくて少し太り気味のハゲ。もう一人は頭でっかちのマッチ棒のようなひょろ長。二人とも四十歳くらいだろうか。名前は知らないし、興味もない。
男らは手に持った質の悪い布袋を逆さにすると、中身を鉄格子の中へと振り落とした。どちゃべちゃぴちゃと嫌な音がする。
床に小盛りになった生肉を見て、子どもたちはそわそわと姿勢を正した。俺の眉間には思いっきりシワが寄ったが、もちろん男たちに見られるような愚は犯さない。
「今日もかわいいなあお前たちは。たんと食べろ。」
「ランムサカの、肉だ。ご馳走、だぞ。」
猫なで声でハゲが言い、几帳面に言葉を区切りながらひょろ長が続ける。その目は人間を見る目ではなく、しかし動物園の動物を見る飼育員のように愛情がこもっていた。
優しい目をして、男らは言う。この生肉はお前たちの食事なのだ、と。
鉄格子スレスレまで近寄った子どもが、次々に手を伸ばして生肉を鷲掴む。俺もそこに混じって生肉を取るふりをして、男らから見えない角度でむさぼり食うような動作をした。
たまたま俺の隣にいた子どもにひょろ長の手が伸びて、額から頭頂部までを繰り返し撫でる。俺は横目でそれを見ながら、唾液まみれになった手をむき出しの太ももに擦り付けた。
あっという間になくなった生肉に満足そうに頷いて、「いい食いっぷりだ」とハゲがにこやかに言う。本当に動物のような扱いだ。
「では、また、来る、からな。」
「おとなしくしているんだぞ。ははは。」
ガラガラと音を立てて、ドアの入り口が月が欠けるように閉じていく。満月から三日月になり、そして三日月が爪のように細くなって、ついには新月になってしまった。鉄格子のせいでドアに近づくこともできないのに、ああ、と名残惜しい吐息が漏れる。
ここは刑務所などではなく、とある研究施設だ。
B世界の人間は、国家が金を出して亜人などを研究させており、この施設はその対象が【変色亜人種】なのだ。俺も研究対象の一人で、親に売られてここへやって来た。
「クソ」
ぽつりと落とされたスラングに、ふっと意識が現実に戻る。忌々しげに吐き捨てたのは、ラァフマという女の子だった。名前の意味は「声」や「喉」で、歌が上手くなるようにと付けられる名前のはずだ。その声帯は、今や悪態をつくことに使われている。
こいつの親も、まさか娘が鉄格子のある部屋で飼われることになろうとは思ってもいなかっただろう。願いを込めて付けた名に逆らうように、スラングばかりを吐くことになる、とも。
「何を怒っているの?」
心細げにそう聞いたのは、「泉」という意味の名を持つサザマラ。こいつは小さいが男だ。ここに連れて来られたのはかなり幼いころで、こいつは今の状況をおかしいとも思っていない。これが普通だと思っているようなフシがある。
「お前に言っても分かんねえだろ、白チビ! あたしはここが気に入らねえのさ。」
サザマラは髪が白いのでそう呼ばれる。呼び始めたのはラァフマだ。彼女は悪意あるあだ名を付ける天才なのである。
「なにが気に入らないの?」
「何もかもだ。」
「一番気に入らないのはなに?」
「お前のうるせぇ減らず口!」
サザマラはしおらしく口を閉じた。こいつは気が弱いので、口論になるとすぐ黙ってしまう。気の毒なのであまり怒鳴らずにやってほしいものだ。
何となしに見ていると、今度はこちらに火の粉が飛ぶ。
「おいクァ。何か文句あんのか?」
「無い。」
「ケッ、どうせお前もあたしをバカにしてんだろ!」
「微塵も。」
「ハァ、虚無野郎が。」
ニークァとは、俺のあだ名のようなもの。この世界では人の名前に何かしら意味のある単語を使うので、名前の頭に野郎やクソを付けるだけでお手軽な侮辱になるのだ。
イライラと赤茶けた頭を掻き毟るラァフマから目を外し、俺はやれやれと蹲った。
俺がこんなところへ連れて来られたのは、たしか四歳くらいの時だ。
「クァ。ごめんね。」
「お前を満足に育てられない俺たちを許してくれ…。」
記憶にあるこの世界の両親は、俺に繰り返しそんなことを言う。口減らしの意味も込めて、俺を出稼ぎに出すことにしたからだ。
「ごめんね。」
「ごめんな。」
【変色亜人種】は人間から産まれる亜人だ。つまり、両親は普通の人間なので、亜人を育てるのは難しい。加えて、亜人は国が積極的に研究しているので金になる。
しかも、亜人は人間だと認められていないので、一般家庭で育てると周りから孤立する。【変色亜人種】を産んでしまったら売るしかないのだ。
それでも俺の両親は、きっと良心的なほうなのだろう。亜人は体力があり力も強く、見た目的にも珍しいので、労働奴隷や性奴隷にするほうが何倍も金になったはずだ。けれど、俺の両親は最低限命と食事は保証されている「実験協力体」として研究機関へ売った。
「実験協力体」とは、実験体、またはその保護者が希望して、実験体が自ら研究施設へ入るというものだ。死ぬような無茶なことはされないし、「出稼ぎ」の扱いになるので世間体も良い。
俺の髪色はやや透き通った薄緑で、目は黄色だ。わずかに黄味がかった白目に同化しそうな、こちらもやや透き通った黄色である。こんな研究施設で実験体なんぞやっていなければ、明らかにファンタジーっぽい色彩に大はしゃぎしていただろう。
けれど、B世界ではファンタジーっぽい奴ほど迫害される。動物のように飼われ、生肉を食い、檻に閉じ込められていても、まだマシだと言えるくらいには、この世界は人外に厳しい。
なぜこんな世界で俺は亜人なのか。
かつて、俺は人間だったはずなのだ。
俺には前世の記憶がある。気が狂っていなければの話だが、俺は以前は人間で、地球という惑星の日本という国で生活していた。「西村純平」という名の、しがないFラン大学生である。
ニ十歳の誕生日にどういうわけかこの世界に転生してしまった、とてもとても哀れな男だ。
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