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7章、ユニコーンを探せ

第53話[ガイ視点]

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 ハベル領では年明けに親族で集まって武闘大会を開く。この武闘大会に魔法は使わない。大分前に貴族から枝分かれした平民の親族も混じっているからだ。
 普通の貴族の家では平民になった者を親族とは見做さない。親族に入れるのはせいぜい準貴族までだ。

 ハベル家では貴族と平民の垣根が浅い。戦えるか、戦えないか、それだけが全てだ。
 魔法しか効かない魔物など少数だ。それ以外なら魔法など無くても戦えるのだ。実際、貴族でも鍛錬をしたハベル家の平民の親族に敵わなかったりする。

 「おお、ガイ、帰ったのか。すぐに一戦交えないか?」
 戦闘狂の伯父のザックが俺に声を掛けてくる。準貴族の伯父ザックは冒険者をしている。世界中を渡り歩いているからハベル領の武闘大会にも数年に一度しか顔を出さない。
 「今年はザック伯父上もいるのか。武闘大会は激戦だな」
 「ガイが強くなったとアーレンから聞いたぞ。お前とやるのが楽しみだ」
 ザック伯父が父親の名前を出した。父親に認められていると聞けば嬉しくなる。
 「今日は帰ってすぐだから、明日、体を解してから一戦願いたい」
 「分かった、明日だな」
 ザック伯父上がニヤリと笑った。
 
 伯父のザックは男臭い格闘系のハベル家にあって細身の色男だ。女にもモテると聞くが冒険に女は邪魔だと、40歳近くになった今でも独身を貫いている。

 ハベル家には自由な空気がある。他国に移り住んで、そこで貴族になった者もいる。
 爵位に執着する者が少ないせいか、家族の仲が良い。領地に準貴族になった親族が残るから戦力に困る事がない。
 結果、ハベル家は伯爵家に似合わぬ程戦力があり、豊かな領になっていた。

 魔法学園で兄弟間の足の引っ張り合いを見るにつけ、ハベル家に生まれて良かったと思う。

 けれどこのハベル家にも、その家風に合わない者がやって来ることがある。
 「ガイ兄様、学園からお帰りになりましたのね」
 母方の従姉妹のヘレンが俺に腕を絡ませてくる。
 「必要以上にベタベタするな」
 俺が腕を払うとヘレンが膨れた。
 「ガイ兄様は本当に照れやだから困るわ」
 ヘレンは回りに見せびらかせるように俺に絡んでくる。別に俺が好きな訳ではない。俺がハベル伯爵家の嫡男だからキープしておきたいのだ。

 母親の実家のニース子爵家の人間は好きになれない。母が離婚された時は冷たく当たったのに、母が力のあるハベル家に入ると擦り寄って来る。
 ヘレンがハベル家に来る理由は男あさりだ。
 ハベル家には戦闘を求めて様々な男が集まってくる。平民から始まり、高位貴族が腕試しに来ることもある。
 ヘレンは伯爵家以上の家に嫁ぎたいらしい。彼女の母親は一度離婚されたのに伯爵家に嫁いだ俺の母親を妬んでいる。自分が慎み深かったせいで子爵家にしか嫁げなかったと嘆いていた。

 はぁ?俺の母親が慎み深く無かったと言いたいのかと腹が立った。

 母親の話を聞いて育ったせいかヘレンは少しも慎み深くない。少しでも高位の家に嫁ごうと男あさりをしている。しかしヘレンはモテない。ギラギラしているので男に引かれてしまうのだ。

 最近は女性にモテない俺に目をつけた。親しそうに擦り寄って、恋人のふりをして責任を取らすつもりらしい。

 「ガイとヘレンはひとつ違いか?ちょうどいい年の差だな」
 親族の一人が適当なことを言う。
 「おじさまもそう思います?」
 「いや、俺には好きな女がいる。ヘレンとそう言った事は考えられない」
 俺がハッキリと断るとヘレンがぽかんとした顔をした。

 「ガイに恋人が出来たのか?」
 親族たちがざわめいた。
 「いや、まだ恋人になってはいない」
 「じゃあ、振られてしまうかも知れませんね」
 ヘレンが安心したように言った。
 「もし振られても、俺は彼女以外と一緒にはならない」
 俺の胸にジュリアの面影が浮かぶ。
 側にいられないことが辛い。今までそんな風に想う相手はいなかった。

 「熱烈だな」と伯父のザックが揶揄ってきた。
 「親父と一緒です。もし彼女が別の男と結婚しても、他の女性を愛せるとは思えない」
 「なら、その女を口説いて連れて来い」
 父親が俺の目をじっと見て言った。

 ジュリアを狙う男は沢山いる。彼女の弟のウォルターはその筆頭、魅力的なジュリアは高嶺の花だ。
 
 でも俺はジュリアの側にいたい。ジュリアから離れると苦しくなる。もうジュリアの隣以外に幸せは見つけられそうにない。
 「休みが明けたら告白します」
 「わかった、他の男に取られるなよ。俺みたいな幸運はそうそうないからな」
 「はい、絶対にハベルに連れ帰ってみせます」

 俺の宣言に親族たちが沸き立った。
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