上 下
6 / 69
1章、ヒロイン転生は突然に

第6話 [ウォルター視点]

しおりを挟む
 ジュリア姉さんが魔法学園へ旅立って俺の胸にポッカリと大きな穴が空いたような気がした。

 俺が9歳でホーン男爵家の養子になってからジュリア姉さんと離れたことなど1日もない。
 
 ジュリア姉さんと初めて出会ったのは俺が7歳のとき。
 叔父のホーン男爵が仕事で王都へ来た時、実家であるモラント伯爵家に立ち寄ったのが最初だ。
 叔父の影から顔を覗かせるジュリア姉さんは天使のようだった。こんなに可愛い少女がいるなんてと思った。
 俺の初恋はジュリア姉さんだ。

 モラント伯爵家の三男に生まれた俺は家族にさえ気を許せないでいた。

 貴族の世界はイス取りゲームだ。貴族の血を引く人間は沢山いるけど継げる爵位は少ない。爵位を継げない人間は準貴族になる。準貴族は本人は貴族と認められてもその子供は平民に落ちる。みんな貴族であり続けるために必死だ。

 長男は爵位を保証されているようで、そうでもない。当主に継承者として不適格だとされ、爵位を継げないこともある。

 貴族の兄弟はひとつの爵位を狙い合うライバルだ。
 俺は二人の兄達から酷く警戒されていた。

 原因は俺の銀髪にある。金髪や銀髪は王族や高位貴族にしか表われない色だ。魔力が髪に滲み出ていると言われ、魔力の多さが保証されている。

 俺はこの銀髪を元王女だった祖母から受け継いだ。
 よくある焦げ茶色の髪の二人の兄は俺に爵位を奪われることを恐れた。

 物心がついた頃には兄達からの嫌がらせを受けていた。
 大きくなると兄からの暴力が酷くなった。母親に言っても信じてくれない。

 「ウォルターが心を開いてくれないから、つい意地悪をしてしまうのですって。
 もう少しウォルターの方から歩み寄ったら良いのではないかしら」
 母親の言葉が信じられなかった。
 父親は見て見ない振りをしていた。

 いつか兄達の暴力で殺されてしまうのではと考えていた頃、俺を助ける手が思わぬところから差し出された。

 「なあ、ウォルター、お前ホーン男爵家の養子に入らないか?」
 父方の叔父にあたるホーン男爵が俺に言った。
 「養子ですか?」
 「ああ、俺のところにはジュリアしか子供がいない。
 男爵家だし伯爵家よりは家格は落ちるが、田舎は気楽でイイぞ」
 叔父がニッコリと笑った。平民みたいな笑い方だと思った。けれどモラントの家族より安心できる笑顔だった。

 俺は叔父に言われるまま男爵家の養子に入ったが、男爵夫人やジュリア姉さんから疎まれるのではないかと心配していた。

 しかし男爵家に入った俺を待っていたのは熱烈な歓迎だった。
 「その銀髪、やっぱりウォルターは義兄さんよりあなたに似てるわね」
 「そうだろう、ウォルターは俺の息子になる運命だったんだな」
 叔父が大きな手で俺の背中を叩いた。
 その手の温かさに思わず涙が溢れそうになった。

 「弟が出来て嬉しいわ」
 ジュリア姉さんがはにかんだように笑った。その笑顔に俺は二度目の恋をした。

 俺は男爵家に入ってからふたつだけ後悔している事がある。

 俺が乗馬に誘ったせいでジュリア姉さんが落馬したことと、俺が泳げなかったせいで川で溺れたジュリア姉さんをすぐに助けることが出来なかったことだ。

 熱病に罹ったこともあり、ジュリア姉さんはすっかり体が弱くなってしまった。
 けれど心の優しさは変わらない。熱病に罹っていたときも、自分が大変なのに俺に感染ってしまうことを心配してくれた。

 俺は男爵家の両親にとても感謝している。そしてジュリア姉さんを守るためなら何だって出来ると思うんだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...