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オレ、メルト伯爵家の嫡男ローランド・メルト12才はその日初めて自分の婚約者に出会った。
貴族の婚約なんて、こんなものだ。自分の好みなんて関係なく家同士の関係で親に勝手に婚約者を決められる。
我がメルト伯爵家は長く優秀な文官を輩出している家系、一方の婚約相手のアイネ子爵家は武官の家系であり、特に現当主のエドワード・アイネは第三騎士団の団長を務めるほどの強さを誇る。互いに足りない所を補い合える良い関係だった。
まあ一番の決め手はオレの父親と婚約者の父親が親友だったって事なんだけど。
婚約者に過度な期待はしていない。
第三騎士団のアイネ団長と言えば、赤鬼と呼ばれる強面の大男だ。オレの婚約者はその娘。あんまり男みたいにゴツイのはなぁ、せめて普通に女性に見える娘ならいいなぁ‥‥なんて思っていた。
父親は「スッゴイ、美少女だぞ!」なんて言っていたが、そんな言葉を信じるのは馬鹿のすることだ。親の言うことを信じて婚約者に期待して涙した級友たちは沢山いる。
とは言え、やっぱりオレだって少しは期待してしまう。
何かの間違いで赤鬼団長の娘がけっこう可愛い、なんてことが有るかも知れない。あって欲しい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
婚約者との初めての出会いの場に指定されたのは植物園。
オレの婚約者のルビーナちゃんは花が好きらしい。
季節は5月、園内のカフェテラスのすぐ横にある白薔薇は満開だった。
彼女は父親に連れられてこちらに歩いて来た。
アイネ子爵は2メートルもある大男、真っ赤な目と燃えるような赤毛は赤鬼団長の呼び名通りの威圧感だ。
その大きな父親の影から水色のワンピースを着た可憐な少女がピョコっと顔を見せた。
か、かわいい‼︎
嘘、この可愛い美少女がほんとうにオレの婚約者なのか?!
本当にホント?!
オレ、騙されてない?
「ローランド、いつまでも見とれてないで挨拶ぐらいちゃんとしろ。」
父親に笑いながら言われて、自分がボーッと彼女に見とれていた事に気がついた。
うわっ、恥ずかしい!!
「ローランド・メルトです。はじめまして。」
舞い上がって名前を名乗るのがやっとだった。
あーーー、コレだからモテないんだよ。何でもっと、こう上手い言葉とか出てこないんだろう。
「ルビーナ・アイネです。よろしくお願いします。」
ルビーナちゃんが恥ずかしそうに言って、スカートの裾を持ってお辞儀をした。
かわいい、可愛いすぎる‼︎
ルビーナちゃん、ホントにアイネ子爵の子供なの?アイネ子爵、奥さんに浮気されちゃってない?
一瞬そんな失礼なことを考えたけど、アイネ子爵の珍しい赤色の瞳はルビーナちゃんに受け継がれていた。ただアイネ子爵だと返り血を浴びたように見える瞳の色がルビーナちゃんだと苺ジャムの色に見える。甘くておいしそうだ。
「折角だから植物園を二人で観て廻っておいで。」
父親に促されてルビーナちゃんと二人で園内を観て廻ることにした。
オレがエスコートするために腕を差し出すとルビーナちゃんがそっと手を添えた。指の先まで美しい。
まだ10才のルビーナちゃんは小柄でかわいい。ミルクティーみたいな色の柔らかそうな髪、白い肌、赤い唇、女の子の可愛らしさを凝縮したような少女にドキドキする。
もうオレはこの時点で完璧にルビーナちゃんを好きになっていた。
こんな美少女と婚約出来るなんて、一生分の幸運を使い果たしたような気がする。
隣りを見るとルビーナちゃんがニコッと微笑んだ。
「花がきれいですね。薔薇の良い香りがするわ。」
「薔薇の花が好きなの?」
「ええ、華やかで素敵ですもの。ローランド様はどんな花が好きですか?」
「オレも薔薇が好きだ。」
今まで花になんか興味なかったけど、ルビーナちゃんと出会った日に咲いていた満開の薔薇の花をオレは一生忘れないだろう。
「オレのことはローランドではなくローリーと呼んでくれないか?」
「じゃあ、わたしのことはルビーと呼んでください。」
「あ、あのさ、ルビー、君は嫌じゃなかった?その、婚約者がオレで‥‥。」
「いやだなんて‥‥。ローリーが優しそうで安心しました。」
そう言って微笑んでくれるルビーナちゃんはもう天使に見える。容姿が美しいだけじゃなく性格も良さそうだ。
ふいに強い風が吹いた。風の精霊のいたずらだと思う。
精霊は気に入った人間に気付かれたくて、偶にこんないたずらをして来る。
ルビーナちゃんのかぶっていた白い帽子がフワリと宙に浮いた。
オレはトンっと跳び上がって帽子を掴まえた。
頭の中にはハイって帽子をルビーナちゃんに渡すカッコいいオレがいたが、現実はそうはならなかった。ちょうどオレが跳び上がった所に段差があったのだ。
段差って言うか、ちょっとした崖?
って、何でこんな所に崖があるんだよーーー!
「ウワァーーーーー!!!!」
崖を滑り落ちながらオレの頭の中に走馬燈のようなものが流れた。
メルト伯爵家に生まれて両親に愛されて育った12年間のローランド・メルトの人生。
こんなものが見えるなんて、オレ、このまま死んじゃうの?!
ローランドの人生の上映が終わると、次に何故かもう一本の人生の上映が始まった。
日本で生まれ育ち、両親と大学生の姉と4人家族だった18才の青年、高杉翔太の人生。‥‥あっ、これオレの前世の記憶だわ。
オレ、いつの間に生まれ変わっていたの?
ていうか、コレって異世界転生じゃね?何それ、ラノベかよ!
崖から滑り落ちながら一人でノリツッコミしてたら、頭を打ってオレは気を失った。
そして暗転!
貴族の婚約なんて、こんなものだ。自分の好みなんて関係なく家同士の関係で親に勝手に婚約者を決められる。
我がメルト伯爵家は長く優秀な文官を輩出している家系、一方の婚約相手のアイネ子爵家は武官の家系であり、特に現当主のエドワード・アイネは第三騎士団の団長を務めるほどの強さを誇る。互いに足りない所を補い合える良い関係だった。
まあ一番の決め手はオレの父親と婚約者の父親が親友だったって事なんだけど。
婚約者に過度な期待はしていない。
第三騎士団のアイネ団長と言えば、赤鬼と呼ばれる強面の大男だ。オレの婚約者はその娘。あんまり男みたいにゴツイのはなぁ、せめて普通に女性に見える娘ならいいなぁ‥‥なんて思っていた。
父親は「スッゴイ、美少女だぞ!」なんて言っていたが、そんな言葉を信じるのは馬鹿のすることだ。親の言うことを信じて婚約者に期待して涙した級友たちは沢山いる。
とは言え、やっぱりオレだって少しは期待してしまう。
何かの間違いで赤鬼団長の娘がけっこう可愛い、なんてことが有るかも知れない。あって欲しい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
婚約者との初めての出会いの場に指定されたのは植物園。
オレの婚約者のルビーナちゃんは花が好きらしい。
季節は5月、園内のカフェテラスのすぐ横にある白薔薇は満開だった。
彼女は父親に連れられてこちらに歩いて来た。
アイネ子爵は2メートルもある大男、真っ赤な目と燃えるような赤毛は赤鬼団長の呼び名通りの威圧感だ。
その大きな父親の影から水色のワンピースを着た可憐な少女がピョコっと顔を見せた。
か、かわいい‼︎
嘘、この可愛い美少女がほんとうにオレの婚約者なのか?!
本当にホント?!
オレ、騙されてない?
「ローランド、いつまでも見とれてないで挨拶ぐらいちゃんとしろ。」
父親に笑いながら言われて、自分がボーッと彼女に見とれていた事に気がついた。
うわっ、恥ずかしい!!
「ローランド・メルトです。はじめまして。」
舞い上がって名前を名乗るのがやっとだった。
あーーー、コレだからモテないんだよ。何でもっと、こう上手い言葉とか出てこないんだろう。
「ルビーナ・アイネです。よろしくお願いします。」
ルビーナちゃんが恥ずかしそうに言って、スカートの裾を持ってお辞儀をした。
かわいい、可愛いすぎる‼︎
ルビーナちゃん、ホントにアイネ子爵の子供なの?アイネ子爵、奥さんに浮気されちゃってない?
一瞬そんな失礼なことを考えたけど、アイネ子爵の珍しい赤色の瞳はルビーナちゃんに受け継がれていた。ただアイネ子爵だと返り血を浴びたように見える瞳の色がルビーナちゃんだと苺ジャムの色に見える。甘くておいしそうだ。
「折角だから植物園を二人で観て廻っておいで。」
父親に促されてルビーナちゃんと二人で園内を観て廻ることにした。
オレがエスコートするために腕を差し出すとルビーナちゃんがそっと手を添えた。指の先まで美しい。
まだ10才のルビーナちゃんは小柄でかわいい。ミルクティーみたいな色の柔らかそうな髪、白い肌、赤い唇、女の子の可愛らしさを凝縮したような少女にドキドキする。
もうオレはこの時点で完璧にルビーナちゃんを好きになっていた。
こんな美少女と婚約出来るなんて、一生分の幸運を使い果たしたような気がする。
隣りを見るとルビーナちゃんがニコッと微笑んだ。
「花がきれいですね。薔薇の良い香りがするわ。」
「薔薇の花が好きなの?」
「ええ、華やかで素敵ですもの。ローランド様はどんな花が好きですか?」
「オレも薔薇が好きだ。」
今まで花になんか興味なかったけど、ルビーナちゃんと出会った日に咲いていた満開の薔薇の花をオレは一生忘れないだろう。
「オレのことはローランドではなくローリーと呼んでくれないか?」
「じゃあ、わたしのことはルビーと呼んでください。」
「あ、あのさ、ルビー、君は嫌じゃなかった?その、婚約者がオレで‥‥。」
「いやだなんて‥‥。ローリーが優しそうで安心しました。」
そう言って微笑んでくれるルビーナちゃんはもう天使に見える。容姿が美しいだけじゃなく性格も良さそうだ。
ふいに強い風が吹いた。風の精霊のいたずらだと思う。
精霊は気に入った人間に気付かれたくて、偶にこんないたずらをして来る。
ルビーナちゃんのかぶっていた白い帽子がフワリと宙に浮いた。
オレはトンっと跳び上がって帽子を掴まえた。
頭の中にはハイって帽子をルビーナちゃんに渡すカッコいいオレがいたが、現実はそうはならなかった。ちょうどオレが跳び上がった所に段差があったのだ。
段差って言うか、ちょっとした崖?
って、何でこんな所に崖があるんだよーーー!
「ウワァーーーーー!!!!」
崖を滑り落ちながらオレの頭の中に走馬燈のようなものが流れた。
メルト伯爵家に生まれて両親に愛されて育った12年間のローランド・メルトの人生。
こんなものが見えるなんて、オレ、このまま死んじゃうの?!
ローランドの人生の上映が終わると、次に何故かもう一本の人生の上映が始まった。
日本で生まれ育ち、両親と大学生の姉と4人家族だった18才の青年、高杉翔太の人生。‥‥あっ、これオレの前世の記憶だわ。
オレ、いつの間に生まれ変わっていたの?
ていうか、コレって異世界転生じゃね?何それ、ラノベかよ!
崖から滑り落ちながら一人でノリツッコミしてたら、頭を打ってオレは気を失った。
そして暗転!
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