53 / 63
優しい人[イザベル視点]
しおりを挟む
貴族の子供は5歳を過ぎると他家の子供達と付き合うようになる。と言っても最初は同じ系統の家の子供、私なら氷の家系の子供と会わせられた。同じ系統は殆ど親戚筋だし、もし子供が攻撃魔法を使ってしまっても同系統の魔法には耐性がある。
私は子供たちと会わせられる事にウンザリしていた。
私は早熟な方だったので、同じ年頃の子供たちが馬鹿に見えて仕方がなかった。
特に男の子たちはひどかった。私に気に入られて将来護衛になるようにと親に言われていたのだろう。私の前で棒切れを振り回し、勇敢なところを見せようと馬鹿げた騒ぎを繰り返した。ショーンは人見知りでいつも他の人達から離れていた。その穏やかなところと口が堅いところが気に入って、今護衛をしてもらっている。
8歳を過ぎると同じ家格の人達、私だと初代九家の人達との付き合いが始まる。
オスカーともこの頃、知り合った。男性は女性が生意気なことを言うと嫌うものだがオスカーには男女差別がなく、割と良い印象を持ったのを覚えている。
私は大人たちと話がしたかったが、大人は子供に口を挟まれることを嫌う。私は口を挟まないでジッと大人たちの話に耳を傾けた。
大人の話は私の知らない興味深いこともあったが、子供の話以上に下らないことも多かった。子供の話が意味もなく下らない話だとするなら、大人の話は悪意のある下らない話だ。
定番の悪口というのが幾つかあってティリエ公爵家のものも、その一つだった。
ティリエ公爵家には3人も子息がいるが、まともなのは次男のフランシスしかいない。長男は光の家系なのに少しも光の素質を受け継いでいないし、三男は軽薄な女好きだと言われていた。
軽薄な女好きはともかく、光の素質を受け継ぐかどうかなんて本人の努力ではどうにもならない。そんな事も分からないのかと腹が立った。
シモン・ティリエは黒髪に紺色の瞳を持ち、痩せぎすで神経質そうに見えた。王族と見間違いそうな色合いなのに、光の家系に生まれたというだけで悪く言われる。
ルイ・ティリエは噂通りに女性と見れば甘い言葉を振りまいていた。白金の髪に明るい水色の瞳、中性的な可愛い容姿の青年だった。女性に言い寄っているように見えて、そこに性的ないやらしさは感じない。うっかり女性が自分に振り向きそうになると、他の女性に目移りしたフリをして行ってしまう。女性好きだという評判だけが欲しいようだった。
何故なのだろうと不思議に思った。男色家なのを隠しているのかと思ったが、男性に興味があるようにも見えない。
やがて兄の悪口が半分自分に向くようにしているのだと気がついた。
ルイは見目も良く、軽薄を装っているが実は優しく気遣いの出来る人だ。親世代には嫌われていたが、彼の内面を感じとった年頃の女性にモテていた。
ある日ルイは女性たちに囲まれて困っていた。誰も傷つけたくない彼は本気の女性を苦手としている。いつもは絶対に自分に振り向かない年上の女性、クリスティーナの元などに気のあるフリで逃げ込んでいるのだが、この日は丁度いい女性がいない。
誰も傷付けないなんて無理なのにバカな人だ。
「ルイ・ティリエ、私と約束していたのを忘れたの。そんな女たちにカマってないで早く来て。」
私はルイの腕を取って女性たちの中から引っ張り出した。
「あなたにはルイのお相手は早いのではないかしら。」
一人の女性がまだ8歳の私を見下ろして言った。
「あら、フェロン公爵家の私に意見が出来るなんてどこの家の方なのかしら?」
私は権力を振りかざしてルイを連れ出した。
ルイはありもしない約束をたてに連れ出されてオロオロしていた。
「イザベル、あんな言い方をしたら君が悪く言われるよ。」
「平気よ。普段から生意気で可愛げが無いって言われているもの。」
「でも助かった。囲まれて困っていたんだ。」
「女好きのフリも大変ね。」
ルイが驚いた顔をして私を見つめた。
「僕の態度はそんなに分かりやすいかな?」
「さあ?私は人間観察が趣味だから。」
「その年にしては面白い趣味だね。」
「私は子供が苦手なのよ。大人は相手をしてくれないから人間観察くらいしかすることがないの。」
「じゃあ僕と話をしようか。」
「子供の相手は退屈ではなくて?」
「下手な大人と話すより楽しいよ。」
それから私はルイが女性に囲まれていると助けたり、私が社交の場で退屈そうにしているとルイが話かけてくれたり、良い関係を保っていた。
私が13歳になったある日、ルイが女性をエスコートしているのを見た。
いつもの女性好きのフリでなく、ルイの瞳には彼女への好意が溢れていた。彼は私より12歳も年上だ。恋人が出来てもおかしくない。
初めて自分の気持ちが恋に変わっていたことに気づいた。
彼に気軽に話しかけられなくなり、呼びかけもルイ様と他人行儀になった。
ルイが少し寂しそうに見えた気がした。
私は子供たちと会わせられる事にウンザリしていた。
私は早熟な方だったので、同じ年頃の子供たちが馬鹿に見えて仕方がなかった。
特に男の子たちはひどかった。私に気に入られて将来護衛になるようにと親に言われていたのだろう。私の前で棒切れを振り回し、勇敢なところを見せようと馬鹿げた騒ぎを繰り返した。ショーンは人見知りでいつも他の人達から離れていた。その穏やかなところと口が堅いところが気に入って、今護衛をしてもらっている。
8歳を過ぎると同じ家格の人達、私だと初代九家の人達との付き合いが始まる。
オスカーともこの頃、知り合った。男性は女性が生意気なことを言うと嫌うものだがオスカーには男女差別がなく、割と良い印象を持ったのを覚えている。
私は大人たちと話がしたかったが、大人は子供に口を挟まれることを嫌う。私は口を挟まないでジッと大人たちの話に耳を傾けた。
大人の話は私の知らない興味深いこともあったが、子供の話以上に下らないことも多かった。子供の話が意味もなく下らない話だとするなら、大人の話は悪意のある下らない話だ。
定番の悪口というのが幾つかあってティリエ公爵家のものも、その一つだった。
ティリエ公爵家には3人も子息がいるが、まともなのは次男のフランシスしかいない。長男は光の家系なのに少しも光の素質を受け継いでいないし、三男は軽薄な女好きだと言われていた。
軽薄な女好きはともかく、光の素質を受け継ぐかどうかなんて本人の努力ではどうにもならない。そんな事も分からないのかと腹が立った。
シモン・ティリエは黒髪に紺色の瞳を持ち、痩せぎすで神経質そうに見えた。王族と見間違いそうな色合いなのに、光の家系に生まれたというだけで悪く言われる。
ルイ・ティリエは噂通りに女性と見れば甘い言葉を振りまいていた。白金の髪に明るい水色の瞳、中性的な可愛い容姿の青年だった。女性に言い寄っているように見えて、そこに性的ないやらしさは感じない。うっかり女性が自分に振り向きそうになると、他の女性に目移りしたフリをして行ってしまう。女性好きだという評判だけが欲しいようだった。
何故なのだろうと不思議に思った。男色家なのを隠しているのかと思ったが、男性に興味があるようにも見えない。
やがて兄の悪口が半分自分に向くようにしているのだと気がついた。
ルイは見目も良く、軽薄を装っているが実は優しく気遣いの出来る人だ。親世代には嫌われていたが、彼の内面を感じとった年頃の女性にモテていた。
ある日ルイは女性たちに囲まれて困っていた。誰も傷つけたくない彼は本気の女性を苦手としている。いつもは絶対に自分に振り向かない年上の女性、クリスティーナの元などに気のあるフリで逃げ込んでいるのだが、この日は丁度いい女性がいない。
誰も傷付けないなんて無理なのにバカな人だ。
「ルイ・ティリエ、私と約束していたのを忘れたの。そんな女たちにカマってないで早く来て。」
私はルイの腕を取って女性たちの中から引っ張り出した。
「あなたにはルイのお相手は早いのではないかしら。」
一人の女性がまだ8歳の私を見下ろして言った。
「あら、フェロン公爵家の私に意見が出来るなんてどこの家の方なのかしら?」
私は権力を振りかざしてルイを連れ出した。
ルイはありもしない約束をたてに連れ出されてオロオロしていた。
「イザベル、あんな言い方をしたら君が悪く言われるよ。」
「平気よ。普段から生意気で可愛げが無いって言われているもの。」
「でも助かった。囲まれて困っていたんだ。」
「女好きのフリも大変ね。」
ルイが驚いた顔をして私を見つめた。
「僕の態度はそんなに分かりやすいかな?」
「さあ?私は人間観察が趣味だから。」
「その年にしては面白い趣味だね。」
「私は子供が苦手なのよ。大人は相手をしてくれないから人間観察くらいしかすることがないの。」
「じゃあ僕と話をしようか。」
「子供の相手は退屈ではなくて?」
「下手な大人と話すより楽しいよ。」
それから私はルイが女性に囲まれていると助けたり、私が社交の場で退屈そうにしているとルイが話かけてくれたり、良い関係を保っていた。
私が13歳になったある日、ルイが女性をエスコートしているのを見た。
いつもの女性好きのフリでなく、ルイの瞳には彼女への好意が溢れていた。彼は私より12歳も年上だ。恋人が出来てもおかしくない。
初めて自分の気持ちが恋に変わっていたことに気づいた。
彼に気軽に話しかけられなくなり、呼びかけもルイ様と他人行儀になった。
ルイが少し寂しそうに見えた気がした。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる