下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

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春節祭[オスカー視点]

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  俺が目を覚ました時、辺りは薄闇に包まれていた。
  手足が縛られ猿ぐつわが嵌められている。何があったのか、しばらく思い出せなかった。ようやく護身術教室の時の飲食物に薬が混ぜられていた事に気がついた。

  少しでも情報を得ようと体を動かして周囲を見回した。
  俺の隣にやはり手足を縛られたユインティーナが転がされていた。少し離れたところにいるイザベルも手足を縛られていたが、敷物の上に寝かされている。俺たちと少し扱いが異なるようだ。

  俺たちが寝かされているのは囚人護送用の馬車だった。囚人が入れられる檻の中に俺とユインティーナが、看守がいるべき場所にイザベルとカルロス王子がいた。
 「やっと目を覚ましたようだね。」
  カルロス王子が手に持った魔導灯にあかりを灯した。
  はっきりと見えるようになったカルロス王子はいつもの張り付けたような笑顔ではなく、侮蔑するような視線で俺を見おろしていた。
 「大好きなユインティーナと一緒に居られて嬉しいだろ。」
  クククッと声を上げてカルロス王子が笑った。

 「オスカー、僕は君が大っ嫌いだったんだ。僕が落とそうとしていたイザベルも君と仲が良かったしね。でも許してあげるよ。君にはこれからハイデル王国のために沢山子供を作ってもらうんだ。毎日違う女が抱ける。楽しそうだろ。」
  血族魔法の使い手は呪文を唱えなくても魔法を発動できる。カルロス王子を焼き殺そうとしたが、何故か魔法が発動しなかった。
  カルロス王子がまた楽しそうに笑った。
 「オスカー、今、魔法で僕を攻撃しようとしたね。目の色が赤く変わった。でも魔法が出なかった。君に塡めた腕輪に封魔石が仕込んであるからね。知らなかった?そういう石があるんだよ。」
  俺が睨み付けるのを見て、カルロス王子は楽しくてならないようだった。

 「でも、もう二度と僕を攻撃したりしないように躾けないと。デン、お前、その檻の中の女が気に入っていたよね。」  
  カルロス王子が体格のいい護衛の男を呼び寄せた。
 「今から二時間ほど休憩するから、その間その女を好きにしていいよ。ただ貴重な血族魔法持ちだから殺さないように。」
 「はい、ありがとうございます。」
  デンと呼ばれた男が下卑た笑いを浮かべた。
 「まあ血族魔法と言っても回復魔法しか持ってないけど。あはは、君たちが秘密にしていた事がバレているね。オスカーは炎の一撃、イザベルは氷の一撃だって。怖いこわい。デン、その女には封魔石は付けてない。少しぐらい痛め付けても自分で回復するさ。」
  カルロス王子が俺を見て言った。
 「ユインティーナは可哀想にね。オスカーのせいでこんなサド男に処女を散らされる羽目になって。せめてオスカーは側で見守ってあげるといい。」
  カルロス王子は他の護衛とともにイザベルを連れて出て行った。
 
  カルロス王子がいなくなるとデンは嬉しそうに檻からユインティーナを連れ出した。大男に抱えられた細身のユインティーナは小さな子供のように見えた。
  いつもは元気な彼女だが長く拘束されたのが応えたのか、ぐったりして身じろぎもしない。デンは手足を拘束されたままの彼女の服をナイフで切り始めた。
 「まだオッパイが小さくていいな。子どもを犯しているみてぇだ。坊ちゃんも見るかい。綺麗な肌してるぞ。」
  デンがユインティーナの裸体を俺の方に向けた。
 「まあ、抱くのは俺だけどな。声が聞こえねぇのは味気ねぇか。」
  デンがユインティーナの猿ぐつわを取って殴りつけた。
 「ほら、鳴けよ。」
  その瞬間、体が熱くなって封魔石が弾け飛んだ。
  殺してやる。デンを焼き尽くそうと奴の方を見ると、デンは時間が止まってしまったかのように動きを止めていた。

 「あっ、やっちゃった。もう少し待てばオスカー様に助けて貰えたのに。」
  ユインティーナがいつもの調子で言った。
 「何をした?」
 「その前に服を貸してよ。」
  彼女の格好に気づいた俺は慌てて上着を渡した。小柄な彼女が着ると上着がワンピースのような長さになる。
 「ちょっと長いけどいいか。」
  彼女は上着の袖を折りながら言った。
 「最大の秘密なんで誰にも話さないって誓って貰える?」
 「誰にも話さないと誓う。」
  突然ユインティーナが俺の額にキスをした。
 「な、何をしている。」
 「事後承諾で悪いけど誓いを破った時に川に飛び込んだり、崖から飛び降りたくなる魔法をかけました。」
 「わかった。それでアレはどうなっている。」
  デンは同じ格好のままピタリと止まったままだ。
 「初代九家なのにコーサイス侯爵家にあるのが回復魔法だけなのはおかしいって思わなかった?とっておきを隠しているの。ニンフの誘惑、かけた相手を一日中、好きに動かせる魔法なの。」
 「だったら、さっさと使っておけ。」
 「わたしだって使いたかったけど、声を出して命令しないと使えないの。ほんと、今回はもうダメかと思ったよ。」
  彼女が珍しく疲れた声を出した。
  
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