下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

文字の大きさ
上 下
17 / 63

僕の妹[レイモンド視点]

しおりを挟む
  ユインティーナを見るたび、あれは妹なんだ、恋愛対象じゃないんだと自分に言い聞かせた。でもダメなんだ。恋愛感情は抑えきれない。
  だったら開きなおって、兄として思いっきり可愛がってやろうと思った。どうせ彼女は僕のことを兄としか見ていない。最初から失恋しているようなものだ。

  新年祭に誘うのはどうだろう。あれは家族か恋人と参加するお祭りだ。兄として誘って恋人気分を味わうのだ。

  帰省する馬車で二人きりになった。新年祭に誘うくらい簡単だと思っていた。なのに言葉が出ない。ユインティーナが僕の成績を褒めてくれたのに、素っ気ない返事をしてしまった。
  ユインティーナといるだけで僕はおかしくなってしまう。言葉も出ないなんて、僕はどれだけポンコツなんだ。

  何とか誘ったが、ユインティーナは僕に嫌われていると思っていたらしい。それでも新年祭に一緒に行ってくれると言ってくれた。嬉しくなって笑ったら、笑い返してくれた。久々に見る彼女の笑顔だった。


  新年祭は年末の夜から新年の朝にかけて行われる行事だ。ジーンエイデンは比較的治安の良い国だけど、さすがに普段は夜間に外出したりしない。
  ただ新年祭の日は街中に明かりが灯される。その中を僕はユインティーナの手を引いて見てまわった。
 「貴族街の新年祭は下町のと全然違うんだね。」
  ユインティーナががっかりしたように言った。
 「つまらない?」
 「綺麗だけど屋台が出て無いんだもの。」
 「街中には出ていないけど公園の方には出ているよ。」
 「ほんと!早く公園に行こう。」
  僕は彼女に引っ張られるようにして公園に移動した。

 「屋台の種類も違うみたい。あれは何のお店?」
 「あれはクレープ、中にクリームやフルーツを入れたお菓子だよ。食べてみる?」
 「うん!」
  ユインティーナが今日一番の笑顔で頷いた。
  二人でベンチに座ってクレープを頬張った。
 「おいしい!中に入っているフルーツがすごく甘い。」
 「南国の果物だから下町には出回ってないのかな?」
 「でも下町にも美味しいものが沢山あるんだよ。今度はわたしがお兄様を案内してあげるね。」
 「それも楽しそうだね。そういえばユインティーナは下町の新年祭に参加してたみたいだけど恋人と回ってたのかな?」
  今日一番気になった事を聞いてみる。彼女を見つけた時に一緒にいた少年、あれは下町にいる恋人なのだろうか?
 「恋人なんかいないよ。いつも下町の家族と見て回ってた。」
  彼女の言葉にホッとした。

 「良い人たちだったんだね。」
 「うん、すごく良い家族だった。わたしが10歳のとき、お父さんが病気になったの。薬を飲ませたんだけど効かなくて、亡くなってしまったの。」
  ユインティーナの瞳から涙が溢れた。彼女の細い肩が震えている。
  僕はどうしていいのか分からなくて、そっと彼女の肩を抱きしめた。
 「薬がすごく高くてね、借金だけが残ったの。そうしたら娼館の人が来て、わたしを娼館に売って欲しいってお金を置いていこうとした。でもお母さんも兄さんたちも絶対にお金を受け取らなかった。」
 「君を守ってくれたんだね。」
 「うん、それから兄さん達と冒険者をして少しづつ借金を返していったの。」
 「そんな良い家族なら引き離されて辛かったんじゃないか?」
 「わたしが一緒にいると危険だもの。下町の家族には幸せになって欲しいの。」
  ユインティーナは僕よりもずっと大人の視点で前を向いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...