下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

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8、続、淑女はミステリアスに

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  ダンスはまずエスコートしてくれたパートナーと踊る。同じ人と何曲も続けて踊ることは望ましくなく、なるべく多くの人と踊るように言われていた。

  一曲目は子猫としっぽのワルツ。わたしでも知っている有名な曲だ。
  オスカー様は高位貴族だけあってダンスが上手い。わたしは楽しくなってきてつい笑ってしまいそうなるけど、ダメダメ、憂いのある表情を作らなければ。
 「ダンスが嫌いなのか?」
 「いいえ。」
 「じゃあ俺と踊るのが嫌なのか?」
 「そんなことないわ。」
 「じゃあどうして、そんなつまらなそうな顔で踊っている。」
  わたしはダンス教師に教えられたことを説明した。
 「それはソイツの主観だろう。男だってパートナーが笑っていた方が嬉しいさ。」
 「そうよね。」
  誰だってパートナーが楽しそうにしていた方が嬉しい。公爵家のオスカー様が言うんだから間違いない。
  こんなに楽しいのに笑わないでいられるわけがない。わたしは心のままに笑った。

  急にオスカー様が足を止めた。わたしがバランスを崩して転びそうになったのを、オスカー様が慌てて支える。
 「すまない。」
 「オスカー様がステップを間違えるなんて珍しいですね。こんなに上手なのに。」
  ダンス上手なパートナーにリードされ、わたしは鼻歌でも歌いたい気分だ。
 「これがダンス教師に注意された笑顔か。」
 「でも女性も笑顔で踊った方が良いんですよね。」
 「いや、君はミステリアスを目指すべきだ。」
 「ええー、どうして?」
 「君の笑顔はパートナーの調子を崩させる。授業で良い成績を取りたいなら、ミステリアスでいけ。」

  最初の曲が終わり、オスカー様が次の曲を踊って欲しいそうにしている令嬢達に囲まれた。
  オスカー様ってモテるんだ。いつも不機嫌そうにしているから怖がられていると思っていた。

  わたしがどうしようかと考えていると、カルロス王子が近づいて来た。
 「私と踊って貰えますか?」
  そう訊かれれば断ることも出来ない。
 「わたしでよろしければ喜んで。」と決まり文句で応えて踊り始めた。

 「とても軽やかですね。」
 「ありがとうございます。カルロス王子もさすがにお上手ですね。」
  わたしはカルロス王子が苦手だ。いつもにこやかだが、何を考えているのかわからない。たぶん貴族的過ぎるのだ。
 「オスカーとは随分、楽しそうにしていましたね。」
  何かを探るように王子が言った。
 「そうでしたか?授業で組むことが多かったので、すこし慣れてきたのかもしれません。」
  わたしの返事に王子はわたしへの興味を失くしたようだった。
  曲が終わると当たり障りのない挨拶をして、スッと離れていった。

  ああ、疲れた。カルロス王子はわたしから何を聞き出したかったのだろう。わたしは何にも知らないのに。


 
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