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7、秘密の花園。
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ダンスの授業は他の授業の倍の長さがある。
たくさん踊れて嬉しいな、なんて思ったのは最初だけの話。時間が長いのは女性のドレスアップに時間がかかるからだ。
高位貴族は個室で、他の貴族たちは大部屋に軽く衝立で体を隠せる程度のところで、着替えをする。女性ばかりとはいえ大勢の人がいる中での着替えに令嬢たちが、きゃあきゃあ恥ずかしそうな声を上げている。なんだか楽しそうだ。
「わたしもコッチが良かったな。」
「何馬鹿なこと仰ってるんですか。個室の方が良いに決まってるじゃないですか。」
わたしは侍女のサーシャに追い立てられるようにして個室に入った。
サーシャは少しガサツな物言いをする侍女だ。そこが気楽で気に入っているのだが、わたしを着飾らせることになると目の色を変える。
「ああ、本当にユインティーナ様の見た目は素晴らしいです。黒髪に赤いドレスで情熱的に攻めましょうか?それとも瞳に合わせたブルーのドレスで知的に装い、中身とのギャップを狙いますか?」
「もうなんでも良いからはやくして~。」
わたしはコルセットで締め付けられて早くもヘトヘトになっていた。
「それは子供用のコルセットですから楽なはずですよ。15歳を過ぎて成人すれば大人用のコルセットに変わりますから、それこそギッチギチに締め付けます。」
「何それ、死んじゃう!」
「死にはしませんが、淑女の皆様はよく気絶なさいますね。」
誰かコルセットのいらないドレスを流行らせて欲しい。お母様ならいけるかもしれない。冬休みに入ったら忘れずにお願いして見よう。
ドレスは赤に決めた。エスコート役のオスカー・バーミリオンが赤毛なのでそれに合わせた形だ。
男女二人で何かをするとき、わたしはいつもオスカー様と組まされる。
カルロス王子がクラスで一番身分が高いイザベル様と組みたがるので、残った高位貴族二人で組んでいるかんじだ。
一年生は先生が勝手にパートナーを決めるが、二年生からはパートナーを探すことも授業の一環となる。
男性陣が待つホールに向かうと白い柱にもたれ掛かって不機嫌そうに腕を組んでいるオスカー様がいた。
オスカー様が近づいてきて手を差し出したので、わたしはそこにそっと右手を置いた。
マナーはこれで合っているよね。つい周りをキョロキョロ見てしまう。
「俺がエスコートしているのに他の男が気になるのか?」
「そのようなことございませんわ。」
「まあいい、早くダンス会場に向かおう。」
オスカー様にエスコートされて歩き始める。
エスコートされることも学習の内なのでダンス会場までわざと距離が取ってある。
会場に向かう渡り廊下の横に紅い花が咲いている小さな花壇があった。
「あっ。」
つい立ち止まってしまった。
「あの花が好きなのか?」
「ええ。」と頷いたけれど、わたしが好きなのはあの花ではない。あの花壇の横に生えているワカサギ草だ。あれは貴重な薬草でギルドで売れば一本銀貨五枚にはなる。森でも中々見つけられないのに群生しているなんて。
「摘んで来てやろうか?」
「ダメ、花はそこに咲いているから素敵なのよ。」
わたしは慌ててオスカー様を止めた。貴重なワカサギ草が踏まれてしまってはたまらない。
「お前は変わっているな。」
いつも不機嫌なオスカー様が珍しく笑っていた。
しかしワカサギ草を売る方法を考えいたわたしは、それに気づきもしなかった。
たくさん踊れて嬉しいな、なんて思ったのは最初だけの話。時間が長いのは女性のドレスアップに時間がかかるからだ。
高位貴族は個室で、他の貴族たちは大部屋に軽く衝立で体を隠せる程度のところで、着替えをする。女性ばかりとはいえ大勢の人がいる中での着替えに令嬢たちが、きゃあきゃあ恥ずかしそうな声を上げている。なんだか楽しそうだ。
「わたしもコッチが良かったな。」
「何馬鹿なこと仰ってるんですか。個室の方が良いに決まってるじゃないですか。」
わたしは侍女のサーシャに追い立てられるようにして個室に入った。
サーシャは少しガサツな物言いをする侍女だ。そこが気楽で気に入っているのだが、わたしを着飾らせることになると目の色を変える。
「ああ、本当にユインティーナ様の見た目は素晴らしいです。黒髪に赤いドレスで情熱的に攻めましょうか?それとも瞳に合わせたブルーのドレスで知的に装い、中身とのギャップを狙いますか?」
「もうなんでも良いからはやくして~。」
わたしはコルセットで締め付けられて早くもヘトヘトになっていた。
「それは子供用のコルセットですから楽なはずですよ。15歳を過ぎて成人すれば大人用のコルセットに変わりますから、それこそギッチギチに締め付けます。」
「何それ、死んじゃう!」
「死にはしませんが、淑女の皆様はよく気絶なさいますね。」
誰かコルセットのいらないドレスを流行らせて欲しい。お母様ならいけるかもしれない。冬休みに入ったら忘れずにお願いして見よう。
ドレスは赤に決めた。エスコート役のオスカー・バーミリオンが赤毛なのでそれに合わせた形だ。
男女二人で何かをするとき、わたしはいつもオスカー様と組まされる。
カルロス王子がクラスで一番身分が高いイザベル様と組みたがるので、残った高位貴族二人で組んでいるかんじだ。
一年生は先生が勝手にパートナーを決めるが、二年生からはパートナーを探すことも授業の一環となる。
男性陣が待つホールに向かうと白い柱にもたれ掛かって不機嫌そうに腕を組んでいるオスカー様がいた。
オスカー様が近づいてきて手を差し出したので、わたしはそこにそっと右手を置いた。
マナーはこれで合っているよね。つい周りをキョロキョロ見てしまう。
「俺がエスコートしているのに他の男が気になるのか?」
「そのようなことございませんわ。」
「まあいい、早くダンス会場に向かおう。」
オスカー様にエスコートされて歩き始める。
エスコートされることも学習の内なのでダンス会場までわざと距離が取ってある。
会場に向かう渡り廊下の横に紅い花が咲いている小さな花壇があった。
「あっ。」
つい立ち止まってしまった。
「あの花が好きなのか?」
「ええ。」と頷いたけれど、わたしが好きなのはあの花ではない。あの花壇の横に生えているワカサギ草だ。あれは貴重な薬草でギルドで売れば一本銀貨五枚にはなる。森でも中々見つけられないのに群生しているなんて。
「摘んで来てやろうか?」
「ダメ、花はそこに咲いているから素敵なのよ。」
わたしは慌ててオスカー様を止めた。貴重なワカサギ草が踏まれてしまってはたまらない。
「お前は変わっているな。」
いつも不機嫌なオスカー様が珍しく笑っていた。
しかしワカサギ草を売る方法を考えいたわたしは、それに気づきもしなかった。
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