下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

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悪意の一滴[ソフィア視点]

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  幼い頃、自分の黒い髪が嫌いだった。私の容姿が地味に見えるのはお母様やお兄様のような美しい金色の髪を持っていないからだと思っていた。

  あれは継承の儀式を受ける少し前のことだった。私は着飾って身内だけの小さなパーティに参加していた。
 「クリスティーナの娘にしてはパッとしないな。」
  そう言ったのが誰だったのかはわからない。けれど酷く傷ついたのは覚えている。

  継承の儀式があり、私とお母様の血が繋がっていない事が判明した。
  お母様が憎悪のこもった目で私を見ていた。誰より敬愛するお母様に否定されたことが苦しかったせいか、この頃の記憶があまりない。

  気がつけば私はお父様の実家のハミット伯爵家に養女に出されていた。ハミットの両親はとても優しい方たちだった。突然押しつけられた娘の私を愛情深く育ててくれた。

  けれども私の心はクリスティーナ様に囚われていた。誰より美しいお母様は私の自慢だった。私はお母様の所作を真似ることで、少しでもお母様に近づきたいと思っていた。

  お母様の実の娘であるユインティーナ様が見つかった。ユインティーナ様の学園でのサポート役を頼まれたとき、ハミットの両親は断ってもいいと言った。私が傷つくことを心配してくれたのだ。
  けれど私はクリスティーナ様にもう一度会えるという誘惑に勝てなかった。この感情は何なのだろう、恋に近いのかもしれない。

  私はクリスティーナ様を美化し過ぎているのかも知れない。8年ぶりに会うお母様が記憶の中ほど美しく無かったらどうしよう。
  ドキドキしながらクリスティーナ様に会った。久々に見たお母様は昔よりさらに魅力的になっていた。お母様の瞳の中にもう憎悪は残っていなかった。私に微笑んでくれたお母様に夢見ごこちになった。

  私の実母に連れ攫われたユインティーナ様は平民として育ったのだという。実母の過ちを償うためにも心から支えようと思っていた。彼女と出会うまでは。

  私はお母様と血が繋がっているという事実を甘く見ていた。私と同じ黒髪と青い瞳を持った、平民として育った可哀想な少女。そう思っていた。

  平民として育ったユインティーナ様はお母様のような美しい所作はしていなかった。けれど目が惹き付けられる。華があるのだ。
  私が嫌っていた黒髪がこんなに青い瞳を引き立たせるものだなんて知らなかった。
  貴族としてはあり得ないほど朗らかに笑った。そんなところさえ自分の魅力に変えてしまう。

  彼女は間違いなくお母様の娘だ。私の欲しかった全てを持っている。
  私の中に毒が一滴溢れた。
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