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俺だってえっちな音声作品をつくりたい!

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「馬フィッシュさん、最近オナニー充実してますか?」
 通話相手のシコファイターさん(もちろんハンドルネームだ)は画面の敵を正確に射撃しながら言った。
 ちなみに馬フィッシュは俺のネット上での呼び名だ。
「えっ、オナニー、ですか?」
「やっぱ男はオナニーが充実してないとダメですよ」
 オナニーか……確かに若い男として人並みにしてはいるが、充実しているかと考えたことはなかった。
 そもそも最近熱中できることがないんだよな。
 普通に会社行って、帰ったらなんとなくゲームして……の繰り返しが今の俺の生活。
 ゲームも熱中ってほどではなく、暇つぶしでやっている感じが正直あった。
 そんな漠然とした悩みとも言えないようなものを、通話しながらゲームしているときにふと口に出してみたのだった。
「最近どんなオカズで抜いてますか?」
「え……動画とか、多いですね」
「動画かぁ。無難ですね。刺激が足りないのかもしれませんよ、人生に」
「オナニーってそんなに刺激的なもんですか?」
「まあまあ。馬フィッシュさんは、音声作品って聞いたことありますか?」
「音声作品?」
 名前すら聞いたことがなかった俺は聞き返した。
「R18のボイスドラマみたいなのがあって、最近増えてきてるんですよ。すごくエロい作品がゴロゴロしてますよ」
「へぇー、そんなのあるんですね」
「まあよかったらオススメのいくつかURL送っとくんで、聞いてみてください」
「あーありがとうございます。チェックしてみます」



 その日の寝る前、俺はいつものようにオナニーをする前にシコファイターさんのオススメの作品を見てみることにした。
「お姉さんに耳元で囁きながらいじめてもらえるオナニーサポート音声……?」
 短い体験版を試聴できるらしい。聞いてみることにした。
 スマホにイヤホンを挿し、音声を再生する。
 そこには俺の想像もしていなかった世界が広がっていた。
 妖艶なお姉さんの声が、まるで本当に添い寝されているかのような臨場感で耳元から聞こえてくる。
 耳元で自然な演技でいじわるなセリフを囁かれ、俺は簡単に勃起してしまった。
 お姉さんに責められる妄想はしたことがあったが、目を閉じればこれはまるで現実だ。言葉選びもなんとも言えずM心をくすぐってくるようなもので、俺はお姉さんに言われるがままに夢中でペニスを扱いていた。
 扱くペースも、射精するタイミングすらもお姉さんに指示され、俺は音声のお姉さんにすべてを委ねて射精していた。
 めちゃくちゃ出た。
 肩で呼吸をしながら、俺は無心でスマホを眺めていた。
 こんな世界があったのか。
 動画を見て男優に感情移入して妄想するオナニーとはまた違う、実際にエッチなお姉さんに襲われたかのような体験だった。
 こんなに気持ちいいオナニーができるオカズがあったのか。
 その時、俺の頭には妙な考えが浮かんでいた。

 これ、つくってみてぇな……。



「どうでした? 音声作品」
「いや、マジですごかったです」
 翌日の夜、ゲームしながら俺はシコファイターさんと通話していた。
「そうですか! それはよかったです」
「こんなすげえエロい作品が世の中にはあったんですね」
「最近盛り上がってきてますよ、音声作品は。ここ10年くらいでじわじわ増えてきた感じですね」
 シコファイターさんはなんとなく嬉しそうだった。
「シコファイターさんは結構詳しいんですか?」
「詳しいっていうか……実は僕もつくってます」
「マジすか!?」
 実はシコファイターさんってすごい人だったのか? てっきり俺と同じ無趣味な会社員だとばかり……。
「え、なんて名前でやってるんですか?」
「シコファイターです」
 そのままかよ!
 通りで名前にシコが入ってるわけだ。いや気付けるかよそんなの。
「ちょっと検索していいですか?」
「いいですよ」
 試しにそのままシコファイターさんの名前で検索してみた。すると音声作品がいくつもヒットする。ライターのところに「シコファイター」と名前があり、本当につくっているんだ……と俺は目を閉じて天を仰ぎ、深呼吸した。
「まさかこんな身近にこんなすごいものをつくっている人がいたとは……」
「はは、同人活動ってやつですよ」
「その同人ってたまに聞きますけど、どういう意味なんですか?」
「個人制作、みたいな意味ですね。作品制作のすべてのステップを同じ人がやるから同人って呼ぶんです」
「へーなるほど。じゃあこの音声作品づくりっていうのも、全部一人でやってるんですか?」
「さすがにそれはないです。会社がつくっている商業と区別するための言葉、という側面もありますからね」
「あそっか、そもそもシコファイターさん男だし、少なくとも女性声優と協力しないといけないですもんね」
「そうです。大雑把に役割分担を言うと、企画を考える人、台本を実際に書く人、イラストレーターさん、声優さん、編集さん、くらいに役割がわかれるんですよ」
「へー! そんなにいるんですね」
「このうちサークル主がやるのは、だいたい企画を考える人と台本を書く人です。あと編集を兼ねる人も多いですね。フル外注するサークルさんもいますが、台本が書けなくてもシチュエーションやどういう音声かの企画はサークル主がした方がいいなと僕は思ってます。自分が考えた作品って胸を張って言いたいですからね」
 すごいなぁ……何かをつるって経験、全然ないんだよな。
「あの……それって、俺にもできると思いますか?」
「え? 馬フィッシュさん音声作品つくりたいんですか?」
「実は……はい」
「いいじゃないですか! 性癖の話とか今まで語り合ってきましたけど、そういうのを作品の形で世の中に出すチャンスですよ!」
 シコファイターさんの声がワントーン上がった。お前なんかには無理だと言われたらどうしようかと思ったが、打ち明けてみるもんだな。
「自分でやるなら、一番ハードルが低いのは台本を書くことだと思いますよ。頭の中の最高なセリフとか好きに書けますし、結構楽しいです」
「台本かあ……」
 昨日聞いて衝撃を受けたあの作品をイメージする。お姉さんのセリフを自分が言われたい感じで自分で書く、ということになるのか。
「でもあの、俺、文章ほとんど書いたことないんですよ」
「そうなんですか? 何か他の創作を今までやってきたこととかは?」
「それもないです。全然無趣味だったんで」
 自分でもつくってみたい……ふと湧きあがったその思いに突き動かされてこんなことを口走ったが、そもそも俺は文章を書いたり創作したりしたことがまったくなかった。
「うーん、僕もいろんな作品を聴いて真似して書き始めたって感じですが……馬フィッシュさんは音声作品にも出会ったばかりですもんね」
 スピーカーの向こうでシコファイターさんが思案しているのが伝わってくる。
「やっぱり最初は色々な作品聞いて、自分で真似して書いてみるって感じがいいと思いますよ」
「なるほど。ゲームでプロの試合見て真似して上手くなるみたいな感じですね」
「そういうことです。またいくつかオススメの作品送りますし、馬フィッシュさんの方でも気になる作品はどんどん聞いてみてください」
「了解です。ほんとありがとうございます」
「いえいえ! 音声作品をつくる人が増えるのはうれしいことですからね」
 その日の夜から、俺は毎晩音声作品を聞いてオナニーするようになった。
 ひとつの音声に何トラックも入っていていろんなプレイが楽しめる作品もあるし、短めだがリーズナブルなものもある。逆に数時間の大作もあり、しかもどれも性癖が尖っていて破壊力抜群だった。
 俺はしばらくの間音声作品ワールドに夢中になり、付属の台本を読んだりしてひたすら吸収していった。
 それから2週間ほどが経って、俺は初めての台本づくりにチャレンジすることにした。
 とはいえ……何から書いていいのかわからない。
「うーん……やっぱりこう、お姉さんに責められる感じは外せないよな」
 逆に言うと、そこしか決まっていない。
 あとは……最近好きなプレイは、乳首責めか。
「お姉さんに乳首責めしてもらう……お姉さんの口調ってどんなだ……?」
 ここが気持ちいいの? とか言われたいよな。あとは今まで聞いてきた作品の台本を眺めて……うわよくこんなセリフ思いつくな……。
 でもなんか、丸パクリみたいになるのはさすがにマズイだろうし……セリフって全然思いつかないもんなんだな……。
 俺は苦労しながらなんとか短い台本を——台本の体を成しているかはすこぶる怪しかったが——書き上げると、とりあえずシコファイターさんに見てもらおうと思った。
 他の音声作品は1トラック2千~3千文字くらいが普通だったが、俺に書けたのはたったの300文字だった。
 これ読み上げたら一瞬だろうな、と思いつつ、俺はシコファイターさんに「台本書いてみたのでよかったら見てもらえませんか?」とメッセージを送っていたのだった。



「うーん、書くのが初めてだから、というのはあると思うんですが……」
「ど、どうですか?」
 俺は手にうっすらと汗をかいたのを握り締め、シコファイターさんと通話していた。
「あんまりエロくないですね」
「うっ!」
「あれ、今イキました?」
「そのうっじゃないです。わかってはいたんですが、結構グサッと来ますね」
 俺は額の汗を拭った。大人になってからこんなに試される気分になったのは久しぶりだった。
「いやー、まあもちろん僕の性癖と馬フィッシュさんの書きたい性癖が合うか、っていうのはあるんですけど、うーんなんだろうな……」
 彼は言葉を選んでいるようだった。シコファイターさんはそんなに厳しい感じの人ではなかったので、見せてみようという気になったというのはある。
「馬フィッシュさんのこの作品って、“お姉さんに乳首責めされる”ってシチュエーションじゃないですか。これだけだと、エロさが足りないと思うんですよ。もちろん乳首責め好きなら十分刺さるのかもしれないですけど、もうちょっと掘り下げた方がいいというか……」
「掘り下げる、ですか」
「そうです。例えば最近の乳首責めの作品だと……“もしかして俺のことが大好きなのかもしれないおっとり後輩女子大生、上紺野ゆず子は乳首オナ指示専門店の人気嬢”って作品があるんですけど」
 タイトル長っ!
「すごいタイトルですね」
「この作品って、まあタイトルが長いっていうのもあってかなり情報が多いじゃないですか。シチュエーションが細かいというか。おっとり後輩女子大生というヒロインが、もしかして主人公のことを大好きかもしれないなと期待させる感じなんだけど、実は風俗店勤務という裏の顔がある。つまりエッチなことのプロなわけで、おっとり後輩女子大生がそういうプロなのもエロいですし、しかもそういう子から好意を向けられたらエッチなことされちゃうかも、という期待感もある。その上でプレイは乳首責めオナ指示専門というニッチさ。きっと愛情たっぷりに可愛がってくれるんだろうなとも想像させるし、しかも人気嬢だからすごく上手いんだろうなってドキドキもある。それを年下の女の子にされちゃう背徳感みたいなものもあるし……興奮できるポイントが多いですよね」
「はーなるほど……」
 確かに言われてみればそうだ。性癖をもっと細かいところまで想像してつくってあるのだろう。
「単純に情報量が多ければいいというものでもなくて、よりエロい組み合わせを考えていくのが大事です。馬フィッシュさんも“お姉さんに乳首責めされる”だけじゃなくて、もっと掘り下げた、性癖にバチッとハマるシチュがあると思いますよ。それを練った方がより熱を感じる作品に仕上がりますし、こだわりが強いとクオリティも上がりやすいです」
「こだわりかあ。確かに、もっとエロ妄想を細かいところまで練った方がいいんだなってのはわかりました」
「ですよね。それに何より、自分の性癖ど真ん中の、世界でひとつだけの作品になるので、すごく楽しいですよ」
 世界にひとつだけの作品、か。
 ——いい響きだな。
 それは俺の人生には一度も登場して来なかったような、なんともいえない魅力を持った言葉だった。
「……でもなんか、難しいですね。ひたすら妄想すると言っても、どう考えていいかわからないというか。普段のオナニーでもそこまで細かい妄想はしてなかったですし、ただの妄想を作品の形にするのってどうすればいいんだろうとか考えちゃうんです」
「うーん……自分の興奮するエロい妄想をすればいいだけなんですけど、作品として言語化するのが難しいってことなんですかねぇ」
「ですね。よりエロい妄想ってどんなだろうって思うし、思ったより書けないです」
「僕も経験でなんとなく考えて書いてるだけなとこあるからなぁ……」
 妄想を細かいディティールまで文章に落とし込むというのは思った以上に難しい作業だった。
 何がエロいのかだんだんわからなくなってきたし、そもそも文章に書けない。
「……そうだ。文章書くのが上手い人を紹介しますよ」
「え、マジですか?」
「彼女は専門家ですよ。官能小説家です」



 夏目《なつめ》朝子《あさこ》。
 同人で何冊も小説を出版している官能小説家らしい。
 プレイ傾向は女性上位だがSMほどキツくなく、しかし男の全てを見透かすようなヒロインに一方的に気持ち良くされる感じだとか。
 ちなみに彼女の描くヒロイン像は「わけのわからない女」と呼ばれているらしい。わけのわからない女ってなんだ。何もわからない。
 シコファイターさんのセッティングで、俺は夏目朝子さんと食事をすることになった。シコファイターさんも含めての3人だ。
「お疲れさまです」
「あ、馬フィッシュさん。お疲れ様です」
 彼は黒いパーカーに黒いジーンズの至って平凡な格好だった。本業はシステムエンジニアらしい。俺よりは年上だが、気の置けない友人としてここ数年仲良くしてもらっていた。
 そんなわけで、シコファイターさんとは何度か会って食事をしたことがあった。
「夏目朝子さんはもう来てるんですか?」
「まだみたいです。先に入って待ちましょう」
 蒸し暑い夏真っ盛りな外から冷房の効いた部屋に入れてホッとする。
 レストランに入ってメニューを眺めながら、席でしばらく待った。
「夏目さんってどういう人なんですか?」
「だいぶ前から活動してる官能小説家さんですが、若い女性です。コミケで近くだったことがあって、そこからの縁ですね」
「へーコミックマーケットってやつですか」
「ええ、音声作品でも参加できるんですよ。パッケージ版と呼んでますけど、CDに焼いて売るんです」
「ああ、そっか。音声データだからそういう風にも売れるんですね」
「そうなんです。……あっ、夏目さん! お疲れ様です」
 シコファイターさんが店の入り口の方に手を振った。
 席に近づいてきたのは、セーラー服を着た長い黒髪の女性だった。
「え、女子高生なんですか!?」
「ああ、彼女はコスプレイヤーでもあるんですよ」
 彼女はシコファイターさんの隣に着席すると、長い黒髪をかき上げて顔を手で仰いだ。
「……シコファイター、秒でバラすのはやめてちょうだい」
 落ち着いた大人の女性の声だった。よく見れば女子高生にしては色気のようなものがありすぎる気がする。
 切長の瞳は非日常的なくらい赤かった。カラコンというやつだろうか。確かにこれは何かのキャラのコスプレだろう。
「これはいい年した男性が女子高生と3人で食事していたらうさんくさく見えて面白いかと思って着てきたの。はじめまして、夏目朝子よ」
 彼女はそう名乗ると、注文のベルを押した。
「アイスティー。あなたたちは?」
「僕はアイスコーヒーで」
「あ、俺アイスカフェオレでお願いします」
 近づいてきた店員に各々告げると、再び会話に戻る。
「はじめまして、馬フィッシュです。今日はありがとうございます」
「変わった名前ね。いいと思うわ。関係のなさそうなものを組み合わせるのはアイデアの基本だもの」
 関係のなさそうなものを組み合わせる、か……確かにそうだな。
「それで? 文章を教わりたいって聞いたのだけれど」
「あ、はい。音声作品をつくりたいんですけど、台本どころか文章自体ほとんど書いたことなくて」
「ふうん」
 彼女はちらりとシコファイターさんの方を見た。
「音声作品の台本なら何度か私も書いたことはあるけれど、シコファイターの方がそこは専門じゃないかしら」
「いやあ、僕も経験でなんとなく書いてる部分が大きいので……そもそもエロ創作の考え方ですとか、やり方をしっかり言語化してるのは僕より夏目さんかなと」
「そう」
「お待たせいたしました」
 店員が飲み物を運んできた。
 夏目さんはアイスティーのグラスを指で下から上につつとなぞり上げて水滴を拭ったり、握ったり開いたりを繰り返して弄んでいた。なんかいちいち手つきがエロい人だな……。
「教えてもいいけれど、この子が途中で投げ出さないかが心配ね。親身になって教えてもその通りやらないだとか……学ぶ気のない大人を相手して苦労したことがあるから」
「いやぁ、そういう方も残念ながらいますからねえ。ですがせっかく創作をやってみたいと思った若者が身近にいるわけなので、やっぱり力を貸してあげたいなというのは純粋に思いますよ」
「まあね……気持ちはわからなくもないわ」
 親身になって教えたけど、そもそもその通りにしない、か。大人が大人に教えるというのは確かに難しい側面があるのだろう。僕だって今から英会話なんてやろうとなったら地道な単語の暗記とかは正直サボりたいと思うだろうし……。
「馬フィッシュ、あなたが音声作品をつくりたいと思ったのはどうしてなの?」
「それは……ある音声作品を聞いて、すごい興奮して……その、こんなにエロいものが世の中にあるんだって衝撃を受けて、気づいたら“つくってみたい”って思ってたんです。今まで創作なんてしてこなかったんで、こんな気持ちになるのは初めてなんですけど……」
「なるほど」
 彼女はアイスティーを一口含むと、ゆっくりと飲み下した。
「本当に良いものに触れたのね。触れたあとに自分も何かをつくりたくなるというのは、本当に良いものに触れた証拠よ」
「そうなんですか」
 本当に良いものに触れると、人間は自分でも何かをつくりたくなるのか。
 今まで何もつくってこなかった自分でもそうなのだから、人間には何かをつくりたいという欲求は元々備わっているのかもしれないと思った。
「いいわよ。気が向いた」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「その理由ならやる気は十分だと思うわ。それにシコファイターの頼みだからね」
「夏目さん! 助かります」
「ただし条件があるわ」
 彼女は俺の目を見て言った。
「私の言うことを疑わないこと。必ず実行すること。それだけよ」
「教わったことを素直にやれ、ってことですね。頑張ります!」
 とりあえずその日は連絡先を交換して解散した。
 一体どんなことを教えてくれるんだろう。俺は初めての創作の師匠に、できなかったことができていく予感に少しワクワクしていた。

 その日の夜、朝子さんからスマホにメッセージが届いた。
「今日からオナニーのオカズを毎日私に報告しなさい」
 俺は目を見開いた。今日知り合ったばかりの若い女性にオナニーのオカズを報告するなんて、さすがに気が引ける。
 まあ相手は官能小説家なわけだし、別にエロの話自体に抵抗はないんだろうけど……なんか俺だけ恥ずかしがってる気がしてきた。
「なるべく毎日オナニーしなさい」
「毎回違うオカズで」
 言われたことを素直に実行するとは言ったものの、果たしてこれは何の役に立つのか……文章を書く練習をするとかじゃないのか?
 しかし何と言っても俺は初心者なのだ。師匠に素直に従おう。
 30分後、俺は朝子さんに「JKが罵倒しながら乳首責めしてくれるやつで抜きました」とメッセージを送った。賢者タイムでもめちゃくちゃドキドキした。
 その後も彼女は文章の書き方を教えてくれるというわけでもなく、1週間ほどが経った。
 言われた通り、俺は毎日オナニーをしてオカズを報告していた。
 オカズにするのは音声作品が多かった。毎日違うオカズでと言われていたから、作品は変えるようにした。
 世に出ている音声作品の数は膨大だ。俺が使っている大手ダウンロード販売サイトで見てみたら、作品数は約2万9千作品もあった。一生かけても全部は聞けない気がする。
 日々違う作品に出会いながら、俺はこんな作品もあるのかと刺激を受けていった。
 もしかして朝子さんが教えたいことは「まずはいろんな作品に触れろ」ということなのだろうか。
 ある日そう思った俺は、メッセージを送って聞いてみることにした。
「まずはいろんな作品に触れてみろ、ってことですか?」
「それもあるわ。良いものをつくりたいなら、インプットの量は大前提なの」
 やっぱりそうか。これは何かをできるようになりたいなら共通している気がする。
「それと、あなたって乳首責めが好きなのね」
「……まあ、はい」
 やっぱり知り合ったばかりの女性に性癖を把握されていくのは恥ずかしさがあった。
 ちなみに朝子さんもよく乳首責めの作品を書くらしい。シコファイターさんが言っていた。乳首責めを好きな女性と話したことがないので、俺はなんとなく視線を泳がせてしまった。
「同じ乳首責めなのに、あなたが日によってオカズを変えているのはどうして?」
「それは、朝子さんに言われたからです」
「私に言われなかったら、毎日同じオカズでシコってたの?」
「いや、さすがにそれはちょくちょく変えると思いますけど……」
「どうして?」
「作品によって雰囲気が違うというか、やっぱり乳首責めでもセリフとか違うじゃないですか」
「わかってるじゃない。つまり君が摂取しているものは、特定のプレイだけじゃない。シチュエーションよ」
「シチュエーション、ですか?」
「最近抜いた乳首責めのオカズ、どんな作品だったかいくつか言ってみなさい」
「え……マジすか。また言うんですか」
「マジよ」
「JKが罵倒しながら乳首責めしてくれるやつ、会社の女上司が残業中に乳首責めしてくるやつ、保健室でこっそり同級生が乳首責めしてくれるやつ……とか……です……」
 どういう羞恥プレイだよ……という気持ちを込めて、三点リーダーをたくさんつけてメッセージを送っておいた。
「シチュエーションというのは、一言で言うと状況。場所、時間、天気、細かいプレイ内容、キャラクター……キャラクターは、情報量が多いから別項目と考えた方がいいけれど。君のオカズたちは同じ乳首責めというプレイだけど、シチュエーションが違うってわかるかしら」
「なるほど、確かにそうですね」
「シチュエーションによって同じプレイでもエロさや良さは変わるわ。あなたの初めて書いた台本、私も読んだけれど、シチュエーションが大雑把過ぎる。お姉さんに乳首責めされる、どこで? いつ? お姉さんとはどんな関係? どんなペースで? これが初めてなの? それともすでに何回目かなの? まずはできる限り細かく想像しなさい。そしていろいろなパターンを想像してみなさい。そうやっていろんなシチュエーションに触れて、自分のこれだと思う好きなものをはっきりさせたとき、作品に力が生まれるわ」
 シチュエーション、かあ。
 確かに俺の初めて書いた作品は、今思うとシチュエーションが細かく想像できていなかった。世に出ている他の音声作品で良いと思ったものは、シチュエーションが細かくはっきりしているものだ。だから深く刺さるのか。
「ちなみに私では何回抜いたの?」
「え!? 0回です」
「そう」
 官能小説家の若い女性にオナニーのオカズを毎日報告して「私で抜いたの?」って聞かれる——これも結構細かいシチュエーションだよな、と後から俺は気づいたのだった。



「電柱に登りなさい」
 会社が休みの日、昼間に届いた朝子さんからのメッセージにはそんなことが書いてあった。
 俺は頭を抱えた。
 良い年した成人男性が、昼間から電柱に登っている絵面はかなり怪しい。
 どうする。素直に言われたことをやると言ってしまったとはいえ、さすがにこれは……と気が引ける。
「夜になってからでもいいですか?」
「今じゃないとダメよ」
 僅かな希望を信じて送ってみた提案はあっけなく却下された。
 やるしか……ないのか。
 午後14時。夏真っ盛りの屋外に出ると、俺は家の前の道路に出て電柱を探した。
 ちょうど近くに登れそうな電柱がある。
 上を見ると、登って作業する用と思われる取手が左右にいくつもついている。手を伸ばしてジャンプしたら届きそうなくらいの高さだ。
 辺りを見回す。幸い人目はほとんどない。今しかない。
 俺は勢いをつけてジャンプすると、鉄の棒でできた取手を掴んだ。
「あっつ!」
 真夏の日差しで加熱された鉄の取手。火傷しないうちに素早く離して上の段を掴む。
 腕力を使って一気に体を押し上げ、取手に足もかけて体重を支える。
 なるべく熱くないように取手を持ったり離したりしながら、体勢を安定させた。
 こんな昼間から電柱に登っているという羞恥心と背徳感、それに運動したのもあって心臓がドキドキする。
 で……登ったけど、ここからどうすればいいんだ?
 俺はとりあえず辺りを見回した。遠くの方で道を歩いているおばさんと目が合った気がして、俺は慌てて電柱を飛び降りた。
 わからない。これが音声作品の台本とどう結びつくんだ。
 家に戻ると、俺は朝子さんにメッセージを送った。
「登ってきましたけど、これって台本とどういう関係があるんですか?」
「取材と訓練よ。次は電柱に登ったときの自分の様子を小説だと思って文章で書いてみなさい」
「小説ですか? それこそ書いたことないですよ」
「自分を男主人公だと思って、状況を描写すればいいわ。短くていいから、書けたら送りなさい」
 体験してみると言う意味で電柱に登るのが取材で、小説を書いてみるのが訓練ということか。
 しかし本当に小説なんて書いたことがない。
 俺はしばらく頭を悩ませながら、何とか書き上げて朝子さんに送った。
「“俺はジャンプして電柱に登った。遠くの人と目が合って、すぐに俺は電柱を降りた” このくらいしか書けなかったです」
「初めてにしては悪くないわ。次は気持ちも書いてみなさい」
 ええと……俺は電柱に登ったときの気持ちを思い出し、文章に付け加える。
「“俺はジャンプして電柱に登った。なんでこんなことをやっているんだろうと思った。上に登ったら、ドキドキした。遠くの人と目が合って、すぐに俺は電柱を降りた” どうですか?」
「素直に書けているわね。次は私が同じ状況を書いてみるから、何が違うか比べてみなさい」
 同じ文章を小説家はどんな風に書くのか、確かに興味があった。
 朝子さんからメッセージが送られてくる。
「“俺はジャンプして電柱に登った。肩で息をしながら、俺は所在なさげに辺りを見回す。すぐに遠くの人と目が合って、俺は電柱から飛び降りた”」
 俺の文章を元にちょっと変えた感じみたいだ。
 違うのは……なんでこんなことをとか、ドキドキしたとかが、書かれていないことだ。
「違うのは、気持ちが書かれてないところですか?」
「そうね。直接は書いていないわ。でもよく想像力を働かせて読んでみなさい」
 ええと……元の文は、この二つ。

俺:“俺はジャンプして電柱に登った。なんでこんなことをやっているんだろうと思った。上に登ったら、ドキドキした。遠くの人と目が合って、すぐに俺は電柱を降りた” 

朝子さん:“俺はジャンプして電柱に登った。肩で息をしながら、俺は所在なさげに辺りを見回す。すぐに遠くの人と目が合って、俺は電柱から飛び降りた”

 変わったのは……“肩で息をしながら、俺は所在なさげに辺りを見回す”か。
 想像力を働かせる……肩で息をする……運動した後の感じか? 何か乱暴なことをして、イライラしているような……心拍数が上がっていて……心拍数?
 ……そうか!
 “ドキドキしている”んだ。
 “なんでこんなことを”と思いながら乱暴に体を持ち上げたのも、“肩で息をしながら”に詰まっているんだ。
 “所在なさげに辺りを見回す”も、周りに人がいないかドキドキしながら見てる感じが出ている。
 俺が“なんでこんなことを”とか“ドキドキした”と気持ちを直接書いたところを、別の言い方で書いているんだ。
 よく見ると“電柱を降りた”も“電柱を飛び降りた”になっている。
 確かに俺は、実際電柱を飛び降りていた。
 どうしてゆっくり降りなかったのか? 人に見られて焦っていたからだ。
 つまり朝子さんの文には、俺が焦っていた気持ちも含まれている。“焦っていた”と直接書いていないのに。
「想像したら、朝子さんの文にも気持ちは書いてあるってわかりました。しかもなんていうか、俺の書いた文より臨場感があるっていうか」
「伝わってうれしいわ。あなたは直接気持ちを書いた。私は動作を書いた。いい? 説明するのではなく描写する、というのを覚えておきなさい」
「描写、ですか?」
「そう。描写というのは、直接説明するんじゃなくて、間接的に書くということなの。“ドキドキした”ではなく、“ドキドキした結果どんな体の反応が起きているか”を書く。すると、そんな体の反応が起きてるってことはドキドキしてるんだな、と読者が想像してくれる。そのときに想像力で補ってくれるから、読者がその気持ちになったときのことを思い起こしたりして、より多くの伝えにくいことまで伝わるの」
「なるほど。確かに実際に登った時にいろいろ思ってたことをリアルに思い起こせました」
「“ドキドキ”にもいろんなドキドキがあるでしょう? 高揚、不安、運動後の感じ、心配、背徳感……それは“ドキドキした”という文だけでは伝わらない。ところが動作を書けば、そこから読者がいろんなことを連想して読み取ってくれる。情報の量も質も増して、より伝わる表現になるの。これが表現を考えるということよ」
 説明するのではなく描写する。表現を考える——。
 伝えたいことを細かいところまで一気に伝える表現というのが、描写ってことか。
 俺は思わず唸ってしまった。なんとなく俺にも書けるだろうと思っていた文章にも、表現力や文章力というものがはっきりあるとわかったのだ。
「描写するというのは、セリフにももちろん言えるわ。今回書いてもらったのはセリフ以外の文、いわゆる地の文というのだけれど、あなたが書きたい音声作品というのは全部セリフよね」
「そうです。でもセリフだと、動きを書くって変じゃないですか?」
「そうでもないわ。例えば女の子に男の様子を実況させることで、男側の興奮を間接的に描写できるわ。“体ビクビクして、腰を情けなくヘコヘコ振り立てて……お兄さんもうイキそうなの?”みたいなね」
「なるほど! 確かに男が勝手に腰が動いちゃうくらい興奮しているってこととか、恥ずかしい動きをしてしまうくらい快感に夢中になってるとか……そういうのが伝わってきます」
「そう。それに、動きを書く以外にも描写する表現はあるわ。有名な例で言うと、“私はツンデレなのよ”と言わせるんじゃなくて、“別にあんたのためじゃないんだから”と言わせる感じね」
「確かにそのセリフが出たらツンデレですね。ヒロインの性格を違う言葉で言い換えたってことですか?」
「ヒロインの性格を表すために直接性格を述べるんじゃなく、象徴的な一言で性格を連想させるといいわ。大事なのは連想させること。想像の余地をうまく使って、読者の想像力に補ってもらうのよ。単に言い換えるだけじゃなくて、どんな言い換えならより想像力を掻き立てて伝わるかを考えるのが表現なの」
 なんだかすごく大事なことを教わった気がする。
 よりエロい文章を書くためには、読者の想像力を掻き立てるような文章を書く……ってことか。
 俺はメッセージのやり取りを一時中断し、もう一度外に出た。
 さっきより人通りはあるが、構わない。再び近くの電柱にジャンプして取手を掴み、体を引っ張り上げる。
 掌が熱い。鉄の取手が真夏の日差しで加熱されているのだ。
 これを描写するには、単に“手のひらが熱い”と書くんじゃなくて……熱いと言わずに、熱いことを伝えるには……動きを考えるから……“鉄の取手からすぐに手を離して持ち替えた”とかはどうだろう?
 さっき登ったときとは違うドキドキがあった。高揚感。この高揚を、“高揚”以外の言葉で伝えるには……“俺は電柱の上から辺りを見回した。遠くの空に目が行った。真っ白な入道雲と濃い青空のコントラストに、俺は笑顔になった”とかどうだろう?
 伝えたいこの高揚は、何かがわかったときの晴れやかな気持ちだ。だけど文章には、こういう風には直接書かない方が伝わるのだ。
「そうか……これが表現ってことか……!」
 俺は周りの視線も跳ね除けながら、電柱の上からスマホで朝子さんにメッセージを送った。
「電柱に登らせることで表現のことを伝えたかったんですね! すごく勉強になりました!」
「いえ、いい年した成人男性を白昼電柱に登らせたら面白いかなと思っただけよ」
 俺はスマホの画面をしばらく見つめたあと、遠くの空に目をやった。
 だんだんこの人がどういう人なのか、わかってきた気がした。



「R18作品のエロさは、シチュエーション×キャラクター×表現で決まるわ」
 朝子さんはフラペチーノをゆっくりと吸い上げながら言った。
 何かお礼をしたくて、お茶を奢りますよとカフェに誘ったのだ。
「細かいことを言えばもっといろいろあるかもしれないけれど、まずはこの3つを強くすると考えるのがわかりやすいわよ」
 つまり朝子さんは、毎日オカズを報告させることでシチュエーションの大切さを、電柱に登らせることで表現の大切さを教えてくれていたのか。
「じゃあ次はキャラクターについて教えてくれるんですか?」
「そうね。そうしたいところだけれど……キャラクターにおいて何が大事なのか、少し自分で考えてみなさい」
 キャラクターか。登場人物ってことだけど、その人物についてよく考えろってことなのかな。
「うーん、そう言われても……キャラクターはキャラクターですよね?」
「じゃあヒントをあげる。具体例をまず考えて、その共通点や違いを抽象化しなさい」
 キャラクターの具体例。俺は最近聞いた音声作品たちを頭の中で思い起こす。
「具体例で言うと、JK、女上司、お姉さん、メスガキ……とかですね」
「もう少し細かく。どんなJKや女上司?」
「えっと……幼馴染JKとか、仕事中は厳しいけどプライベートでは甘えてくる女上司とか……」
 これらのキャラクターの共通点……違い……うーん、なんだろう。
「とりあえず、共通点は女性です」
「そうね。そこはあなたの場合前提になるでしょうね」
「違いは……年齢、とか?」
「年齢。まずひとつはそうね。他には?」
「えーと……見た目が違います」
「そうね。他には?」
「えー……あ! 属性が違うってことですか?」
「なるほど。まとめて言うならそういうことになるでしょうね」
 彼女はストローを無駄に上下させていた。指先でフラペチーノへの挿入感を味わっているのだろうか。
「キャラクターは属性だけからできていると思う?」
「それは……属性の組み合わせで、かなりの部分はカバーできると思いますけど」
「まあ確かにそんなにヒロインのキャラが深掘りされていなくても、記号的な属性で十分抜けるという人は大勢いると思うわ。これも想像の余地を利用していると言えるでしょうね」
「属性をたくさん組み合わせればキャラクターになるってことなんでしょうか?」
「早計よ。キャラクターは属性だけからできているわけではないわ。私が思うのは、物語があることね」
「物語、ですか?」
「そう。キャラクターの背後に、物語がある。例えばセリフひとつ考えるとしても、JKならこういうよね、ではなく、この子はこういう環境で育ってきてこういうことを経験してきているから、こういうふうに考える、主人公のことはこう思っている、だからこの状況ではこう言うよね、という風に考えるの」
 なるほど……確かにそれは属性の組み合わせだけでは出てこないセリフになりそうだ。
「キャラが立ってる作品というのは、やっぱり独自の魅力があるものなのよ。JKもので抜きたいなってだけならオカズが最新の作品に移り変わっていくけど、“このヒロインで抜きたいんだ”ってなると、その作品じゃないと摂取できない。キャラクターを深掘りできれば、人としての魅力が付け足されるからよ」
 その子の背景にある物語を考えるのが、キャラを深掘りするってことなのだろうか。
「他にキャラクターづくりで大切なことはなんだと思う?」
「えっと……」
 今まで触れてきた作品で特にキャラクターが印象的なものを思い起こす。
 例えば女子高生で暗殺者とか、地味なOLだけどドSとか……。
「……あ! もしかしてギャップですか?」
 彼女は少し沈黙して何かを思案するようだった。
「ギャップ。そうね。読者の興味を引くには悪くない着眼点よ。否定はしないし、あなたが自分で考えて一旦結論に至ったというのが大事だわ。ただ……」
 彼女はスマホを取り出すと、何か操作した。
「キャラ作りに関しては、私より得意な知り合いがいるから。その人に今の答えをぶつけてみなさい」
 俺のスマホの通知音が鳴った。朝子さんがどうぞ、と促したので、俺はスマホの画面を確認する。
「これは……連絡先、ですか?」
「そう。キャラの作り方ならみるきぃに教わるといいわ」
「みるきぃ?」
「ペンネームよ。とってもかわいいロリヒロインに理不尽なことをされるシチュエーションを書くのが得意な人なの。……いえ、理不尽だからかわいい、だったかしら……」
 とってもかわいいロリヒロインを書く“みるきぃ”さん……やっぱり本人もかわいい感じの人なのかな。
「紹介はしておくわ。とりあえず自分の今の考えをぶつけてみなさい」



「ずっと片思いさせてくれるような女、最高じゃないですか?」
 次の週の休みの日、俺は同じカフェで大柄な男性と対峙していた。
「えっと……どういうことですか?」
「つまりですね……どんな告白の仕方しても理不尽に言い返してくるのめっちゃかわいくないですか? 理不尽なことされたい。面倒くさくて予測がつかない女が好きなんですよね」
 作家と作品とは別なのだと、俺はよくよく思い知った。
 カフェに現れた“みるきぃ”さんは、大柄で身長の高い男性だった。Tシャツの袖から伸びる両腕は筋肉質でたくましい。ちなみに握力は62kgだそうだ。
「どうも、みるきぃ☆デスドラゴンです」
 しかも名前はデスドラゴンだった。
 とってもかわいいロリがこの人の手から生み出されているのだと思うと、なんだか俺は創作のことを何も知らなかったんだなという気持ちになっていた。
「俺はですね、魂でシコってるんですよ」
「はぁ……魂、ですか」
「魂です。魂《たま》シコですね」
 だ、だめだ……何を言っているのかわからない……。
「本質でシコるんですよ。その子らしさ、キャラの魅力に魅入られているんです」
「ええと正直、わかるようなわからないような、って感じです……」
「素直に言ってくれて助かります。俺にとってはしっくり来る言葉で説明してるつもりなんですけど、どうもわかりにくいらしいんですよね」
 まあ確かに、朝子さんとは違うわからなさのある人だ。しかし熱意はすごく伝わってくる。
「朝子さんに、キャラ作りで大事だと思うことをぶつけてみろって言われたんです。それで“ギャップのある属性の組み合わせ”が大事かなと思っているんですけど……」
「ふむふむ」
 彼が腕を組むと、腕の筋肉が盛り上がった。この人がタイピングしてる姿は想像つかないな……どっちかって言うとりんごとか握りつぶしてそうだし……。
「悪くない視点ですが、それはアイデアにオリジナリティを出したい時の視点かもしれませんね」
「オリジナリティ、ですか」
「そうです。意外性のあるものを組み合わせる、これはアイデアづくりの基本ですからね」
 そういえば朝子さんも初めて会ったときにそんなことを言っていた。俺の名前、馬フィッシュについてそんな視点で言及していた。
「キャラ作りという点では、ギャップを持たせただけだとギャップだけを消費されてしまう可能性があります。キャラが薄くなってしまうんですよ。そこは本質じゃないというわけですね」
 ギャップだけを消費される……か。
「例えば超優等生お嬢様だけど実はポンコツ……というキャラを考えると、まあギャップはありますよね。ところが読者はギャップを楽しんでしまって、それはキャラクターを楽しんでいるのとは少し違うんですね。ギャップの意外性だけを消費されてしまうというか。ギャップも目を引く意味ではいいんですが、それとは別にキャラの本質をちゃんと用意するのが重要です」
「本質か……難しい話になってきた感じがします」
「そうでもないですよ。そのキャラの本質はなんだろう? と考えるだけです。作品を書く前でも最中でも、しっかり本質を捉えて書くと、キャラの魅力の出る作品になります」
「そのキャラの本質というのは、どういうもののことなんでしょうか?」
 彼はジョッキで頼んだアイスコーヒーに口をつけた。
「その子らしさが一番現れるもののことです。そういう言動を見出すためにはどう考えるかといいますと、揺らぎをわざとつくるんですね」
 魂、本質、揺らぎ……独特の語彙を使う人だ。しかし大事なことを教わっている気がして、俺は必死に理解しようとする。
「揺らぎというのは、例えばキャラ設定に忠実な言動しかしないキャラにするのではなく、キャラ設定を離れそうなシチュに当てはめてみて、“この子ならどうする?”と考えてみることです。そのキャラを揺らがせるんですね。そうすると本質が見えてきます」
 この子ならどうする? という考え方は、確か朝子さんも言っていた。キャラクターの背景にある物語に想像を巡らせる、と朝子さんは言っていたが、それのことだろうか。
「例えばお兄ちゃんを馬鹿にするメスガキが、お兄ちゃんが本当に傷ついて落ち込んでいる時にどう反応するか。キャラ設定通りなら、そういうときもやっぱりお兄ちゃんを馬鹿にするかもしれません。でもその子が、何も言わないけどご飯をつくってくれるとか、“お兄ちゃんを泣かせていいのは私だけなのに!”と怒るとか」
「おお……なるほど」
「こういう子、良くないですか?」
「確かに、記号的なただのメスガキキャラより魅力が増した気がします」
 彼は微笑んだ。笑顔が爽やかな男だった。
「そういう反応をしたときに、最初のキャラ設定では言語化できていなかったけど、これだ! としっくりくる設定が出てくる時があります。それが本質です。自分で“これだ!”となる反応が出てくるまで何度も揺らぎを起こして、そのキャラの本質を探るんです」
 記号的なキャラ設定だけでは見えてこないそのキャラ独自の言動を、みるきぃさんは本質と呼んでいるのか。そしてそこが、キャラの魅力に繋がるんだ。
「大丈夫です。本質が見えたときは、必ず“これだ!”となります。自分の心の目に従えば大丈夫ですよ」
 自分の心の目に従って、そのキャラの本質を探る。
 これがキャラを掘り下げるってことなのか。
 考えたこともなかったけど、キャラを掘り下げるというのは、他人の人生を想像することなのかもしれないな。
「だいたいわかったと思うんですけど……自分に心の目があるか自信ないです」
「そうですね……多分見えるんですが、もしあまりにも見えないときは、自分の好きなものにたくさん向き合ってください。できれば深く。自分はこれが好きなんだ、をはっきりと自覚する経験を積むと、だんだんとキャラの本質も見えるようになりますよ。本質が見える目を養うんです。あ、このキャラのここめっちゃ好き! というのが見えるようになります。ちなみに俺は」
「理不尽なことしてくる女の子が好きなんですよね」
「今の、本質です」
 彼はにっこりと笑ってみせた。
 その後1時間ほど彼は好きな女性キャラの話を語ってくれた。彼の「好きだ!」という熱意のようなものが伝わってきて、この人は心の目がすごく澄んでいるんだなと思って、俺は熱心にそれを聞いていた。



「馬フィッシュさん、台本づくりの方はどうですか?」
 その後数日経って、俺はシコファイターさんと通話していた。
「いやあ、勉強になることばっかりです。俺、創作のこと何にも知らないんだなって思い知らされました。よくこの状態でつくりてぇとか言えたなってちょっと反省してます」
「反省することはないですよ。最初はみんな何も知らないんですから。そうやってもがきながら初めての作品をつくって、売れて、何かをつくることの虜になっていくんです」
「そういえばふと気になったんですけど……音声作品ってどのくらい売れるものなんですか?」
「作品によりますが……僕の場合は、このくらいですね」
 彼から伝えられた売上本数は、今の俺にはピンと来ないものだった。
「売上本数がそれってことは……単純に、値段×本数が利益ってことですか?」
「いえ、販売サイトにマージンを取られるので、実際は単価の半分くらいしか入ってこないです」
「半分!? そんなもんなんですか?」
「まあ作品の値段やサイトによって変わりますが……だいたい半分くらいですね」
「でも半分とは言っても、さっきの販売数だと……え!? シコファイターさん、めちゃくちゃ儲かってませんか?」
「はは……最近はそうでもないですよ。セールで割引して販売数が伸びてるだけの作品もありますからね」
「はー……そういうもんですか」
「でも一時は、会社やめて音声作品だけで食っていけたらな、って思ったこともありますよ。今となっては勢いで辞めなくてよかったですけどね」
「すごいですね……」
 有料販売する以上、創作にも商売の側面はどうしてもある。
 どうせなら売れるものがつくりたいよな。
 また別の難しさがあるんだろうけど。
「そういえば馬フィッシュさん、イラストレーターさんはもう決めましたか?」
「あ、はい。この人がいいなっていうのは一応……まだ連絡は全然してないんですけど」
「じゃあイラストレーターさんへの依頼メール、私のやつ真似していいですよ。押さえておくべきポイントを押さえておかないと、怪しいメールだと思われて返事が来ない可能性もあるので」
「そうなんですか? ぜひお願いします!」
 シコファイターさんから送られてきたメールは、以下の文だった。

 〇〇様
 はじめまして、同人音声作品のライターをしていますシコファイターと申します。
 この度当サークルから発売予定の音声作品のイラストをご依頼したいのですが、以下の条件でご検討いただけないでしょうか?
【納品物】
・カラーイラスト 1枚
【報酬】
・3万3千円(税込)~
 不足でしたらお見積りください。
【納期】
・希望納期 12月末
(お見積りください)
【使用用途】
・ダウンロードサイトで発売する音声作品の表紙
・宣伝に伴うSNS、ブログ、販売サイト等へのアップロード、トリミング
【資料】
・サンプルボイス
・キャライメージ画像
・台本(キャライメージの参考にお送りしますが、無理にお読みいただかなくても大丈夫です)
【作品情報】
・幼馴染とのデートで夏祭りの夜に神社の裏で浴衣セックスする音声
【キャラ設定】
・天真爛漫な性格で、主人公のことが大好き。普段は活発だが、エッチの時は甘えたがりになってしまう。
・20代半ばくらい。
・エッチなことに慣れている。楽しんでいる。
(この情報とイメージ画像をもとにキャラデザをお願いします)
【イラスト情報】
・イラストサイズ比 横長 縦×横=3×4
・ファイル形式 jpg
・薄暗い神社で立ちバックでセックスしている
・遠くに夏祭りの明るさがある
・全身でなくてもある程度アップで大丈夫です
・二人とも浴衣
・ヒロインの胸ははだけて乳首まで露出している
以上ご検討いただいた上で、可能そうでしたらスケジュールと金額の見積もりをお願いします。
どうぞよろしくお願いします。
シコファイター
サークルHP:~。

「へーイラストの相場ってこのくらいなんですね」
「カラーだと安くて3万円からのイメージですね。人によっては10万円と提示されたこともありますので、予算と依頼したさとの相談です」
「10万かあ。結構しますね」
「人気の方はスケジュールを抑えるだけでも大変です。ここは結構人によりますので要交渉です」
「なるほどなぁ。この資料のキャライメージ画像っていうのはなんですか?」
「それはですね、一次創作でキャラクターがまだこの世に出てない作品なので、キャラデザをイラストレーターさんにお願いすることになるじゃないですか。その参考に、ネットで検索して見つけたイラストや写真で自分のキャライメージに近いもののURLなんかを送るんです」
「なるほど。キャラデザの参考にイメージしているやつを送るんですね」
「そういうことです。言葉だけでもいいですが、画像があった方がイメージしやすいというのは実際に言ってたイラストレーターさんもいますね」
「そうなんですね。台本っていうのは先にできてないとダメなんですか? まだ何にもできてないんですが……」
「必ず必要というわけではないですよ。ただ、作品の設定やあらすじとキャライメージくらいは伝えておいた方がいいと思います。思ったのと全然違うものが納品されてしまうすれ違いは避けたいですからね」
「わかりました。参考になります! 真似して連絡してみますね」
「がんばってください!」



 あれからシコファイターさんのメールを参考に、イラストを担当して欲しい人にメールを送ってみた。
 以前読んだめちゃくちゃエロい漫画を描いていたエロ漫画家の方に、今回は依頼したいと思っている。
 台本はまったくできていないが、お姉さんが乳首責めをする感じは多分確定なのでそのくらいで依頼することにした。
 初めての依頼メールを送る緊張から、エンターキーを押す指先が震えた。
 そしてメールを送ってから1週間後、寝転んでスマホを見ていたら画面に通知が来た。
“馬フィッシュ様 はじめまして、ご依頼ありがとうございます”
 漫画家さんからの返事だ!
 俺はガバッと飛び起きてメールの文面を見た。

 馬フィッシュ様
 はじめまして、ご依頼ありがとうございます。やぎこです。
 ちょうどスケジュールが空いておりますので、ご依頼いただいた納期でお引き受けすることが可能です。
 料金も3万3千円(税込)で問題ありません。
 作品やキャラ設定、拝見しました。
 お姉さんの乳首責めいいですね!
 ぜひお引き受けしたいと思います。
 キャラデザ立ち絵提出→イラストラフ提出→線画、下塗りまでのイラスト提出→完成イラスト提出
 というステップでやらせていただく予定です。
 まだ台本の詳細が決まっていないとのことなので、細かいシチュエーションなど決まりましたらお伝えいただいて、その後から取り掛かるのが間違いないかと思っております。
 ただ後半になるほど大幅な修正は難しくなりますので、そのつもりでご指示いただけたらと思います!
 どうぞよろしくお願いいたします。
 やぎこ

 憧れのエロ漫画家、“やぎこ”さんに引き受けてもらえた事実に、俺は布団を蹴飛ばして喜んだ。すごい人と一緒にやることになっちゃったぞ。
 しかし落ち着くにつれ、徐々に緊張してきた。
 やぎこさんがどれだけすごいイラストを描いても、台本もあっての音声作品なのだ。俺の台本がイマイチだったら、トータルの評価は下がる。
 すごいイラストに助けられる部分は大いにあるが、イラストに頼ってばかりもいられない。むしろイラストを描く人と同じ作品をつくるメンバーとして、俺だってすごいものを出さないといけないのだ。
 頑張ろう。
 俺は本格的に台本づくりに取り掛かった。



 数日が経って、俺はかなり悩んでいた。
 台本づくりが思うように進まないのだ。
 というより、すごくゆっくりとしか進まないというか……。
 朝子さんやみるきぃさんに教わったことを元に、エロ妄想をする。よりエロいシチュ、キャラクターを掘り下げて、それがどうやったらよりエロく伝わるかの表現を考える。
 時には他の作品の台本を眺めながら、よりエロいものを……そしてできれば売れるものをと頑張っているのだが、そもそも文章を書くのが初めてというのもあり、なかなか進まない。
 あまりに捗らないので、「作業 進まない」でネット検索してみた。
 すると“作業配信”というものがあることを知った。
 クリエイターがやっていることが多いらしく、配信サイトで画面を共有したり、音声だけで通話などしながら制作することらしい。
 ちょうど使っているSNSに音声通話配信の機能が最近追加されていた。
 試しに俺は作業配信というものをやってみようと思い立ったのだった。
「えー配信タイトルは……台本制作、でいいか」
 部屋をつくるイメージで、そこに同じSNSを使っている人なら好きに聞きに来れて、なんなら音声で通話もできるという機能だ。
「よし、やるか」
 配信していると思うと、なんとなく緊張した。誰かに見られていたらもっと緊張するだろう。それでやらなきゃ感が出て捗るということなんだろうな。
 しばらくの間は誰もいないカフェで作業しているような、良い緊張感を持って台本づくりに集中できた。
 少ししてスマホの画面を見ると、見覚えのあるアイコンが表示されていた。
「——え、やぎこさん!?」
 俺がイラストを依頼したエロ漫画家、やぎこさんのアイコンだった。手を振る絵文字が表示され、スピーカーのリクエストが来る。
 俺は震える手でスマホの画面をタッチすると、やぎこさんのアイコンが点滅した。
「……こんにちはー、はじめまして~」
「は、はじめまして! お世話になってます!」
「こちらこそお世話になってます~。やぎこです」
 やぎこさんはおっとりした声の女性だった。朝子さんといい、案外エロ創作をやっている女性はいるんだな……と驚く。
「馬フィッシュです。依頼引き受けてくださってありがとうございます!」
「いえいえ~。ちょうどスケジュールも空いてましたし、最近ちょくちょく音声作品のイラスト依頼来るんですよ~」
「そうなんですか。マジでやぎこさんの漫画好きなので、めちゃくちゃうれしいです」
「ありがとうございます~! 馬フィッシュさんは元々音声作品をつくっていらしたんですか?」
「いえ、今回が初めてなんです。音声作品にハマったのも最近なんですけど、自分でもつくってみたいなって思って」
「いいですね~。あ、私もこれからイラストの作業するので、よかったら作業通話参加させてもらえませんか?」
「もちろんです! 緊張します」
「あはは、緊張することないですよ。毎日してる作業を横で机並べてやるようなもんですから」
 毎日する作業、か。この人にとっては創作をするのが当然なのだ。これがクリエイターなんだな、と俺はなんとなく背筋が伸びる思いがする。
「馬フィッシュさんは~どういうシチュが好きなんですか~?」
「あー乳首責めが主に好きなんですけど……細かいやつだと、エッチなことが始まったばっかりのときに、キスがだんだんねっとりしてきた頃にさりげなく女の子が乳首責めしてくるのとか、すごく興奮します」
 初対面の女性と普通に性癖の話してるの、インターネットってすごいなって本当思う。
「あ~わかります~! 乳首責めもエロいですよね~。あとやっぱキス!」
「キス、いいですよね」
「最近結局キスが一番エロいような気がするんですよね~。キスだけのエロ漫画とか描きたいな~」
「それは尖ってますね」
「でもキス描くのって大変なんですよね~。アングルとか飽きさせないように工夫しなきゃだし」
「あーそうなんですね。絵は全然わかんないんですけど」
「いや~これは創作共通だと思いますけど、創作って基本めんどくさい作業ばっかりじゃないですか~」
 プロの漫画家でもめんどくさいと思うものなのか。意外だった。
「漫画って絵描くのはそもそも大変だし、セリフも考えなきゃだし、構図も工夫しなきゃだし、コマ割りも配慮しないとだし……考えることがいっぱいだし、手を動かす量もすごいし~」
「確かに漫画は作業多くて大変そうですね。台本は文章書くだけですけど、それでも考えることいっぱいで大変だなって思いますし」
「ね~めんどくさいですよね~。でも~わたしめっちゃ断面図好きなんですよ。もう気がついたら全ページに描きそうになるくらい」
「え? あ、断面図ですか」
 確かエロ漫画の挿入シーンで、女性器に男性器が入っている様子が断面で描かれる図のことだ。
「だから断面図うまくなりました。やっぱたくさん描いてるから~」
「たくさん描いてるとうまくなる、はやっぱり真理なんですね」
「そうなんですけど~、特に好きなやつならたくさん描いてても苦じゃないというか、描いてて楽しいじゃないですか。創作のめんどくさい部分を、好きって気持ちで乗り越えられるっていうか~」
「ああ……なるほど」
「自分が好きなやつ描くのが一番ですよ~」
 好きって気持ちで乗り越えられる。確かにそれはあるかもしれない。
 もし音声作品にハマっていなかったらこんなに大変なことはやっていなかっただろうと自分でも思う。
「あっ、そういえば聞きたかったんですけど~、タイトルロゴってどうするご予定ですか?」
「タイトルロゴ?……あっ!」
「まだあんまり決まってない感じですか~?」
 完全に失念していた。
 音声作品のタイトルをイラストに文字で入れてもらうのを、誰にやってもらうのか。
「すいません、正直全然考えてなかったです」
「ああいえ、全然。ただ私が一緒にやることになってたら確認しないとだな~と思って」
「ロゴってお願いすれば一緒にやっていただけるものなんでしょうか?」
「あ~だいたいデザイナーさんに頼むと思うんですけど、私ロゴデザインもやってるのでやりますよ~料金は別でいただきますけど」
「本当ですか! 料金はもう、全然大丈夫なのでぜひお願いします!」
 なんてラッキーなんだ。やぎこさんがデザインもできる人でよかった。
「料金はいくらくらいになりますか?」
「そうですね~税込1万千円でどうですか? 2、3案くらい出します~」
「ありがとうございます! それで大丈夫です」
「了解です~イラスト仕上がってからそれに合わせてつくる感じで大丈夫ですか?」
「はい! もうその辺はお任せするしかないので」
「は~いわかりました」
 音声作品って思ったよりやることたくさんあるんだな。ただ台本を書くだけじゃなくて、作品全体のプロデューサーをやっている気分だ。実際そうなんだろう。
 その後もたまに雑談をしたりしながら、俺は台本づくりに励んだのだった。



 次の日の夜、俺はシコファイターさんと通話していた。
「どうですか? 台本づくりの方は」
「いやーなかなか進まないですね。よりエロいもので、できれば売れそうなものをって考えてるんですけど……」
「ふーむ。馬フィッシュさんなら大丈夫だと思うんですけど、つくりたいのか売りたいのか、っていうのは結構大事ですよ。どのくらい売れて欲しいとかってあるんですか?」
「まあ初めてだし売れなくても仕方ないかとは思いますけど……」
「その言い方だと、売れてほしさもちょっとありますよね?」
「ま、まあそりゃあ……」
「いや、別に悪いことじゃないんですよ。ただ、気をつけることがちょっと変わってくるんで」
 気を付けることか。なんだろう。
「売りたいならトレンド読んで需要のあるものを、とか考えるんですけど、馬フィッシュさんの場合は作品づくり自体が初めてじゃないですか。初めて何かをつくる人がクオリティを保つ方法って、好きなものを好きにつくることなんですよ」
「好きにつくっちゃっていいものなんですか?」
「いいんです。同人ってわざわざ時間も手間もお金もかけて個人で作品つくってるわけだから、お金なんて度外視で好きなものをとにかくつくりたい! って人たちと競合して売らないといけないんです。だから好きでもないのに流行りだから、で作品をつくると、好きでつくっている人たちにクオリティで勝てないんですよね」
「はーなるほど」
「だから売るという意味でも、結局好きなものをつくるのがおすすめです」
「そうなんですね。俺ちょっと欲が出ちゃってたかもしれません」
「はは、好きなものをつくりたい欲に切り替えていきましょう」
「そうですね」
 やぎこさんも結局好きなものをつくるのが一番と言っていた。
 やはりクリエイターはみんなそういう結論に至るのだろうか。
 中途半端に「売れそうなものを」と考えていたから台本づくりが捗らなかったのかもしれない。
 売れそうなものとか一切考えず、思い切って好きなものに全振りしようと俺は改めて思い直した。
「そういえば編集をどうするかの問題もありますね」
「編集ですか?」
「声優さんからもらった音声データを、ノイズ処理したり、ミステイクをカットしたり、空白を挟んだり、効果音を入れたり……っていう作業のことです。だいたいは自分でしますけど……ミステイクのカットくらいならやったことなくてもすぐできると思いますよ」
「そうなんですか? フリーソフトとかでもいけるんだったら、やってみようかな」
「ノイズ処理も宅録なら声優さんがしてくれる場合もありますが……スタジオ録音ならサウンドエンジニアさんにそこまで頼むこともできますよ」
 スタジオ録音かぁ……あ!
「シ、シコファイターさん……」
「どうしました?」
「声優さんのこと、考えてませんでした」
「あら、そうでしたか」
「声優さんって台本書く前から決まってるものですか?」
「うーん、作品によりますね。初めからあの人のあの演技でってイメージして書く時と、後からイメージに合う人を探す時とがあります」
「なるほど……」
「台本づくりが難航しているなら、先に声優さんのサンプルボイスをたくさん聴いてビビッとくる声を探すのもいいかもしれませんね。この声のお姉さんにこういうことされたいとか、インスピレーションが湧く可能性ありますよ」
「確かに。でもそもそも声優さんってどうやって探してますか?」
「買った音声作品に出てる人だったり、SNSで検索したり、あとはSNSで募集してみたりとかですね。まずは他の作品に出てる人の方が演技が想像しやすくていいかもしれません」
「なるほど。わかりました。考えてみます!」
「がんばってください!」



 その後俺は今までに買った音声作品のリストを元に、声優さんのホームページを見まくっていた。
 ホームページには声優さんが「お姉さん」「ロリ」などいろんなキャラをイメージした短い演技のサンプルボイスが置いてある。
 しかしどうも決まらない。
 今のところ「エッチなお姉さん」くらいしか決まってないというのもあり、例えば高めの声の明るいお姉さんもいいなと思うし、低い声の妖艶なお姉さんもいいなと思うのだ。
 これは……どうしたものか。
 困り切った俺は、とりあえずシコファイターさんに連絡した。
「うーん、なかなか声優さんが決まらない、ですか……」
「そうなんです。台本ができてないからっていうのはあると思うんですけど……」
「そこは大きそうですね。あとはまあ、なんだろうな……そうだ、実際に聞いてみます?」
「実際に、ですか?」
「今度次回作のスタジオ録音があるんです。声優さんがスタジオに来て、そこに立ち会って指示を出したりできるんですよ」
「へー! いいんですか? 行ってみたいです!」
 実際に声優さんの演技を見れたら、確かに声優さん選びのヒントになるかもしれない。
 俺はシコファイターさんに日程を聞くと、その日のスケジュールを空けたのだった。



 約束の日、俺は都内の録音スタジオに来ていた。
「すみません! 遅れました!」
 電車のトラブルで30分ほど遅れてしまった俺は、謝りながらスタジオに入る。
「あ、馬フィッシュさん。お疲れ様です」
 シコファイターさんが出迎えてくれた。
 部屋の中はかなりの暑さだった。エアコンはつけていないのだろうか?
「あ、今日の立ち会いの方ですか? 初めまして、レコーディングエンジニアの米田です」
 黒いTシャツに黒いズボン、シルバーアクセサリーをたくさんつけた金髪の男性が穏やかな声で挨拶してくれた。
「初めまして、よろしくお願いします」
「いや~暑い中ご苦労様です。エアコン切っててすみませんね。マイクの性能が良すぎて外のエアコンの音まで拾っちゃうんです」
「そうなんですか!? すごいな」
「このスタジオにあるマイクはKU100と言って、業界でも有名な最高級のマイクなんですよ」
「へえ。最高級っていうといくらくらいなんですか?」
「だいたい100万円くらいですね」
「100万円!?」
 マイクってそんなにするのか……いや、これは高い方なんだろうけど。
「お、俺もう黙ってた方がいいですか……?」
「まだ録音は始まってないので大丈夫ですよ」
 米田さんは爽やかに笑った。なんだかいい人そうだな。眉毛ないけど……。
「外のバイクの音とかも拾っちゃうので、そういうときは録《と》り直すんです」
「性能が良すぎるってのも大変なんですね」
「その分良い音で録れますから」
「あ、声優さん準備できたみたいです」
 シコファイターさんがパソコンのモニターを見て言った。
「声優さんってどこにいるんですか?」
「隣のレコーディングブースです。あー小川さん、準備の方よろしいでしょうか?」
 米田さんがマイクに向かって話しかけていた。「OKでーす」と女性の声がスピーカーからした。小川さんというのが声優さんの名前だろう。
「それじゃあ小川さん、本日は改めてよろしくお願いします。キャラ合わせとマイクチェックの方やっていきたいと思いますので、まず台本の1ページ目までお願いします」
「はーいよろしくお願いします」
 米田さんの合図で録音が始まり、声優さんが台本を読み上げ始めた。
 その瞬間、背筋をゾクゾクとした何かが駆け上がった。
 ——この声だ。
 妖艶なだけではなく、男が反射的に言うことをきいてしまいそうなカリスマ性すら持った声。
 気づけば俺は彼女の芝居に引き込まれていた。
「——はい、ありがとうございます。確認しますので少々お待ちください」
 米田さんの合図で、ハッと我に返る。それほど彼女の演技に引き込まれてしまっていた。
「シコファイターさん、演技の感じどうですか?」
「バッチリですね。この感じでいきましょう」
 米田さんがシコファイターさんと話し合っている。実際に少し演技してみてキャラの感じを確認するのがキャラ合わせということなのだろう。
「わかりました。小川さん、すごくいい感じです。この感じのまま本番もお願いします」
「ありがとうございます。了解です!」
「マイクの位置調整だけしますので少々お待ちください」
 そう言って米田さんが席を外した。
 米田さんが戻ってくると、ほどなくして本番の録音が始まった。
 体感的にはあっという間だった。そのくらい彼女の演技を夢中で聞き入ってしまったのだ。
 時計を見ると1時間ほどが経っていた。シコファイターさんがマイク越しにコメントしている。いくつかのセリフだけ録り直すらしい。
 俺は声優さんの演技の衝撃に固まっていた。やっと息ができるようになった感じだ。
 決めた。
 この人に演じてもらいたい。
「それでは本番終了でーす、お疲れ様でしたー」
 米田さんの合図があったあと、録音室の扉が開いた。
「お疲れ様でーす!」
 元気よく挨拶しながら出てきたのは、ビキニを着た女性だった。
「録音って水着でするものなんですか!?」
「いえ、スタジオで水着になるのは業界でもこの人くらいです」
 米田さんが苦笑いしていた。
「だって防音室の中暑いじゃないですか! 水着なら衣擦れもしないし!」
 白い肌に水色のビキニが眩しかった。長い茶髪を翻すと、彼女は俺の方を見て目を丸くした。
「え、フィッシュくん!?」
「ん?……あ! 中川さん!?」
 彼女の顔には見覚えがあった。
 俺の記憶が正しければ、彼女は高校の同級生の中川さんだった。
「あれ、お二人はお知り合いなんですか?」
 シコファイターさんに聞かれて、俺たちは頷いた。
「高校の同級生です。まさか声優をやっているとは……」
「フィッシュくんこそなんでスタジオにいるの?」
 フィッシュというのは高校時代のニックネームだった。
「実は音声作品をつくろうと思ってて、今いろいろ勉強中でさ」
「へーいいじゃん! 同人サークルデビューだね!」
 彼女の人懐っこそうな明るい笑顔は高校時代のままだった。さっきまであんなに妖艶なお姉さん演技をしていた同じ人物とは思えない。
「いや~すごい偶然ですね~」
 米田さんがエアコンのスイッチを入れながら言った。
「あ、米田さん今日はありがとうございました」
「いえいえ、いつもご利用いただきありがとうございます」
 シコファイターさんが米田さんと挨拶していた。収録も終わったし、そろそろ帰るということだろうか。
「シコファイターさん、すごく参考になりました。ありがとうございます」
「それならよかったです」
 シコファイターさんは少し米田さんと話していくらしい。中川さんは着替えて私服になってから出てきた。
 シコファイターさんと米田さんに別れの挨拶をして外に出る。
「あのさ、このあと時間ある? よければ久しぶりにちょっと話さない?」
 俺は思い切って中川さんをお茶に誘った。久しぶりの再会ということもあったし、何より声優としてオファーしたいと思ったからだ。
「いいよ! 話そ話そ!」
 彼女は屈託のない笑みで答えてくれた。
 二人でカフェに入ると、高校を出てからの話や近況の話、そして音声作品の話へと会話が移っていく。
「ふーん。じゃあ創作自体初めてなんだ」
「そうなんだよね。で、今声優さんを探してるんだけど……今日の演技すごかった。よかったら俺の作品に出てくれない?」
「えーありがと! いいよ。結構音声作品には出てるよあたし」
 彼女の声優としての名義は小川むつきというらしい。確かにその名前には見覚えがあった。サンプルボイスも聞いたはずだが、今日の演技の声は聞いたことがなかった。
「あーホームページのやつ結構古いんだよね。あたしも日々進化してるってワケ!」
 彼女は得意げに言ってウインクした。このテンションとノリの女の子からあの声が出てたのはやはり信じられないし、高校時代の声からも想像がつかなかった。
「サンプルボイス聞いてもあたしってわかんなかった? そりゃ地声じゃないもん」
「声自体は高校の頃から別に変わってないんだな」
「ちょっと違うかな。いろんな声を出せるようになったって感じ」
「なるほどなぁ。ちなみに依頼するとしたら、料金とかってどんな感じなの?」
「R18なら、ノーマルマイクで1文字4円。バイノーラルマイクで1文字5円でやってるよ」
「バイノーラルマイク?」
「あれ、バイノーラル知らないの?」
「音声作品の説明で見たことあるけど、あんまりちゃんと知らないんだよね」
「バイノーラル録音って言って、ダミーヘッドマイクっていう人の頭の形をした特殊なマイクを使うの。前後左右なんかの位置情報も込みで録音できるんだ。右から左に動いたり、正面から近づいてきたり……上手く使うと臨場感がすごいよ」
「へーそういうことだったんだ」
「今つくってる台本はバイノーラルの予定なの?」
「いや……まだ決まってないんだ。台本自体もできてなくて」
「そうなんだ。例えば20分くらいの音声で4千文字くらいだから、ノーマルマイクなら1万6千円、バイノーラルなら2万円くらいになるよ。スタジオ録音の場合はスタジオ代も1万円以上はかかるかな。宅録だとかかんないけど。まあスケジュールはしばらく空いてるから、いつでも連絡してきて!」
 彼女に声優名義での名刺を渡された。メールアドレスやSNSのアカウント名が書いてある。
 カフェで彼女と別れると、俺は決意を新たにした。
 イラストも、声も揃った。
 あとは俺の台本だけだ。



 好きなものをつくる。
 何より、俺が抜ける作品をつくる。
 これだと思う声を聞いたことによって、俺の頭の中ではキャラ像がかなりはっきり浮かんでいた。
 このキャラならこういうことを言うだろう、こんなことを言われたい……そんな妄想を膨らませながら、キャラを活かせそうなシチュエーションを考える。
 シチュエーション。キャラクター。表現は、とにかく俺に響くセリフを考える。
 そうやって書いたセリフを、頭の中で小川むつきの声で再生する。
 あのお姉さんボイスに……責められてぇ!
 今更ながら、俺は思ったよりMなことに音声作品によって気付かされていたのだった。
 その夜、俺は夢中になって台本を書いた。
「……で、できた」
 俺はパソコンの前からふらふらと立ち上がると、窓の前に立った。
 カーテンをめくる。途端に朝日が部屋の中に射し込んできて、俺は目を細めた。
 台本が、完成した。
 いつもより朝日が眩しく見えた。
 俺の初めての音声作品は……「普段は厳しい女上司が家に帰ると大好きな彼氏(俺)を甘やかし乳首責め手コキで可愛がって今日も鳴かせてくるボイス」で行く。



 翌日、完成した原稿をシコファイターさんに見てもらった。
「ど、どうでしょうか」
「……いいじゃないですか! エロいですよ!」
「ありがとうございます!」
 俺は思わずガッツポーズをしていた。
「初めてでこれだけ書けたら十分ですよ。すごい成長ですね」
「いやあ、シコファイターさんやいろんな人のおかげです。本当にありがとうございます!」
「いえ、いいんですよ。僕も若い才能が出てくるのはうれしいですから」
 俺は喜びを噛み締めていた。
 ついに俺の音声作品づくりが一歩先に進むんだ。
「そういえばト書きがないですけど、あえてですか?」
「ト書き? ってなんですか?」
「ああ、単純に知らなかっただけでしたか。ト書きというのは、台本に横の列や括弧で書く演技指示などの文章のことです。キャラの状況を説明したり、間を5秒空けるとかの指示を出したり、あとバイノーラルならマイクの位置や向きを指定したりもしますね。声優さんに向けての注意書きって感じです」
「へーそういうのがあるんですか。何も考えてなかったです……」
「いえ、馬フィッシュさんのこの台本だと……収録はバイノーラルを予定していますか?」
「そこはちょっと悩んでます。バイノーラルだと動きを表現できるんですよね?」
「そうです。バイノーラルを活かすには、ヒロインに動きがあることでリアルになる作品とか、複数ヒロインで両耳交互や同時に……なんてのがありますね」
「なるほど……台本は何か変わるんでしょうか?」
「ト書きが少し大変になります。右、左、くらいの指示の場合もありますし、床に時計の文字盤みたいに番号を振って“1番から3番に移動しながら”なんて指示もあります。するとこっちに近づいてきた感じとかが出るんですね」
「はーそんなことまでできるんですね」
「馬フィッシュさんは今回動きとか意識して書いてないでしょうし、バイノーラルじゃなくてもいいかもしれませんね」
「そんな感じがしてきました。今回は通常録音でもいいかなって思います」
「そうですね。あとはSEをどうするかですね。シコシコの水音や、ドアが閉まる音、衣擦れの音のような効果音です」
「効果音! 確かに入ってる音声作品ありますよね。自分では全然気にしてなかったです」
「今回の馬フィッシュさんの作品は……手コキの水音くらいだと思います。効果音は編集でセリフの後ろに流すんですが、上手く入ると臨場感が出ますね。ただ音量バランスとか音質によっては没入感を損なうと感じる人もいるので難しいです。最終的にはあった方がエロいと思うかどうか、編集の手間をどう思うか、で決めていいと思いますよ」
「なるほど……勉強になります!」
 とりあえずバイノーラルじゃなくても良さそうだから、ト書きにそんなに追加することはなさそうだ。
 SEは少し迷ったが、水音の音量バランスで気が散った作品があったことも思い出し、今回はなしにすることにした。
 台本が完成したら……次は声優さんへの依頼だ。あとイラストレーターさんにも作品の細かいシチュエーションが決まったことを伝えよう。
 台本が完成した高揚感、初めて何かを自分の手でつくり上げた達成感に、俺は口笛を吹きながらメールを書き始めたのだった。



 翌日、台本が完成したのがうれしくて、俺は何度も自分の台本を読み返していた。
 読み返すうちにより良いセリフが思いついたりして、細かいところを変えたりした。
 朝子さん曰く、この作業を推敲と言うらしい。時間をかければもっと良い表現が思いつくかもしれないと考えると、やめどきがわからないのが難しいところだ。
 推敲を繰り返すうちに、俺の胸中にはある不安が湧き上がっていた。
 俺の台本と似たような作品で、より優れた作品が世の中にはあるんじゃないか……そもそもつくる意味あるのか? という不安だ。
 自分の作品は、確かにエロいと思う。何せ自分の好きなものが詰まっているのだ。
 しかし上位互換のような作品がすでに世の中にはあるんじゃないか……と考えてしまうと、初心者の俺がわざわざ作品を世に出す意味とは……と少し考え込んでしまった。
「それは創作にはつきものの悩みね」
 埒《らち》が明かないので、朝子さんに相談してみた。
「最終的には、似たようなものが他にあっても、つくりたいと思ってしまったからつくる……そういう落とし所で私はやっているわ」
「つくりたいと思ってしまったから、つくる……」
「そう。それに似たような作品同士でも、単純に優劣がつくものではないのよ。例えばJKに足コキされる作品と、高校1年生の後輩JKに足コキされる作品があったとするでしょう」
「後輩かどうか、ですか?」
「違いはそこね。この場合、後輩性癖がある人は後者の方が刺さるけれど、先輩にリードされたいと思ってる人には前者の方がいいわよね。先輩後輩の違いは大きなものだけれど、もっと細かい違いでも、刺さる人もいれば刺さらない人もいる。シチュエーションが細かければいいというものでもないし、大雑把でも光る物はあるかもしれない。自分の作品をより良くするために他の作品を見て学ぶのは大事よ。でも比べてしまって自分が身動き取れなくなるのは避けたいわね」
「うーんなるほど……」
「ま、ありきたりなやつをやる時は“俺によるカバーは世界初だぜ”くらいに思っておきなさい。つくりたいからつくる、これを忘れると楽しい部分が減っちゃうわよ」
 つくりたいからつくった……確かにそうだ。
 俺はとにかくこのまま一旦発売してみよう、作品として世の中に出してみようと気持ちを新たにした。

 翌日、俺の家に警察が来た。



「確認しますが、あの日スタジオに居たのは間違いありませんね?」
「はい……」
 突然来た警察官の話では、あの日スタジオ録音に行った人に話を聞いているということだった。
 スタジオにあった高級マイク、KU100が盗まれたらしいのだ。
 俺たちがスタジオ録音の立ち会いに行った翌日、米田さんが気づいたらしい。
 つまり盗まれたのは、俺たちがスタジオ録音に行ったあと。
 あの日スタジオに来ていたのは米田さんとシコファイターさん、小川むつき、俺の4人だけだそうだ。だからこの4人に順番に話を聞いているということらしい。
「滞在時間はどのくらいでしたか?」
「声優さんの録音が1時間くらいだったので、1時間くらいだと思います」
「なるほど。そのあとはどこで何をしていましたか?」
「声優さんとカフェに行って少し話したあと、家に帰ってパソコンで作業していました」
 警察に当日のことを話すが、正直まったく心当たりがない。怪しい人物も見ていないし、マイクを盗むような人がこの4人の中に居るとも思えないのだ。
「ご協力ありがとうございました。また何か進展しましたら連絡します」
 警察はしばらく話を聞いたあと、帰っていった。
 100万円もする高級マイクを盗まれた米田さんの被害は大きい。それに俺とむつきにとっても、スタジオ録音をしようと考えていたのができなくなってしまった。
「うーん……他のスタジオを使うか、宅録に切り替えるかだよね」
 むつきに電話すると、やはり警察に話を聞かれたとのことだった。
「いつ頃発売したいとかってもう決まってたの?」
「いや、特には。でもマイクが帰ってくるまで待つのは現実的じゃないし、他のスタジオを使うか宅録にするか……かな、やっぱ」
「うちにあるマイクだとさすがにKU100よりは音質が落ちるけど……そうも言ってられないよね。一応使ったことある他のスタジオもリストアップしとくね」
「助かるよ。決めたらまた連絡する」
 通話を切ると、画面にメッセージが来ていた。
“今晩うちで宅飲みしませんか?”
 シコファイターさんからだった。彼もこの事件について話したいのかもしれない。俺も話したい気分だったので、今晩彼の家に行くことにした。



「お疲れ様ですーどうぞどうぞ」
「お邪魔します」
 一人暮らしをする彼のアパートには、何度か遊びに行ったことがあった。
 部屋に上がると、二人で酒を飲みながら話し始める。
「いやあ、まさか身近に警察沙汰が起きるなんてって感じですよね」
「そうですね……」
 シコファイターさんはあのスタジオにはよくお世話になっていたらしい。米田さんの気持ちを考えると言葉が出ないのだろう。
「馬フィッシュさん、制作の進捗はどんな感じですか?」
「やっぱり録音で一旦止まってますね。あのスタジオで録音しようと思ってたんで」
「そうですか。馬フィッシュさんにも迷惑かけちゃってますね」
「そうですねー。犯人が何目的で盗んだのかわかりませんが……」
 なにせ100万円もする高級マイクだ。単純に金目的かもしれないし、もしかしたらマイク自体が欲しかった可能性もある。
「ところで馬フィッシュさん、最近いいものを手に入れたんですよ。ちょっと見てもらえませんか?」
「いいものですか? なんだろう」
 シコファイターさんは立ち上がると、隣の部屋のふすまを開けた。
 そこにあったのは、人の上半身を模した模型のようなもの。
 ——ダミーヘッドマイクだった。
「——え? シコファイターさん、これって」
「KU100です」
「……か、買ったんですか? いやー思い切りましたね!」
 まさに話に出ていた、盗まれたマイクと同じもの。
 手のひらに汗が噴き出したのがわかった。視線がマイクとシコファイターさんを交互に行き来する。
「……馬フィッシュさん。過去の栄光が忘れられなかったことはありますか?」
「え? いや、あんまり栄光ってほどのことは人生なかったので……」
「そうですか。僕はあります。音声作品をつくり始めた頃は、出す作品出す作品全部がすごくよく売れていました。ところが最近は、なかなか思うように売れなくなってしまった。何が悪いのか、どうすれば売れるのか、何度も考えて作品を出し続けましたが……やっぱり売れなかった」
「そ、それで音質を上げようとマイクを買ったんですか?」
「いえ、馬フィッシュさん。売れてないのにそんなお金はありません」
「……そんな」
 俺が認めたくなかった言葉を、彼自身が口にした。
「マイクを盗んだのは僕です。馬フィッシュさん」
「……どうして、なんですか?」
 彼はマイクの方を向いていた。その表情はこちらからは見えなかった。
「馬フィッシュさん。音声作品業界も、君みたいな若い才能がどんどん出てきてます。このままでは簡単に追い抜かれてしまう……そんな焦りも浮かびましてね。KU100という力があれば、作品の質が上がってまた売れるようになるかもしれないんです」
「シコファイターさん……」
 彼の売上がすごかったというのは確かに聞いていた。
 それでも、売りたいのかつくりたいのか、と聞いてきたのはシコファイターさんじゃないか。
「……作品の質っていうのは、音質なんですか?」
 俺は言葉を絞り出していた。
「……」
「音質が良ければエロいのかよ!? 違うだろ! シコファイターさんにしか書けないエロいシチュがあったはずだ! 売るためじゃなく、つくりたいからつくるのが同人だって教えてくれたじゃないですか」
「馬フィッシュさん。僕だって最初はそうでした。でも一度バカ売れしたら、その味を忘れられなくなってしまった。好きなものをつくろうと思っていたのに、どうしても売れたくて、だんだん自分が好きなものもわからなくなっていってしまった。売れてしまったら、君もそうなるかもしれないんです。馬フィッシュさん、せめて君にはそうはならないで欲しい」
 どうしていいかわからず、俺はただ拳を握り締めていた。
「……どうして俺に盗んだことを打ち明けたんですか? 高級マイクという力を使えばどうにかなる、それが嘘だって自分でもわかってたんじゃないですか?」
「……そうだね。こんなことをしても仕方ないと、どこかでわかっていた」
 彼はKU100の頭を撫でると、独り言のように呟いた。
「この焦りやどうしようもない気持ちを誰かに聞いてもらって……もう一度頑張れって言って欲しかったのかもしれない」
「……シコファイターさんならそうやって言ってもらう音声作品をつくるって手もあったんじゃないですか?」
「はは、そうだね。そうすればよかったな」
 彼は静かに笑った。
「お姉ちゃんに頑張れって言ってもらえる音声、次はつくりましょうよ」
「そうするよ。発売したらよかったら買ってくれるとうれしいな」
「もちろん買います。勉強させてください。俺も音声作品づくり、続けますから」
 何かを諦めたかのような彼の目が、忘れられない光景として俺の心に残り続けた。



 その後シコファイターさんは警察に自首した。
 いざ盗んでみたら、こんなことをしても意味がないという後悔が強かったのだという。
 身近な人、それもクリエイターとして尊敬していた人がこんなことになってしまったのはショックだったが、一応事件は解決した。
 KU100は無事スタジオに返却され、俺とむつきはスタジオ録音に向かうことにした。
「米田さん、今日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
 米田さんは相変わらず穏やかな表情だったが、どこか悲しそうな目をしていた。
「……シコファイターさんの件、ショックでしたね」
「そうですね……」
 シコファイターさんは何度もこのスタジオを利用していたようだ。常連のクリエイターがこんなことになってしまったのは、米田さんにとってもショックだったらしい。
「最近は同人音声もかなり間口が広くなって、参入者が増えてます。スタジオ利用されるサークルさんで、かなり売れてるサークルさんとかも来ますけど、やっぱり何がどうして売れるかさっぱりわからないっていうのは聞きますね」
「そういうものですか」
「ですです。リスナーさんにとってもバイノーラルマイクといえばKU100っていうぐらいの認識で広まってる節はありますし、とにかく売れるにはまずKU100、っていうのもわからなくはないんですよ」
 確かに音声作品を買っていても、タイトルやキャプションに「KU100」の文字がわざわざ書いてある作品は結構ある。
 音質が良いことの目印みたいに機能している面はあるだろう。
「結局僕たちエンジニアは、どんなサークルさんが来ても最高の音で撮ろうとしますから。マイクで音質が変わるのは確かにありますが、どのサークルさんでもできる限り最高の音にするので、売れるかどうかは結局作品の中身次第なのかなって個人的には思います」
 音声作品を買っていると、例えば10年近く前に発売された作品を目にすることもある。そういう作品はやはり最近の作品に比べて音質は悪いが、シチュエーションや言葉責めの表現が良くて全然抜けたりするものなのだ。
 米田さんの言う通り、どの作品もできる限りの音質でやっている。マイクが良ければ売れるだろうというのが悲しい勘違いであることは、きっとシコファイターさんも薄々わかっていたとは思う。
「お疲れ様でーす! 今日はよろしくお願いします!」
 スタジオにむつきがやってきた。相変わらず元気だ。
「お疲れ様。今日はよろしくな」
「むつきさん、お疲れ様です。よろしくお願いします」
 彼女はいそいそとその場で服を脱ぎ始めた。
「何やってんの!?」
「中に水着着てるから大丈夫だよ!」
「この人いつもこうなので……」
 米田さんは目線を逸らしていた。
「それじゃあレコーディングブース入りますね!」
「はい、お願いします」
 一度録音が始まってしまえば、もうそこからはむつきの独壇場だった。
 俺の想像の上を行く演技で、台本に声という命が吹き込まれていく。
 台本を書いていたときの脳内再生を軽く越えてくる演技に、一瞬で引き込まれた。
 そう、このお姉さんはそういうトーンで誘惑するんだよ……そこをそう読むのか! その解釈も良い……!
「——はい、ありがとうございました。一旦確認するのでお待ちください」
 一通り読み終わると、米田さんの合図で録音が中断される。
「馬フィッシュさん、どうですか? どこか演技の感じとかで気になるところなどあれば」
「いや、もう……キャラの性格なんかも汲んでくれて、素晴らしい演技です。自分の脳内再生を軽く超えてきたなって感じです」
「それはよかったです。確かに良い演技でしたね。もう少し違う演技で聞いてみたい箇所なんかはないですか?」
「そうですね……この箇所だけ、もうちょい甘える感じが出てくれるといいなと思うんですけど」
「わかりました。小川さん、全体的にイメージ通りでとってもいい感じだそうです。2ページ目の10行目だけ、もう少し甘える感じを出したバージョンも聞いてみたいので、そこだけ読み直していただけますか?」
「了解でーす」
 いつものむつきの朗らかな声がスピーカーから返ってくる。さっきまで妖艶で男を引きずり込むような声を出していたのと同じ人物とは思えない。声優ってすごいんだなと改めて思う。
「それではリテイク1箇所お願いしまーす」
 こうしてむつきの名演により音声収録は終了したのだった。
「それでは馬フィッシュさん、編集は予定通りこちらで行いますので」
「はい、よろしくお願いします」
 今回は編集を米田さんにお願いすることにしていた。
 噛んだ箇所などのNGカットくらいなら自分でやってみようかとも思ったが、ノイズ除去や整音——音量を上げたり、耳に痛い周波数を削ったり、音質を調整する作業らしい——に専門的な知識が要りそうなのでお任せすることにしたのだった。
「完成したデータは2、3日で送りますのでよろしくお願いします」
「わかりました。こちらこそお願いします」
 レコーディングブースから出てきたむつきが顔を扇ぎながら部屋に入ってきた。
「あっつー! お疲れ様でーす!」
「小川さん、お疲れ様です」
「お疲れ様。すごかったよ」
 俺は彼女の演技力に素直に感動していた。
「ほんと? ありがと! やっぱ時間かけてライターさんやイラストレーターさんがつくってきたものの最後を任されるのが声優だからね! 気合い入れて演《や》ってるよ!」
 台本の出来ももちろんあるが、それと並ぶ大事な要素が声優さんの演技だ。
 リスナーを夢中にさせ、別の世界に引き込むような力を持った演技を自分の作品に充ててもらえたことに、俺は感謝していた。
 もうここまで来たら、あとは発売するだけだ。



 しばらくしてやぎこさんから表紙のイラストが納品された。
 キャラデザも構図もお任せだったが、活き活きとしたお姉さんキャラがそこには息づいていた。
 このキャラが、あの声で……。
 俺一人では決して生み出せない、色んな人の力が合わさった作品がそこにはあった。
 台本が完成したときもうれしかったけど、他のクリエイターさんの力で自分の作品が数段階引き上げられるような体験はすごくうれしいものだった。
 俺はダウンロードサイトに作品データを登録した。
 そしてついに、俺の初めての音声作品が発売したのだった。



「発売おめでとー!」
「ありがとう!」
 後日、俺たちは作品発売記念の打ち上げをしていた。
 レストランに集まったのは、俺、むつき、朝子さんの3人だった。
「発売おめでとう。よく投げ出さずに発売までこぎつけたわね」
 意外にも、打ち上げをしようと誘ってくれたのは朝子さんだった。
「ありがとうございます。朝子さんが色々教えてくれたおかげです」
「そうでもないわ。結局最後は自分が書かなければ1文字も作品は出来上がらないもの。あなたが頑張ったのは事実よ」
「そうだよフィッシュくん! エッチでなかなか良い台本だったよー演ってて楽しかった!」
「なんかすげーうれしいです。俺こうやって何かを誰かとつくり上げたことって今までなくて」
 それはなんとも言えない晴れ晴れとした達成感だった。
 気になって何度もチェックしてしまう売上は、まだ販売初日というのもあってたったの数本だ。
 しかしその数本の後ろには、買ってくれた人が何人か居る。俺の作品を良いなと思ってくれた人が居る。
 その事実はかつてない認められた感覚を俺に与えていた。
 こうして手に入れた数百円は、言われたことをただこなして仕事で給料をもらうのとは全然違う、本当に自分の力で手に入れた尊いお金に感じた。
「……できればシコファイターさんも一緒にしたかったですね」
 俺の口からついて出た言葉に、二人はしばし沈黙した。
「……仕方ないわ。私たち創作者だって売れたいという気持ちはある。誰にだってああなる可能性はあると思う」
 朝子さんの言葉は、どこか自分に向けて言っているようにも聞こえた。
 クリエイターを長くやるというのはとても大変なことなのかもしれない。気持ちの面で。
「今はひとまず、無事完成して発売できたことを祝いましょう。次回作の打ち上げには彼も呼べばいいわ」
「そうですね。いやー次回作かぁ。まだ全然考えてないです」
「そう。つくる気になったらつくればいいわ。同人なんだから」
 ふと気になって、俺は朝子さんに質問した。
「朝子さんはどうして創作をしてるんですか?」
 彼女はアイスティーを口に含むと、ゆっくりと飲み下した。
「——せずにはいられないからよ」
 彼女の赤い瞳がどこか遠くを見た。
「思いついたら書かずにはいられない。それだけ。どうしても書いてしまうのよ。書きたいという衝動に素直に生きているだけ」
 朝子さんらしい答えだと思った。
「ま、あなたと同じようなものよ。つくりたいと思ったから、つくる……理由なんてそれだけで十分じゃないかしら」
「そうですね。そうだと思います」
「私も! 私も演じたいから演じてる!」
 むつきが手を挙げて言った。
 何かをつくりたいという気持ちは、誰にでも眠っているのかもしれない。今まで創作なんかやったことなかった俺ですら、こうして衝動に突き動かされて何かを生み出したのだ。
「あとは……何かをつくり上げたときの喜びも、悪くないわよね」
「ですね!」
 つくっているときはなかなか進まず苦しい思いもしたけれど、できたときの達成感は大きい。
 俺たちはどういう作品が好きだとか、今度はこういうものをつくってみたいだとかの話で盛り上がりながら、完成の喜びに浸ったのだった。



 数日後、俺の元に一通のメールが届いた。
“馬フィッシュさんの作品を聞いて、なんてエロいものがこの世にはあるんだろうと思いました。創作なんてしたことのない自分ですが、自分も音声作品をつくってみたい! と思って今動いています!”
 俺は朝子さんの言葉を思い出した。
“触れたあとに自分も何かをつくりたくなるというのは、本当に良いものに触れた証拠よ”
 俺の作品を聞いて、誰かが何かをつくりたいと思ってくれた。
 俺にもそんな作品がつくれたんだ。
 それでも——もっとこうしたら良かったとか、こういうシチュエーションもどうだろうとか、作品が完成してから思いつくことがたくさんあった。
 次回作はどうしようかなといつの間にか考えていた自分に気づき、俺は笑ったのだった。
 皆さん、最近オナニー充実してますか?

 終



・馬フィッシュ
 20代半ばの駆け出し音声作品ライターの青年。乳首責め音声作品をつくりたい。
 馬フィッシュの由来は高校のころ魚が丸ごと弁当に入っていてついたあだ名「フィッシュ」に「馬ってなんかカッコいいよな」と思って馬を足した。

・シコファイター
 先輩同人音声作品ライターの男性。本業はシステムエンジニア。
 馬フィッシュとは同じオンラインゲームをやっていて知り合った。
 30代後半。

・夏目朝子
 同人小説家、コスプレイヤーの女性。
 20代後半。面白いことが好き。
 気まぐれに見えるが、自分の中では毎回理屈があるらしい。

・みるきぃ☆デスドラゴン
 同人小説家の男性。熱い男。20代半ば。
 体格が良く、身長も高い。握力62kg。
 魂でシコるタイプ。

・やぎこ
 同人漫画家の女性。商業誌にも載ったことがあるエロ漫画家。
 20代後半。
 最近なんだかんだキスが一番エロい気がしてきて、キスだけのエロ漫画を描こうか真剣に悩んでいる。

・小川むつき
 同人声優の女性。実はオホ声が得意。
 馬フィッシュの高校の同級生。20代半ば。
 常にテンションが高く、仕事に全力。

・米田のぶひさ
 レコーディングエンジニアの男性。20代後半。
 見た目がビジュアル系。
 眉毛がほとんどないのでちょっと怖いが、すごく礼儀正しくて優しい喋り方をする。
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