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私がいたいのは
10-17 3本目
しおりを挟む凛々奈は大きく裂けた傷口に手を当てつつ距離をとった。痛み耐えそれと同時にネージュに向けて引き金を引く。
「このッ野郎!」
放たれたのは青色をした弾丸、蒼の雷撃”アズールスパーク“。着弾時に雷撃を発生させるもう一つの特殊弾、しかしネージュは再び掌でそれを振り払った。
「何度やっても同じよ」
クスクスと笑いネージュは振り払った掌を開く。そこには野球ボール大の氷の結晶が握られていた。その中には蒼い弾丸が静かに包まれている。ネージュはそれをゴミでも捨てるように自らの後ろへ投げ捨てた。最初に撃ち込んだエクスプレッドも同じく起爆前に火薬、機能ごと凍結させられていたのかと凛々奈は理解した。
「ハッ、器用な事するじゃないの」
軽口を叩くが凛々奈は全身に付けられた傷の痛みに歯を食いしばる。そしてたった今つけられた腹から肩にかけて裂かれた傷を確認する。出血は無い、しかし切断面にはキラキラと霜が張り血と肉が凍りつく異常な切断面をしていた。
(傷が・・・ 塞がらない)
通常の傷であれば能力強化状態の凛々奈であればこの程度であればすぐに塞がり戦闘に影響の出ないレベルに回復している。
「あはははっ! 痛いでしょう? 治らないでしょう? そのぱっくり開いた皮と肉、とっても綺麗よ」
氷の刃による切断面の凍結が凛々奈の回復を阻害する。
(・・・大丈夫、痛いけどそこ迄深く無い)
痛みに軋む体を動かしまた凛々奈はネージュに向き直る。
「小賢しい真似してんじゃねえぞ」
ネージュの不可視の刃に気付いた凛々奈は的確にそれを警戒し攻撃していた筈だが大きく切り裂かれた。凛々奈はその攻撃の正体に気付く。彼女は左手にナイフを握り締めた。すると何故か自分の右手を切りつける。ネージュの付けた傷とは違い鮮やかな鮮血が流れ腕を伝う。その腕をネージュに向けて振り払う。
「キャッ♪」
ネージュはふざけた声をあげ凛々奈の腕から飛んだ血を浴びる。
「あはは、これもバレちゃった」
ネージュの純白のワンピースの所々に紅い雫が色を刻む。それだけではない、ネージュかま握る右手の刃の周りにも点々と紅い水玉模様が浮かび上がった。
「こっちが本命って訳?」
凛々奈の血によって見えたそれはネージュの握る刃から伸びる更に薄く不規則に伸びる刃、枝分かれして刃から無数に伸び、まるで葉が散り落ちた枯木の枝のように広がっていた。
「厄介でしょう? 見えない刃からもっと見えない刃が襲ってくるの、どこに伸ばすかも私の自由、それに・・・」
ネージュが左手で刃の腹を撫でると氷の刃は砕け散った。幻想的に光を反射し舞う氷の欠片はゆっくりと消えていった。そして再びネージュは右手を前に突き出した。その手にはまた見えない何かを握っている。
「何度だって作れるの、アハハッ! どうする? また血を飛ばす? これ以上出血したら危ないんじゃない?」
ネージュの言うとおり、確かに凛々奈はこれ異常出血する訳には行かない。シエルの診療所でネージュに胸を刺され、既に多くの血を失っている。
そして今、凛々奈の髪は毛先からゆっくりと黒く戻り始めている。
クロノスタシスの効果が終わる。
「おっけーおっけー」
言うと凛々奈は俯き左手で何かを取り出した。
「?」
ネージュは不思議そうにそれを見る。
「今日3本目、ラスト」
凛々奈は橙色のキャンディを取り出し、口にした。
「なに? それ?」
余裕の笑みを浮かべるネージュ。凛々奈の足は地面を蹴った。今迄とは比べ物にならないスピードで。
「なッ!」
一瞬で凛々奈とネージュの距離はお互いの手が届く距離まで縮む。始めてネージュの顔に焦りが出た。
「フレイムレイヴ!!!」
凛々奈の髪が橙色に染まる。固く握りしめた右の拳は大きく炎を纏い、燃え上がりネージュの顔面を殴り飛ばそうと振りかぶられた。
「なッ!」
ネージュは慌てて刃で拳を受け止めようと顔の前に構えた。しかし燃え上がる炎の熱で氷の刃は溶け始めその強度は落ちている。そして
氷の刃が砕ける音と共にネージュの顔に炎の拳が叩きこまれた。
「良し! こうかは ばつぐんだ」
吹き飛ぶネージュを見て満足そうに凛々奈は微笑んだ。
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