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私がいたいのは
10-6 アーク=ラインハルト
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◆
町外れの廃ビル。周りは人気のない寂れた工場と同じような寂れたビルがいくつか建っているだけの灰色の景色。
ビルの前に車が一台止まった。
神代唯牙はエンジンを切ると口にしていた煙草の火を消し灰皿へ捨てドアを開こうとする。
「っと、忘れるところだった」
すると何かを思いだし助手席のダッシュボードを開く。中から取り出したのはシルバーのブレスレット。それを左腕に装着してから車を降りる。
降り続いている雨に打たれながら淀んだ空を背景にした灰色のビルを見上げる。そのまま表情を曇らせて軽く舌打ちをしてから唯牙はビルの中へと入った。
入り口のガラスの扉は割られ、中にはよく分からない資材やダンボールが一面に散らかっており、不快な埃の臭いがする、それが雨の湿気によってより嫌な臭いを漂わせる。その光景に更に唯牙の表情に怒りが増す。隅に階段を見つけた唯牙はなんとか足を置ける隙間をゴミの間に見つけながら歩き出した。塵と埃の積もった階段を最上階まで上がり目的の部屋の扉を開く。
「やあ、久しぶりだね唯牙」
部屋の奥の窓の前に立っていた人物が振り返る。綺麗な金髪のストレートヘアーに銀縁のメガネを掛けた男。顔立ちは何処か幼さを残した整った顔をしている。着飾って街を歩けば男でも振り向く程に目立つだろう。
「気安く私の名前を呼ぶなクソ野郎」
しかしそんな彼に名前を呼ばれた唯牙は血管を浮かび上がらせる程に怒りの表情で言った。彼等はお互いに面識がある口振りだった。
「おやおや、相変わらず嫌われているみたいだな僕は」
ははは、と自重気味に笑うと男は窓の前にあった椅子に座る。そしてそこからテーブルを挟んで向いにある椅子を上品に掌で示し言う。
「こんな所で禄にもてなす事も出来ないが、まあ掛けてくれ、この部屋だけは軽く片付けて貰ったからね、椅子も綺麗だよ」
暫く会っていなかった中の良い友人に言うように男は言葉を続ける。唯牙はそれを無視して言う。
「次に」
「ん? どうかしたかい?」
「次にお前が私を私を呼び出した要件以外の事で口を開いたら、私の我慢も限界になるかもしれん」
唯牙の周りにバチバチと紫電が走る。 唯牙の髪が怒りで逆立っていく。目の前にブチ切れ寸前の神代唯牙が居るにも関わらず男は余裕の表情を崩さない。
「時間稼ぎ♪」
男はニコッと笑って言う。
「まあそんなことだろうと思っていたが、今此処でお前をぶっ殺せば問題ないな」
唯牙は拳を握る。
「他の人間ならそうかもしれないけれど、今君の前に居るのは僕だよ? 僕が君の相手をしてあげてもいいんだけどね」
「やってみろッ!!」
我慢の限界だと唯牙は攻撃のモーションに入る。
「13ヶ所」
男はそれだけ言う。
「ああん!?」
唯牙は動きを止める。
「その窓から遠くに見える大きな駅、あるよね? その周辺の街中にプレゼントを用意した」
「・・・・」
「爆破物、毒物、あとはこの国には居ない毒を持った生物の詰め合わせ、だったかな?」
子供みたいに無邪気な笑顔で続ける。
「それが僕が指示をを出したらサプライズ! お祭り騒ぎになるだろうね!」
「お前ッ!」
ギリッと唯牙の歯軋りの音がなる。焦った表情でコートのポケットからスマートフォンを取り出し外部に連絡を取ろうとするが男がそれを静止する。
「駄目駄目、そんなことしたらすぐにパーティースタートだよ?」
手を止めた唯牙はポケットにスマートフォンを戻す。
「それが嫌だったらここで僕と大人しく座っていよう、唯牙」
ドゴォン
激しい音が鳴る。唯牙の横の壁が無くなっていた。叩きつけられた彼女の右手によって。
「おいおい! 古い建物なんだから倒壊してしまうだろう!」
「二度と私の名前を呼ぶな」
ギロリと男を睨むと唯牙は椅子に座る。そして両足をテーブルの上に乗せて組む。男は両手をあげてやれやれっといったジェスチャーをした。唯牙は着ていたコートのポケットからハンカチを取り出すと丁寧にたたんでアイマスクの様に目元に乗せ背もたれにもたれ掛かる。
「おいおい! 寝ないでくれよ、お互い色々話したい事もあるだろう!!」
全く聞こえないと言う様に唯牙の呼吸音だけが返事をする。
「僕が暇じゃないか・・・・」
寂しそうに男は肩を落とす。
「あっと、そうだ」
唯牙は右手で少しだけハンカチをずらして片目で男を睨む。
「私達に喧嘩を売ったんだ、それ相応の覚悟しとけよ アーク=ラインハルト」
それだけ言うとまたハンカチで顔を隠した。
「・・・・・それは、楽しみだ」
先程迄とは違う、鋭い眼をして男は微笑む。
寝息をたてる唯牙の左手でブレスレットがキラリと煌めいた。
町外れの廃ビル。周りは人気のない寂れた工場と同じような寂れたビルがいくつか建っているだけの灰色の景色。
ビルの前に車が一台止まった。
神代唯牙はエンジンを切ると口にしていた煙草の火を消し灰皿へ捨てドアを開こうとする。
「っと、忘れるところだった」
すると何かを思いだし助手席のダッシュボードを開く。中から取り出したのはシルバーのブレスレット。それを左腕に装着してから車を降りる。
降り続いている雨に打たれながら淀んだ空を背景にした灰色のビルを見上げる。そのまま表情を曇らせて軽く舌打ちをしてから唯牙はビルの中へと入った。
入り口のガラスの扉は割られ、中にはよく分からない資材やダンボールが一面に散らかっており、不快な埃の臭いがする、それが雨の湿気によってより嫌な臭いを漂わせる。その光景に更に唯牙の表情に怒りが増す。隅に階段を見つけた唯牙はなんとか足を置ける隙間をゴミの間に見つけながら歩き出した。塵と埃の積もった階段を最上階まで上がり目的の部屋の扉を開く。
「やあ、久しぶりだね唯牙」
部屋の奥の窓の前に立っていた人物が振り返る。綺麗な金髪のストレートヘアーに銀縁のメガネを掛けた男。顔立ちは何処か幼さを残した整った顔をしている。着飾って街を歩けば男でも振り向く程に目立つだろう。
「気安く私の名前を呼ぶなクソ野郎」
しかしそんな彼に名前を呼ばれた唯牙は血管を浮かび上がらせる程に怒りの表情で言った。彼等はお互いに面識がある口振りだった。
「おやおや、相変わらず嫌われているみたいだな僕は」
ははは、と自重気味に笑うと男は窓の前にあった椅子に座る。そしてそこからテーブルを挟んで向いにある椅子を上品に掌で示し言う。
「こんな所で禄にもてなす事も出来ないが、まあ掛けてくれ、この部屋だけは軽く片付けて貰ったからね、椅子も綺麗だよ」
暫く会っていなかった中の良い友人に言うように男は言葉を続ける。唯牙はそれを無視して言う。
「次に」
「ん? どうかしたかい?」
「次にお前が私を私を呼び出した要件以外の事で口を開いたら、私の我慢も限界になるかもしれん」
唯牙の周りにバチバチと紫電が走る。 唯牙の髪が怒りで逆立っていく。目の前にブチ切れ寸前の神代唯牙が居るにも関わらず男は余裕の表情を崩さない。
「時間稼ぎ♪」
男はニコッと笑って言う。
「まあそんなことだろうと思っていたが、今此処でお前をぶっ殺せば問題ないな」
唯牙は拳を握る。
「他の人間ならそうかもしれないけれど、今君の前に居るのは僕だよ? 僕が君の相手をしてあげてもいいんだけどね」
「やってみろッ!!」
我慢の限界だと唯牙は攻撃のモーションに入る。
「13ヶ所」
男はそれだけ言う。
「ああん!?」
唯牙は動きを止める。
「その窓から遠くに見える大きな駅、あるよね? その周辺の街中にプレゼントを用意した」
「・・・・」
「爆破物、毒物、あとはこの国には居ない毒を持った生物の詰め合わせ、だったかな?」
子供みたいに無邪気な笑顔で続ける。
「それが僕が指示をを出したらサプライズ! お祭り騒ぎになるだろうね!」
「お前ッ!」
ギリッと唯牙の歯軋りの音がなる。焦った表情でコートのポケットからスマートフォンを取り出し外部に連絡を取ろうとするが男がそれを静止する。
「駄目駄目、そんなことしたらすぐにパーティースタートだよ?」
手を止めた唯牙はポケットにスマートフォンを戻す。
「それが嫌だったらここで僕と大人しく座っていよう、唯牙」
ドゴォン
激しい音が鳴る。唯牙の横の壁が無くなっていた。叩きつけられた彼女の右手によって。
「おいおい! 古い建物なんだから倒壊してしまうだろう!」
「二度と私の名前を呼ぶな」
ギロリと男を睨むと唯牙は椅子に座る。そして両足をテーブルの上に乗せて組む。男は両手をあげてやれやれっといったジェスチャーをした。唯牙は着ていたコートのポケットからハンカチを取り出すと丁寧にたたんでアイマスクの様に目元に乗せ背もたれにもたれ掛かる。
「おいおい! 寝ないでくれよ、お互い色々話したい事もあるだろう!!」
全く聞こえないと言う様に唯牙の呼吸音だけが返事をする。
「僕が暇じゃないか・・・・」
寂しそうに男は肩を落とす。
「あっと、そうだ」
唯牙は右手で少しだけハンカチをずらして片目で男を睨む。
「私達に喧嘩を売ったんだ、それ相応の覚悟しとけよ アーク=ラインハルト」
それだけ言うとまたハンカチで顔を隠した。
「・・・・・それは、楽しみだ」
先程迄とは違う、鋭い眼をして男は微笑む。
寝息をたてる唯牙の左手でブレスレットがキラリと煌めいた。
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