銃と少女と紅い百合

久藤レン

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私がいたいのは

10-3 調査パート

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 郊外にある灰色の雑居ビル。その前に赤と青の傘が仲良く二つ並んでいる。

「ここがシエルさんの診療所だよー」

 凛々奈がビルを見上げて言った。

「え、ここですか?」

 言われたみいながビルを見上げるが、無骨な外見と入り口にある入居している会社を表す筈のフロア表示も何も書かれておらずボロボロで、とてもそうは見えない雰囲気だった。

「ほんとにここなんですか?」

「あはは~ 一応シエルさん闇医者だからね~ ブラックなジャックだから? アッチョンブリケ?」

「・・・・凛々奈さんの言う事は偶によく分かりません」

 二人は傘を閉じてビルに入る。

「ここの三階だよ、てかシエルさん戻って来てるかな」

 二人は閉じた傘を軽く振って水を切り畳むと、エレベーターの上ボタンを押した。まだ降り続ける雨の音がエレベーターを待つ二人に少しだけ聞こえている。凛々奈が段々と数字の小さくなるエレベーターの階層表示を見上げているとみいなが凛々奈の右手をぎゅっと握った。

「みーちゃん、二人が治ったらみんなでまた旅行に行こうか、夏の海の時みたいに」

 凛々奈もその手を優しく握り返す。

「は、はい!」

「サクラは一緒にお泊りした事まだ無いからね~ 喜ぶと思うわよ」

「その時はフラムちゃん達も誘って見ましょうか!」

「あはは、いいけど騒がしくなりそうだな~」

 笑い会う二人の前でかん高い音が響きエレベーターの扉が開く。

「行こうか、みーちゃん」

 エレベーターに乗りこんで三階のボタンを押す。少し待つとまたかん高い音が鳴り扉が開く。エレベーターから降りると薄暗い廊下に何も書いていない扉がいくつか並んでいる。その内の一つを凛々奈が開いて中へ入った。

「こんちゃ~っす、シエルさんもういる~?」

「お、おじゃまします!」

 みいなも続いて中に入る。扉の向こうはよくあるオフィス空間をパーテーションで仕切って無理矢理診療所の様にしている妙な空間だった。見ようによっては安っぽい演劇のセットにも見える。

「あら? 二人ともいらっしゃい、どうしたの?ハルちゃんとサクラちゃんはここじゃないわよ?」

 仕切られた壁の先からシエルがやってきた。

「うん知ってるよ、この後でお見舞いに行くけど今は調査パートなの」

「調査? あら、みいなちゃんも久しぶりね」

「お、お久しぶりです!」

「ここにサクラ達の戦いに巻き込まれた一般人がいるって聞いたんだけど、あとシエルさんも何かしってるかなってさ」

「そういうことね、私が見た事なら話すけれど力になれるかは分からないわよ」

「大丈夫、知っている事だけでも聞きたい」

「そうね、時間は昨日の夜、ハルちゃんから緊急事態だって事で呼び出されたわ、町外れの何でもない大きな道路にね」

「そこで襲われたの?」

「そうみたい、私が着いた時にはもう襲撃は終わってたみたいでね、燃えている何台かの巻き込まれた車と怪我をしてる一般人・・・ 少し離れた所に倒れているハルちゃんとサクラちゃん・・・ その時にはもう二人とも意識はなかった」

「二人を襲った奴はもう居なかったの?」

「そうね・・・ 他には誰も居なかったわ・・・ それで私は二人を応急処置して、ハルちゃんの家が近かったからね、持ってきた道具で大丈夫そうだったから、そこに二人を運んでから治療したわ、他の巻き込まれた人達は・・・」

 シエルが話しているとガタッと音がして部屋の奥から一人の少女が表れた。

「他の人達はわたしが処置したよ!」

 歳は凛々奈と同じ位のショートカットのボーイッシュな少女。

「お、月鈴《ユーリン》久しぶり」

「久しぶりー、凛々奈」

 凛々奈と月鈴と呼ばれた少女は知った顔らしい。

「ん? あれあれ? 君がもしかしてみいなちゃん!?」

 月鈴は凛々奈の後ろのみいなに近づく。

「うぇ!? あ! は、はい! 花守みいな・・・です」

「初めまして! 私は月鈴、シエル先生の助手だよ、君の事は先生から聞いてたんだ」

「は、はじめまして・・・」

 元気な月鈴にみいなは少し驚いている。

「ちょっと! みーちゃんが怖がってるでしょうが!!」


 二人の間に凛々奈が割って入る。

「あはは、ごめんねみいなちゃん」

「てか今はそれどころじゃないの! みーちゃんとお喋りしたかったら今度またゆっくり遊びに来なさい」

「おっと、そうだったね、ハルさんと・・サクラちゃん・・・だっけ? 二人を襲った奴らについて調べてるんだよね」

「そうよ、アンタ何か見てない?」

「私はさっき先生が言いかけてた様に巻き込まれた人の応急処置をしてたからなぁ、私達よりあの子に聞けたら一番いいんだけど・・・」

「あの子って?」

「巻き込まれた人は軽症多数、数人もう手遅れだった人、それと一人だけ重症でここに運び込まれた子がいるんだよ」

「その子なら何か見てるかもって?」

「うん、だけど巻き込まれたショックなのか目が覚めてから一言も口を利いてくれないんだよね、身分の分かる物も何も持ってなかったからさ、先生とどうしたものかと相談してたんだ」

「・・・その子と話してもいい?」

「うん、大丈夫だけど怪我人だから優しくね」

「おっけい、因みにそんなに大怪我なの?」

「命に関わる程ではないけれど、肩から腰まで斜めにざっくりと大きくね・・・」

「そっか、じゃあちょっとだけ話させて貰うわ」

「彼女は一番奥の部屋だよ、もしも眠ってたら起こさないであげてね」

「ん、りょーかい」

 話が終わり診療所の奥へと凛々奈は歩き出す。その後ろをみいながついていく。進んだ先にある扉を開き中へ入と。中は清潔そうな真っ白い空間にベッドと小さな机、素人では用途も分からない機械がいくつか置かれていた。

 ベッドの上には一人の少女が上半身を起こして窓の外を見つめていた。みいなよりも少しだね年上だろうか、虚ろな目で灰色の空を見る少女の全身は痛々しく包帯に包まれている。しかし凛々奈の目を引いたのは少女の髪。雪の様に真っ白な純白の長い綺麗な髪だった。

(外国人かな・・・)

 顔を見てそんな事を思う凛々奈。

(口を利いてくれないって・・・ まさか日本語が分からなかったってオチじゃないでしょうね・・・ シエルさんがいてそんな事はないか)

 凛々奈はベッドの横まで進むと少女に聞こえる程度の小さな声で優しく声を掛けた。

「いきなりゴメンね、君もこんな事に巻き込まれて大怪我をして大変なのは分かってる、だけど少しだけ、話を聞かせて貰えないかな?」

 怪我人である彼女に気を使い、できる限り静かに話す。凛々奈の声を聞くと窓の外を見ていた少女の顔は部屋の中へと向く。

「昨夜に君が見た・・・・」

 凛々奈はこっちを向いてくれたと思い話を続けようとするが、よく見ると少女の瞳は自分を見ていない事に気付く。その視線の先は凛々奈が入って来た扉に向けられている。凛々奈も扉を見ると何故か部屋まで踏み込まずに入り口に体を半分隠して中を伺うみいなが居た。

「みーちゃんどうしたの? こっちおいで?」

 どうしたのかと声を掛ける。

「え、あ、あ、あの、えっと・・・ わ、私お手洗いに行ってきます!!」

 みいなはそれだけ言うと小走りで何処かへ行ってしまった。その様子に凛々奈は違和感を覚える。

(みーちゃん・・・?)

 しかしとりあえず少女から話を聞こうとまたベッドに視線を戻すとまた少女は窓の外を向いていた。そして何度話しかけても少女が返事をする事は無かった。

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