銃と少女と紅い百合

久藤レン

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皆で潜入オークション

7-5 戦闘“展望フロア”

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 凛々奈達がいたビルの最上階、展望フロア。中央にエレベーターのあるブロックだけがある広い空間であり、周りは一面がガラス張りになっている。

 今は開放されていない時間の様でライトは点いておらず薄暗い空間が広がっている。

 その静寂に甲高い音が鳴り響きエレベーターのドアが開く。エレベーター内の明かりが漏れるとカツカツと足音を立てて神代唯牙がフロアに足を踏み入れた。口元には煙草の火と煙が揺れている。

 ふぅっと煙草を手に持ち口から煙を吐き出して辺りを見回す。すると正面の街を見下ろせるガラスの壁の前に何者かが居るのに気いた。

「始めましてだね! 神代唯牙!」

 その人物は芝居がかった大きな声で語りかけて来た。派手な仮面を着けた女性、先程ステージで偽の鎧殻のデモンストレーションをしていた人物だった。そしてその横には1m四方程の周りの雰囲気に不釣り合いなコンテナが並んでいた。分かりやすい漫画チックな爆弾の絵が描いてある。 

「なんの用だこのやろう、さっさと片付けて帰らせてもらうぞ」

 唯牙は鋭く睨みつける。

「はっはっは! 少し君とお話をしたくてねえ!! 私は”叢雲 時雨“|《むらくも しぐれ》 よろしく!!」

「お前に興味は無い、爆弾の停止装置は何処にある?」

「冷たいなぁ、それはこれの事かな?」

 時雨と名乗った女は懐から大きなボタンのついた機械を取り出しながら言った。

「それを素直に渡して消えろ」

 唯牙は手を差し出しさっさとその機械を渡すように言う。

「その前にこっちの話も聞いてもらいたいなぁ!」

「・・・・ならこっちからも聞かせろ、気になっていた事がある」

「おや? なんだい?」

「お前といた二人の子供、ExSeedだろう? お前は機関の何だ?」

「おやおや、そんな事かい? 私達は奴らの関係者じゃないよ、訳あってね あの子達は私が機関から連れ出して育ててる」

「もう一つ、あの子達は超越の卵・・・うちの娘に反応を示していなかった、何故だ」

 先程のステージで気になっていた事を訪ねると時雨は仮面の下で驚いた顔をする。

「おや? 知らなかったのかい? それは・・・ いや! 質問には先に一つ答えたからね! 次はこっちの話を聞いてもらおうか!」

 時雨は数歩唯牙に近づく。

「君の持っている鎧殻、この世に三機しかないと言われる幻の“神機”それを見せて欲しいんだ!」

 ”神機“その言葉を聞いた瞬間唯牙の表情が鋭くなった。

「・・・偶に来るんだ どっから聞きつけたのか知らないがそれ目当ての奴らが・・・ お前もそれが欲しいだけか?」

 少し怒気を含んで言う。

「いや!! ただ一度見てみたい!! 知的好奇心だ!!」

「はぁ?」

 予想していなかった返答に気が抜ける。

「それと・・・」

 時雨は脇を締めてファイティングポーズをとる。革手袋を嵌めた手を握りしめて腰を落とし唯牙に向けて高速で駆け出した。そして唯牙の顔を目掛けて拳を突き出す。

「殲滅の爆雷帝の実力を見たいんだ!!」

 首だけを動かして拳を避けた唯牙は面倒くさそうに咥えていた煙草をコートの内ポケットから取り出した携帯灰皿に捨てる。

「後悔するなよ」

「行くよォ!!」

 時雨は更に追撃をかける。目にも止まらぬ速さのジャブを繰り出すがそれを唯牙は最低限の動きで躱し続ける。

「ハハハッ! 肉弾戦には自信があったんだけどなぁ!」

「いや、鎧殻もなにかしらの身体強化も無しにしてはいい動きだ」

「殲滅の爆雷帝に褒められてしまった!! 光栄だよ!!」

 その言葉を言い終えた時。

バッ!

「うぉぉ!」

 時雨は勢い良く後ろへ飛んで何かを回避した。
唯牙の方を向き直ると彼女は右足を頭上まで高く上げている。

「反応もなかなか良いじゃないか」

 時雨はギリギリの所で回避していた。自分のジャブよりも遥かに速い蹴り上げを。

「あとコンマ1秒遅れていたらどうなっていたかな私は!」

 言いながら体制を整えた時雨を見て唯牙は気付く。

 今の蹴り上げの衝撃で時雨の服は腹から胸元まで大きく破れて中心の地肌が顕になっている。唯牙が見ているのはその肌に刻まれた幾つもある手術痕。痛々しい程に体中に刻まれていた。

「なんだ・・・それは?」

 蹴り上げた足を下ろして聞く。

「ん? これかい? 別に大した事じゃいけど・・・ うちの子達の調整者・・・ まあ、あの子たちの母親だったんだが、もうこの世に居なくてね、あの子達の調整者になれるように体中を弄くり回したんだ」

「・・・・不可能だ」

「はっはっは!そうだねぇ! 我ながら無茶したと思うよ、別人レベルまで体組織を変えるなんてさ!! でもなんだかんだ、奇跡って起こるもんだね!!」

「・・・奇跡でも起こらなかったらただ死ぬだけの無意味な行為だ、あの子達の為に何故そんな事をした?」

「ん~ 答えても良いけど、ここだけの秘密にしてくれよ?」

「?」

「惚れた人の忘れ形見なんだあの子達は」

 今までの芝居がかった話し方とは違う、優しい声だった。

「・・・そうか、だが悪いが私も大切な娘達を待たせてる、もう片付けさせてもらうぞ」

「おやおや!?」

「見せてやるよ、ただし死んでも知らんからな」

 唯牙はずっとポケットに入れていた右手を取り出す。その右手から薄紫の雷の様な閃光が走り空間が歪む。するとその右手は何かに包まれる。

 鉄や鋼とも違う紫色の結晶の様な材質の手甲。
他の鎧殻とは明らかに違うその見た目と威圧感。

「うおおおお! それが噂の神機かい!?」

「右手の分だけだがな」

「おや? だけどそんな物ここで使っていいのかい? 下には他の人も居るしなんなら爆弾もそこにあるんだよ?」

「それ、中身爆弾じゃないだろ?」

 コンテナを見る。

「うぇ!? どうしてだい!?」

 だらだらと冷や汗を流しだす時雨。

「図星か、そういう事をする様な奴じゃないと思っただけだ」

「はっはっは!! 流石だね! それじゃあ爆弾もただの冗談だったって事でここはお開きとしようじゃないか!! ただ君達と遊びたかっただけなんだよ!!」

「いや、お前みたいなのは一度痛い目にあわせてやらないとまた絡んでくるかもしれんからな」

 唯牙は右手を時雨にむけて中指を親指で抑えて構える。 所謂デコピンの形。

「これなら最悪このフロアが吹き飛ぶだけで済むだろう、死んでも恨むなよ」

「え!? ちょっと待っ!!!」

 唯牙の中指が放たれると凄まじい爆発とビル全体を揺らす衝撃が展望フロアから巻き起こった。



 唯牙は夜の冷たい風を受けながら懐から煙草を取り出して火をつける。四方を囲んでいたガラス張りの壁と屋上が上にある筈の天井は跡形もなく吹き飛んでいた。元展望フロアだったここが屋上になってしまった。

 瓦礫と何かの破片しかないその床を唯牙は歩く。先程まで時雨が居た場所には誰もいない。

「落ちたか?」

 壁のないフロアの端まで来てビルの下を見下ろすと。

「はっはっはっはっはっは!!! また会おう神代唯牙!!!」

 下から楽しそうな声が夜空に響く、見るとど派手なレインボーカラーのパラシュートがふわふわと夜の街へ飛んで行っていた。

「なんなんだアイツは・・・」

 唯牙はまた手をデコピンの形にしてパラシュートへ向けて狙いを定めるが。

「・・・・・まあいいか」

 追撃してやろうと思ったが気まぐれで思い留まった。

 また唯牙の右手から閃光と歪みが発生して装着されていた紫の鎧殻は歪みに消えて元の右手に戻る。

「結局なにがしたかったんだ・・・アイツ」

 フロア中央にかろうじて残っていた下へと続く階段を降りると今の爆発でパニックになった人達で階段は遥か下まで人混みでいっぱいになっている。

「そりゃあエレベーター壊れるよな・・・」

 ため息をつきながら唯牙は人混みに紛れて地下を目指す。
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