銃と少女と紅い百合

久藤レン

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皆で潜入オークション

7-3 party&magic!

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 凛々奈達は入口の黒服に招待状を渡して最上階の一つ下のフロアまでエレベーターで昇って来ていた。そこは大きなパーティーホールとなっておりいくつも並んだテーブルクロスの敷かれた長机の上には色取りの高級そうな料理が並んでいる。その周りには豪華なフロアの雰囲気に溶け込むようなフォーマルな服装をした人達が何人も食事の乗ったプレートを手に談笑していた。

「オークションが始まるのは暫く後だが、始まる迄の余興のこのパーティー会場で件の鎧殻のお披露目があるようだ、あれが今回の目玉商品らしいからな」

 言いながら歩く唯牙は目立たない様に静かにフロアの隅へ向かった。その後ろを美味しそうな料理に目を奪われている二人がついてくる。

「こういうパーティーなんて言うんだっけ? えっと・・・ バッハ?」

「ビュッフェ! とりあえずもう少しで目的の物を確認できるから、目立つなよ」

 唯牙は目線でチラッとホールの一番奥を示した。そこには幕の下がった大きなステージがある。

「りょ~かい、でもさ、ちょっとだけあれ食べてきてもいいよね? みーちゃんも食べたいって言ってるよ?」

「うぇ!? わ、わたしはそんなこと言ってないです! 美味しそうだなぁとは思ってましたけど・・・」

 唯牙は一人でフロアの壁にもたれかかって腕を組む。

「程々にな、さっきも言ったが目立たない様に」

「よっしゃぁ! みーちゃん行こ行こ!!」

 凛々奈はみいなの手を引いて歩いていった。一人になった唯牙は煙草を取り出そうとするが流石に禁煙だよなと思い留まった。

 暫くするとプレートに料理を乗せた二人が戻って来た。凛々奈は肉から野菜、魚まで山盛りのプレートを、みいなは野菜メインに肉や魚を軽く添えたプレートを2つ持ってきていた。

「お前・・・ 周りを見ろ、そんな山盛りにしてる奴がいるか? 目立つなの意味分かってるか?」

 呆れた唯牙が顔を手で抑える。

「だって美味しそうだったから!!」

「小学生かお前は・・・・」

 やれやれといった唯牙にみいなは両手に持っていたプレートの片方を差し出した。

「唯牙さんもお仕事の前に少し食べてください! 美味しいですよ!」

 ニコッと唯牙に笑いかける。

「ああ、ありがとうみいなちゃん、ふふ、綺麗に盛り付けたじゃないか」

 渡された料理は色合いも鮮やかに美味しそうに盛り付けられていた。

「えへへ、お料理の本で盛り付け方も勉強中なんですよ!」
 
「みーちゃんお料理好きだもんね~」

 見栄え一切考慮無しの山盛りの料理を食べながら凛々奈は喋っている。

 そして持ってきていた料理を食べ終わり、食器を近くのボーイに渡して片付けた頃。ステージの幕があがった。それから会場の明かりも薄暗くなっていく。するとステージの中央に人影が現れた。

「皆様! 本日はお集まり頂きありがとうございまぁす!!」

 芝居がかった大げさな喋り方。タキシードをきた肩までのショートカットの人物。顔はド派手な蝶の形のマスクを着けている為に隠れているが声からして女性だと思われる。

「何あれ? トラ○プマン?」

「トラ○プマンってなんですか?」

「お前知ってる世代じゃないだろ」

「一時期マジックにハマってネットで見てたのよ」

 三人が喋っているとステージの女が続ける。


「お楽しみの所申し訳ありませんが! 只今から本日の目玉商品である最新兵器! こちらの力の程をご紹介させていただきまぁす!」

 女が手を後ろに伸ばすとドライアイスの白煙がステージの奥から溢れだし、その中から女と同じ派手なマスクを着けた二人のバニーガール姿の少女が大きな台座を押して運んで来た。上には鋼鉄の義手のような物が飾られている。その形は何故かロボットアニメのプラモデルのパーツの様にスタイリッシュな外見をしている。

「・・・・これは」

 唯牙がボソッと漏らす。

「うおー! かっこよ!!」

 その横で目を輝かせる凛々奈。

「・・・・なんかおもちゃみたいです」

 みいなの好みではないようだ。

「やはり見てもらうのが一番でしょう!! 二人共頼んだよぉ!!!」

「「はーい!!」」

 真ん中の女が少女に指示を出すと二人の少女が白手袋をして鎧殻を二人で持ち上げる。するとステージの端にいつのまにかマネキンを最初の女が用意していた。マネキンを固定するとそそくさと二人の少女の後ろに戻る。

「この最新兵器はなんと! 2つの魔法の様な攻撃手段を持っているのです!! まずは一つ目!!」

 言い終わると二人の少女が抱えていた鉄の腕の掌が開き黄色く輝きだす。そして眩しい程に光ると掌から閃光がマネキンに一瞬で放たれバリバリバリバリッと激しい音を立ててマネキンは黒焦げになった。

 その光景を見ていた観客達からおお~!と声が上がる。

「これだけではありません!! さらにぃ!!!」

 言うと今度は鎧殻の掌の前の空気が歪みそこからとてつもない風が巻き起こり黒焦げのマネキンをステージ裏まで吹き飛ばした。余りの風圧に会場で少し料理が溢れてしまっている。

「失礼致しました!! しかし威力の程はご覧になれたかと!! 雷と風! 2つの力を操るこの最新兵器! これさえあれば気に食わないあの組も! 外から来た邪魔なマフィアだろうともう手出しは出来ませんよぉ!! 裏の世界を支配するのはこれを手に入れた貴方です!!」
 
 そんな宣伝文句を大げさに叫ぶと会場内から歓声と共に一千万!! 二千五百!! 三千万!! と目にした力を手にしようと早くも希望金額を叫ぶ輩も現れる。

「申し訳ありません!! オークションの開始はまだもう少し後となりますので!! それでは皆様!! 良いお取引を期待しております・・・」

 そう言う女の左右に先程の少女達がやって来て三人は並んで華麗に頭を下げる。するとステージのカーテンが降り始め三人と鎧殻は見えなくなった。

 会場はまだ今見た物の衝撃でざわつき続けている。

「うおぉぉぉ! センセあれ買って!! 私あれ使いになるわ!!」

 欲しい玩具をねだる子供のような凛々奈の横で、唯牙ははぁ~と大きくため息をついたかと思うとホールの出口に向かって歩き出した。

「帰るぞ」

「ええ!? なんで!? 買ってくれないにしてもあれ壊すか回収するんでしょお!?」

 驚きながら二人は歩く唯牙についていく。

「あれは子供騙しの手品だ」

「手品!? やっぱりトラ○プマン!?」

「トラ○プマンってだれなんですか!?」

「ハンドパワーです!」

 凛々奈がみいなに両手を向けてポーズを決める。

「それは違う奴だろうが、はぁ、厄介事に巻き込まれる前に急ぐぞ」

 ホールを出てエレベーターへ向かう。

「で、手品ってどういう事?」

「お前は気付けよ・・・ あんなダサい鎧殻ある訳ないだろ、雷と風を操ってたのは横の子供二人だ、」

「え?」

「恐らくは、ExSeedのな」

「ま~じぃ?」

「十中八九みいなちゃんが目当てだろうからな、だがあいつらステージの上で私達に気付いていたがあの子達、一度もみいなちゃんを見てなかった・・・どちらかというと凛々奈、お前を意識しているようだったが・・・」

 唯牙は怪訝そうな顔をする。

「え? でもフラムもだったけどあいつらみーちゃんに惹かれる様になってるんじゃないの?」

「だからそこだけ少し気がかりなんだよ」

 ブーッ ブーッ

 エレベーターの前まで来るといきなり唯牙のポケットから音が鳴る。マナーモード中のスマートフォンだった。 唯牙は取り出して画面を確認するとまた大きくため息をつく。

「はぁ、このまま帰らせる訳はないわな」

 画面には非通知の文字が浮かんでいた。
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