45 / 113
白銀ハルと鋼の蝗虫
5-3 潰れたトマトと鋼鉄蝗虫
しおりを挟む
ハルが車を走らせて辿り着いたのは郊外のビルの建設現場。これから合う相手が管理しているらしく、人払いは済んでいるとの事だった。
今回ハルは相手からとあるデータを貰う事になっている。それは最近裏の界隈で特殊な武装、鎧殻が出回っている事についてだ。しかし出回っている者は以前に凛々奈が戦った物と比べるとその足元にも及ばない粗悪品、劣化版。さしづめ鎧殻もどきといった所の物だった。
しかし出回る量が多すぎるととんでもない大事に繋がる可能性もあるという事で、唯牙とハルは鎧殻もどきの出処を探っていた。
「いい情報だといいんだけどねぇ」
ハルは車から降りてロングコートを羽織る。今回の相手は顔見知りで信頼できる相手だったので顔を隠すマスクは必要無かった。準備をして車のドアを閉めたその時。
「あらあら~ これは・・・」
ハルはスンスンと鼻を鳴らした。
「今日は早く帰りたかったんだけどなぁ」
血と、鉄と火薬の匂い。
風に靡くコートを揺らし。ハルは建設現場へと向かった。
◆
建設現場の中は鉄骨が無機質に遥か上空まで組み上げられている。それはまるで巨大なジャングルジムの様だった。
そのジャングルジムの中央あたりまで来ると血溜まりの中に何人かの男の死体。その中の一人はハルの知る顔。今夜取引をする筈だった相手。
「ごめんなさいね、多分ご指名は私だわ・・・」
少し顔を曇らせてハルは俯く。その時。
バガァン!
激しい衝撃音、咄嗟に音の方を見ると何か大きな物が向かって来ていた。
「ツッ」
後ろに飛び退いて飛来した物を回避すると。
ドグチャァ!
それは地面に当たると、潰れて赤い液体と肉片をバラまいた。
人間の男、死んでいたのか生きていたのかも分からない。
「ひどいわね・・・」
あまりにも悲惨な光景にハルは顔をしかめる。そして男が飛んできた方向から声が響いた。
「アッハッハッハッハ! 見つけたぞオクト!!」
声の方を見上げる。数10m上の鉄骨、そこには月明かりに照らされた男が一人。短髪の男、タンクトップを着ている筋肉質な上半身。そして男の太腿から下は鋼鉄に覆われていた。それは蝗虫のように逆関節になり、自らの胴体程太い、異様なシルエットを浮かべていた。
「私に何か用かしら? バッタさん?」
異様な光景にもハルは動じていない様で薄ら笑いで男の見上げた。
「コイツッ!! 忘れたとはいわせねぇぞ!!」
その言葉に男は激昂し何かを足元から拾いあげた。男だ、周りに散らばっている男達と同じ黒服の。
「死ねオラァ!」
持ち上げていた男を目の前に放り投げると鉄の足の男は異形の足でそれを蹴り飛ばす。
バガァン!
さっきと同じ音が響き、人間が撃ちだされた。
「ちょっと! 貴方ね!」
受け止める訳にもいかないハルはソレを回避する。そしてまた。
ドグチャア!
最悪な音と共に、潰れたトマトの様な赤い何かが地面を赤く染める。
「お前のせいで俺の全部はめちゃくちゃなんだよぉ!!!!」
喉が潰れそうな程の声が夜空まで響く。
「あ~その声で思い出したわ、貴方あの時の裏切り者君か」
ハルは思い出した。以前この国の極道と別の国のマフィアで抗争があった事。極道の中から裏切り者が出て身内を全員、金で売った男がいた事を。
「仲間を売った裏切り者なんて恨まれて当然でしょ~ なに? 逃亡生活でオカシクなった? 番場亮平《バンバ リョウヘイ》クン?」
そして極道側の穏健派から抗争の調停を唯牙と共に頼まれた事。裏切り者、番場亮平の事を突き止めて報告した事を。
「ちなみに、君が仲間を売って誘き寄せた先でマフィアが一網打尽にする作戦はね~ 私達が介入して死人ゼロで平和に終わらせてあげたわよ」
「知ってるよ!! テメェが居なけりゃあ俺は死んだ事になって金貰って何もかも上手く行く筈だったのによぉお!」
目を血走らせて両手で髪を掻きむしる。
「それで? 私に復讐する為にそんな足になったわけ?」
明らかに自分の命を狙っている復讐者を前に、ハルの表情は崩れない。
「ケヒヒッ! 自前のは組の追手に潰されちまって無くなっちまってなぁ~」
自嘲気味に笑って男は動きを止める。
「まあそいつらもこの足でそこの奴らみたいにぶっ潰してやったけどなあ!!」
ヒャヒャヒャヒャヒャヒャと下品な笑い声をあげる。
「次はお前だぜぇ、気持ちよぉ~く俺に潰されてスッキリさせてくれやぁ!!」
今回ハルは相手からとあるデータを貰う事になっている。それは最近裏の界隈で特殊な武装、鎧殻が出回っている事についてだ。しかし出回っている者は以前に凛々奈が戦った物と比べるとその足元にも及ばない粗悪品、劣化版。さしづめ鎧殻もどきといった所の物だった。
しかし出回る量が多すぎるととんでもない大事に繋がる可能性もあるという事で、唯牙とハルは鎧殻もどきの出処を探っていた。
「いい情報だといいんだけどねぇ」
ハルは車から降りてロングコートを羽織る。今回の相手は顔見知りで信頼できる相手だったので顔を隠すマスクは必要無かった。準備をして車のドアを閉めたその時。
「あらあら~ これは・・・」
ハルはスンスンと鼻を鳴らした。
「今日は早く帰りたかったんだけどなぁ」
血と、鉄と火薬の匂い。
風に靡くコートを揺らし。ハルは建設現場へと向かった。
◆
建設現場の中は鉄骨が無機質に遥か上空まで組み上げられている。それはまるで巨大なジャングルジムの様だった。
そのジャングルジムの中央あたりまで来ると血溜まりの中に何人かの男の死体。その中の一人はハルの知る顔。今夜取引をする筈だった相手。
「ごめんなさいね、多分ご指名は私だわ・・・」
少し顔を曇らせてハルは俯く。その時。
バガァン!
激しい衝撃音、咄嗟に音の方を見ると何か大きな物が向かって来ていた。
「ツッ」
後ろに飛び退いて飛来した物を回避すると。
ドグチャァ!
それは地面に当たると、潰れて赤い液体と肉片をバラまいた。
人間の男、死んでいたのか生きていたのかも分からない。
「ひどいわね・・・」
あまりにも悲惨な光景にハルは顔をしかめる。そして男が飛んできた方向から声が響いた。
「アッハッハッハッハ! 見つけたぞオクト!!」
声の方を見上げる。数10m上の鉄骨、そこには月明かりに照らされた男が一人。短髪の男、タンクトップを着ている筋肉質な上半身。そして男の太腿から下は鋼鉄に覆われていた。それは蝗虫のように逆関節になり、自らの胴体程太い、異様なシルエットを浮かべていた。
「私に何か用かしら? バッタさん?」
異様な光景にもハルは動じていない様で薄ら笑いで男の見上げた。
「コイツッ!! 忘れたとはいわせねぇぞ!!」
その言葉に男は激昂し何かを足元から拾いあげた。男だ、周りに散らばっている男達と同じ黒服の。
「死ねオラァ!」
持ち上げていた男を目の前に放り投げると鉄の足の男は異形の足でそれを蹴り飛ばす。
バガァン!
さっきと同じ音が響き、人間が撃ちだされた。
「ちょっと! 貴方ね!」
受け止める訳にもいかないハルはソレを回避する。そしてまた。
ドグチャア!
最悪な音と共に、潰れたトマトの様な赤い何かが地面を赤く染める。
「お前のせいで俺の全部はめちゃくちゃなんだよぉ!!!!」
喉が潰れそうな程の声が夜空まで響く。
「あ~その声で思い出したわ、貴方あの時の裏切り者君か」
ハルは思い出した。以前この国の極道と別の国のマフィアで抗争があった事。極道の中から裏切り者が出て身内を全員、金で売った男がいた事を。
「仲間を売った裏切り者なんて恨まれて当然でしょ~ なに? 逃亡生活でオカシクなった? 番場亮平《バンバ リョウヘイ》クン?」
そして極道側の穏健派から抗争の調停を唯牙と共に頼まれた事。裏切り者、番場亮平の事を突き止めて報告した事を。
「ちなみに、君が仲間を売って誘き寄せた先でマフィアが一網打尽にする作戦はね~ 私達が介入して死人ゼロで平和に終わらせてあげたわよ」
「知ってるよ!! テメェが居なけりゃあ俺は死んだ事になって金貰って何もかも上手く行く筈だったのによぉお!」
目を血走らせて両手で髪を掻きむしる。
「それで? 私に復讐する為にそんな足になったわけ?」
明らかに自分の命を狙っている復讐者を前に、ハルの表情は崩れない。
「ケヒヒッ! 自前のは組の追手に潰されちまって無くなっちまってなぁ~」
自嘲気味に笑って男は動きを止める。
「まあそいつらもこの足でそこの奴らみたいにぶっ潰してやったけどなあ!!」
ヒャヒャヒャヒャヒャヒャと下品な笑い声をあげる。
「次はお前だぜぇ、気持ちよぉ~く俺に潰されてスッキリさせてくれやぁ!!」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる