悪役の私と始の湖

神楽

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悪役の私

気付かないで……でも、気付いて *

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 私はルセリナ。いや本当の名前は違う。けど何年か前から異世界転生ってやつで、ファンタジーな世界のお屋敷のメイドになった。まあいい。元の世界に未練はない。だってあっちの世界は何かと競争社会で息苦しくて忙しくて自分の居場所なんてどこにも無いんだから。

「ああ~よく寝た」

 今日はぽかぽかいいお天気。絶好の昼寝日和。メイドの私は洗濯干しがてら、ちょっと昼寝をさせてもらった。大丈夫、お屋敷と言ってもそんなに大きなお屋敷じゃない。メイドも私ともう一人。最近入った新人のアリスちゃんだけ。

「ルセリナ先輩、見つかったら怒られますよ」
「大丈夫。やる事はちゃんとやってるから」
「もう……」

 監視の目も行き届かない。程よく仕事が出来る環境。超絶ホワイト企業バンザイ。

「あ、そう言えば今日はパーティだっけ。下ごしらえ忘れてた。まあ、今から適当に急げばなんとかなるか」
「私がやっておきましたよ」
「流石アリスちゃん、天才」

 このアリスちゃんってのがまた有能でなんでも出来る。噂によると借金返済のためにやって来た子だとかなんとか。何にせよ、ご主人様も良い拾いものをしたもんだ。

「じゃあそろそろお屋敷に戻ろうか」
「そうですね。あっ」

 アリスちゃんが動きを止めた。
 見つめる先には一人の男。この屋敷のお坊ちゃん、レイズ様だ。

「相変わらず顔だけは無駄に良いことで」
「き、聞こえますよ」
「大丈夫。この距離だし聞こえないって」

 顔だけが良いって言ったのは、彼の性格が死ぬほど悪いからだ。世に言う悪役令嬢ならぬ悪役令息。いつも周りに美少女を侍らせて、自分では何もしない、弱い奴は死ぬほど馬鹿にする、そのくせ目上の人間には饒舌にこびへつらう。他にも悪いところを挙げろと言われたらきりがない。
 まあ、そんな相手とは極力関わらないのが精神衛生上よいので、私は関わらないんだけど。

「アリスちゃんアイツ苦手だよね」
「え、ええ。ちょっと」

 上手いこと適当な理由ではぐらかして奴と関わらない私とは違って、アリスちゃんは正直で大人しい性格だからかアイツに絡まれることも多い。

「大丈夫。そういう奴は変なところでミスって、最終的には国外追放されちゃうから」
「?」

 うん、言ってる意味分からないよね。

「じゃ、戻ろうか。今日のごちそう、余ったら持ち帰っていいよね!」
「えっ」
「大丈夫。どうせ捨てちゃうし、ばれないばれない」

 そのために身に付けた防腐処理魔法と異空間の収納魔法だ。

「それに今日パーティだしな。ビンゴ大会とかあるかな、豪華賞品が当たるやつ」
「私達はメイドだし参加出来ないんじゃ」
「変装すれば大丈夫だって」

 そのために身に付けた偽装魔法だ。


 まあ、こんな感じで私の人生は程々に上手くやっている。
 だからこの物語は追放とか自業自得とかそんなものは一切存在しない。大丈夫。
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