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運命じゃなくても
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なぜ愛し合っているわけでもない二人が結婚することになったのか。
事の発端は二十三年前、つまりは二人、いや四人が生まれた頃まで遡る。
草太の生まれた津守家と伊織の生家である綿貫家は、曽祖父の代からずっと家族絡みで親交が深かった。
特に祖父同士は七十年来の親友であり、隠居してからは二人で将棋を指すのが日課だった。
そんな二人が普通に指してもつまらないからと、「お互いの孫が生まれたら勝ったほうの家に嫁がせる」なんて馬鹿げた勝負をしたのが始まりだった。
結果として勝負は綿貫家の勝ちに終わり、その五年後に両家に双子の男の子が生まれた。
俺たち四人を見た祖父の第一声はこうだ。
「男同士じゃあ嫁ぐもなにもないな。もし仮に、この子たちがオメガでお前さんとこの子がアルファなら約束通り嫁がせよう」
人の人生をなにを勝手に決めているんだという話ではあるが、祖父同士の悪ふざけはなぜか両家の間の絶対的な取り決めのようになり、0歳にして草太には許嫁ができた。
ちなみに、草太が嫁候補に選ばれた理由は双子の兄だから、という一点のみだ。
そして草太の旦那候補も同じく双子の兄だから、という理由で、伊織の兄である伊吹(いぶき)が選ばれた。
「僕がアルファでそうちゃんがオメガだったら、僕たちは結婚するんだよ」
「あるふぁとおめがってなに?」
「んー、特別な人同士って意味だよ」
まだ物心ついたばかりの頃、何もわからない草太に伊吹が教えてくれた。
その日からずっと、草太は伊吹のことが好きで、いつか伊吹の特別な人になりたいと願い続けてきた。
けれど神様は残酷だった。
「俺はアルファだったよ。草太は?」
中学一年生になると同時に学年全員で受けたバース検査。
その結果、伊吹と伊織は二人ともアルファだった。
そして、草太の弟である蒼空(そら)はオメガだった。二卵性双生児とはいえ、同じ双子なのだから自分もきっとオメガだ。
そう信じていた草太の希望を打ち砕くようにして、診断書には"β"の文字が記されていた。
「ごめんいっくん、俺ベータだった」
「泣かないで草太。草太は何も悪くないよ」
しくしくと涙を流す草太の肩を抱き、伊吹は優しく慰めてくれた。
その言葉に甘えてしばらく泣き続けたあと、気を取り直して自分の両親に結果報告をしに行くことにした。
リビングでお茶を飲みながら談笑していた両親は、息子の話を聞いてもさほど驚いた様子もなく、「まあそりゃそうだよね」と呟いただけだった。
「驚かないの?」
「なんとなくそうかなって思ってたから。ほら私もお父さんも両方ベータだし、草太は私に似てどこにでもいるふっつ~の顔してるでしょ? だからベータだろうなって」
「そっか……」
「まぁでも、蒼空は昔から綺麗な顔してて体も弱かったから、オメガなのかなってちょっと思ってたのよねぇ。ベータからもオメガが生まれることってやっぱりあるのね。でもこれでおじいちゃんも心残りなく天国に行けるわね」
「……どういう意味?」
「ん? 伊吹君アルファだったんでしょ? なら、オメガの蒼空と伊吹君が結婚すればおじいちゃんの遺言を守れるじゃない。まったく、勝手に人の息子使って賭けするなんて嫌なおじいちゃんよね~」
母は楽しそうに笑っていたが、草太はショックでそれどころではなかった。
──伊吹が俺以外の人と結婚する。
その事実に目の前が真っ暗になった。
そこに追い打ちをかけるようにして、翌日伊吹と蒼空が付き合ったという噂が校内を駆け巡った。
突然のことに動揺する草太の前に、伊吹に肩を抱かれた蒼空が現れた。
「ごめんね草太。でも伊吹も草太より僕の方がいいって」
「そんな……いっくん、本当なの?」
「……ごめん、草太はいつも元気で明るくて俺がいなくても平気だろ? でも蒼空はか弱くて可愛らしくて、俺が守ってあげなきゃって思ったんだ」
あの瞬間の絶望は今でも覚えている。
十年近く信じてきたものが一気に崩れ去ったのだ。
この日草太は一生分くらいの涙を流した。翌日パンパンに目を腫らして登校した草太を同級生たちが笑ったが、伊吹だけは居た堪れないものを見る目をしていた。
それから数年の時が流れ、大学卒業を目前に控えたある日、伊吹と蒼空が両家に結婚の挨拶をした。
その晩、草太は再び目がパンパンに腫れ上がるまで泣いた。
事件はその翌日に起こった。
「蒼空! 俺と番になるって約束してくれたのに他の男と結婚するのかよ!」
「はぁ!? 蒼空は俺と結婚して番になるんだよ! 将来は俺の子を五人は産みたいって言ってたんだぞ!」
「何言ってんだよ! 蒼空は俺のもんだ! ストーカーに追いかけ回されてるって怖がってたけどお前たちのことかよ!」
なんと、蒼空の恋人を名乗る男たちが乗り込んできたのだ。
蒼空はシラを切り通していたが、伊吹はかなりのショックを受けてしまい、二人の結婚は白紙に戻された。
そこで困ったのが両家の親で、祖父の遺言を守れないことを気に病んだ。
そんな時、鶴の一声のようにして伊織が言ったのだ。
「なら俺と草太が結婚する。家は伊吹が継ぐんだし、俺たちの間に子供が生まれなくても問題ないだろ」
親戚一同が集まった場での突然の宣言に、誰もが耳を疑った。
無論、一番信じられなかったのは草太だ。
優しく真面目な伊吹と違い、伊織は小さい頃から何かにつけて草太をいじめてきた意地悪な男だ。
蒼空に対しては一切ちょっかいをかけないものだから、てっきり草太が特別嫌われているのだとばかり思っていた。
「ま、待って伊織。伊織は俺と結婚できるの?」
「……別に、形だけなんだから誰とでもできるよ」
「……そっか」
「そっちこそどうなんだよ」
「え?」
「昔っからいっつも伊吹伊吹って、アイツのことばっかだったじゃん。伊吹以外の奴と結婚できんのかよ」
なぜだか責めるような口調だったことをよく覚えている。
その時自分がなんと答えたかははっきりとは覚えていないが、酒に酔っていたこともあって「できるよ!」と啖呵を切っていたような気がする。
酒の席での冗談のようなものだと思っていたが、大人たちはそうはとらえなかった。
「アルファとベータだなんて珍しい組み合わせだけど、二人がいいならそれでいいわよね」
「そうだな。よし、二人の婚約を祝してカンパーイ!」
今思えば、あの場にいた全員しこたま酒を飲んで悪酔いしていたのだ。
こうして、双方の合意の元、草太と伊織は大学卒業を機に結婚することになった。
迎えた結婚式当日。
「……最悪」
朝起きて、鏡を見た第一感想がこれである。
寝癖でボサついた髪も、少し腫れた瞼も、何もかもが情けない。
昨夜はなかなか眠れず、結局一睡もできなかった。
「……やっぱ夢じゃないよな」
恐る恐る左手薬指にはめられた指輪に触れる。
大きなダイヤの輝くシルバーの指輪は、間違いなく婚約指輪だった。
おふざけでこんな高価な物を買えるはずがない。
ということはつまり、この結婚話は本気だということで……。
「なんで……」
草太は思わず頭を抱えた。
昔からずっと伊吹が好きだった。けれど伊吹には蒼空がいて、自分に勝ち目はないと諦めていた。それが突然の結婚話。
まだ伊吹への未練はある。そのせいか、伊織との結婚を素直に喜べない自分がいた。
そんな複雑な気持ちのまま身支度を整え、親族の待つ式会場へ向かった。
伊織と顔を合わせるのは昨晩ぶりだった。神前式の衣装に身を包み、顔に白粉を塗った草太を伊織がじっと見つめている。
(絶対似合わねぇって腹の中でバカにしてるんだ。似合ってないことくらい俺が一番わかってるよ)
恥ずかしさやら惨めさやらで涙が滲んだ。
「真心をもって信じ合える伴侶に出会えましたことを心から喜び、良い家庭を築いていきます」
隣で誓詞奏上を読み上げる伊織の横顔を見つめて、顔だけは文句なしでカッコいいな、なんて失礼なことを思った。
それが今から三ヶ月前の話。
それからの新婚生活は、はっきり言って甘さとはかけ離れた日々だった。
第一に伊織は結婚してからも草太に対してだけ意地悪だった。
第二に無駄に顔のいい伊織はとにかくモテた。本人もそのことを自覚していて、草太の勘では結婚してからも遊び歩いているようだった。
第三に二人の間には未来もなければ生産性もなかった。
ベータの草太ではどう頑張っても子供は産めない。アルファの伊織と番になることもできない。
いつかきっと、伊織の前に運命の番が現れて二人の関係は終わるのだ。
そうなる前に、この不毛な関係を終わらせたかった。
その思いは日に日に強くなっていき、ついにはネットの掲示板に"【急募】夫と離婚する方法"なんてスレッドを立てる始末だった。
「何やってんだろ俺……」
パソコンのディスプレイの前で深いため息をつく。
今日は伊織の帰りが遅い日なので、こうして自室で好きなように時間を使うことができる。
結婚してからというもの、こうして家で一人でいる時間が一番苦痛だった。物寂しい家にいると、自分が愛されていないことを嫌でも痛感させられるからだ。
なんなら伊織に悪口を言われている時間の方がいいとすら思えるのだから大分末期だと思う。
「はあ~、俺ってめんどくさ」
女々しい自分にため息をついた時、一人愚痴大会と化していたスレッドに新着の書き込みがあった。
「え~と、初めまして崖っぷち主夫さん。過去のスレッドも拝見しましたが、ご主人との関係に悩まれているようですごく心配です。もしよろしければ俺が話し相手になりますよ。……すごい、いい人そうな人だ」
こういったスレッドの住民にしては珍しく、礼儀正しく優しそうな雰囲気が好印象だった。
いっときの気まぐれかもしれないが、純粋な気遣いが嬉しかった。
草太も相手に合わせて丁寧な文章で返事をする。"こんぺいとう"と名乗ったその人とのやり取りは弾み、気づけば毎日のように連絡を取り合う仲になっていた。
事の発端は二十三年前、つまりは二人、いや四人が生まれた頃まで遡る。
草太の生まれた津守家と伊織の生家である綿貫家は、曽祖父の代からずっと家族絡みで親交が深かった。
特に祖父同士は七十年来の親友であり、隠居してからは二人で将棋を指すのが日課だった。
そんな二人が普通に指してもつまらないからと、「お互いの孫が生まれたら勝ったほうの家に嫁がせる」なんて馬鹿げた勝負をしたのが始まりだった。
結果として勝負は綿貫家の勝ちに終わり、その五年後に両家に双子の男の子が生まれた。
俺たち四人を見た祖父の第一声はこうだ。
「男同士じゃあ嫁ぐもなにもないな。もし仮に、この子たちがオメガでお前さんとこの子がアルファなら約束通り嫁がせよう」
人の人生をなにを勝手に決めているんだという話ではあるが、祖父同士の悪ふざけはなぜか両家の間の絶対的な取り決めのようになり、0歳にして草太には許嫁ができた。
ちなみに、草太が嫁候補に選ばれた理由は双子の兄だから、という一点のみだ。
そして草太の旦那候補も同じく双子の兄だから、という理由で、伊織の兄である伊吹(いぶき)が選ばれた。
「僕がアルファでそうちゃんがオメガだったら、僕たちは結婚するんだよ」
「あるふぁとおめがってなに?」
「んー、特別な人同士って意味だよ」
まだ物心ついたばかりの頃、何もわからない草太に伊吹が教えてくれた。
その日からずっと、草太は伊吹のことが好きで、いつか伊吹の特別な人になりたいと願い続けてきた。
けれど神様は残酷だった。
「俺はアルファだったよ。草太は?」
中学一年生になると同時に学年全員で受けたバース検査。
その結果、伊吹と伊織は二人ともアルファだった。
そして、草太の弟である蒼空(そら)はオメガだった。二卵性双生児とはいえ、同じ双子なのだから自分もきっとオメガだ。
そう信じていた草太の希望を打ち砕くようにして、診断書には"β"の文字が記されていた。
「ごめんいっくん、俺ベータだった」
「泣かないで草太。草太は何も悪くないよ」
しくしくと涙を流す草太の肩を抱き、伊吹は優しく慰めてくれた。
その言葉に甘えてしばらく泣き続けたあと、気を取り直して自分の両親に結果報告をしに行くことにした。
リビングでお茶を飲みながら談笑していた両親は、息子の話を聞いてもさほど驚いた様子もなく、「まあそりゃそうだよね」と呟いただけだった。
「驚かないの?」
「なんとなくそうかなって思ってたから。ほら私もお父さんも両方ベータだし、草太は私に似てどこにでもいるふっつ~の顔してるでしょ? だからベータだろうなって」
「そっか……」
「まぁでも、蒼空は昔から綺麗な顔してて体も弱かったから、オメガなのかなってちょっと思ってたのよねぇ。ベータからもオメガが生まれることってやっぱりあるのね。でもこれでおじいちゃんも心残りなく天国に行けるわね」
「……どういう意味?」
「ん? 伊吹君アルファだったんでしょ? なら、オメガの蒼空と伊吹君が結婚すればおじいちゃんの遺言を守れるじゃない。まったく、勝手に人の息子使って賭けするなんて嫌なおじいちゃんよね~」
母は楽しそうに笑っていたが、草太はショックでそれどころではなかった。
──伊吹が俺以外の人と結婚する。
その事実に目の前が真っ暗になった。
そこに追い打ちをかけるようにして、翌日伊吹と蒼空が付き合ったという噂が校内を駆け巡った。
突然のことに動揺する草太の前に、伊吹に肩を抱かれた蒼空が現れた。
「ごめんね草太。でも伊吹も草太より僕の方がいいって」
「そんな……いっくん、本当なの?」
「……ごめん、草太はいつも元気で明るくて俺がいなくても平気だろ? でも蒼空はか弱くて可愛らしくて、俺が守ってあげなきゃって思ったんだ」
あの瞬間の絶望は今でも覚えている。
十年近く信じてきたものが一気に崩れ去ったのだ。
この日草太は一生分くらいの涙を流した。翌日パンパンに目を腫らして登校した草太を同級生たちが笑ったが、伊吹だけは居た堪れないものを見る目をしていた。
それから数年の時が流れ、大学卒業を目前に控えたある日、伊吹と蒼空が両家に結婚の挨拶をした。
その晩、草太は再び目がパンパンに腫れ上がるまで泣いた。
事件はその翌日に起こった。
「蒼空! 俺と番になるって約束してくれたのに他の男と結婚するのかよ!」
「はぁ!? 蒼空は俺と結婚して番になるんだよ! 将来は俺の子を五人は産みたいって言ってたんだぞ!」
「何言ってんだよ! 蒼空は俺のもんだ! ストーカーに追いかけ回されてるって怖がってたけどお前たちのことかよ!」
なんと、蒼空の恋人を名乗る男たちが乗り込んできたのだ。
蒼空はシラを切り通していたが、伊吹はかなりのショックを受けてしまい、二人の結婚は白紙に戻された。
そこで困ったのが両家の親で、祖父の遺言を守れないことを気に病んだ。
そんな時、鶴の一声のようにして伊織が言ったのだ。
「なら俺と草太が結婚する。家は伊吹が継ぐんだし、俺たちの間に子供が生まれなくても問題ないだろ」
親戚一同が集まった場での突然の宣言に、誰もが耳を疑った。
無論、一番信じられなかったのは草太だ。
優しく真面目な伊吹と違い、伊織は小さい頃から何かにつけて草太をいじめてきた意地悪な男だ。
蒼空に対しては一切ちょっかいをかけないものだから、てっきり草太が特別嫌われているのだとばかり思っていた。
「ま、待って伊織。伊織は俺と結婚できるの?」
「……別に、形だけなんだから誰とでもできるよ」
「……そっか」
「そっちこそどうなんだよ」
「え?」
「昔っからいっつも伊吹伊吹って、アイツのことばっかだったじゃん。伊吹以外の奴と結婚できんのかよ」
なぜだか責めるような口調だったことをよく覚えている。
その時自分がなんと答えたかははっきりとは覚えていないが、酒に酔っていたこともあって「できるよ!」と啖呵を切っていたような気がする。
酒の席での冗談のようなものだと思っていたが、大人たちはそうはとらえなかった。
「アルファとベータだなんて珍しい組み合わせだけど、二人がいいならそれでいいわよね」
「そうだな。よし、二人の婚約を祝してカンパーイ!」
今思えば、あの場にいた全員しこたま酒を飲んで悪酔いしていたのだ。
こうして、双方の合意の元、草太と伊織は大学卒業を機に結婚することになった。
迎えた結婚式当日。
「……最悪」
朝起きて、鏡を見た第一感想がこれである。
寝癖でボサついた髪も、少し腫れた瞼も、何もかもが情けない。
昨夜はなかなか眠れず、結局一睡もできなかった。
「……やっぱ夢じゃないよな」
恐る恐る左手薬指にはめられた指輪に触れる。
大きなダイヤの輝くシルバーの指輪は、間違いなく婚約指輪だった。
おふざけでこんな高価な物を買えるはずがない。
ということはつまり、この結婚話は本気だということで……。
「なんで……」
草太は思わず頭を抱えた。
昔からずっと伊吹が好きだった。けれど伊吹には蒼空がいて、自分に勝ち目はないと諦めていた。それが突然の結婚話。
まだ伊吹への未練はある。そのせいか、伊織との結婚を素直に喜べない自分がいた。
そんな複雑な気持ちのまま身支度を整え、親族の待つ式会場へ向かった。
伊織と顔を合わせるのは昨晩ぶりだった。神前式の衣装に身を包み、顔に白粉を塗った草太を伊織がじっと見つめている。
(絶対似合わねぇって腹の中でバカにしてるんだ。似合ってないことくらい俺が一番わかってるよ)
恥ずかしさやら惨めさやらで涙が滲んだ。
「真心をもって信じ合える伴侶に出会えましたことを心から喜び、良い家庭を築いていきます」
隣で誓詞奏上を読み上げる伊織の横顔を見つめて、顔だけは文句なしでカッコいいな、なんて失礼なことを思った。
それが今から三ヶ月前の話。
それからの新婚生活は、はっきり言って甘さとはかけ離れた日々だった。
第一に伊織は結婚してからも草太に対してだけ意地悪だった。
第二に無駄に顔のいい伊織はとにかくモテた。本人もそのことを自覚していて、草太の勘では結婚してからも遊び歩いているようだった。
第三に二人の間には未来もなければ生産性もなかった。
ベータの草太ではどう頑張っても子供は産めない。アルファの伊織と番になることもできない。
いつかきっと、伊織の前に運命の番が現れて二人の関係は終わるのだ。
そうなる前に、この不毛な関係を終わらせたかった。
その思いは日に日に強くなっていき、ついにはネットの掲示板に"【急募】夫と離婚する方法"なんてスレッドを立てる始末だった。
「何やってんだろ俺……」
パソコンのディスプレイの前で深いため息をつく。
今日は伊織の帰りが遅い日なので、こうして自室で好きなように時間を使うことができる。
結婚してからというもの、こうして家で一人でいる時間が一番苦痛だった。物寂しい家にいると、自分が愛されていないことを嫌でも痛感させられるからだ。
なんなら伊織に悪口を言われている時間の方がいいとすら思えるのだから大分末期だと思う。
「はあ~、俺ってめんどくさ」
女々しい自分にため息をついた時、一人愚痴大会と化していたスレッドに新着の書き込みがあった。
「え~と、初めまして崖っぷち主夫さん。過去のスレッドも拝見しましたが、ご主人との関係に悩まれているようですごく心配です。もしよろしければ俺が話し相手になりますよ。……すごい、いい人そうな人だ」
こういったスレッドの住民にしては珍しく、礼儀正しく優しそうな雰囲気が好印象だった。
いっときの気まぐれかもしれないが、純粋な気遣いが嬉しかった。
草太も相手に合わせて丁寧な文章で返事をする。"こんぺいとう"と名乗ったその人とのやり取りは弾み、気づけば毎日のように連絡を取り合う仲になっていた。
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