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たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは また別のおはなし。
その17
しおりを挟むゼンダさんが詳しい話を聞きにくる日が決まって、クロモとお姉さんとで話を詰めていく。
わたしはやっぱり難しい話は分かんないから、横でレースを編みながら分かる話題の時だけ口を挟む。
「そういえば、妹ちゃんの世界が見つかったんですって?」
お姉さんがちょっと複雑な顔をしてわたしに話かけてきた。
「一応見つかったんですけど、まだ詳しい場所の特定が出来てないらしいです」
わたしの言葉に同意してクロモが頷く。
「だが近い内にある程度絞れるだろう」
クロモの言葉に、また胸がぎゅっと痛くなる。
帰れるのは嬉しい。でもクロモと離れたくない。
クロモのほうはどう思ってるんだろう。少しは淋しいと思ってくれてるんだろうか。
「でももしちゃんと分かったとしても、すぐには帰らないでしょう? お姫様の身代わりもしなければならないのだし」
お姉さんに言われて思い出した。そうだよね。お姫様の事ちゃんとしないと、クロモが困るよね。
「そうだな。それもどうにかしないと……」
クロモも眉をしかめ、考えている。
「と、とりあえず一つずつ考えよう。今はレースの件。ゼンダさんが来るまでにちゃんと考えとかなきゃでしょ」
わたしはあんまり役には立たないけど、だからってほっとく訳にもいかない。
「そうだな。さっきの件だが……」
再びお姉さんとクロモは話し始めた。
この世界でレースばっかり編んでたおかげでわたしの編む手も早くなった。最初の頃の倍は早く編めるようになったんじゃないかなぁ。
それに以前は目数を間違えないように必死で、他の人が話してるのを聞いてる余裕なんてなかったけど、今はそれなりに話も聞く余裕がある。
もちろんあんまり話のほうに意識がいっちゃうと、目数間違ったりしちゃうんだけど。
「とりあえずこの話をゼンダさんにしてもらって、あとは王様の反応待ちってところかしら」
お姉さんはそう言って目の前にあったお茶を口に運んだ。
「もし城への呼び出しがあった時には同行を頼む」
クロモのこの言葉は、もちろんわたしではなくお姉さんに向けたもの。
「それは良いけれど、その時妹ちゃんは一人でお留守番させるの?」
これまでだって一人で留守番したことあるのに、どうしてお姉さん急にそんなこと言い出すんだろう。
そう思って、もしかしてこの間のシオハさんの件で心配してくれてるのかなって気がついた。
「大丈夫です。クロモが防犯の魔法かけてくれるし、お客様が来ても居留守使っちゃいます」
シオハさんが来ても、もう出ない。クロモがもう来ないでくれって言ってくれたから、来ないと思うし。
「家の中の気配も外に伝わらないようにしておこう」
居留守使ってるってバレないようにとクロモが気を使ってくれる。
優しいクロモ。
もうすぐわたしの世界の、わたしの住む街が見つかるだろう。その時、身代わりの問題が解決したら、どうしよう。
帰りたい。けどクロモとさよならしたくない。
わたしに魔法が使えたら、ここと自分の世界を行ったり来たり出来たのかな? クロモにお願いすれば、たまにはこっちに遊びに来られるかな。
「どうした? やはり不安か?」
つい考え込んで黙っていたわたしをクロモが心配してくれる。
「ううん。大丈夫。クロモが魔法かけていってくれるんならなんの心配もないよ」
にっこり笑ってわたしは誤魔化した。
ゼンダさんが来る日は、朝早くからお姉さんとお義兄さんもウチに来てくれていた。
「もしかして緊張してる? 大丈夫よ、クロモちゃんに任せておけば」
お姉さんはそう言って笑っているけど。
「ゼンダさんに会うのは久しぶりですし、色々細かい事訊かれたらボロが出そうで……」
心配するわたしの頭に、クロモがポンと手を乗せた。
「君は何もしなくていい」
わたしを安心させる笑顔に、コクンと頷いてみせた。
ゼンダさんが来るのはお昼前の予定。とはいえこの世界には、時計なんてない。もしかしたらあるのかもしれないけど、ここにはない。
だから思っていたより早く人の来る気配がしても、特に不審には思わなかった。
玄関扉をノックする音がする。クロモもお姉さんもお義兄さんもいたけど、クロモはここの主人だしお姉さんお義兄さんはお客様だから、ゼンダさんを迎えに出るのは主婦のはずのわたしだろうと思って、玄関に行った。
扉を開けて「いらっしゃい」と言おうとしたところでようやく、そこに居るのがゼンダさんじゃないことに気がついた。
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