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たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは また別のおはなし。

その4

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 すぐに済むという言葉通り、そんなに時間を掛けずクロモは仕事を終わらせた。

「退屈ではなかったか?」

 そうクロモは訊いてくれたけど。

「退屈する暇もなかったよ」

 本当にそれくらいあっという間に、クロモは依頼を終わらせてしまった。

 依頼主さんは大喜びで「よろしければ奥様もご一緒に食事でも」とか言ってたけど、依頼料はちゃんと貰ってるからとクロモは断っていた。

「それにしても何回見ても魔方陣ってキレイだよねぇ。キラキラ光ってるのはもちろんだけど、あの繊細なレース模様、うっとりしちゃう。うん、わたしも頑張って早くああいうの編めるようになろう」

 わたしの言葉にクロモは目を細める。

「慌てることはない。さて、せっかく街に来たんだ。どこに行きたい?」

 わたしが久しぶりの外出だからだろう、優先して訊いてくれる。

「んー。せっかくだから色々見て回りたいな。あ、でもクロモ。わたしがちょっといいなってつぶやいたからってそれを買うのはナシだよ。珍しい物たくさんありそうだから、ついつぶやいちゃいそうだけど。本当に欲しいかは別問題だから」

 前もってクギを刺しとく。言っとかないとホントにクロモ、買いかねないもん。

「分かった。だが本当に欲しい物があった時は言ってくれ」

 さすがに何度も繰り返し言ってるから、クロモはすぐに頷いてくれる。良かった。

「うん。本当に欲しい時はちゃんと言うよ。けどクロモと一緒に見て回るだけでも楽しいから」

 わたしの言葉にクロモは嬉しそうに笑った。



 街には色んなものが売っている。さっきみたいにテイクアウトの軽食を売っている店もあれば定食屋さんやレストランのような店も。他にも青果店とかお肉屋さんとか。

 お肉屋さんなんかは大型の動物のお肉専門店と小型の動物のお肉屋さんとに別れている。ちなみに小型の動物のお肉屋さんの方は、生きた動物が店先に並んでる事が多い。だから最初、そこはペットショップだと思ってた。けど、お客さんが購入した途端、店主はその動物を……捌き始めた。

 生きてる動物を殺してお肉にするなんて、残酷でショックだったけど、よくよく考えてみればスーパーに売ってるお肉だって元々は生きていたものだ。眼の前で捌くか遠くで捌くかの違いだ。

 それでも目の前で殺す瞬間を見るのは苦手で、いつもクロモにある程度解体したものを買ってきてもらっている。

 ……つい食べ物関係の事ばかりになっちゃったけど、もちろんその他の商品もたくさんある。

「新しいドレスは見るか?」

 クロモが洋服屋さんを指差す。

 洋服屋さんといっても、わたし達の世界の服屋さんとはちょっと違う。どっちかって言うと、手芸店に近い感じ。

 数着、店先に並んでるし、それが欲しいと言えば売ってくれるけど、基本は店員さんと話をして布を選んだりデザインを選んだりして作ってもらう、いわゆるオーダーメイド。

 もちろんそうなるとお高くなるから、安く済ませたい人は布だけ買って自分で服を縫ってるらしい。

 ミシンなんて無いこの世界で服を縫うなんてきっと大変だろうなと思いつつ、どうしようか迷う。

「えーと。ドレスは特にいらないんだけど、お店の中見るだけ見ても大丈夫かな。自分で服を縫う程の腕はないんだけど、一応手芸部だったりするから布とか糸とか色々見るの、好きだったりするんだよね。悲しいかな腕はついてきてないんだけど。でもそれでもこの世界にどんな布があるのかとか興味あるし。他にも飾りとかボタンとか色々見てみたいかなって」

 そんなわけでクロモと二人、店内に入る。するとすかさず店員さんがわたし達の所にやって来る。

「いらっしゃいませ。本日は何がご入用でしょうか」

 にこにこと笑いながら出てきたのは男性だ。わたしにではなくクロモに向かって話しかけている。あれかな、財布を握ってるのがクロモだからかな。

「とりあえず色々見てみたい。気に入ったものがあったら声を掛ける」

 クロモがそう答えて二人で店内の布やなんか見て回る。その間も店員さんはベッタリとわたしたちの後ろについてきて、目に止めた布や飾りの説明なんかをしてくれる。

 他にお客がいないのもあるけど、もしかしてあれかな? 万引き予防とかでもあるのかな。

 そんな事考えながら店内を見ていると、隅っこのハギレを置いてある棚に目が行った。

「あ、コレ……」

 つい手に取ると、すかさず店員さんが声を上げる。

「ああ、奥様。よく見つけられました。それで作った飾りを身につければ、きっと旦那様も大喜びでございます」

 今までわたしには声をかけなかったのに、くるりとわたしに声をかけてきた。

 店員さんの言ってる意味が分からず、ついクロモを見上げる。するとフードの中のクロモは少し赤くなってるみたいだ。

「おや、違いましたか? 青い石のネックレスをされているので旦那様の瞳の色かと思ったのですが……」

 そう、わたしがつい手に取ってしまったのはクロモの瞳とよく似たキレイな青い布。だけどそれでどうしてクロモが喜ぶのかがよく分からない。

 するとクロモがちょっと困ったように小さな声で教えてくれた。

「この国の男は妻や恋人に自分の髪や瞳の色の小物を身に着けてもらって自分のものだと主張する事があるんだ」

 ……え? それってつまり、「わたし達カップルですー」って公言してるみたいなもの? ええ?

 ボッと顔が赤くなる。いやでも待って、落ち着けわたし。クロモは街中ではフード被ってるんだから髪も瞳もそう簡単には見えないはず。わたしのネックレスだって普段は服の中だから、大丈夫……うん。今日はたまたま、服の外に出してたけど。

 それに考えてみたらわたし達、夫婦のフリしなくちゃなんだから、クロモの色を身に着けててもおかしくはないよね、うん。

「このくらいのハギレなら、小さい髪飾りとか作れるかな」

 つい、口に出す。

「小さな花飾りを作ってドレスにつけるのもよろしいかと……」

 にこり、店員さんも言う。

「うむ。ではそれを貰おう。どうする? 作ってもらうか、自分で作るか」

 尋ねられ、ちょっと考える。こんなキレイな布、失敗したらもったいないし、よく考えたらわたし、レースも編まなくちゃいけない。

「お願いします」

 布を渡すと店員さんはうやうやしく「かしこまりました」と布を受け取ってくれた。


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