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なにを怒ってるの? 必要ないって、なにが? わたしが?
その4
しおりを挟むすぐ泣く女なんて嫌い。後ろ向きな考えも嫌い。
だけど涙は止まってくれないし、嫌な思いに取りつかれる。
そもそもクロモはお姫様の身代わりがいればいいわけで、わたしが必要なわけじゃない。他の人にバレさえしなきゃ、等身大のお人形を置いといたってかまわないんだ。
だから、わたしが何かをしてもしなくても、関係ない。
そんなおかしな考えが頭の中に浮かんで涙が止めどなくあふれる。立っている事が出来なくなって、しゃがみ込み膝を抱えてわたしは泣き出した。
どのくらいの間、そうやって泣いていただろう。ほんの少し気持ちが落ち着いたわたしは、泣いてたままの姿勢で落ち込んだ。
本当になにやってんだろう、わたし。ちょっと上手くいかなかったからってすぐ泣いたりして。わたしこんな、泣き虫じゃなかったはずなのに。
こんなんじゃダメだ。こんなふうにすぐ泣いてたら、その内嫌がられる。もっと前向きにならなきゃ。
決意を込めて、バッと勢いよく顔を上げた。すると、目の前にこちらに手を伸ばしたクロモの顔があった。戸惑ったような困ったような表情をしたクロモの顔が。
「え?」
びっくりして顔が熱くなる。クロモも真っ赤になって、すぐにわたしから飛びのいた。
「え? え? なんで……?」
どうしてここにクロモがいるのか、分からない。さっきわたしを無視して行ってしまったはずなのに。
尋ねるわたしにクロモは再び背を向け行ってしまおうとする。
「待って。ちゃんと話して」
慌てて立ち上がり、わたしはクロモのローブを掴んだ。それに気づいたクロモは立ち止まり、大きく息をついた。
「放せ」
冷たい声でクロモは言うけど、放さない。
「やだ。ちゃんと話してくれるまで、放さない。今、なんでわたしの方に手を伸ばしてたの? なんで、不機嫌なの? わたしの事、本当に必要ないの?」
たとえどんなにクロモの声が冷たく聞こえても、フードの下のクロモは困ったような顔をしてる事は知ってる。
聞くまでは絶対に放さないんだからって意味を込めて、掴んでいたローブをギュッと引っ張った。
「うわっ」
「え?」
ドスンとクロモが尻もちをつく。
「ご、ごめん。そんなに強く引っ張ったつもりじゃなかったんだけど。痛かったでしょ?」
慌ててクロモの前にまわり、手を出す。転んだ拍子にフードのとれたクロモは顔を真っ赤にして、今にも泣きそうになっていた。
「え? え? え? え? ごごごごごめん。そんなに痛かった?」
びっくりしてしゃがみ込んで転んだままのクロモの顔を覗き込む。するとクロモは顔を真っ赤にしたままパッと顔をそむけた。
「あの、ほんとにごめん。けど、クロモも悪いんだからね。ぜんぜん返事してくれないんだもん。わたし、そんなに頭良いわけじゃないから、ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよ。だから、クロモの口からクロモの気落ちを、聞きたい」
言ってる内に興奮したせいなのか、ジワリと涙が滲んできた。それと同時に悲しかった気持ちまでぶり返してきて、またボロボロと泣いてしまいそうになる。
「もおっ。そんなに簡単に泣く女なんか嫌いなのにっ」
涙を止めようとわたしは顔をしかめてそれから思いっきり自分の頬を引っ叩いた。
「! やめろ」
それまで顔をそむけたままだったクロモが驚いてわたしを止めに入る。
「自分を傷つけるなど」
だけどわたしは激しく首を横に振り、それに抵抗した。
「こんな、すぐ泣くような後ろ向きな自分なんて嫌だもん。だから叩けば、涙引っ込むから……」
後から考えたらすごいバカげた理論なんだけど、その時は本気でそう思ってた。そんなわたしの両手首をクロモが捕まえる。
「放してよっ」
涙がこぼれる。それが嫌で暴れもがくようにクロモの手から逃れようとした。
「泣きたくなんかないんだってば。だから放してっ」
だけどクロモの手は、がっちりとわたしの手首を捕えて放さない。
「やだ。クロモなんてキレイな顔でかわいい王子様みたいなのに、なんでそんなに力が強いのっ?」
支離滅裂な事を言いながら暴れる。
泣きたくなくて、ギュッと目を閉じてみても涙はあふれ出てくる。
「やだ、もおっ」
いつの間にかわたしは床に押し倒され、両手を縫い留められていた。
「落ち着け」
暴れるわたしを押さえつける為だろう。クロモは完全にわたしの上に馬乗りになっている。
わたしもクロモも無我夢中だったせいだろう。
「おはようっ。クロモちゃんに妹ちゃ……」
お姉さんが部屋に飛び込んで来るまで、その足音に気が付かなかった。
「何してますの! クロモちゃんっ」
言うと同時にお姉さんは宙に魔方陣を描き、それを放つ。わたしを押さえつけていたクロモは当然、それに反応するのが遅れ……お姉さんの魔法は見事クロモにクリーンヒットした。
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