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すっごく綺麗な女性が突然訪ねて来たんですけど?
その2
しおりを挟む部屋に着くとクロモは「立てるか?」と言ってそっとわたしを床に降ろした。
「湯と布を用意してくるから、足に気を付けながら着替えを用意していろ」
真っ赤になって照れているせいだろうか、クロモはあまりわたしを見ないようにしながらそう言って部屋から出て行こうとする。
「あ、うん。ありがとう」
わたしも恥ずかしかったけど、お礼はちゃんと言いたかったしそれに滅多にクロモの顔を見れない事を思い出してじっと見つめながらお礼を言った。
クロモはやっぱり照れくさいせいか「いや」と一言だけ言って振り返らずに行ってしまった。
扉を閉め、溜め息をつく。
随分迷惑かけちゃった。もちろん悪気はなかったんだけど、わたし迷惑かけすぎでしょ。
軽く落ち込みながらふとクロモのローブを羽織ったままだった事に気づいた。慌てて、ローブを脱ぐ。ずぶ濡れのまま羽織っていたからローブもぐっしょりと水分を含んでしまっている。
悪い事しちゃったな。
濡れたローブを見ると、申し訳なくなる。けど、濡れて冷えた身体を包んでくれたのは、嬉しかった。
ローブを衝立にかけようと、足に気を付けながら歩こうとしてその時初めて気が付いた。濡れた服が、ピッチリ身体に張り付いてる。
「え? ちょっと待って。これって……」
鏡が無いから全身の確認は出来ないけど、それでも分かる。足も腰も胸も、何もかも張り付いて身体の線がはっきりと出てしまっているし、部分によっては肌の色が透けて見えている。
「ウソっ。やだっ」
今更だけど自分の身体を隠すように自分を抱きしめる。クロモがローブを羽織らせた意味が、寒いだろうからというだけではなかった事に今更気づいた。
恥ずかしさにパニックになってる時に、クロモが戻って来たようでドアにノックの音が響く。
「あ、はい。ちょっと待ってっ」
動転して慌ててバタバタと走って隠れようとする。と、すかさずクロモの声がドアの向こうから聞こえてきた。
「慌てるな。すぐにはドアは開けない。足がますます悪くなる」
焦って足を痛めている事さえ忘れていたわたしは、クロモの言葉に痛みを思い出した。声が出そうになるのを必死に抑え、クロモの言葉に甘えてこれ以上足が悪くならないようゆっくりと歩いて衝立の向こうへと隠れる。
「ありがとう。もういいよ」
わたしの返事から一呼吸おいて、クロモは扉を開けて入って来た。
「湯はここに置く。少し熱めにしてあるから、最初は気をつけろ。隣にいるから、終わったら呼べ」
ぶっきらぼうに告げると、パタンとクロモが出て行く気配がした。
ふうっと息をつく。けどまだ胸はドキドキしている。
抱きしめていたクロモのローブを衝立に掛け、痛めた足に負担をかけないようゆっくりと歩いてクロモの入れてくれたお湯の方へと近づいて行った。
桶にたっぷりと入れられたお湯は、恐る恐る手を浸けてみるとちょっと熱めのお風呂くらいの温度だった。温水器なんて無いだろうから、この短時間にこれだけのお湯を用意したって事は魔法で沸かしたんだろうか。
恥ずかしさを忘れるため、そんな事を考えつつ部屋のカーテンを閉める。それから着替えをまだ出していなかった事を思い出し、衣装箱を開けた。
ドレスは朝さんざん取り出してどれにしようか迷ったから、すぐに決めて取り出した。問題は、下着だった。どこを探してもそれらしいものが見当たらない。ブラはこの世界にはないかもしれないって半分覚悟していたけど、ショーツの類いも見当たらないなんて、どーいう事?
オロオロしながら他に衣装箱がないか、それに小さな箱や入れ物も全部開けてみた。けどそれらしいものは見つからない。
くしゃみが出て、せっかくのお湯が冷めかけている事に気づいた。
あんまり遅いとクロモが心配してやって来てしまうかもしれない。
慌てて濡れた服を脱ぎ、お湯で絞った布で身体を綺麗に拭いていく。
お風呂じゃない場所、普通の部屋で裸になる事なんてなかったから、落ち着かない。
手早く済ませると用意していた服を着た。……下着なしで。
落ち着かない。裸よりはマシとは言え、恥ずかしくて不安で心もとない。
終わったら呼べとクロモは言ったけれど、こんな状態で呼ぶ気にはなれなかった。
それでもあんまり時間がたつと、やっぱりクロモは心配するわけで。
「大丈夫か? 何か問題でも起きたか?」
ノックと共にドアの向こうからクロモが声をかけてくれる。
「だ、大丈夫。あの、足かばって動いてたからちょっと色々と遅くなっちゃっただけだから。その、もうちょっとで終わる……けど、えーっと。洗い終わったら悪いけど、足が痛むからベッドで休んどくよ。色々と心配かけちゃって、ごめん。それと、ありがとう」
ホントとウソを織り交ぜながら告げる。ベッドの中に入ってれば少しはシーツで隠せるから、わたしはそのままベッドへと移動する。
本当はクロモに下着のある場所を聞くのが一番早いんだろうけど、普通の時でさえ切り出しにくい話題を、あんな水に濡れて身体の線バッチリ見られた直後に言い出す勇気はなかった。
「そうか。では湯は後で取りに行く。……無理するなよ」
最後のひと言に胸がキュッとした。
クロモは優しい。
もちろんこっちの都合もおかまいなしに召喚したり何も言わずに出て行ったりと自分勝手なところもある。それでも、わたしの為にお湯を用意してくれたりこんな風に声をかけてくれたりして、とても優しい人だ。
「うん、ありがとう……」
クロモが扉の向こうでわたしの返事を待っていてくれたかどうかは分からない。それでもわたしは嬉しくて、そう呟いた。
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