独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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お膳立ては嬉しいけどやりすぎはちょっと困ります その3

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 にっこり笑って棗ちゃんはわたし達にベッドに並んで座るよう促す。

 いやいやいや。女の子同士なら何の問題もないんだけど。今のわたし達にそれは、ちょっと意識しすぎる。透見はどうか分かんないけど、少なくともわたしはする。

 いいおばさんが何純情ぶってんの、と言われるかもしれないけど、自分でも真っ赤になってるのが分かる。ちらりと透見を見ると、困ったように笑っていた。

「ほら、座って。お茶が冷めちゃいます」

 にこにこ笑う棗ちゃんに押され、ちょこんとベッドの端に座る。

「ほら、透見も」

 言われて透見もあきらめたように小さく息をついた。

「では失礼いたします、姫君」

 そう言って座る透見の姿を見ていると、彼自身はそこまで意識してないようだ。どっちかって言うと、意識しすぎているわたしを気にしているみたい。

 ううう、情けない。けどおばさんだろうと何だろうと意識するものは意識するんだもん。

 そんなこんなでモジモジしている間に棗ちゃんがちゃきちゃきティーカップにお茶を注いでくれる。ふわりと甘い、ちょっと変わった香りが漂ってきた途端、透見の顔から笑顔が消えた。

「棗さん。これではなく別のお茶を。ハーブティーではなく紅茶を入れて下さい」

 ヒヤリと冷たい声で透見が言う。どうしたのかな。

「変わった香りと思ったら、ハーブティーだったんだね。透見、嫌いなの?」

 ハーブティーはわたしも好きなのと嫌いなのがある。ミントティーとかは実は苦手。でもカモミールティーとかは一時期好んで飲んでた時期がある。

「ハーブ全般が嫌いなわけではないのですが、このお茶はお勧め出来ません」

 にこりとわたしに笑いかけてくれたけど、その後ちらりと棗ちゃんを見たその眼が、すごく鋭い。透見、怒ってる? 棗ちゃん透見が嫌いなの知っててこのお茶入れてきたとか?

 さすがに棗ちゃんも感じ取ったのか、すまなさそうに肩をすくませた。

「ごめん。やりすぎだったわ。ロイヤルミルクティーでいい?」

 お茶を入れたお盆を持ち上げそう訊く。

「あ、わたしミルクティーよりストレートが良い……な」

 つい言ってしまう。コーヒーはミルクたっぷりが好きなんだけど、紅茶はどうもミルクが入ると苦手なもんで。

「分かりました。ではすぐに入れ直して来ますね」

 そう言って棗ちゃんはパタパタと出て行った。そんな彼女の背を見送りながら透見は深くため息をついた。



 その後、再び棗ちゃんが持って来てくれたお茶を飲みながら魔術についての話をあれこれと聞いた。とても興味深かったし、透見も自分の得意とする分野の話だったから説明するの楽しいみたいだったけど、わたしと透見の距離、少しは縮まったのかなぁ?

 そんな事考えてたら、ノックの音。

「姫様、透見。昼食の準備が整いましたので食堂へどうぞ」

 部屋の外から棗ちゃんが声を掛けてくれる。

「はーい。分かりました。行こっか、透見」

 立ち上がり、椅子に置いていたお茶やなんかが入ってるお盆を持つ。

 本当の事を言えば今日はあんまりお腹が空いていない。朝食の後、ずっと座って透見と話をしてただけだしその間お茶と一緒に持ってきてくれていたクッキーをついあれこれつまんじゃったから、カロリーは充分だ。

 けどせっかく棗ちゃんが作ってくれたものを無碍にする事も出来ない。

 そんな事を考えながら部屋を出ようとすると、透見がすっとわたしの前へと出てきた。

「姫君、私がお持ちしますよ」

 そう言って透見がお盆を持とうとする。その時互いの手がほんの少しだけど触れ合って、危うくわたしはお盆を落としそうになった。

 ちょっと手が触れただけで意識しすぎとは思うものの、情けないけどたぶんわたし顔赤くなってる。いいおばさんがほんと情けない。

 お盆を落とさずに済んだのはひとえに透見のおかげ。わたしがお盆から手を離しかけた時、すでにしっかりとお盆を持っていてくれたおかげだ。

「では行きましょうか」

 そう言って透見が歩き出す。考えてみれば男の人に食器を運ばせるだなんて失礼な話だ。けどだからって今更わたしが持つよとも言えず、せめてもとわたしは急いで部屋の扉を開けた。



 食堂に入ると「あらあら」と棗ちゃんがやって来て透見からお盆を受け取った。……やっぱりわたしが持って来た方が良かったかな。

 ふと食堂の中を見るともうみんな席に着いて待っている。のはいいんだけど、いつもと食卓の様子が違う。

「ええっと……?」

 つい透見を振り返ってしまう。けど透見もこの事について知らなかったようで、困ったように微笑みながら首を傾げた。

 なので他の面々の方を見ると、園比が拗ねたように口を尖らせている事に気づいた。どうしたの? と声を掛けようと思ったところで食器を置きに行ってた棗ちゃんが戻ってきた。

「まあ、すみません。席の説明をしてなかったんで立ちっぱなしにさせてしまいましたね」

 立ったままだったわたし達に気づいて慌ててやって来る。そして二つ空いた席を示してにっこりと笑う。

「あちらがお二人の席です」

 いや、そうだろうとは思ってた。椅子の数は棗ちゃんを除いた人数分ピッタリで、他のみんなはもう着席している。となれば当然二つ空いてる席がわたしと透見の席だ。ただ……。

「いつもと違うけど……」

 いつもは均等に椅子は並べられ、そこに一人分ずつ食事が置かれている。なのに今日はなぜか、わたし達の席だけ少しみんなの席から離され、そしてみんなは各自一人ずつの配膳なのになぜかわたし達の分だけ二人で一つに盛りつけられ、取り皿なんかが置いてある。

 戸惑うわたしに棗ちゃんはにっこり笑うとわたしと透見の背中を押した。

「当然です。お二人は〈救いの姫〉と〈唯一の人〉かもしれないんですもの。みんなと違って当たり前でしょう? さ、座って下さい」

 にこにこ笑ってぐいぐいと背中を押す棗ちゃん。

 えーとつまり、わたし達だけひとつのお皿から分けあって食べてって事……だよね。

 頭の中に、甲斐甲斐しく旦那様や彼氏に料理をよそって「はい」と渡す女の人の図が浮かぶ。それはそれで微笑ましいのかもしれないけど、実はわたしはそういうの苦手だ。

 だってわたし、相手が何をどのくらい食べたいのかを察してあげられる程、観察力も記憶力も無い。そうなると相手の好みを無視して適当に料理を盛るか、「どれ取る? このくらいの量でいい?」といちいち訊く事になる。適当に盛るってのも実は苦手で特に種類が多い時はどれを選べば良いのか分かんないし、同じお皿に盛らない方が良いものってのもよく分かんない。かといっていちいち訊くのはたぶんだんだんウザいと思われちゃうだろう。

 そんな事考えてるともうどうして良いのか分かんなくなって結局自分の分だけ盛って相手にはお好きにどうぞってやっぱり自分で盛ってもらう事になる。

 だからこんな風に用意されると、困る。

 戸惑ってるわたしに気づいたのか、透見がため息をつき棗ちゃんを見た。

「棗さん。先程も思ったのですがやりすぎは良くないですよ。姫君も困ってらっしゃるじゃないですか」

 静かに、でもキッパリと言う。それに同意したのか、園比も立ち上がり棗ちゃんを見る。

「そーだよ。そりゃ〈救いの姫〉と〈唯一の人〉ならって思うのは分かるけど、透見はまだあくまで候補なんだからそこまでする必要ないじゃん」

「あら、これが透見じゃなく園比が候補だったら大喜びで受け取るクセに」

「う…それは……」

 棗ちゃんの反論に口ごもる園比。もし透見が違ったら次は自分の番だとか言ってた園比の事だから、ここで反対したら自分の番の時に同じような事が出来なくなっちゃうとか思って躊躇しちゃったんだろう。

「俺も棗はやりすぎだと思う。催淫効果のあるハーブティーなど持ち出して、二人が男女関係になった後で実は〈唯一の人〉は別人でしたなんて事になったらどうするつもりなんだ?」

 戒夜の冷たい言葉。て、え? 催淫?

「あー、そういやさっき棗、姫さんの部屋のベッドに枕二つ並べたり花飾ったり色々してたよな。なんか良い香りもしてたけど、もしかしてそれも?」

 な、棗ちゃんー?

 慌てて彼女を見る。すると棗ちゃんはちょっとバツが悪そうにわたしから目を反らした。


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