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お膳立ては嬉しいけどやりすぎはちょっと困ります その1
しおりを挟むそんなわけで朝食兼公開告白が終わった。
暫定〈唯一の人〉となった透見に、今日の予定を訊いてみる。みんなの視線が痛かったし、透見がまだ緊張してるのは分かったけど、とにかくこの場から去る為にも、そうした。すると透見はまだ硬さは残ったままだけど、ちょっと困ったように笑ってくれた。
「ひとまず美術館の方に〈唯一の人〉に関する作品が納められているか確認するつもりでいました。しかしそれは電話でするつもりだったのでどこにも出かける予定はないのですが……」
自分が〈唯一の人〉かどうかを確認するならばこの予定では駄目だと思ったのか、透見が言葉を濁した。
「そっか。問い合わせてもしあるんなら、一緒に見に行ってもいい?」
行動を共にしましょう、という提案でもあるけど、〈唯一の人〉関連の美術品って物にも興味があった。
そんなわたしに透見は頷いてくれる。
「それはもちろんですが、しかしどちらにしても今日の事にはならないと思いますよ。美術館の方も準備等あるでしょうし」
そりゃそうだよね。急に「あるんなら今日見せてくれ」なんて失礼な話だ。
そんな話をしていたら、にこりと笑って棗ちゃんが言った。
「あら、問い合わせくらいわたしがやっておくから二人はデートしてきなさいよ」
デートという言葉にドキリとしてしまう。透見はまだそんな気になれないだろうに、ひとりで意識しちゃう自分が情けない。
そんなわたしに気づいているのかいないのか、戒夜がピシリと言う。
「それは駄目だ。〈唯一の人〉を捜す為ならともかく、透見かもしれないと思われる今、小鬼に見つかる危険を侵して外に出る意味がない」
眼鏡をクイと上げながら棗ちゃんの案を却下する。
けど確かに、小鬼が出た昨日の今日でデートの為に街をウロウロするのは危険だし、浅はかだよね。小鬼が一匹だけならば透見に守ってもらうってのもイベント的に有りな気もするけど。昨日は本当にわらわら小鬼がいたもん、さすがに透見ひとりに守ってもらうってのは無理があると思う。
「じゃあこの屋敷でデートだな。お邪魔」
急に剛毅はそう言うと、にこりと笑って立ち上がり部屋から出て行った。
て、ちょっと待って。屋敷でデートって……。
「それが良いだろう」
戒夜も同意し、立ち上がる。そして園比をちらりと見、彼にも席を立つよう促した。
いやいや。だから待って。そりゃ確かに公開告白してなんとか受け入れてはもらったけど。
園比は二人きりになるのを反対するかもと期待する。けど、園比まで戒夜の言葉にそれにしぶしぶといった感じで従い、立ち上がった。
「透見、〈唯一の人〉って確定するまでは姫様に変なことしちゃダメだからね!」
口を尖らせ透見にクギを刺す。
「園比じゃないんだから。透見がそんな事するわけないでしょ。さっさと行きなさい」
追い出すように棗ちゃんが園比の背中を叩く。するとようやく園比は部屋を出るためドアへと向かった。
本当に屋敷でデート、させるつもり?
頭グルグルしながらオロオロしていたら、透見がふっと笑うのが見えた。先程までの硬い表情ではなく、いつもの柔らかい笑み。
「透見?」
不思議に思って呼びかけると透見は笑みを浮かべたまま、わたしを見た。
「いえ、皆さんらしいなと思いまして。もしも他の人が〈唯一の人〉候補だと言われたら、私も同じように行動したかもしれませんが」
そんな透見を見てたら、不思議とわたしの気分も落ち着いてきた。
考えてみれば〈唯一の人〉かどうか確認したいから透見と二人きりにしてほしいって言い出したのはわたしなのに、『デート』って言われて慌てるなんて、可笑しいよね。
「すみません。わたしも後片づけが終わりましたらすぐに出て行きますので」
わたし達の心境の変化に気づいているのかいないのか、食器を片づけながら棗ちゃんもにこりと笑う。
「あ、いや。邪魔しちゃ悪いからわたし達が出て行くよ、ね?」
「あ、はい」
ほぼ同時に立ち上がり、わたし達はドアへと向かった。屋敷内に居さえすれば良いのだからいつまでもここにいて棗ちゃんの邪魔する事もない。透見のおかげでなんか気も楽になったし、場所を変えよう。そう思ってノブを掴もうと手を伸ばし、同じように伸ばしてきた透見の手にあやうく触れそうになった。
「あ、ごめん」
慌てて手を引っ込めてから、偶然触れ合うのもちょっとしたイベントだった事に気づいた。小さくてかわいい手とはほど遠い手ではあるけど、偶然肌と肌が触れ合うってのはやっぱり意識しあえる要素だ。
けど、あくまで偶然だから良いんだよね。ぶつかりそうって分かってるのにあえて手を伸ばして触れるなんてのは、あざとい。だから気がついちゃったからには手を引っ込めて正解だったんだよ、うん。
そんな事考えてたら透見がドアを開け、待っていてくれた。
「どうぞ、姫君」
レディファースト。今までも透見は〈救いの姫〉の為にこんな気遣いをしてくれていた。だから少しは慣れてたつもりだったのに、透見の方がいつもと違うようで意識してしまっているのか頬が赤い。
「ありがとう」
そんな風に意識されるとこっちも意識しちゃって、頬が熱くなってきた。
けどそれって良い事だよね? 好きになってもらうにはまず意識してもらう事だもん。
さっきみたいに硬くなられるとこっちも困るけど、今は意識してくれてはいるけど、いつも通りの透見でもある。
「で、これからどういたしましょう、姫君」
突然選択権を与えられ、困った。どっちかってゆーと後ろからついて行くのが好きなわたしは先導するのが苦手だ。
こうしたい、という思いがある時ならともかく特に希望のない時に任されると頭が空になってしまう。
「えーと、屋敷から出ない方が良いんだよね。……透見は何かしたい事ある?」
つい、透見に投げてしまう。
「姫君は普段休日は何をして過ごされているのですか?」
すると逆に訊かれ、困った。休日の過ごし方……。現実のわたしの休日はやっぱり乙女ゲー三昧だ。けどそれってひとりでするものであって男の人とするものじゃない。
「えーっと……」
言葉に詰まる。男の人とでも楽しめる、室内で出来る事ってなんだろう。
「姫君?」
悩むわたしに透見が首を傾げる。休日どうしてるのか訊いただけなのに答えないわたしを不思議に思ってるみたいだった。
「いや、ごめん。その、わたし普段ひとりで過ごす事が多くて一緒に何すれば良いとか思いつかないんだよね」
あはは、と笑って誤魔化す。リア充の女の子達ってホント、普段なにして過ごしてるんだろう?
「おひとりの時は何をされているのですか?」
言い方を変えて再び透見が訊いてくる。
だから乙女ゲー。だけどそれはさすがに言えない。恥ずかしい。だから曖昧に答えた。
「ゲーム、かな。とは言ってもテクニック必要なのとかはあんまり上手じゃないんだけど。そういう透見は普段何してるの?」
「私は普段から伝承を調べたり魔術の訓練をしたりしていましたので、姫君と共にするような事は何も……。ゲームはどんなゲームをされるのですか?」
ああ、せっかく話を逸らそうと思ったのに、戻されちゃったよ。
「いや、それこそ一人でするタイプのゲームだから……。困ったね、何をしたらいいのかな」
二人してその場に立ち尽くしてしまう。良くない傾向だ。このまま会話が途切れたりして気まずい雰囲気のままだと一緒にいる事が苦痛になってしまう。それは避けなくちゃなんだけど。
なんとか会話の糸口を掴まなきゃ、とあれこれ考えてると、背後の扉がガチャッと開いた。
「あら、姫様に透見も。まだここにいらしたんですか?」
今から洗濯に向かうのだろうか、テーブルクロスやナプキンを抱えた棗ちゃんが出て来た。
「あ、うん。これからどうするかが、なかなか決まらなくて……」
あははと困って笑うわたしに棗ちゃんは呆れたようにきっぱりと言う。
「そんなの透見か姫様の部屋で二人で話せば良いじゃないですか。あ、どちらの部屋に行きます? 後で飲み物お持ちしますので教えて下さい」
あんまりにももっともな意見になるほど、と納得する。確かにこんな所で立ち話してないで、どっちかの部屋で話すのも良いかもしれない。部屋の中に何か会話の糸口になる物があるかもしれないし。
リネンを抱えたまま棗ちゃんがじっと返事を待ってる。早く決めなきゃ。
話題になる題材を探すとしたら、わたしの部屋より透見の部屋だよね。わたしの部屋って言っても召還された姫君の為の部屋だからわたしの私物があるわけじゃないもん。
そんなわけでわたしはちらりと透見の顔を見た。
「透見の部屋、行っていい?」
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