独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

文字の大きさ
上 下
33 / 63

今度はみんなで神社へ行こう その2

しおりを挟む



 翌日、みんなでザクザクと歩いて神社へと向かう。

「良いですか。小鬼の気配を感じたら即屋敷へと引き返しますからね」

 渋い顔をして戒夜が言う。

「やっぱり今からでも姫様と透見は図書館に行って、わたし達だけで神社を調べるってのはどう?」

 そう提案するのは棗ちゃんだ。

 昨夜、神社に行こうって言ったわたしの言葉に透見以外は全員反対した。まあ、そりゃそうだよね。わたしが神社に行く度に小鬼に遭遇してるんだから、警戒するのは当たり前。

 けど、そんなわたしの意見に透見だけが味方してくれた。

「たしかに〈唯一の人〉に関する古い書物のほとんどは神社からの寄贈ですし、書物以外の資料が神社に残っている可能性は否めません」

 そんな透見の後押しもあったおかげで今日はみんなで神社に行く事になったんだけど、戒夜はやっぱり不満そうで棗ちゃんもちょっと不機嫌そうだった。

 棗ちゃんにはあの後二人っきりになって話してみたんだけど、どうも納得してもらえなかったようだ。

「そんな他の人に遠慮してどうするんですか。こういう事は早めにガンガン行かなきゃ!」

 図書館での調べ物も透見との関係も特に進展ないし、他の人達も同じ守り手なんだから一緒に行動する機会を持った方がいいかと思って…というわたしの意見に棗ちゃんは怒ったようにそう言った。

 だから今もやっぱりどうにか二人きりにしてくれようと、自分達が神社を見るから二人は図書館に…と勧めてくれている。

 棗ちゃん、イイコだなぁ。彼女がどうか好きな人と上手くいきますように。そう願ってしまう。

 ところで。今わたしの横を歩いているのは透見ではなく園比だったりする。そして案の定、棗ちゃんの提案を軽く蹴り飛ばす。

「ダメダメ。姫様は今日は僕たちと神社に行くの。これ決定事項。ね、姫様」

 そう言って園比はちゃっかりわたしの手を握ろうとする。

 さすがにみんなの前で園比と手を繋ぐのは抵抗があってわたしは慌てて手を引っ込めた。けど、さすがは園比。それを読んでたように更に手を伸ばしてわたしの手を掴んでしまった。

「姫様は方向音痴なんだから、迷子にならないように。ね?」

 にっこり笑ってきゅっとわたしの手を握りしめる。

「いや、幾らわたしでもさすがにこの人数ではぐれる事はないと思うよ…?」

 困った顔して園比にそう言ってみるけどやっぱ放してくれそうにない。

「当たり前です。姫が勝手にどこかへ行こうとしても誰かしら目に留めて声を掛けますから」

 わたしを援護してくれてるのかバカにしてるのかよく分からない戒夜の言葉が後ろから掛かった。うーん、考えすぎると悪い方に取っちゃいそうだから、ここは早めに良い方にとっとこう。

「そーゆー事だから……」

 と、園比の手を離そうとするんだけど。

「えー、いーじゃん」

 園比は放そうとしてくれない。

「園比さん?」

 ふと、冷気が漂ってきそうな声が聞こえてきた。振り返ると、いつものように笑ってる筈なのになんか黒いオーラが漂ってそうな透見がそこにいた。

「姫君はそこらの女性と違うのですから、気軽に触れるのは遠慮してもらえませんか?」

 優しげな声、の筈なのに妙に怖さの混じった声で透見が言う。けど園比はまだ名残惜しそうにわたしの手を掴んでいる。

「はは。園比、透見を怒らすと後が怖いの知ってるだろ。今の内に放しとけって」

 剛毅が楽しそうに笑いながら言う。

「それに姫さんは〈救いの姫〉なんだから、透見の言う通りあんま気軽に触れて〈唯一の人〉の機嫌損ねちゃったら困るし?」

 とか言いながら剛毅、その笑顔ちっとも困ると思ってないでしょ。どっちかと言うと楽しんでるように見えるんだけど。

「園比」

 それでも放そうとしない園比に、戒夜も咎めるように名前を呼ぶ。

 さすがにみんなから責められて、諦めたように唸ると園比は手を放してくれた。

 と、すかさず園比とわたしの間に棗ちゃんが割り込んでくる。

「あ」

 園比が不満の声をあげたけど、棗ちゃんがわたしの腕を組みながら一言。

「女同士で歩くから」

 あっちに行けとばかりにしっしと園比に手を振ってみせた。

 そんな訳でわたし達の前を戒夜と剛毅が、後ろを透見と園比。そして横には棗ちゃんって形でてくてく歩く事になった。

 ちょっとして棗ちゃんがヒソヒソ声で耳打ちしてきた。

「昨日収穫無かったって言ってたから透見との事も進展なかったのかと思ったら、ちゃんと進展してたんですね」

「は?」

 棗ちゃんの言ってる意味が分かんなくて、ついそう聞き返してしまった。透見と進展…してるの?

 考えてみてもやっぱりなんで棗ちゃんがそう思ったのかが分からない。

「やだ姫様ったら無自覚ですか? もしかして色恋に鈍いほう?」

 う。棗ちゃんの言葉にちょっとグサリとくる。まあ、メンドクサイって恋愛から逃げてたわたしに、現実問題としてそのテの経験値がゼロに近いのは否定出来ませんが。

 でもでも、これは乙女ゲーの夢だし、これまでかなり色々な乙女ゲープレイしてきたんだから、架空のそーゆーのは結構分かる気になってたんだけどなぁ。

「どうして進展してるって思ったの?」

 とりあえず、訊いてみる。わたしどこを見落とした?

 すると棗ちゃんはますますヒソヒソ声でわたしにくっついてくる。

「だってさっき透見、園比にヤキモチ妬いてたじゃないですか」

「え?」

 さっきの園比に対しての透見の態度を思い出す。確かにちょっと怖い感じで怒ってはいたけど……。

「あれって〈救いの姫〉に失礼のないようにって意味でしょ?」

 透見は伝説の姫君に心酔してるから、園比の気安さは許せなかったんだと思うんだけど。

「確かに元からそういうところはありましたけど、それだけじゃ透見、あんな風に怒りませんよ。注意はしてもあんな態度はとりませんって」

 棗ちゃんに言われ、だんだんそんな気がしてきた。思い出してみれば最初の頃、他の人がわたしに対して失礼な態度とっても、注意はしてもあそこまで怒んなかった気がする。

「てことは、ほんとにヤキモチ?」

 言葉に出してカァっと顔が赤くなった。自然と顔がニヤケてきて慌てて手で隠す。

「ですよですよ。本人に自覚があるかはまだ分かんないけど、あれ確実に姫様の事、意識し始めてますって」

 声を顰めてキャッキャと騒ぐ棗ちゃん。

 あああああ、もし本当にそうだとしたら、嬉しいかも?

 頭の中がフワフワと、なんていうか花が咲きそうな勢いで顔もニヤニヤが止まらない。

「楽しそうに何の話してんだー?」

 あんまりにもきゃあきゃあと、でもヒソヒソと二人で話してたからか、剛毅が仲間に入りたさそうに話しかけてきた。だけどまさか剛毅に話すわけにもいかない。

「内緒ー。女同士の秘密でーす」

 棗ちゃんもそう思ったのか、楽しそうにそう答えて、わたし達はくすくすと笑いながら歩いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アラフォーだから君とはムリ

天野アンジェラ
恋愛
38歳、既に恋愛に対して冷静になってしまっている優子。 18の出会いから優子を諦めきれないままの26歳、亮弥。 熱量の差を埋められない二人がたどり着く結末とは…? *** 優子と亮弥の交互視点で話が進みます。視点の切り替わりは読めばわかるようになっています。 1~3巻を1本にまとめて掲載、全部で34万字くらいあります。 2018年の小説なので、序盤の「8年前」は2010年くらいの時代感でお読みいただければ幸いです。 3巻の表紙に変えました。 2月22日完結しました。最後までおつき合いありがとうございました。

処理中です...