独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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透見ルートに突入……出来るかな? その2

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 透見は相変わらず手書きで達筆の、何が書いてあるのか読めそうにもない古文書を開いている。ちらりと横目で見える部分を見てみるけど、一文字たりとも読めない。母国語なのに情けない。そんな気さえする。

 けどそんな事で落ち込んでても仕方がないので手に持った本を開き、そこへ目を落とした。

 昨日ある程度透見に説明してもらったせいか、今日は比較的内容が頭に入ってくる。でも読み進めても、大してめぼしい情報が引っかかってこない。ついちょっと飽きちゃって、パラパラと頁を飛ばしてしまう。

 と、ふと気になる文字が目に入った。慌ててその頁で手を止め、そこを読もうとした。けど、読めなかった。

 その頁は例の、魔術がかけられた頁だったのだ。

 昨日は一文字も頭に残らなかったその頁に、何か気にかかる文字というか、単語が見えた。見えた筈なのに、それが何だったか覚えていられなかった。

 やっぱり魔術のせいなんだろう。けど、昨日は気になる単語があるなんて印象さえなかったのになぁ。

 諦めきれず、もう一度さっきと同じようにパラパラとめくってみる。するとやっぱり、一瞬だけど見えた。

 今度はその頁を開かないまま本を閉じて、その単語を頭に刻みつけた。そしてひと呼吸おいて、側に置いておいたノートにその単語を書き記す。

 透見

 確かにその文字が、見えた。だけどあの頁を完全に開いてしまうと魔術にかかってその事を忘れてしまう。だから覚えていられる内にノートにメモを取ってみた。

 とはいえパラパラめくって見た文字だから別の頁に書いてあった可能性もある。だからわたしは慎重に、魔術のかかった頁の近くの頁にその文字が無いか調べてみた。

「姫君?」

 突然透見が声をかけてきた。

「あの……私がどうかいたしましたか?」

 そう言う彼の視線は、わたしのメモしたノート。……そりゃそうだよね。いきなり自分の名前がメモしてあったらびっくりするよね。

「ごめん。気になるよね。あのね……」

 手短に例の頁の説明をする。すると透見は考えるように首を傾げた。

「しかしその本に個人名が出ているとは思えないのですが……」

「そうなのよね」

 それにはわたしも気づいてた。この本に書いてあるのは〈救いの姫〉だったり〈唯一の人〉だったり、『村長の息子』だったり『漁師』だったりで、一切個人名は書いてない。

「でもだからこそ気になったの。とはいえわたし、けっこうアナグラしちゃうから勘違いの可能性もあるけど。だからこそ確認してるのよ」

「アナグラ?」

 つい使っちゃったわたしの変な言葉に透見が首を傾げた。

「ごめん。アナグラム。言葉の並べ変えってやつ。わたしの脳味噌、勝手に文字を並べ変えて読み間違いするとか、時々やっちゃうんだ。おかげでお菓子のラングドシャをランドグシャって間違えて覚えてて、未だにどっちだっけって思う。あれ? ほんとどっちだったっけ?」

 まあそんな感じにぱっと見た時に例の頁の近くの頁に『透』の字と『見』の字が近くにあって、それを勝手に結びつけてそう思い込んじゃった可能性もある。

「だから見間違えそうな文字が近くの頁に無かったら、例の頁の文字だって確信出来るかなって」

 わたしの言葉を透見は驚いたような感心したような顔をして聞いていた。なのでつい「な、なに?」と言ってしまう。

「あ、いえ。当たり前なのですがやはり姫君は〈救いの姫〉なのだなぁと。私はこれまで何度となくあの魔術の掛かったページの解読を試みましたが、一文字たりとも読めませんでしたのに、二日目であっさりと文字を読みとられるとは……」

 シャララン、と透見の好感度が上がった効果音が聞こえてきそうな顔をして彼がわたしを見ている。キラキラとエフェクトの幻覚さえ見えてきそうだ。

「いや、いやいやあの。さっきも言ったけど本当にあの頁の文字かはまだ分かんないよ? もしそうだとしてもたったこれだけじゃ何が書いてあるのかさっぱりだし?」

 ついうろたえて否定してしまう。

 元々透見は〈救いの姫〉という存在にあこがれてたって言ってたから、きっとわたしに対してかなりの色眼鏡を掛けてるに違いない。良い方向に取ってくれるのはすっごく嬉しいんだけど、その色眼鏡が外れて本当のわたしを見た時、どう思うんだろう。

 そんな事を考えた後、いやいやと思い直す。

 これ夢なんだから、そこまで気にしなくてもいーじゃん。年齢も容姿も詐称出来てない夢なんだから、色眼鏡くらいかけてもらわなきゃ、うん。

 そう思って透見を見ると彼はやっぱり憧れの姫君を見るうっとりした瞳をしている。

「それでも単語を拾われるのはすごい事ですし、それを検証している姿に誠実さを感じます。さすがは姫君です」

 そんな風にまっすぐ褒められると、悪い気はしない。

「あ、ありがとう」

 頬が赤くなるのを感じながらわたしはお礼を言った。

 その後、透見は自分の本に戻ってもらってひとりで確認作業をした。けどやっぱり『透見』と見間違いそうな文字は前後の頁にはなかった。

 それにしてもなんで透見の名前があの頁に?

 不思議に思いながらもう一度パラパラと本をめくってみる。すると今度は、別の文字が見えた気がした。

 慌てて本と目を閉じ、その言葉を記憶に留める。

 その言葉をノートに書き記そうとして、はっと気づいた。

 見えた言葉は『選択』これってもしかして、わたしが透見を選んだって事があの頁に記され始めてる?

 仮説としてはありえる気がする。あの頁はまだ決まっていない未来を書いてある頁で、だから読んでも記憶に残せない。あ、未来ってのはちょっと曖昧かな。つまり、今回の〈唯一の人〉についての事が書いてあるんだと思う。でもまだ確定してないから、頁も安定していない。けど、わたしが透見にしようかなって方向性を決めたから、それが頁に影響を与えた。

 でもだとしたら、まだ透見には知られたくない。こんなおばさんが狙ってるなんて知ったら逃げ出しちゃいそうだもん。

 だからメモは取らずに必死に頭の中に単語を留めて、もう一度パラパラと本をめくってみる。また新しい文字が見えて透見を選んだ事に関する事だったら、仮説が確信に変わると思ったから。

 だけど残念ながら、それ以上の文字は見えてこなかった。まだ何かが足りないんだろう。


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