独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

文字の大きさ
上 下
25 / 63

透見と静かに図書館デート その3

しおりを挟む



 開かれた頁に目をやり、そこに書いてある文章へと目をやる。けど、現代文だってのに内容がちっとも頭に入って来ない。

「初めてこの本のこのページを見つけたのは、中学生の時でした。夏休みの自由研究にこの地に伝わる説話を調べていて、見つけたのです」

「えーと、ごめん。なんでだろ、何回読んでもどうしてもそこに書いてあるのが何なのか、分かんない」

 正直に透見に告げる。いやほんと、不思議な程、読む端から知ってるはずの単語でさえ頭から消えていく。まるで半分眠りながら活字を目で追ってるみたいに。

「ええ。このページにはそういう魔術がかけられていますから」

 さすが魔術師ってだけはある。透見にはこれが読めるんだろう。

「なんて書いてあるの?」

 そう思いながら尋ねると、透見はにこりと笑ってその頁をひと撫でした。すると驚いた事にその頁はキレイな白紙になってしまった。

「残念ながら、私もまだこのページは読めないのです。〈救いの姫君〉ならばあるいは……と思ったのですが……」

 ほんの少しがっかりしたような、それでも笑みを崩さずに透見が言った。

 うーん……。なんかすごく申し訳なく思ってしまう。わたし、結局なんだかんだと役立たずだよね……。

 もしこれがわたしの見てる夢じゃなかったら「人違いです。わたし絶対にそんな大層な者じゃありません」って拒否するレベル。

 そう思いながら透見の真似して真っ白な頁に手を滑らせてみた。すると一瞬、本が淡い光を帯び、反応した。

「え?」

 慌てて頁に目を凝らす。

 ふわりと文字が浮かんできたと思ったら、それはそのまま最初の読んでも記憶に残らない訳の分からない頁へと戻ってしまった。

 一瞬、わたしが触れたことで魔術が解けたんじゃないかと期待しっちゃった分、がっかりだ。

 透見も同じような期待をしていたのか、残念という笑みを浮かべてわたしを見た。

「このページの解読についてはまだ時期ではないのでしょう。しかし一瞬ではありますが貴女の手に反応したのですからきっとそう遠いことではない筈です」

 慰めるように透見が言う。

 これ以上この頁の事を考えてたら深く落ち込んじゃいそうだったので、わたしは話題を戻すことにした。

「それで、中学の時にこの頁を見つけてどうしたの?」

 わたしの質問に透見は静かに答える。

「その時はまだ魔術師ではありませんでしたから、ひとまずそのページは置いて自由研究に取り組みました。そして伝承を調べていく内に、近い未来に再び空鬼の来襲があり、〈救いの姫〉と〈唯一の人〉が降臨されると知ったのです」

 そう語る透見の笑顔は少し誇らしげだった。

「この島の人々は皆、伝説として〈唯一の人〉や空鬼の事は知っていましたが、長い年月がたつ内にいつその時期がやって来るのかを忘れてしまっていました。それを私が見つけたのです」

 嬉しそうに、うっすらと頬を染めてわたしを見つめる透見。

 えーとこれは、どう返したらいいんだろう。すごいね? ありがとう? なんか違う気がする。

「そこで私は夏休みの自由研究の発表と共にその事実を大人達に告げ、姫君を迎え入れるため魔術師になりたいと希望したのです」

 いつもはどっちかというと寡黙な透見が熱い瞳で饒舌に語る。

「その後、私が姫君の召還士及び守護者になったと知って剛毅さんや園比さん、戒夜さんも仲間に加わって下さったんですよ」

 にこりと笑って透見が言う。

「島の人達は本当の所、空鬼が現れる時期が近いのか半信半疑だったのでは、と思います。最初は用心に越したことはないという程度だったのではないのでしょうか」

「もし透見が自由研究に『伝承』を選ばなくて、来襲の時期にも誰も気がつかないまま空鬼が来ちゃってたら、どうなってたんだろ」

 素朴な疑問をぶつけてみる。

「召還の魔術についてはいつの時代も数人が身につけています。ですから今回姫君を召還した際にもその皆さんに立ち会って頂いたんですよ」

「ふうん。そうなんだ?」

 つまりいきなり空鬼が来てもすぐに召還出来たわけか。でも、ちょっとびっくりした。だって目覚めた時は透見たち以外誰もいなかったよね? だからその人達とは全然会ってないから実感わかない。

「けれど空鬼が出た後に召還したのでは後手後手になってしまっていたでしょう」

 そう透見は言うけど。

「そうかな? わたしが来てすぐに小鬼に見つかっちゃったから、そんなに変わんない気がするけど……」

 つい、そう口に出して言ってしまった。

 別に透見に反論するつもりとかは無かったんだけど、つい思った事が口に出てしまったのだ。

 気の強い人ならわたしの言い方に反発するだろうに、透見はむっとする事なく、余裕の笑顔で答えてくれる。

「いいえ、違うんですよ。召還の魔術はいつの時代も数人に受け継がれていましたが、守り手の育成は行われていなかったのです。ですから姫君を召還する事は出来ても守る者がいませんから今よりももっと〈唯一の人〉を捜すことは困難でしょう」

 えーとつまり?

「今よりもっと行動が制限される事になってたって事?」

 今いるみんなは小鬼数匹程度なら一人でもなんとかわたしを守れる……かもしれない。

 でももし守り手としての修業を積んでなかったら、〈救いの姫〉を小鬼に奪われない為にもこの島の人達はどうしただろう。

 監禁まがいの事が頭に浮かんでゾッとした。

 それが顔に出てしまったのだろうか、透見が慌てて言う。

「安心して下さい姫君。今は私がいます。……私達がいます。姫君が望む所へは出来るだけ案内をしたいと思っています。ですから……」

 いつもの優しい微笑みで透見がわたしを見つめてくる。

「うん、ありがとう」

 とりあえずお礼を言ったものの、わたしはその先の言葉を見失った。

「……」

「……」

 急に沈黙が訪れる。気まずい。

「えーと、じゃあとりあえず読める所から読んでいくね?」

「そうですね。私ももう一度他の本に目を通してみます。以前は気づかなかった事に今なら気づけるかもしれませんから」

 そう言ってわたしたちは再び読書を開始した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...