2 / 63
たぶん乙女ゲーな夢
しおりを挟むだるい。
身体がだるくて、目を覚ませない。
だけど脳はそろそろ起きる時間だと告げていて、必死に私の身体を目覚めさせようとしている。
それとも反対なのかな? 体はもう起きる準備が出来てるのに、脳が半分眠ったままで起きる指令をくれないからだるいのかな?
でもとにかく起きなくちゃ。
そんな事をボンヤリ考えてる時だった。
「おい」
突然、耳元で声がした。ビクリと体が反応し、急激に意識が覚醒する。
「んえっ?」
そんな可笑しな声を出して、目が覚める。我ながら恥ずかしい声だとは思うけど、出てしまったものは仕方がない。
そんな事より突然起こされてバクバクしている心臓を押さえながら、開いた目に飛び込んできた光景にわたしはパニクった。
知らないヒトが、目の前にいる。ていうか、知らない男の人が四人も、わたしの寝姿を覗き込んでる? どどど、どーいう事? なんで??
状況がつかめず頭がくらくらする。心臓が更に激しく鳴って、苦しい。
「目ぇ覚めたみたいだな」
最初に声をかけてきたとおぼしき男性が呟く。楽しそうに笑うその横で、今度は穏やかに微笑んでる人が声をかけてきた。
「突然すみません、姫君。けれど私達にはどうしても貴女の力が必要だったのです」
はぁ? 姫君ー?!
ただでさえ心臓バクバク、頭クラクラなのにそんな事言われて一気に熱が上がった。
落ち着けわたし。これは夢に違いない。わたしはまだ眠ってて夢を見てるんだ。
そう思って目を閉じ、深呼吸する。吸って、吐いて、吸って、吐いて……。
いや、違った。深呼吸は吸うより吐く方が大切だからまずは吐く方からしなきゃいけないんだった。
吐いて、吸って、吐いて、吸って……。うん、だいぶ落ち着いてきた。
「大丈夫ですか?」
優しい声が耳をくすぐる。
ていうか、まだ声が聞こえる?
目を覚ませわたし! とばかりにカッと目を見開いて辺りを見回す。しかしそこにはやはりというかなんでというか、さっきと同じ男の人たちがわたしを見下ろしていた。
「ど、どどどどどど……」
「ど?」
「どちら様でしょうか?」
間の抜けた問いだとは思うけど、それしか思い浮かばなかった。
それを聞いた彼らは、一人は吹き出し一人は大笑い。そしてもう一人は眉をしかめそれから最後の一人は優しく微笑んだ。
「失礼しました。そうですね、まずは自己紹介いたしましょう。私の名は緋川透見。今回姫君を召還しました魔術師です」
サラリと長めの髪を揺らし、透見と名乗った青年はやわらかな笑みを浮かべた。
その横からずいと出て来たのは最初に声をかけてきた彼。
「オレは依瀬剛毅。よろしく」
自信たっぷりといった瞳でわたしに笑顔を向ける。大笑いしてた彼だ。今もまだ笑い足りないのか今にも笑い出しそうな顔をして、というか声に出してないだけで笑ってる顔をしてわたしの事を見ている。
「あ、僕は管矢園比って言うんだ。よろしくね、姫様」
ひょいっと顔を出して自己紹介したのは目のくりっとした男の子。さっきちょっと吹き出してた子だ。この子も笑ってはいるけど剛毅って人と違って、可笑しいからっていうより単ににこにこと普段から愛想が良い感じ。
そして最後に眉をしかめてた彼が眼鏡に手をやりつつ静かに言った。
「俺の名は静谷戒夜だ。ところで姫、いいかげんそこから起きないか?」
言われてようやくわたしは布団の中で寝っ転がったまま彼らを見ていた事に気がついた。自己紹介してる人達に対してこれはすごく失礼だよね。
大慌てで体を起こす。けど、掛け布団はぐいっと持ったままだ。いや、ちゃんとパジャマは着てるし、彼らからしてみれば対象外のおばさんだろうけど、それでもやっぱり恥ずかしい。
けど、あれ? ちょっと待って。
辺りを見回すとそこは知らない部屋。わたしの部屋じゃない。
目覚めた場所がわたしの部屋じゃなくって、しかも知らない男の人に囲まれてるなんて、これってもしや夢?
そうだよ夢だよ。なんだ、やっぱり夢なんだ。
ホッとして、そこでようやく気がついた。さっき自己紹介してくれた四人の名前を、わたしは知ってる。ていうか、なんですぐに気がつかないかな、わたし。この四人の名前って今やってるゲームの攻略キャラの名前じゃん。
しかも性格も容姿もゲームそっくり。ああ、良い夢見てるわ、わたし。
急にニヤケだしたわたしを不信に思ったのか、戒夜がキビシイ目でわたしを睨む。剛毅はどうしたんだろうって不思議な顔をして、園比はきょとんとしてる。そして透見は先程と変わらず笑顔のまま。うんうん、ゲームそのままだあ。
嬉しさのあまりニヤケる事を止められないまんま、わたしも自己紹介しようと口を開く。
「えーと、わたしの名ま……」
「ストーップ!」
剛毅が大声で割り込んできた。びっくりして黙ると、戒夜がクイと眼鏡を上げつつ口を開く。
「名乗ってはいけない」
「姫様は名前教えちゃダメなんだよ」
にこにこしながら園比も言う。
へ? このゲームにそんな設定あったっけ?
不思議に思い、首を傾げる。
あ、でもこれって夢なんだから本物のゲームと違ってて当たり前か?
そんな事を考えてたら、透見が優しい声で説明を始めてくれた。
「〈救いの姫君〉の名は特別な力を秘めていると言われています。しかしそれは万人に与えてはならないもの。〈唯一の人〉のみがその名を呼ぶ事を許され、その力を発揮出来るのです。ですから姫君、どうか努々御名を口になされませんよう、お気をつけ下さい」
透見の言葉に三人は頷き、分かったかとわたしに確認するようにこちらを見た。
わたしはというと、透見の言葉を反芻しながら首を傾げ質問する。
「わたしの名前が力を秘めてるって、どういう意味? その〈唯一の人〉てどこにいるの?」
とか言いつつ、本当は薄々見当がついていた。だってこれって乙女ゲーの夢でしょ。となればやっぱ〈唯一の人〉ってのはわたしが選んだ攻略相手で、名前を教えるイコール告白、想いが通じ合った事で真のパワーの解放炸裂ってとこでしょ。
でもまあ、わたしの考えがハズレてる事もありえるし、訊いてみたんだけど。
「すみません。それについてはまだ私達にも分かっていないのです」
透見がすまなさそうに頭を下げる。
「透見が謝る事ないじゃん。このメンバーの中で一番伝承について詳しいのは透見なんだから。その透見が分かんないなら、どうしようもないだろ」
透見をフォローするように剛毅が言う。
「俺としては、姫がその辺りの詳しい事を説明してくれると思っていたのですがね」
冷たい戒夜の目が、ひたりとわたしを見据えた。
う。そんなこと言われたって。
これがわたしの見てる夢なら、たぶん十中八九さっきの考えで合ってるんだと思う。けどもしかして間違ってるかもしれないのに、言うのはちょっと躊躇っちゃうなぁ……。
うつむき考えるわたしを見て園比もシュンとした様子で謝ってきた。
「ごめんね、姫様。でも僕たちも正直情報不足なんだ。けどね、姫様が僕たちの救世主で〈唯一の人〉だけに本当の名を名乗れるっていう伝承が、大昔からこの島にはあるんだよ」
「そして伝承通り召還に応え現れたのが姫君、貴女なのです」
透見の言葉と共に四人の瞳がわたしに向けられる。うう、もしかして期待されちゃってる……のかな。
期待されるのって、苦手だったりする。なんてゆーかプレッシャーに弱いのよね、わたし。だから現実では出来るだけ期待されないよう目立たないよう先頭に立たないよう気をつけてる。だからこんな風に注目されるとどうしたらいいのか分からなくなって、つい挙動不審になってしまう。
けどまぁ、これって夢だしヒロインだもん。なんとかなる…よね?
そんなこと考えててふと気がついた。そういえばわたし、一番肝心なことを聞き忘れてる。
大きく息を吸って四人を見る。そしてわたしはみんなに尋ねた。
「ねぇ、わたしが救世主って言ってたよね。それで、わたしは何からあなた達を救うの?」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる