21 / 26
標準語訳?
8
しおりを挟む日曜日、いつもより一時間も早く目が覚めた。学校の日はいくら起こしても起きないのに、遊びに行くときだけは早く起きるんかねっておかあさんにイヤミ言われてしまった。だけど昨日あんなに寝付けなかったのにこんなに早く起きれて、しかも全然眠くないのにはわたしもびっくりした。
時間はまだまだ余裕あったけど、ちゃきちゃきご飯食べて念入りに歯を磨いたり顔を洗ったり。それで服を着替えて髪を整える。けど、なかなか髪型が上手くいかないで何回もやり直した。
それから服に変なゴミやらしわやら付いてないかチェックして、普段は使わないようなきれいなハンカチを用意して。
なんだかんだと色々手間取ったけど、九時半には支度を終えてわたしはそわそわとタカキを待った。
ドキドキする。十時って分かってるのに、まだ十時になってないのにまだかまだかと時計を眺めたり、もう一度鏡を覗いたり。
気持ちを落ち着けようとテレビをつけたけど、見てもちっとも頭に入ってこない。まだあと十五分もある。
ああ、そうだ。今のうちにトイレに行っとこう。タカキは幼なじみで、今まで遊んでても割と平気で途中トイレに行ってたけど、さすがにデートなのにトイレに行きたいって言えるかどうか。
そんなこんなしてて、さあそろそろ時間だろうと時計を見たけど、まだ十分前。五分しかたってない。けど、もしかしたら早めにくるかもしれないと思って玄関で待つ。
だけどなんにもない玄関で待ってると、ますます時間がちっともたたない。それでもじっと待ってやっと十時になった。
もう時間だからタカキが来るだろうと、外に出て待つ。背伸びしてタカキんちの方を見るけど、まだ姿が見えない。
待ち合わせの時間、間違えてないよね?
なんか急に不安になった。ばかみたいだけど、全部夢だったんじゃないだろうかって思うてしまう。ううん、そもそも妖精が出てきて魔法かけてくれるなんて、夢じゃないほうがおかしいじゃん。
そんな考えが頭の中を回り出す。だから、道の向こうにタカキの姿が見えた時、すごくほっとした。
「タカキ」
手を振って、駆け寄る。タカキもわたしに気が付いて、小走りになる。
「家で待ってればいいのに。あれ、もしかして俺遅れた?」
ちらりと時計を見るタカキ。
「違うよ、わたしが待ちきれなかったの」
わたしの言葉にタカキは嬉しそうに笑ったの。
「そっか、じゃあ行こうか」
手を差し出すタカキ。ドキドキしながらその手を取ってわたしも歩きだした。
今日は日曜日だから、水族館は混んでた。
「迷子になるなよ」
うようよいる人混みの中で冗談っぽく言いながらタカキがつないだ手に力を込める。
「うん」
わたしも、その手をぎゅっと握った。毎日学校の行き帰りに手をつないでるけどそれはあんまり人のいない所でだから、こんな風にいっぱい人がいる所で手をつなぐのは初めて。ドキドキが大きくなる。
「暗いから、足下気をつけろ」
タカキが優しく声をかけてくれた。なのに言われてるそばからつんのめって、こけそうになってしまった。
「ほんとお前、おっちょこちょいだな」
笑いながらタカキがからかう。だけど、ちゃんとわたしをかばって支えてくれもした。おかげで、ぐっとタカキとの距離が近くなる。小さい頃はベッタリくっついてても全然平気だったのに、こんな近くにタカキがいると思うと心臓がバクバクいって顔が上げられない。
「知ってる人、いないといいね」
なにか言わないと、と思って出たのがこれだった。もうちょっと気の利いた話が出来たらいいのに思いつかない。
けど、考えてみたら地元の水族館なんだから、誰かと会うかもしれない。そしたらこんな風に手をつないでいられない。
ほんとに知ってる人がいなかったらいいのにな。
そう心の中で思った。
タカキも同じように思ったのか、握ってる手にきゅっと力を入れる。
「こんだけ人がいたら誰かいても分からないだろ。薄暗いしな」
少し照れたようにタカキが笑った。
うん、そうだね。わたしもタカキの手をぎゅっと握り返して、誰にもジャマされない事を祈った。
居心地のいい雑音の中、わたし達は暗い館内をゆっくりとまわった。水槽の中の魚を指さして、あれこれ喋りながら笑う。
手をつないでる以外はなんて事もない、友達の時と変わらない事してるのに、ただそれだけで嬉しくて楽しい。タカキが隣にいるだけで、幸せで顔がにやける。
ずっとこのまま、今日が終わらなければいいのに。そう思えるくらい幸せだった。
まんぼうの水槽の前に来た時、ふとタカキが言った。
「ふみか、これ見たがってたなあ」
見上げるとタカキは、ちょっと淋しそうな目をしていた。
たしかに、ふみかは前からまんぼうを見たがっていた。いつか三人で見に来ようねって言っていたんだった。
「うん、そうだね」
もう二度と前みたいに三人で遊べないのかと思うと、わたしも淋しくなった。けど、タカキがいるから。タカキと恋人同士だから、淋しくない。二人でいっぱい楽しい思い出作ろう。
そう思いながらわたしが頷くと、タカキも淋しそうに笑いながら頷いた。
「いつかまた、三人で来れたらいいのにな」
びっくりした。タカキはいつかまた三人で遊べると思ってるの?
それと同時にその言葉になにかちょっともやっとした。
今日はわたし達の初デートで、隣にいるのは彼女のわたしなのに、なんでただの幼なじみで友達ってだけのふみかと三人で来たいっていうの? そりゃあ今までふみかと三人でずっと行動してたから、淋しいっていうのは分かる。けどわたし達今、ただ遊びに来ただけじゃないじゃん? デートなのよ? 目の前にいるのは、今付き合ってるわたしなのよ?
そう言いたかったけど、やめた。タカキはふみかをふってしまった罪悪感があるから思い出すとデートに集中できないのだろう。それでわたしも罪悪感があったから、言えなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる