おまじないしたら恋の妖精さんが出てきちゃった。わたしのお願い叶えてくれる？

標準語訳？

６

　午後の授業は、放課後の事が気になって全然頭に入らなかった。妖精さんの魔法の腕は、今朝のタカキ見てるから疑ってない。だけど、放課後三人で帰る時、ふみかにどう言ったらいいんだろ。

　これがほんとに本当のことだったら先にふみかと付き合うって言ったタカキも悪いんだから、タカキに任せとくってのもありかと思うんだけど、今回本当はタカキは悪くないんだから出来るだけわたしがふみかと話ししてなんとかしたい。

　でも、なんて言ったらいいの？

　そんなことぐるぐる考えていたら、あっと言う間に放課後になってしまった。

　いつもと同じように三人で固まって帰る帰り道。さすがに学校近くは色んな人がいるから、みんな差し障りのない話をした。

　それからひとけがなくなって、みんな黙りこくった。三人ともどう話を切り出せばいいのか分からないのだろう。

　それでもふみかが何か言おうと口を開きかけたのを見て、わたしは慌てて大声で叫んだ。

「ごめん、ふみか。ほんとごめん」

　これは、本心からの謝罪。ふみかからタカキをとったのは事実だから。

「あみちゃん？」

　ふみかが驚いてわたしを見る。けどわたしは、ふみかの顔が見れなかった。

「昨日も、さっきも言えなかったんだけど、ごめん、ふみか。わたし、タカキの事が好きなの。ずっと好きだったの。だけど、ふみかとも友達だから、昨日二人が付き合いだしたって聞いて、そのこと言えなかったの。だけどね、やっぱり気持ちだけは言っときたいって思ったのよ。だから今朝早く出てタカキ待ち伏せしたの。それで、告白したの」

　いっきにまくしたてて、わたしはぎゅっと目をつぶった。ふみかがとまどってるのが気配でも分かる。

「そう、だったの。それで今日、タカキ迎えに来られなかったの」

　つぶやくふみか。目を開けると不安そうにタカキを見上げるふみかが目に入った。

　タカキはバツが悪そうにその視線をそらしてる。

「すまない、ふみか」

　ぽつりと言うタカキに、ふみかは更に不安そうな顔になった。

「謝ることないよ。明日からは約束通り迎えにきてくれるんでしょ？」

　そこまで言うとふみかはくるりとこっちに向きを変えて立て続けに言った。

「あみちゃん、気がつかないでごめんね。けどわたし達……」

「ふみか、すまない。明日から、迎えに行けない」

　喋るふみかの言葉を遮ってタカキが言った。驚いてふみかがタカキを見る。

「なんで？」

　しばらく言葉が出なかったけど、タカキは決心したように口を開いた。

「俺、ほんとはあみの事が好きだったんだ。ずっと三人でいて仲良しで、もちろんふみかの事も好きなんだけど、あみに告白されて気がついた」

　タカキの言葉にふみかはショックで真っ青になってしまった。そんなふみかを見ていたらかわいそうっていうか、罪悪感がこみ上げてくるっていうか……。けどその一方でタカキの言葉にわたしは舞い上がった。こんなにはっきりタカキに好きって言われて嬉しくないわけがない。

　でもだからってふみかの前でにやけるわけにもいかないから、わたしは必死で歯をくいしばっていた。

「なんで？　タカキ、わたしのことずっと好きだったって言ったじゃん。あれ嘘だったの？　ついこの間言ったことじゃん？」

　ふみかの声が震える。唇が震える。瞳からぼたぼたと、涙があふれ出てくる。

　急に罪悪感が強くなって、胸が痛くなった。ふみかの涙につられて、わたしまで涙が出そうになる。タカキも同じみたいで、つらそうな顔してる。

「ごめんね、ふみか」

　わたしは謝ることしか出来なかった。

「ふみか、すまない」

　タカキも謝る。

　他にはどうしようも出来ない。

　ふみかはその場にしゃがみ込んでわあわあ大声で泣き出した。

「うそつき。わたしが一番好きって言ったじゃん。あみちゃんだって、おめでとうって言ってくれたじゃんか。なんで？　なんで嘘つくの？」

　ふみかの言葉にわたしもタカキも返事が返せない。ただ、ふみかが泣き止むのを待つしか出来なかった。

　ひとしきり泣いた後、ふみかは立ち上がった。わたし達の顔を見ないまんま、小さい声で言う。

「わたし、昔っからほんとにタカキのこともあみちゃんのことも大好きなの。それはほんとなのよ。だから、大人になってもおばあちゃんになっても、二人と仲良しでいたいと思ってる。けど、今は」

　そこまで言って、また涙を流した。

「笑って祝福できるほど、大人じゃないから、帰る。明日からもう朝も帰りも、一緒にはしないから」

　そう言って、ふみかは駆けだした。その背中を追うように、タカキが叫ぶ。

「俺も、俺もふみかと大人になってもじーちゃんになっても仲良しでいたい。いたいから、ムシのいいこと言ってるかもしれないけど、ふみかが嫌じゃなくなったら、また遊ぼうよ。一緒に学校行こう。待ってるから。待ってるからな」

　ふみかはタカキの声を振り切ろうとするみたいに振り返らないでそのまま駆けて行った。