17 / 26
標準語訳?
4
しおりを挟む学校が近くなって人影がちらちら見えだした頃、わたし達はつないでいた手を外した。だけど教室に入ってもまだわたしの心臓は鳴り止んでなかった。
「……ふみか、いないなぁ」
教室に入ってすぐに、タカキが言うのが聞こえてきた。
慌ててわたしも、教室を見渡す。
確かにふみかの姿が見えない。
「どうしたんだろうか。急に具合でも悪くなったんだろうか」
今までこんなこと、なかったから心配だ。いつも具合が悪くて休む時にはわたしが家を出る前に電話くれていたのに。
「もしかして俺らが行った後に待ち合わせの場所に着いて、ほんとギリギリまで待ってるのかなあ」
心配そうにタカキも教室の入り口を見ている。けど、いっこうに来そうにない。
予鈴が鳴ってもまだ来ないで、もうすぐ本鈴が鳴るって時間になってようやくバタバタ音をたててふみかは教室に来た。
息を切らしたふみかは教室を見渡して、タカキとわたしを見る。
「来ていたの……?」
半分泣きそうな顔をしてふみかはタカキの方を見た。
やっぱギリギリまでふみか、待ち合わせの場所で待ってたんだ。先に行ってしまってかわいそうな事した。
そう思ってふみかに声をかけようとした時、先生が教室に入ってきた。
HRが終わってすぐ、わたしはふみかに声をかけた。
「今日はごめんね? いつもの場所に時間すぎても来なかったから、先にいってるのかと思っていたのよ」
パチンと両手あわせて謝る。ふみかはぷるぷると首を振ってにこりと笑った。
「いいのよ。遅れたのはわたしなんだから」
けど、なんかふみかの元気がない。そこにタカキが入ってきた。
「ふみかが遅れるなんて、珍しいなぁ。寝坊でもしたのか?」
悪気はないんだろうけど、デリカシーがないこと言う。
「もー。誰だって遅刻しそうになる事あるよ。いーじゃんか」
わたしがふみかをかばうとタカキがデコピンしてきた。
「あみはしょっちゅうだもんな。今まで何回俺らが巻き添えくいそうになったことか」
「それ昔の話じゃんっ。最近遅刻してないでしょっ?」
わあわあタカキと話していたら、ふみかが急に泣きそうな顔になった。
「タカキ、今日はいつもの場所に来ていたの?」
消えそうな声でふみかがつぶやく。
「? ふみか? なにかあったの?」
びっくりして話聞こうと思った時、チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。
それから授業の合間の休憩時間は移動があったりなんだりで、結局ふみかと話が出来たのは昼休みになってからだった。
給食は教室で食べないといけないから、他の子等に聞こえたら嫌だろうから、食べ終わってから屋上に行く階段の踊り場で話しすることにした。
タカキはちょうどクラスの男子にサッカーに誘われていたし、こういう話は女の子同士の方がいいかと思ったから遠慮してもらった。
「それで、どうしたの?」
ふみかの顔をのぞき込んだら、うつむかれた。
ほんとのこと言って、ふみかが元気ない理由はちょっと分かっていた。だってふみかはタカキが好きなんだから、わたしと付き合いだしたら元気なくなるのは当たり前じゃん? わたしだって、元気なふりはしていたけど妖精さんが願い叶えてくれるまではすごく悲しくて、ほんとは元気なんかなかった。
だから、原因の自分がこうして声掛けるのは酷い仕打ちなのかもしれない。けど、だからってこのまま知らんぷりすることも出来なかった。
ふみかは何度か喋りかけては、口を閉じた。何度かぱくぱくやった後、ようやく小さな声で言った。
「今までタカキ、約束破ったことなかったのに。わたし、なにか怒らすような事したんだろうか……」
ふみかの言葉にびっくりした。てっきりタカキのことが好きって言う話か、今日おいてきぼりくった話かと思っていたから。
「約束?」
思わず声がひっくりかえる。ふみかとタカキ、なんの約束していたの?
「あみちゃんも昨日の約束、知ってるでしょ? タカキ、うちに迎えに来てくれるって言ってたじゃん? だからわたし、今日家の前でずっと待ってたの。遅刻ギリギリまで待ってたのよ」
え? ええええ???
ふみかの言葉にびっくりした。ふみかとわたしの立場、入れ替わってるんじゃないの? なんでふみかは昨日の約束自分のこととしてちゃんと覚えてるの?
心臓がバクバクしてきた。
タカキは確かに昨日のふみかとの約束をわたしとの約束と思っていた。だからうちに迎えに来たんだし、わたしのことちゃんと好きになってる。なのになんでふみかは妖精さんの魔法にかかってないの?
頭ぐるぐる回りだして、ふと妖精さんの言葉を思い出した。
そういえば妖精さん、アフターケアがどうのって言っていた。それってこういうことがあるからってことなの?
あれこれ考えてたらふみかが覚悟決めたように言った。
「ごめん、あみちゃん。こんなことあみちゃんに相談するより、タカキ本人に聞いた方がいいよね。今からタカキと話ししてくる」
今にも駆け出しそうなふみかを慌ててわたし、引き留めたの。
「ちょっと、待って。今タカキ、クラスの連中とサッカーしてるのよ? 急に連れ出したら噂になるって」
昨日二人は、わたし以外には付き合ってること言わないって言っていた。変に噂になるのは嫌なはず。
「放課後ならわたし達いつも三人で帰ってるから、誰も不思議に思わないからその時にしなさい?」
わたしがなだめるとふみかはうん、と頷いてまた泣きそうな顔に戻った。
「ごめん、ふみか」
ぽろりと声に出る。ほんとだったらこうやって泣いてるのはわたしだった。わたしのかわりに今、ふみかが泣いてる。
ふみかがかわいそうって気持ちと罪悪感とが入り交じって、ふみかの顔がまっすぐに見れない。
「なんであみちゃんが謝るの?」
ふみかにしてみれば意味の分からない謝罪だよね。だけど、ほんとの事は言えない。
わたしはごまかすために、作り笑いした。
「えと、ふみかが落ち込んでる時にあれなんだけど、トイレ行きたくなったのよ。……休み時間内にこっちに戻って来れないかもしれないから、気分落ち着いたらひとりで教室戻っててね」
そう言い残してわたしは慌ててその場を駆け出した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話
みにゃるき しうにゃ
恋愛
明日も仕事があるのにダラダラ乙女ゲー。
寝落ちして気が付いたら乙女ゲーの世界の夢?
せっかくだからこの夢楽しんじゃおう!
自サイトに載せている「おとひよ」と全く同じ作品です。
タイトルだけ分かりやすいように変えてみました。
いわゆる悪役令嬢は出てきません。
そしてこのお話、ハッピーエンドではありません。
暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。
近況ボードに「『おとひよ』もしくは『独身彼氏なし~』についての言い訳とか言い訳とか。」というタイトルで言い訳書いています。良かったらご一読ください。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる