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第5話
その1
しおりを挟むお嬢様の部屋の前まで来ますと、スミさんは深呼吸をしてノックを三回しました。
「失礼いたします。王子様方がお見舞いに来られました」
スミさんはそう告げると、一呼吸置いてから扉を開きました。
そうして入ってくる王子様方をお嬢様はきちんと立ってお出迎えされました。
部屋に入り、誕生パーティーの時より少しほっそりとしたお嬢様を見て、タカは少し反省しました。
というのも心の何処かで具合が悪いというのはただの言い訳で、求婚してくる従兄達に会いたくないから逃げているのだろうと思っていたからです。
まあ実際、半分はそうだったのですが、そんな事とは知らないタカは彼女を疑ってしまった事を申し訳なく感じたのでした。
「あー、ミナちゃん。体調悪いんデショ。ムリしないで座って座って」
軽い口調で、だけど誰より先にそう気を使ってくれたのはオミでした。
しかし王族より先に座るのは失礼だと思ったミナは、戸惑い座ろうとはしません。それに気づいたイチヤとフツカの兄弟はすぐさま客用のソファーの方へと向かいました。
「そうそう。みんな座ろう。ホラ、タカもオミも座って」
「そうそう。とりあえず、座ってから話そう。ね」
そう言ってドカドカと座り、みんなに手招きをします。タカもそれに合わせて座ると、オミがミナお嬢様の手を引きソファーへと連れてきました。
「はい、ミナちゃんも座ってネ」
そう言いミナを座らせてからオミもその隣に座りました。
ちゃっかり隣をキープしたオミに気づき、フツカがオミを睨みますが、オミの方はどこ吹く風です。
「そーだミナちゃん。お見舞いの品、めちゃオイシーから良かったらみんなで食べてネ」
にっこり笑ってオミが差し出したのは、小さなチョコレートの詰め合わせでした。
出遅れを感じていたタカも、慌ててお土産を差し出します。
「ボクはこれ……。焼き菓子の詰め合わせだ。これなら食欲のない時にでも食べられるんじゃないか?」
選んだ時にはそこまで考えてはいなかったのですが、細くなったミナの姿を見てタカはついそう付け加えました。
「オレたちも食べ物のほうが良かったかな?」
「いやいや。心を潤すのも大切でしょ」
そう言ってイチヤとフツカが差し出したのは綺麗な花束でした。
「皆様、ありがとうございます」
小さな声ですが、お嬢様はそう言って頭を下げました。
「いいっていいって。ホラ、顔を上げて?」
お嬢様が顔をあげると、にっこり笑ったオミの顔がありました。
「そうそう。もひとつお土産。ウチ、チョーナンは結婚してるし、ジナンも王位にキョーミないって。そういうオレも、ミナちゃんカワイイけどキミのメイドちゃんの方にキョーミシンシンかなーって。まあそういうわけで、キミに会いに来るのを口実にメイドちゃんに会いに来たワケですよ」
つまり、オミの兄弟は誰もこの王位継承争いには参加しないと言ったのです。
扉の所に立っていたスミさんは、それを複雑な思いで聞いていました。
お嬢様を悩ませる立場から降りて下さる事はとても嬉しいのですが、王族のオミがメイドである自分に興味を持つというのはとても困るのです。
それもこれもこの猫の耳と背中の羽根のせいだとスミさんは自分の容姿を恨まずにはいられませんでした。
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