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星見パーティー
その1
しおりを挟むソキは風に乗せてにぎやかな村の歓迎式の様子を聞いていた。
村長さんの挨拶の後、子供達の合唱が始まり、その最後にシガツ達が魔法で花を降らせる。
きっと魔法が成功したのだろう。「わあ」という歓声が聞こえてきた。
その様子を見たかったなとソキは思ったけれど、下手に村に近づかない方が良いのも分かっていた。
師匠にもクギを刺されていたし、領主のお姫様ならもしかしたらお共に風使いを連れている可能性だってある。
お守りの指輪はしてるし、ソキはまだ力の弱い存在だから捕まえようとする可能性は低いかもしれないけれど、近寄らないにこしたことはない。
だから頭の中でどんな感じか想像するだけでやめておいた。
それでも、楽しそうな雰囲気にソキも楽しくなる。ちょっと真似してそこらの花を幾つかふわりと飛ばして遊んだ。
歓迎式が終わると間もなく、シガツが一人で帰ってきた。
「お帰り。早かったね。あれ? みんなは?」
マインと師匠の姿がなく、ソキは首を捻った。
「師匠はまだやらなきゃいけない事があるみたいだよ。マインはせっかく可愛い服着たから、もう少しそのまま村で遊んでくるって」
疲れたという顔をしてシガツは家の傍の木の陰に座り込んだ。ソキもフワリとその隣へと降りる。
「お姫様、どうだった?」
「ああ、うん。喜んでたんじゃないかな」
曖昧なシガツの答えにソキは首を傾げた。
「どんな人だった?」
シガツは近くで見たはずだから、「可愛い」とか「綺麗」という言葉が出てくるだろうと思いながらソキは答えを待った。だけど、シガツは苦笑いをしながら「どうだろう……」と答えを濁した。
その様子にソキはあれ? と思った。
「もしかしてシガツ、お姫様の事キライ?」
最近歓迎式の話題でシガツの顔が強張る事が時々あったけれど、それは大役だから緊張しているんだろうとソキは思っていた。
だけどそれが終わったはずなのにシガツの顔が硬い。
「嫌いじゃないよ。……苦手ではあるけど」
「そうなの?」
苦手なのに嫌いじゃないというのがピンとこず、ソキは再び首を傾げた。
シガツは困ったように笑いながら肩をすくめる。
「ソキは……ソキもお姫様みたいなキレイな服が着たい?」
言いかけた言葉を飲み込み、シガツが話題を変える。
その事に気づいたけれど、言いたくなれば言うだろうと、ソキはそれに触れなかった。
「キレイな服は、好きだよ。マインの服もキレイだったね。けど、ちょっとの間くらいなら着てみたいけど、ずーっとは窮屈だから着ないよ。シガツも知ってるでしょ?」
風の精霊についてあれこれ勉強したシガツなら、身体を締め付ける服が嫌いな事は知ってるだろうとソキは問う。
「あはは。そっか。じゃあ窮屈じゃない綺麗な服があったら、買おうか」
シガツの言葉に嬉しくなってソキは「うん」と満面の笑みで頷いた。
他愛のない話を二人でしていると、師匠よりも先にマインが帰ってきた。
「お帰り。早かったね」
あんなにまだ着ていたいと言っていた衣装を脱ぎ、すっかりいつもの格好のマインを見てシガツはちょっと不思議に思った。
「うん。師匠が今日は遅くなるから夕食は二人で食べてって。師匠は夜の宴にも顔を出さなくちゃならなくなったから」
少し沈んだ声でマインが言う。
「ごめん。もしかしてそれを伝える為に早く帰らなくちゃならなくなった?」
シガツが先にひとりで帰ってしまっていたから。もしまだ村にいたら、そのままマイン達も村で食事を……となっていたかもしれない。
謝るシガツにマインは慌てて首を振った。
「ううん。違うよ。もう帰ろうと思ったところで師匠から伝言預かったの。だから伝言がなくてもこの時間に帰って来てたよ」
だけどマインはあんなに衣装を脱ぎたがらなかったし、村の子達とも遊べる絶好のチャンスなのに。
それに何もなく帰って来たんならマインはもっと明るい顔をしているはずだ。
「どうしたの? 何かあった?」
そう声をかけたのは、ソキだった。そんなソキをマインはじっと見つめる。
「……ソキもきっとキレイだよね」
マインが漏らした呟きに首を傾げるソキ。
「さっきの衣装のマイン、すっごく可愛かったよ?」
「ああ、うん。すごく似合ってた」
あの衣装の事で誰かに何か言われて落ち込んでるんだろうかとそう言ってみる。だが村の人達はみんなマインの事を可愛がっているから変な風に言う人なんていないと思うのだが。
「あ、うん。ありがとう」
マインはちょっぴり頬を染め、照れたように微笑んだ。
けれどすぐに浮かない顔に戻ってため息をつく。
「……さっきね、お姫様に会ったの。近くで見たお姫様ね、なんていうか品があって素敵だなぁって。逆立ちしたってあんな風になれないなぁ……」
しょんぼりとするマインをシガツは不思議そうに見た。
「そうかな? 彼女も公式の場だから大人しくしてるだけで、マインと変わらない普通の女の子だと思うよ?」
「シガツはすぐ近くで見てないからそう思うんだよ」
ぷうっとマインは頬を膨らませる。
その様子を見て、どんな風に言ってもマインは拗ねるだけだろうと思い、シガツは話題を変える事にした。
「師匠が遅くなるんなら今日の夕食、星見の塔の上で食べないか?」
実は以前からちょっと気になっていた。星見の塔なんて名前がついているのだから、きっととても良く星が見えるのだろう。
「面白そう!」
シガツの提案にマインもパッと目を輝かす。
「みんなで夜に塔の上に来るの?」
ソキもわくわくした顔で二人を見た。
「だろ? そうと決まれば持ち運びしやすいメニューがいいよな……」
二人が乗ってくれた事にシガツは気を良くする。
ちょっとした夜のピクニックに、マインの気持ちはすっかり晴れていた。
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