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序章
序章:14 "天樹で学ぶ異世界鍛練事情(上)"
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騒がしい昼食を終え、太陽が夕方へ差し掛かる頃、リベルは修行をしていた。
ナル曰く。この世界で生きていくにはまず、己の身を守れるくらいに強くならなければいけないらしい。魔物は言わずもがな、盗賊やら裏の組織やら、とにかく危険な存在が天樹の外にはたくさん蔓延っているとのことだ。
そこでリベルは五歳くらいの頃からナルの指導の下、武器を使用した戦闘訓練を行なっていた。
「くぅぅぅぅっ!」
???⦅ーーー⦆
そして、今もこうして鍛練を欠かさず、先端に布を巻いた六尺棒を手にして、相手である武器を構えた案山子の攻撃を必死に耐え続けていた。
「~~~っ、せぃっ!やぁあ!!」
???⦅ーーッ⦆
たった今、案山子の攻撃を受け止め、リベルはそのままそれを弾き返しつつ一撃を打ち込んだ。
『ふむ。あの状態から抜け出しつつ一撃を与えるか』
『ふむ~ん。ごしゅじん、すごい』
リベルの動きにナルは感心を示し、ムークンはナルの動きを真似しながらリベルを誉めていた。
「ハァ、ハァ。ったく、ナル様は相変わらず容赦なさすぎだよ。ちゃんと僕の強さに合った調整にできてるのかな?」
肩で息をしながらこの場に居ないナルに対し、リベルは不満不平を溢していた。するとその間に、リベルに攻撃をされた"へのへのもへじの案山子"が起き上がり、その胸にある表示らしき模様のひとつが消えていた。
「ま、あの人がメチャクチャなのは今に始まったことでも無いから、別に構わないんだけどね。相手はまだシムーフだし」
シムーフ⦅ーー〆⦆
リベルが相手にしているこの案山子。実はナルが訓練相手として錬金術で創った、オートマタと呼ばれる自律式魔導人形だ。ちなみに木製で出来ている為、より正確に呼称するとしたら木造魔導人形。通称ウッドオートマタである。
案山子に格好が似ているのはリベルが、「どうせなら特徴のある相手にして欲しい」という希望があったので、ナルがリベルの知識の中にあったはっぴ姿の案山子を見つけ、特徴的だったことがきっかけでこのデザインになった。
しかし、当時のリベルからは「なんか古い」という感想が帰ってきた上に、完成したオートマタも最初はのっぺらぼう状態で格好以外これといった特徴がなかった為、リベルの手によって顔はへのへのもへじが書かれ、シムーフという名前を付けられた。
しかしこのオートマタ。天樹の木の一部で創られていてちょっとやそっとでは破損しない上、破損しても天樹に溢れるマナによって木々同士で自己修復をするので壊れる心配がない。
シムーフ⦅ーー〆⦆???⦅ーーー⦆
「あれ?なんでカロトまで動きだしーーー」
へのへのもへじの案山子、シムーフの後ろからもう一体、チョビヒゲが描かれたひょっとこのお面を付けたオートマタ、カロトがゆっくりと近づいて来ていた。そしてさらにその後ろの方からもゾロゾロと。
シムーフ⦅ーー〆⦆カロト⦅ーーー⦆???⦅ーーー⦆???⦅ーーー⦆???⦅ーーー⦆ ーーーーーーーーーーージリッ
「………え?」
気が付けば計五体のはっぴ姿の案山子達が、様々な武器を構えながらリベルに近付いてきていた。
おまけに顔も一体ずつ違いがあり、先のシムーフとカロトの他に、黒縁のメガネの模様が描かれた般若。アフロヘアーに形を整えた葉っぱの塊を頭に乗せたおかめ。最後は西洋のフェイスガード付きのフルヘルムが現れ、全員フルヘルムを中心に横並びに立っていた。いや、なぜはっぴ姿でフルヘルム?
「ちょっとナル様!どういうことですか!?なんでドリフターズが全員集合しているんですか!?」
誰もいないはずの上に向かってリベルが叫ぶと返ってきたのは木霊ではなかった。
『そろそろリベルなら五体抜き出来ると思って出撃させたんだよ』
リベルが叫んだ方向の少し上辺り、そこにはナルとムークンがリベルの修行の様子を見学していた。一応、邪魔にならないように離れた位置に場所を設けていた。
もうお気付きかと思うがこの五体のオートマタ。製作者はナルで、デザインと名前の発案者はリベルが担当して生まれた集団。その名はドリフターズだ。
製作秘話はあえて割愛するが、まとめて紹介すると。
○片手剣と盾を持つ笠かぶりのへのへのもへじがシムーフ。
○両手に斧を二つを持ったチョビヒゲのひょっとこがカロト。
○槍を持ち、メガネが描かれている般若がイローハキ。
○長柄の棘付き鉄球棍を武器にするアフロと小さな角が特徴のおたふくがブーロック。
○そして両手剣を携え、異様なオーラを放っているのがフルヘルムのチョウザンだ。
リベルはこのドリフターズを相手にナルの厳しい修行をなんとかこなしていき、身体面の成長もそうだが無茶振りにも耐えてきた胆力により精神面もたくましくなり、ある程度相手になるくらいには実力がついていた。
しかし、それは一対一での訓練であればの話。リベルは多数を相手取る集団戦闘の訓練は今までやったことがない。
「無茶言わないで下さい!まだブーロックとチョウザンにも勝てたことが無いのに、いきなり五体相手なんてできませんよ!!」
ドリフターズ達は同じ造りのウッドオートマタだが、性能や戦闘方法は個別で変わっている。
そもそも今までリベルが個人戦闘訓練で勝てたドリフターズはシムーフ、カロト、イローハキの三体のみで、残るブーロックとチョウザンには勝てたことが無い。良くてもブーロックと相打ちのカタチでギリギリ引き分けに持ち込めたくらいだ。
『大丈夫だよ。今まで培った経験を全部引き出せば、今のリベルなら勝てるさ』
「えっ!?ひょっとして、アレを使えって言ってるんですか!?でもまだ自信がーーー」
どうやら一応の戦闘手段があるようだが、リベルはそれを使うことを躊躇していた。
『頑張りなさ~いリベル!コレも良い経験になるはずだよ~!』
『ごしゅじ~~ん!がんば~~っ!』
ナルとムークンはお茶を飲みながらそんなリベルを応援する。要はやりなさいということらしい。
六尺棒を突き立てて、その柄頭にリベルは頭を乗せて溜め息を吐いた。
「……はぁ、悪意が無いからなおさらタチが悪い」
しかし、五体の案山子達はその行いを理解すること無く、着実にリベルとの距離を縮めていき、一定の距離をとったあたりでシムーフを先頭にカロトとイローハキがその背後を横並びに控え、更にその後ろをブーロックが立ち、最後尾にチョウザンが立つという戦陣を組んでいた。
(ってもう戦闘配置についてる!?いや落ち着け!確かに厳しいかもしれないけど、ナル様は出来ないことは絶対にやらせようとはしなかったはずだ。あとはボクの自信次第だ!)
既に戦闘態勢を整え終えたドリフターズを見てリベルは怖気つきそうになるも、一度深く深呼吸をして精神を落ち着かせる。
「あっそうだ!念の為に」
突然思い出したかのようにリベルは手に握りしめていた六尺棒を両手の上に乗せ、軽く握りながら何かを始めた。すると六尺棒から途切れ途切れの術式が徐々に浮かび上がってきた。
「あ~やっぱり。施していた術式がボロボロになってる。組み直さなきゃ」
錬金術が発動し、六尺棒の術式の光が強く輝きだした。
『あっ!ほら、ムークン見て!リベルが錬金術を使ったよ!』
運動会で自分の子どもを応援する保護者のような気分でナルがムークンに話しかけた。
『なるさま。ごしゅじん、なにしたの?』
『六尺棒に予め刻んでいた術式の綻びを直すために、新しく術式を組み直そうとしているんだよ』
リベルのやったことが分からなかったムークンはナルに質問をした。だがナルの説明を聞いたムークンは身体全体を使って傾げていた。
『むう?むーくん、わかんない』
『それじゃあ錬金術について、ムークンにも分かるように説明しようか』
ここでリベルの修行の傍ら、ナルはムークンに錬金術の説明を始め出した。
『まず錬金術とは、この世界に存在するあらゆる物質を用いて新たな物質を生み出すことができる、森羅万象に触れられる理のチカラの一端。錬金術を扱う錬金術師達は新たなる可能性を見出す為に存在する、可能性の探求者とも言える。とはいえ錬金術は無から有を創ることは出来ないうえ、物質の構造や仕組み、数多の情報を理解出来なければ使用することもままならないため、そういった点も含めると近年の錬金術師の需要も低下の傾向が見られーーーーーーーーーーーー』
『むーーー…』
錬金術について長々と熱弁するナルとは裏腹に、ムークンは途中からボーッとしていた。
『……と、とりあえずこの話は置いといて、錬金術で出来ることについての説明にしようか』
『むー!』
ムークンでも分かるようにと言った矢先でナルは熱が入ってしまい、配慮ができていなかったことを反省し、ナルは気を取り直して説明を始める。
『錬金術で出来ることは、主に物質の構造を組み換えたり、新たな物質を創り出すこと。そして、それを行うには術式の存在が必要不可欠になる』
『むう!むーくん、しってる~!ごしゅじんがつかってるやつ~!』
ムークンはリベルが普段の生活や修行の際にも錬金術を使っている為、よく覚えている。特に想像力を高める為の粘土細工の時は常に横で見ていることが多く、どういうものかの理解はあった。
『術式には魔力で刻むか、スキルで刻むかの二種類が存在するんだが、前者は即席で使用可能の代わりにマナが切れると術式自体も消滅する。対して後者は一度刻めばマナが切れても術式は消えずに残り、再びマナを与えれば何度でも使用することが出来る』
『むんむん』
『そして今リベルが使っているのが、術式を刻むための錬金術スキルのひとつ"刻印"だよ』
ナルは話が脱線しないように注意しながら、錬金術を行使しているリベルを見て説明を続ける。
『ただし術式はあくまで錬金術で起こす現象の範囲を魔力で標す為のモノ。術式単体だけでは何も起こらない』
要約すると術式は魔力で構成された現象を起こす為の基盤であり、マナを流す為の回路でもあるということだ。
例えるならマナが電気で、それを流す魔力が電力。術式が掃除機やレンジ等の電化製品に組み込まれている半導体のようなものである。
『そこで術式の中に現象の素になる動作内容…命令式を組み込むことで初めて、術式は現象を起こすことができるんだ』
『むう?でもごしゅじん。くさかりはすきるつかってた!』
裏庭でリベルが草刈りをした際、"刻印"のスキルの後、"解体"というスキルを使用していた。
他所から見ればスキルによって片づけられたと認識できなくもない。
では、錬金術を使う意味とはなんなのか。ムークンの指摘にナルは笑顔になって答えた。
『いいところに気が付いたね!そう、術式に込められるのは命令式だけじゃなく、術者の持つスキルをも組み込むことができるんだよ』
『むむむ?こーどとすきる、ちがうの?』
ナルは人差し指を立てて説明を続ける。
『命令式はひとつの現象を起こす為にその現象に必須となる動作や仕組みを複数に分けて組み込む必要があるんだ。生き物が呼吸をする時に息を"吸う・留める・吐く"といった複数の動作を取るようにね』
普段あまり深く考えることでもないだろうが、生き物は常に呼吸をして生きている。
しかし、呼吸とひとことで言えば単純な動作に思えるが、先程ナルが言ったように呼吸をひとつするにも"息を吸い、体内で留めて、体外に吐く"といった三つの動作を繰り返し続けることで一つのサイクルとして成り立っている。
命令式はそういった細かい動作の内容を一つひとつ丁寧に刻まなければ機能しないのだ。
『それに対しスキルは、概念そのものだから術式に組み込むだけでそのスキルによる現象を簡単に起こせるんだよ』
『む~ん。めいれいしきはふくざつ、すきるはかんたん?』
簡単に例えるなら、スキルが完成された絵。命令式がジグソーパズルのようなものといったところだ。
ムークンの返答にナルはゆっくりとうなずいた。
『とはいえ、命令式は細かい部分を反映しやすいという利点があるから、一概にどちらかが良いということはないよ。それに』
ナルはそのまま視線をリベルへと戻して、彼の錬金術としての実力を見守っていた。
ーーー"刻印"ーーー
リベルはスキルを発動し、ボロボロの術式に新たな術式を刻んでいく。
(欠けてしまった術式は確か、修復しようとするんじゃなく、上からなぞるイメージで埋めていく…だったはず。あと命令式はーーー)
〔硬化〕〔不曲〕〔加重〕。これらの命令式で〔鋼〕をイメージする。
『錬金術で一番重要なことは【発想力】と【実行力】だからね』
術式の線が全て繋がった時、それは術式の成功を意味する。リベルはそのまま術式を起動させた。
ーーー"術式起動"ッ!!ーーー
術式は強い光を放ち、まるで六尺棒自体が光を放っているかのように見えた。
「ふんっ!」
リベルは六尺棒の具合を確認するため軽く振るう。すると木製の六尺棒よりも重みのあるような空気を薙ぐ音が聞こえた。
「うん、重い。あとは硬くなっているかだ」
そう言いながらリベルは六尺棒の硬度を確かめようと近くの岩を叩く。そして岩は砕け、六尺棒からは鈍い音と、手が痺れるような衝撃の余韻が響いた。
「よしっ!上手く出来た!」
術式の結果にリベルは嬉しくなり、ガッツポーズを決めた。
『かたくなった!』
『あのように錬金術は戦闘にも運用可能なんだ。今、リベルがしたように物に術式による性質の付加を行うことで、木の棒を鋼の硬さに変質させることができるんだ』
術式の成功を確認したムークンは驚き、ナルは結果に満足そうに頷きつつ説明した。
『むー!ごしゅじん、すごい!』
そう言いながらムークンはリベルの動きに注目する。
「ま、要は木製バットに金属メッキを施すのと同じだね」
野球に於いてバットは木製よりも金属製の方が打球の威力が強く、遠くの方へと打つことが出来る。それと同じで、リベルがやった錬金術は六尺棒に術式という金属を貼り付けることで威力と耐久性を底上げしているのだ。
「武器はこれで良し!問題は、こっちか」
リベルは胸の中心に触れて目を閉じ、意識を手に集中させながら小さく呟いた。
ーーー"術式・身体再現"!!ーーー
次の瞬間、リベルの中心から術式らしき線が浮かび、身体全体にゆっくりと拡がっていく。
『そして術式は生き物にも刻むことができる』
『むむっ!?ごしゅじんがせんだらけ!』
リベルの変化にムークンは驚いた様子で跳ね回る。
ゾワッ!?
「うっ!」
身体に浮かぶ術式同士が繋がり、リベルは次の段階に移ろうとした時、まるで嫌な予感を察したような複雑な表情をしていた。
『なるさま。ごしゅじん、つらそう?』
『いや、リベルのあの表情はおそらく、失敗した時の恐れによるものだと思う』
『しっぱい?』
リベルの異変に気づいたムークンは、ナルにどうなっているのかを聞いた。
ナルは腕を組んでムークンの質問に答えた。
『今、リベルがやっているのは"術式・身体再現"。"刻印"によって、術式化したスキルを自身の身体に刻んでいるんだよ』
『すきるじゃないの?』
『厳密に言えば、スキルを模して組まれた術式だね。それもアレは、リベルがまだ習得していないスキル、"金剛力士"だよ』
要するにリベルがやろうとしていることは、未習得のスキルを術式で擬似的に引き起こそうというものだ。
『ごしゅじん、だいじょうぶ?』
『まぁ、まだ自信が無いだけで失敗する心配はないけどね』
『むう?』
未だ分からないでいるムークンが頭部辺りにハテナを浮かべた次の瞬間、リベルの身体の術式が白から赤に変色し、真っ赤に染まっていた。
ーーー"擬似能力印"。術式・金剛力士"ッ!!ーーー
気が付けばリベルの身体に印された赤い術式は、形が変化しており、なにやら力強さを感じさせられる模様となっていた。
『まっか~』
『拒絶反応無し。成功だね』
「……………………………」
しかし術式を完成させたリベル本人は目を閉じたまま、しばらく動かなかった。
『ごしゅじん。うごかないよ~』
『おかしいな?術式自体は完成しているはずだけど』
リベルの異変を感じ取り、ナルとムークンは少しざわつく。
「……………………………」
『ひょっとして?』
ほんの少しの沈黙後、思い当たる節があったのかナルはフードを上げ、リベルを凝視する。
ーーー"千里眼"ッ!ーーー
ナルはスキルを使いリベルの状態を確認する。そして彼がリスクを恐れて目を開けられなかったことを理由に確信を得た。
(集中集中、とにかく集中しろ。下手すれば死ぬ程痛い思いするかもしれないことやってんだから。魔力操作を間違えないようにーーー)
『………やっぱり、出来ていることに気付いてすらいない』
失敗した時のしっぺ返しを警戒していたリベルは、恐怖のあまり成功か否かを判断出来ず、未だ魔力操作に集中することに必死だった。
そんなリベルを見てナルは苦笑いを浮かべながら小さく肩をすくめるとリベルに声を掛けた。
『お~い、リベル!ズボンが濡れてるよー!』
「いやっ漏らしてませんよ!!」
ナルの言葉にリベルは思わず反射的に反応したが、すぐに今の自身の状態に気付くことができた。
「あ、あれ?痛くない。成功しているのか?」
『ほら、言ったでしょ?リベルなら出来るって』
「って、何無かったことにしようとしてるんですか!だいたい僕はーーー」ゾワッ!?
先の件について抗議しようとするリベルだったが、急に首のうなじ辺りから鬼気迫るものを感じ取り、すぐに後方を振り返った。
すると目の前には剣を振り上げながら飛び掛かってきたシムーフの姿が迫っていた。
シムーフ⦅ーー〆⦆ブンッ
「うおっ!?」
当たればおそらく即死の袈裟斬りをリベルは咄嗟に背後へ飛んで攻撃を躱した。
しかしシムーフは追撃とばかりにリベルの顔面に盾を打ち付けようとする。
「コイツ、お返しだぁ!」
いきなりの急襲にリベルは腹を立て、迫り来る盾に向かって突きを放つ。
『ごしゅじん!』
『大丈夫さムークン。今のリベルはーーー』
普通であればリベルの突きは盾に弾かれ、押し負けることだろう。だがナルは落ち着いた態度で焦るムークンを宥めていた。
そして、とうとう六尺棒と盾は正面からぶつかりあった。
バキンッ
ドゴオォンッ
シムーフ(ーッ〆)
次の瞬間、優位であったはずのシムーフの盾はリベルの放った突きにより真ん中から砕けるように壊れ、同時に突きの勢いに押されたシムーフ自体までが後方の壁にまで飛ばされていた。
『今のリベルは秘匿スキル"金剛力士"の効果と似ていて、いつもより力が上がっているから』
『むー!すごい!』
こうなると予想していたナルは変わらない表情でリベルを見守り、ムークンは飛び跳ねながら喜んでいた。
「ふぅ~~~、まったく。人の気も知らないで」
今でも煌々と赤く光り輝く術式をその身に宿し、若干不安の混じった顔でリベルは愚痴を吐きながらも引く姿勢を見せずに呼吸を整え、六尺棒を握りしめる。
「それじゃあ改めて、行くぞっ!」
いつも以上に大きな声を出すことで自身を叱咤しながら、リベルはドリフターズに立ち向かって行った。
ナル曰く。この世界で生きていくにはまず、己の身を守れるくらいに強くならなければいけないらしい。魔物は言わずもがな、盗賊やら裏の組織やら、とにかく危険な存在が天樹の外にはたくさん蔓延っているとのことだ。
そこでリベルは五歳くらいの頃からナルの指導の下、武器を使用した戦闘訓練を行なっていた。
「くぅぅぅぅっ!」
???⦅ーーー⦆
そして、今もこうして鍛練を欠かさず、先端に布を巻いた六尺棒を手にして、相手である武器を構えた案山子の攻撃を必死に耐え続けていた。
「~~~っ、せぃっ!やぁあ!!」
???⦅ーーッ⦆
たった今、案山子の攻撃を受け止め、リベルはそのままそれを弾き返しつつ一撃を打ち込んだ。
『ふむ。あの状態から抜け出しつつ一撃を与えるか』
『ふむ~ん。ごしゅじん、すごい』
リベルの動きにナルは感心を示し、ムークンはナルの動きを真似しながらリベルを誉めていた。
「ハァ、ハァ。ったく、ナル様は相変わらず容赦なさすぎだよ。ちゃんと僕の強さに合った調整にできてるのかな?」
肩で息をしながらこの場に居ないナルに対し、リベルは不満不平を溢していた。するとその間に、リベルに攻撃をされた"へのへのもへじの案山子"が起き上がり、その胸にある表示らしき模様のひとつが消えていた。
「ま、あの人がメチャクチャなのは今に始まったことでも無いから、別に構わないんだけどね。相手はまだシムーフだし」
シムーフ⦅ーー〆⦆
リベルが相手にしているこの案山子。実はナルが訓練相手として錬金術で創った、オートマタと呼ばれる自律式魔導人形だ。ちなみに木製で出来ている為、より正確に呼称するとしたら木造魔導人形。通称ウッドオートマタである。
案山子に格好が似ているのはリベルが、「どうせなら特徴のある相手にして欲しい」という希望があったので、ナルがリベルの知識の中にあったはっぴ姿の案山子を見つけ、特徴的だったことがきっかけでこのデザインになった。
しかし、当時のリベルからは「なんか古い」という感想が帰ってきた上に、完成したオートマタも最初はのっぺらぼう状態で格好以外これといった特徴がなかった為、リベルの手によって顔はへのへのもへじが書かれ、シムーフという名前を付けられた。
しかしこのオートマタ。天樹の木の一部で創られていてちょっとやそっとでは破損しない上、破損しても天樹に溢れるマナによって木々同士で自己修復をするので壊れる心配がない。
シムーフ⦅ーー〆⦆???⦅ーーー⦆
「あれ?なんでカロトまで動きだしーーー」
へのへのもへじの案山子、シムーフの後ろからもう一体、チョビヒゲが描かれたひょっとこのお面を付けたオートマタ、カロトがゆっくりと近づいて来ていた。そしてさらにその後ろの方からもゾロゾロと。
シムーフ⦅ーー〆⦆カロト⦅ーーー⦆???⦅ーーー⦆???⦅ーーー⦆???⦅ーーー⦆ ーーーーーーーーーーージリッ
「………え?」
気が付けば計五体のはっぴ姿の案山子達が、様々な武器を構えながらリベルに近付いてきていた。
おまけに顔も一体ずつ違いがあり、先のシムーフとカロトの他に、黒縁のメガネの模様が描かれた般若。アフロヘアーに形を整えた葉っぱの塊を頭に乗せたおかめ。最後は西洋のフェイスガード付きのフルヘルムが現れ、全員フルヘルムを中心に横並びに立っていた。いや、なぜはっぴ姿でフルヘルム?
「ちょっとナル様!どういうことですか!?なんでドリフターズが全員集合しているんですか!?」
誰もいないはずの上に向かってリベルが叫ぶと返ってきたのは木霊ではなかった。
『そろそろリベルなら五体抜き出来ると思って出撃させたんだよ』
リベルが叫んだ方向の少し上辺り、そこにはナルとムークンがリベルの修行の様子を見学していた。一応、邪魔にならないように離れた位置に場所を設けていた。
もうお気付きかと思うがこの五体のオートマタ。製作者はナルで、デザインと名前の発案者はリベルが担当して生まれた集団。その名はドリフターズだ。
製作秘話はあえて割愛するが、まとめて紹介すると。
○片手剣と盾を持つ笠かぶりのへのへのもへじがシムーフ。
○両手に斧を二つを持ったチョビヒゲのひょっとこがカロト。
○槍を持ち、メガネが描かれている般若がイローハキ。
○長柄の棘付き鉄球棍を武器にするアフロと小さな角が特徴のおたふくがブーロック。
○そして両手剣を携え、異様なオーラを放っているのがフルヘルムのチョウザンだ。
リベルはこのドリフターズを相手にナルの厳しい修行をなんとかこなしていき、身体面の成長もそうだが無茶振りにも耐えてきた胆力により精神面もたくましくなり、ある程度相手になるくらいには実力がついていた。
しかし、それは一対一での訓練であればの話。リベルは多数を相手取る集団戦闘の訓練は今までやったことがない。
「無茶言わないで下さい!まだブーロックとチョウザンにも勝てたことが無いのに、いきなり五体相手なんてできませんよ!!」
ドリフターズ達は同じ造りのウッドオートマタだが、性能や戦闘方法は個別で変わっている。
そもそも今までリベルが個人戦闘訓練で勝てたドリフターズはシムーフ、カロト、イローハキの三体のみで、残るブーロックとチョウザンには勝てたことが無い。良くてもブーロックと相打ちのカタチでギリギリ引き分けに持ち込めたくらいだ。
『大丈夫だよ。今まで培った経験を全部引き出せば、今のリベルなら勝てるさ』
「えっ!?ひょっとして、アレを使えって言ってるんですか!?でもまだ自信がーーー」
どうやら一応の戦闘手段があるようだが、リベルはそれを使うことを躊躇していた。
『頑張りなさ~いリベル!コレも良い経験になるはずだよ~!』
『ごしゅじ~~ん!がんば~~っ!』
ナルとムークンはお茶を飲みながらそんなリベルを応援する。要はやりなさいということらしい。
六尺棒を突き立てて、その柄頭にリベルは頭を乗せて溜め息を吐いた。
「……はぁ、悪意が無いからなおさらタチが悪い」
しかし、五体の案山子達はその行いを理解すること無く、着実にリベルとの距離を縮めていき、一定の距離をとったあたりでシムーフを先頭にカロトとイローハキがその背後を横並びに控え、更にその後ろをブーロックが立ち、最後尾にチョウザンが立つという戦陣を組んでいた。
(ってもう戦闘配置についてる!?いや落ち着け!確かに厳しいかもしれないけど、ナル様は出来ないことは絶対にやらせようとはしなかったはずだ。あとはボクの自信次第だ!)
既に戦闘態勢を整え終えたドリフターズを見てリベルは怖気つきそうになるも、一度深く深呼吸をして精神を落ち着かせる。
「あっそうだ!念の為に」
突然思い出したかのようにリベルは手に握りしめていた六尺棒を両手の上に乗せ、軽く握りながら何かを始めた。すると六尺棒から途切れ途切れの術式が徐々に浮かび上がってきた。
「あ~やっぱり。施していた術式がボロボロになってる。組み直さなきゃ」
錬金術が発動し、六尺棒の術式の光が強く輝きだした。
『あっ!ほら、ムークン見て!リベルが錬金術を使ったよ!』
運動会で自分の子どもを応援する保護者のような気分でナルがムークンに話しかけた。
『なるさま。ごしゅじん、なにしたの?』
『六尺棒に予め刻んでいた術式の綻びを直すために、新しく術式を組み直そうとしているんだよ』
リベルのやったことが分からなかったムークンはナルに質問をした。だがナルの説明を聞いたムークンは身体全体を使って傾げていた。
『むう?むーくん、わかんない』
『それじゃあ錬金術について、ムークンにも分かるように説明しようか』
ここでリベルの修行の傍ら、ナルはムークンに錬金術の説明を始め出した。
『まず錬金術とは、この世界に存在するあらゆる物質を用いて新たな物質を生み出すことができる、森羅万象に触れられる理のチカラの一端。錬金術を扱う錬金術師達は新たなる可能性を見出す為に存在する、可能性の探求者とも言える。とはいえ錬金術は無から有を創ることは出来ないうえ、物質の構造や仕組み、数多の情報を理解出来なければ使用することもままならないため、そういった点も含めると近年の錬金術師の需要も低下の傾向が見られーーーーーーーーーーーー』
『むーーー…』
錬金術について長々と熱弁するナルとは裏腹に、ムークンは途中からボーッとしていた。
『……と、とりあえずこの話は置いといて、錬金術で出来ることについての説明にしようか』
『むー!』
ムークンでも分かるようにと言った矢先でナルは熱が入ってしまい、配慮ができていなかったことを反省し、ナルは気を取り直して説明を始める。
『錬金術で出来ることは、主に物質の構造を組み換えたり、新たな物質を創り出すこと。そして、それを行うには術式の存在が必要不可欠になる』
『むう!むーくん、しってる~!ごしゅじんがつかってるやつ~!』
ムークンはリベルが普段の生活や修行の際にも錬金術を使っている為、よく覚えている。特に想像力を高める為の粘土細工の時は常に横で見ていることが多く、どういうものかの理解はあった。
『術式には魔力で刻むか、スキルで刻むかの二種類が存在するんだが、前者は即席で使用可能の代わりにマナが切れると術式自体も消滅する。対して後者は一度刻めばマナが切れても術式は消えずに残り、再びマナを与えれば何度でも使用することが出来る』
『むんむん』
『そして今リベルが使っているのが、術式を刻むための錬金術スキルのひとつ"刻印"だよ』
ナルは話が脱線しないように注意しながら、錬金術を行使しているリベルを見て説明を続ける。
『ただし術式はあくまで錬金術で起こす現象の範囲を魔力で標す為のモノ。術式単体だけでは何も起こらない』
要約すると術式は魔力で構成された現象を起こす為の基盤であり、マナを流す為の回路でもあるということだ。
例えるならマナが電気で、それを流す魔力が電力。術式が掃除機やレンジ等の電化製品に組み込まれている半導体のようなものである。
『そこで術式の中に現象の素になる動作内容…命令式を組み込むことで初めて、術式は現象を起こすことができるんだ』
『むう?でもごしゅじん。くさかりはすきるつかってた!』
裏庭でリベルが草刈りをした際、"刻印"のスキルの後、"解体"というスキルを使用していた。
他所から見ればスキルによって片づけられたと認識できなくもない。
では、錬金術を使う意味とはなんなのか。ムークンの指摘にナルは笑顔になって答えた。
『いいところに気が付いたね!そう、術式に込められるのは命令式だけじゃなく、術者の持つスキルをも組み込むことができるんだよ』
『むむむ?こーどとすきる、ちがうの?』
ナルは人差し指を立てて説明を続ける。
『命令式はひとつの現象を起こす為にその現象に必須となる動作や仕組みを複数に分けて組み込む必要があるんだ。生き物が呼吸をする時に息を"吸う・留める・吐く"といった複数の動作を取るようにね』
普段あまり深く考えることでもないだろうが、生き物は常に呼吸をして生きている。
しかし、呼吸とひとことで言えば単純な動作に思えるが、先程ナルが言ったように呼吸をひとつするにも"息を吸い、体内で留めて、体外に吐く"といった三つの動作を繰り返し続けることで一つのサイクルとして成り立っている。
命令式はそういった細かい動作の内容を一つひとつ丁寧に刻まなければ機能しないのだ。
『それに対しスキルは、概念そのものだから術式に組み込むだけでそのスキルによる現象を簡単に起こせるんだよ』
『む~ん。めいれいしきはふくざつ、すきるはかんたん?』
簡単に例えるなら、スキルが完成された絵。命令式がジグソーパズルのようなものといったところだ。
ムークンの返答にナルはゆっくりとうなずいた。
『とはいえ、命令式は細かい部分を反映しやすいという利点があるから、一概にどちらかが良いということはないよ。それに』
ナルはそのまま視線をリベルへと戻して、彼の錬金術としての実力を見守っていた。
ーーー"刻印"ーーー
リベルはスキルを発動し、ボロボロの術式に新たな術式を刻んでいく。
(欠けてしまった術式は確か、修復しようとするんじゃなく、上からなぞるイメージで埋めていく…だったはず。あと命令式はーーー)
〔硬化〕〔不曲〕〔加重〕。これらの命令式で〔鋼〕をイメージする。
『錬金術で一番重要なことは【発想力】と【実行力】だからね』
術式の線が全て繋がった時、それは術式の成功を意味する。リベルはそのまま術式を起動させた。
ーーー"術式起動"ッ!!ーーー
術式は強い光を放ち、まるで六尺棒自体が光を放っているかのように見えた。
「ふんっ!」
リベルは六尺棒の具合を確認するため軽く振るう。すると木製の六尺棒よりも重みのあるような空気を薙ぐ音が聞こえた。
「うん、重い。あとは硬くなっているかだ」
そう言いながらリベルは六尺棒の硬度を確かめようと近くの岩を叩く。そして岩は砕け、六尺棒からは鈍い音と、手が痺れるような衝撃の余韻が響いた。
「よしっ!上手く出来た!」
術式の結果にリベルは嬉しくなり、ガッツポーズを決めた。
『かたくなった!』
『あのように錬金術は戦闘にも運用可能なんだ。今、リベルがしたように物に術式による性質の付加を行うことで、木の棒を鋼の硬さに変質させることができるんだ』
術式の成功を確認したムークンは驚き、ナルは結果に満足そうに頷きつつ説明した。
『むー!ごしゅじん、すごい!』
そう言いながらムークンはリベルの動きに注目する。
「ま、要は木製バットに金属メッキを施すのと同じだね」
野球に於いてバットは木製よりも金属製の方が打球の威力が強く、遠くの方へと打つことが出来る。それと同じで、リベルがやった錬金術は六尺棒に術式という金属を貼り付けることで威力と耐久性を底上げしているのだ。
「武器はこれで良し!問題は、こっちか」
リベルは胸の中心に触れて目を閉じ、意識を手に集中させながら小さく呟いた。
ーーー"術式・身体再現"!!ーーー
次の瞬間、リベルの中心から術式らしき線が浮かび、身体全体にゆっくりと拡がっていく。
『そして術式は生き物にも刻むことができる』
『むむっ!?ごしゅじんがせんだらけ!』
リベルの変化にムークンは驚いた様子で跳ね回る。
ゾワッ!?
「うっ!」
身体に浮かぶ術式同士が繋がり、リベルは次の段階に移ろうとした時、まるで嫌な予感を察したような複雑な表情をしていた。
『なるさま。ごしゅじん、つらそう?』
『いや、リベルのあの表情はおそらく、失敗した時の恐れによるものだと思う』
『しっぱい?』
リベルの異変に気づいたムークンは、ナルにどうなっているのかを聞いた。
ナルは腕を組んでムークンの質問に答えた。
『今、リベルがやっているのは"術式・身体再現"。"刻印"によって、術式化したスキルを自身の身体に刻んでいるんだよ』
『すきるじゃないの?』
『厳密に言えば、スキルを模して組まれた術式だね。それもアレは、リベルがまだ習得していないスキル、"金剛力士"だよ』
要するにリベルがやろうとしていることは、未習得のスキルを術式で擬似的に引き起こそうというものだ。
『ごしゅじん、だいじょうぶ?』
『まぁ、まだ自信が無いだけで失敗する心配はないけどね』
『むう?』
未だ分からないでいるムークンが頭部辺りにハテナを浮かべた次の瞬間、リベルの身体の術式が白から赤に変色し、真っ赤に染まっていた。
ーーー"擬似能力印"。術式・金剛力士"ッ!!ーーー
気が付けばリベルの身体に印された赤い術式は、形が変化しており、なにやら力強さを感じさせられる模様となっていた。
『まっか~』
『拒絶反応無し。成功だね』
「……………………………」
しかし術式を完成させたリベル本人は目を閉じたまま、しばらく動かなかった。
『ごしゅじん。うごかないよ~』
『おかしいな?術式自体は完成しているはずだけど』
リベルの異変を感じ取り、ナルとムークンは少しざわつく。
「……………………………」
『ひょっとして?』
ほんの少しの沈黙後、思い当たる節があったのかナルはフードを上げ、リベルを凝視する。
ーーー"千里眼"ッ!ーーー
ナルはスキルを使いリベルの状態を確認する。そして彼がリスクを恐れて目を開けられなかったことを理由に確信を得た。
(集中集中、とにかく集中しろ。下手すれば死ぬ程痛い思いするかもしれないことやってんだから。魔力操作を間違えないようにーーー)
『………やっぱり、出来ていることに気付いてすらいない』
失敗した時のしっぺ返しを警戒していたリベルは、恐怖のあまり成功か否かを判断出来ず、未だ魔力操作に集中することに必死だった。
そんなリベルを見てナルは苦笑いを浮かべながら小さく肩をすくめるとリベルに声を掛けた。
『お~い、リベル!ズボンが濡れてるよー!』
「いやっ漏らしてませんよ!!」
ナルの言葉にリベルは思わず反射的に反応したが、すぐに今の自身の状態に気付くことができた。
「あ、あれ?痛くない。成功しているのか?」
『ほら、言ったでしょ?リベルなら出来るって』
「って、何無かったことにしようとしてるんですか!だいたい僕はーーー」ゾワッ!?
先の件について抗議しようとするリベルだったが、急に首のうなじ辺りから鬼気迫るものを感じ取り、すぐに後方を振り返った。
すると目の前には剣を振り上げながら飛び掛かってきたシムーフの姿が迫っていた。
シムーフ⦅ーー〆⦆ブンッ
「うおっ!?」
当たればおそらく即死の袈裟斬りをリベルは咄嗟に背後へ飛んで攻撃を躱した。
しかしシムーフは追撃とばかりにリベルの顔面に盾を打ち付けようとする。
「コイツ、お返しだぁ!」
いきなりの急襲にリベルは腹を立て、迫り来る盾に向かって突きを放つ。
『ごしゅじん!』
『大丈夫さムークン。今のリベルはーーー』
普通であればリベルの突きは盾に弾かれ、押し負けることだろう。だがナルは落ち着いた態度で焦るムークンを宥めていた。
そして、とうとう六尺棒と盾は正面からぶつかりあった。
バキンッ
ドゴオォンッ
シムーフ(ーッ〆)
次の瞬間、優位であったはずのシムーフの盾はリベルの放った突きにより真ん中から砕けるように壊れ、同時に突きの勢いに押されたシムーフ自体までが後方の壁にまで飛ばされていた。
『今のリベルは秘匿スキル"金剛力士"の効果と似ていて、いつもより力が上がっているから』
『むー!すごい!』
こうなると予想していたナルは変わらない表情でリベルを見守り、ムークンは飛び跳ねながら喜んでいた。
「ふぅ~~~、まったく。人の気も知らないで」
今でも煌々と赤く光り輝く術式をその身に宿し、若干不安の混じった顔でリベルは愚痴を吐きながらも引く姿勢を見せずに呼吸を整え、六尺棒を握りしめる。
「それじゃあ改めて、行くぞっ!」
いつも以上に大きな声を出すことで自身を叱咤しながら、リベルはドリフターズに立ち向かって行った。
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