リンバース公爵領の教会で

聖 りんご

文字の大きさ
上 下
9 / 20

姉弟の複雑な関係(後編)

しおりを挟む
翌日の早朝、クララの仕事が始まる前にリンデルと司祭は屋敷に向かいクララに時間をもらった。

「クララさん、お仕事前にすいません。どうしてもリンデルさんとお話して欲しい事がありまして。」

「司祭様、お気になさらないでください。それで、話って何かしら?」

「姉さん……実は、俺…姉さんに謝らなきゃいけないことがあるんだ。俺、姉さんの事ずっと騙してた。」

司祭は心の中でリンデルを応援した。
これを乗り越え二人が家族として上手くいくように、未来の弟の為に力になれる自分に酔っている部分もあったかもしれない。

「俺、姉さんの事ずっと家族って思えなかった。
好きだ!愛してる!一人の女性として愛してます!!」

(……ぇ?)

司祭はリンデルの思ってもみなかった言葉に思考が停止した。
美しい家族愛、姉と弟の絆、その言葉が頭からガラガラと音をさせて崩れ去る。
そして勝手に敵に塩をおくり、裏切られた気持ちになった司祭は口も挟めずただ、呆然と見守るしかなかった。

「リンデル…そんな……。」

クララは泣き出した。
リンデルの急な言葉にクララも混乱している様子で、司祭はリンデルへの慰めの言葉を考えはじめていた。

「私…私も貴方が好きよ。愛してるわ!」

(クララさああああああああん!!)

司祭は眼が飛び出しそうな程見開き心の中で絶叫した。
リンデルが振られると思っていたらクララは気持ちに応えた。
その事実は司祭に大ダメージをあたえ、今にも崩れそうな身体を気力で立たせていた。

想いの通じ合った二人の眼にはお互いしか映っておらず、自然と抱き合っていた。

もうこの場に居続ける事が限界だった司祭はフラつきながらもそっとその場を後にした。

教会に戻ると、司祭は神の像に祈りを捧げた。

(神よ…貴方は私に大変大きな試練をお与えになった。
私の心は傷つき暫く癒えることは無いでしょう……わかっています。二人の幸せを祈らなければいけない…しかし、今しばらく、お時間を下さい。)

この後、昼前に戻ってきたリンデルは司祭に溢れんばかりの笑顔と感謝の気持ちを伝え延々とクララの話をした。
司祭は遠い目をしながらも微笑み相槌をうちその所業に耐えて耐えて話が終わると自室に篭った。

リンデルからの幸せ報告はほぼ毎日され、たまにクララも教会を訪れイチャついて帰る。

司祭はきっとこれを乗り越えれば神のお側に近づくと自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

Honey Ginger

なかな悠桃
恋愛
斉藤花菜は平凡な営業事務。唯一の楽しみは乙ゲーアプリをすること。ある日、仕事を押し付けられ残業中ある行動を隣の席の後輩、上坂耀太に見られてしまい・・・・・・。 ※誤字・脱字など見つけ次第修正します。読み難い点などあると思いますが、ご了承ください。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

処理中です...