ダメ男に費やす時間は無い

真野編

真奈の4

「全員揃いましたので初めます。」

花園部長補佐の言葉で緊張した空気がもう一段階上がる。ここは余計な事は言わずに黙っていた方が良さそう。

「まず、皆様御足労ありがとうございます。ここで話される事は主に二点あります。
一つ目は営業部の冬月さん及び経理部の早坂くんの悪質な噂について、二つ目は営業部からまわってきた領収書についてです。」

ん？領収書？なんでこの場で？
よく分からないけど部長も居るしヤバい話なんだろうな…。

「では先ず一つ目、現在冬月さんと早坂くんの名誉を傷つける噂が流れております。本人達に真実で無い事は確認済みです。私が秘書課の川嶋さんに協力を仰ぎ調べたところ、噂の発信源は営業部の真野さんあなたである事が判明しました。」

「ぼ、僕ですか？！身に覚えがありませんよ。」

｢貴方は不特定多数の方に“冬月さんと早坂くんが抱き合っていた。”等の虚偽を伝えましたね。｣

「まさか！それは本当の事です！！」

噂を流したのが真野さんって言われて妙に納得しちゃった。真野さんの驚き方をみると故意に嘘ついてる感じのものでは無いようにみえる。一体何を見間違えたんだか…。

「では何時どこで目撃したのでしょうか。」

「ひ、ひと月くらい前に営業部をでたすぐの廊下でです！僕はしっかり見たんだ！！」

ひと月くらい前？ん～思い当たらない。
流石にそんな事したら顔とか覚えてると思うし…。

「あの、発言よろしいでしょうか。」

「早坂くんどうぞ。」

「ひと月くらい前に営業部に行く途中で女性とぶつかりそうになり肩を掴みました。もしかして冬月さんがその時の？」

「え？！わ、私慌ててて顔をしっかり見ていなくて…たぶんそれ私です。」

マジか…早坂さん面識あった…。
気づいて無かったとはいえ私凄く失礼だよね！

「なるほど、真野さんはソレを見間違えた…と。」

「そんな！嘘だっ！！冬月くんも早坂くんも恥ずかしがることは無いよ？ちゃんと事実を言えばいいんだ！僕は二人の味方だからさ～。」

「「いえ、事実です。」」

真野さんは脂汗を流しながら必死な様子だけど勝手に妄想しないで欲しい。本当に迷惑な人。

「真野さん、貴方の軽率な行動のせいで冬月さんは社内の居場所を無くし早坂くんは三田さんという婚約者を傷つけるところでした。深く反省して三人に謝罪して下さい。」

「婚約者？！早坂くんと三田さんが？！いや、でも僕は親しい人に少しだけ話をしただけで発信源と言うにはあまりにも乱暴です。」

「親しい人に少しだけというには二十人は多すぎるでしょう。川嶋さんが裏付ける音声データを持っています。」

川嶋さんはICレコーダーから証拠の音声を流す。
どうやったのか分からないけど真野さんが言ったって皆が確認してる場面が延々と続いて言い逃れは難しそうだ。
真野さんも言葉も無いって感じかな…顔真っ青だし。でもブツブツと「僕は悪くない」って呟いてるから怖い。

待っていても真野さんが謝罪してくれる様子が無いので
、花園部長補佐は後ほど時間を設けると言い次の話に移行した。

「二つ目の話ですが、ある領収書を拡大コピーしてきました。」

テーブルの中央に置かれた紙には五枚の領収書がコピーされている。全て真野さんの印があるので真野さんが経理部に提出したもののようだ。
“交際費”が四つに“交通費”が一つ？あれ？この日付…。

「真野さん、貴方は営業部ではありますが外回りする立場に無いのに何故交通費が？」

「そ、それはその…だ代理で手土産を買いに行ったんです。」

「わざわざタクシーを使ってですか？誰に頼まれたのでしょうか。」

「それはえっと…誰だったかな…。」

「この交際費についても、貴方にはもてなす相手などいないはずです。しかも、この店は若者向けの生菓子しか販売していない店、こっちはお高めのレストラン。一体何方と行ったのでしょうね。ちなみに営業部の男性方は存じ上げないそうですが。」

横領かぁ…真野さん凄いな。いい所がひとつも無い。
部長の顔青筋立ってるし終わったな。うん。

「ち、違うんです！何かの間違い！！部長は僕の事信じてくれますよね？！日頃真面目に仕事してる頼りになる僕を！！」

「ははは…真面目？頼りになる？それは冬月くんの事かな？きちんと処罰してあげるから身辺整理をしておくように。」

ああ…やっと真野さんキングボ●ビーから解放されるんだ…。長かったな…。

「ふ、冬月く～ん助けて！僕の無実を証明してよぉぉぉぉ！」

「真野さん、安心して下さい。名誉毀損で訴えてあげますから。」

「あ、俺も訴えます。」

「あ、私もセクハラで社内の委員に訴えます。真野さんいつもゼロ距離で話してくるので不快です。」

「は？！晴子、セクハラされてたのか！！」

ああ、余罪が増えてくな～。
とりあえず、ご愁傷さまです。