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車で *side:義人*
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**義人**
「…大丈夫だって。なんも起きてないから」
『でも見ず知らずの子だし…あの敦子と生活してたなら何か悪いことするんじゃないかって余計に心配で…』
「いいやつだよ、美咲は。家事もできるしバイトもしてるし。葬式ん時は落ち込んでただけで、普段は喋るし」
『でも…』
「家事ができるのは敦子さんがちゃんと教育してたからだろ。敦子さんのこともそんな悪く言うなよ」
『…本当にいいのね?母さん、そっち行かなくても大丈夫なのね?』
「おう。何かあったらこっちから連絡するから」
トン、とスマホの通話ボタンを切る。
やっと母さんとの長い話が終わった。息子の心配をしてくれるのはありがたいが、人の悪口を言うのはやめてほしい。
実家の出禁が解かれていないにもかかわらず、母さんから"ゴールデンウィークは帰ってくるのか"と聞かれた。
しかし叔父に茶をぶっかけて親父にヘッドバットをかました男を、親族はそう簡単に許すはずがない。今帰ったら親族会議に放り込まれる。
実家に帰るのはもう少し時間を置いてから、と伝えた。
それにせっかくの連休なんだからゆっくり過ごしたい。実家のドタバタに付き合いたくはない。
自分の部屋を出る。
するとドアのすぐそばに美咲がいた。
聞き耳を立てられていた。
「あの、今の電話…」
「んー?仕事~」
頭をぽんぽんして横を通り過ぎる。
…嘘をついた。
もし「親からだった」と言ったら、美咲に嫌なことを思い出させてしまうだろう。あの葬式での嫌味大会のような目にはもう会わせたくない。
美咲もそれ以上何も言わなかった。
でもなんとなく察したようで、苦い顔をしていた。
振り向いて、美咲の頬を両手でひっぱる。
「ふぇ…?」
「なんだぁその顔。かわいくねー」
「…いらいれう」
「お前は笑ってる顔のがかわいいんだから、笑っとけ。いつも」
「…ふぁい」
手を離して、階段を降りる。
リビングの定位置に座り、2人でくつろぐ。
美咲の頬は引っ張ったところが赤くなっていた。
「そういえばお前、連休中、バイトは?」
「…あります。いつも通り、日曜日だけお休みで」
「はぁ~そうだよなぁ」
そう、今日からゴールデンウィーク。
俺は仕事がすべて休みで、滅多にない連休を満喫するつもりだった。今日も一日ぐうたらして、もう夜になっていた。
一方で伊織や美咲はというと、2人とも大学やらバイトやらで、すでに予定が入っていたのだ。
「誰か俺と遊んで~」
「…遊んでほしいんですか?」
「そりゃあ休みの日は遊びたいだろうがよ」
塾の講師たちとは遊びに行く仲ではないし、大学時代の友人とはもう疎遠だ。そうすると遊ぶ相手は同居してるこいつらぐらいだ。
「…美咲、またデートしねー?」
「でっ、ででっ」
…また赤くなってやがる。
いつまで経っても慣れないやつ。
「デート、は、う、嬉しいんですけど。えと。前みたいに、ホ、ホ、ホテル、とか。入るです…?」
戸惑いが隠しきれていない。きっと最初のデートを思い出しているのだろう。
前回は映画デートだったが、予想外の雨でホテルに入ることになった。そしてその夜は…美咲にとって、はじめての行為をした。
「あー…」
「…………」
「…今回は普通のデートしようぜ。ドライブとかさ。車出すから」
「ドライブ……はい、いいですね」
お、笑った。
やっぱりこいつは笑った顔が1番だな。
「んじゃ明日、バイト終わる頃に迎えに行くから。夕飯までには帰って来ようぜ」
「はいっ」
「伊織には内緒な。またキス攻めされんぞ」
「…!!」
こうして、俺は美咲と2回目のデートをすることになった。
「…大丈夫だって。なんも起きてないから」
『でも見ず知らずの子だし…あの敦子と生活してたなら何か悪いことするんじゃないかって余計に心配で…』
「いいやつだよ、美咲は。家事もできるしバイトもしてるし。葬式ん時は落ち込んでただけで、普段は喋るし」
『でも…』
「家事ができるのは敦子さんがちゃんと教育してたからだろ。敦子さんのこともそんな悪く言うなよ」
『…本当にいいのね?母さん、そっち行かなくても大丈夫なのね?』
「おう。何かあったらこっちから連絡するから」
トン、とスマホの通話ボタンを切る。
やっと母さんとの長い話が終わった。息子の心配をしてくれるのはありがたいが、人の悪口を言うのはやめてほしい。
実家の出禁が解かれていないにもかかわらず、母さんから"ゴールデンウィークは帰ってくるのか"と聞かれた。
しかし叔父に茶をぶっかけて親父にヘッドバットをかました男を、親族はそう簡単に許すはずがない。今帰ったら親族会議に放り込まれる。
実家に帰るのはもう少し時間を置いてから、と伝えた。
それにせっかくの連休なんだからゆっくり過ごしたい。実家のドタバタに付き合いたくはない。
自分の部屋を出る。
するとドアのすぐそばに美咲がいた。
聞き耳を立てられていた。
「あの、今の電話…」
「んー?仕事~」
頭をぽんぽんして横を通り過ぎる。
…嘘をついた。
もし「親からだった」と言ったら、美咲に嫌なことを思い出させてしまうだろう。あの葬式での嫌味大会のような目にはもう会わせたくない。
美咲もそれ以上何も言わなかった。
でもなんとなく察したようで、苦い顔をしていた。
振り向いて、美咲の頬を両手でひっぱる。
「ふぇ…?」
「なんだぁその顔。かわいくねー」
「…いらいれう」
「お前は笑ってる顔のがかわいいんだから、笑っとけ。いつも」
「…ふぁい」
手を離して、階段を降りる。
リビングの定位置に座り、2人でくつろぐ。
美咲の頬は引っ張ったところが赤くなっていた。
「そういえばお前、連休中、バイトは?」
「…あります。いつも通り、日曜日だけお休みで」
「はぁ~そうだよなぁ」
そう、今日からゴールデンウィーク。
俺は仕事がすべて休みで、滅多にない連休を満喫するつもりだった。今日も一日ぐうたらして、もう夜になっていた。
一方で伊織や美咲はというと、2人とも大学やらバイトやらで、すでに予定が入っていたのだ。
「誰か俺と遊んで~」
「…遊んでほしいんですか?」
「そりゃあ休みの日は遊びたいだろうがよ」
塾の講師たちとは遊びに行く仲ではないし、大学時代の友人とはもう疎遠だ。そうすると遊ぶ相手は同居してるこいつらぐらいだ。
「…美咲、またデートしねー?」
「でっ、ででっ」
…また赤くなってやがる。
いつまで経っても慣れないやつ。
「デート、は、う、嬉しいんですけど。えと。前みたいに、ホ、ホ、ホテル、とか。入るです…?」
戸惑いが隠しきれていない。きっと最初のデートを思い出しているのだろう。
前回は映画デートだったが、予想外の雨でホテルに入ることになった。そしてその夜は…美咲にとって、はじめての行為をした。
「あー…」
「…………」
「…今回は普通のデートしようぜ。ドライブとかさ。車出すから」
「ドライブ……はい、いいですね」
お、笑った。
やっぱりこいつは笑った顔が1番だな。
「んじゃ明日、バイト終わる頃に迎えに行くから。夕飯までには帰って来ようぜ」
「はいっ」
「伊織には内緒な。またキス攻めされんぞ」
「…!!」
こうして、俺は美咲と2回目のデートをすることになった。
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