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声 *side:義人*
(1)
しおりを挟む**義人**
生徒の解答用紙に目を通す。
正解してるところには丸をつける。
間違ってるところは、もう一度生徒に見せて一緒に解く。
「ここ。単語の並べ替え問題な。この文章のsomethingは主語?目的語?」
「主語…です」
「そ。でも選択肢にthereもある。こいつは大体が文章の頭に付くかしっぽに付くか、だ。まずは頭に付く場合で考えて、there is構文を作るんだ」
「じゃあ、there is something…?」
「そうそう。そうすると四角の中に入るのは?」
「…4番?」
「正解。there is構文で上手くいかなかったら、今度はthereはしっぽにつけりゃ良い。でも受験に出るのはほとんど構文の方だから、覚えといた方がいいぞ」
「わかりました」
「よし、今日はここまでな。お疲れさん」
報告書に授業内容を簡潔に書く。
テキストを開いて、今日やった内容と関連するページを宿題として記載する。
講師名に「有川義人」、生徒名に「小池優香子」と書いて、最後にサインする。
「先生、今日って残れますか?」
個人授業の相手をしていた小池さんが聞いてくる。
「んー、1時間くらいなら残れるかな。まだ質問ある?」
「はい。過去問の問題を聞きたくて…」
「オッケー。んじゃあ自習室行ってて。報告書提出したらそっち行くから」
「はい!」
小池さんは荷物を持って、自習室に向かった。
俺は塾内の職員室に行って、英語担当のボックスに報告書を提出する。
その後自習室に向かった。
今は18時過ぎ。家に着くのは19時半くらいか。
自習室は21時まで空いているから本来ならもっと残れるが、生徒に頼まれたとき以外はなるべく残業せず早めに帰る。
自習室には他の講師や生徒もいた。1人で勉強してる子もいれば、生徒に教えている講師も。よく雑談も聞こえてくるが、それは見ないフリ。
小池さんを見つけて、前の席に座る。体ごと後ろに向けて、顔が向き合う体勢になる。
「お待たせ」
「ありがとうございます。ここなんですけど…」
「あーこれは熟語だな。学校の英単語帳に載ってない?」
「まだ授業でそんなに進んでなくて」
「単語帳は学校でやるより先に読み進めたほうがいいぞ。最初のページなんて受験の頃には忘れてるし。何度も読み直すってのはそのためだ」
「でも、学校の教科書よりも、塾で使ってるテキストの方が本番では役に立つんじゃないかって思うんです」
「まぁ、どっちも読むのがベストだけど。でもそんな時間ねーじゃん?学校側も、生徒のためになる教科書を選んで買わせてるんだから、使わなきゃ損だぜ?」
「…そうですね。これからは家でも読み進めます」
「おう。で、この熟語はだな」
教えてると時間が過ぎて、30分もすると集中力が切れてくる。
他の講師が一口のチョコレートを持ってきてくれたから、ひとつ貰う。小池さんも食べていた。
「先生は、彼女とかいるんですか?」
雑談タイム。まぁたまには付き合ってやろう。
「彼女はいねーなー。ここ何年も」
「有川先生はモテると思います。かっこいいし、頭もいいし」
「嬉しいこと言ってくれてるけど、社会人はそんなに暇じゃねーの。恋愛は生活の二の次。生活すんので手一杯」
「同棲すればいいじゃないですか。お金も家事も分担して」
「たしかにそうすりゃ楽だけど…」
いや、待て。
うちはすでに同棲しているようなものではないか。
正確に言えば、同棲ではなく、同居だが。
「俺はシェアハウスに住んでるから、分担って意味では楽してるかも」
「あ、そうなんですね。一緒に住んでるのが家事のできる人でよかったですね」
「そうだな。2人とも料理できるやつで助かってるわ」
チョコレートを食べ終わるとまた勉強を進める。
19時になったら、小池さんも帰る準備を始めた。
「またな、小池さん。気をつけて帰れよ」
「はい!また来週もお願いします、先生!」
生徒が階段を降りていくのを見送る。
今日も一日頑張った。俺も帰るか。
職員室に寄って荷物を持って塾を出た。
午前から夕方までは、浪人生対象のクラス授業。
夕方からは、大学受験を控えた高校生の個別授業2連続。
疲れた。
しかし家に帰れば美味い飯が待っている。
帰るとすでに飯が出来上がっているというのは、本当にとても助かる。
しかも俺には飯以外にも楽しみがある——読者の皆様はわかっているであろう!——、早く帰ろう。
しかし先週、飯がまだできておらず、いつもの楽しみもできない日があった。
伊織と美咲が一緒に帰ってきた日だ。
伊織の忘れ物を美咲が届けたのは良い。それは良い。
でも伊織が美咲に手を出したのはちょっとイラついた。自分も同じことをしてるのだから人のこと言えないが、やはり好きな女を他の男に抱かれるのは苛立ちを抑えられない。
その日の夕飯の時、美咲がとんでもないことを聞いてきた。
**********
「コンドームって、お財布の中に入ってるものなんですか?」
「「ぶっ‼︎‼︎‼︎」」
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