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想いの認識

(4)

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時計の秒針がカチ、カチ、と一定のリズムで音を立てる。

短い針は2を示し、長い針はもうすぐ12に到達する。

平日の14:00。
昼でも夕方でもない、穏やかな時間。

日が沈むには、まだ時間がある。





「…………」
「…………」

小さい顔に、大きい瞳。その目で今、俺は見つめられている。
俺も、見つめ返す。

「……えっと、え…」

目を逸らしたがってる。でも俺の目がそうさせない。

「…………」
「……美咲、返事」
「あの、ちょっと待って、くださ……」

声がだんだん小さくなっていく。
泣くんじゃないかと思うほど目元が歪む。
泣く顔は、見たくない。
でも、返事は聞きたい。

「せ、先輩は、イヤじゃ、ないんですか」
「イヤじゃない」
「だって、私がキスしたから、私のこと、嫌いになったんじゃ」
「そんなこと一言も言ってない」

頬が赤くなっていく。
よく見ると耳も赤い。
まるで風邪をひいた子供のようだった。

「先輩、は、したいんですか。キス」
「したい」
「‼︎」

正直に答えた。

俺の、伊織への感情。それは。

嫉妬だ。


『口移ししたときさ。唇、すっごく柔らかかったよ?』

あの時の伊織の言葉。

俺は、自分がキスした時のこと、思い出せない。
突然のことだったし、一瞬だったから。
だから、もう一度、したい。

「……それとも、美咲はイヤか?」
「そんなっ、ことは…ない、です。けど…」

よく考えたら新幹線ですでにキスしてるのに、今こんなに照れてるのはどうかと思うけど。
顔全体まで真っ赤になった。よくリンゴに例えられるのはこういうことだな、と思った。

「…………あの、じゃあ。目を、目をつむったままなら……」
「ん」

そう言われたならやるしかない。
俺はまぶたを閉じて、待った。

目をつむったままでも、気配は感じた。徐々に近づいてるのを感じた。
もともと座ってるときの距離は50センチもないくらいだったけど、それが縮まっていく。









口先が触れる。





唇が完全に重なった。




何秒にも感じた。
温かくて、柔らかかった。




内緒で薄く目を開くと、美咲の顔が目の前にあった。真っ赤な顔で美咲も目をつむってた。






ちゅぅ、と名残惜しそうな音を立てて離れていく。


お互いに目を開く。
大きな瞳が涙でうるうるしていた。

「せんぱ…」

「美咲…………



もっと」

「ん!」


俺は美咲の後頭部を手で押さえて、再び唇をふさぐ。


「んっ、んむ」

何度も顔の角度を変える。
ちゅっ、ちゅ、とやらしい音が唇から鳴る。


「ふ……っ」


美咲の息が止まりかけてたから少しの間だけ離して、息をさせたらまた口をふさぐ。


自分の服が引っ張られるのを感じて、左手で触れる。
美咲の右手が俺の服をぎゅっと掴んでいた。
その手を解いて、互いの指を絡ませる。


やばい。

好き。

好きだ。


「ぷはっ」


さすがに苦しそうだと思って、押さえていた頭から手を離す。
2人とも息があがっていた。

美咲の唇が、唾液で濡れている。

目から涙が溢れそうになっていて、指で拭ってやる。

「……イヤだった?」
「はぁっはぁっ……」

返事をしない代わりに、首を横に振った。
イヤじゃなかったんだ。
嬉しくて美咲の頬にキスをする。


そのまま体を抱きしめた。







服を引っ張られる感覚をまた感じて、目が覚める。

目の前では美咲が眠っていた。
すーすーと寝息を立てたまま、また俺の服を掴んでいた。

やべ、今何時、と思ったけど、時計を見るとさっきから30分ほどしか経っていなかった。




あの後、美咲を抱き上げて俺の部屋に運んだ。
そのまま布団に横になって、2人で眠りについた。
リビングの絨毯の上で寝てもよかったけど……俺の部屋に連れていきたかった。

突如、ジーンズの後ろのポケットが振動した。入っていたスマホを取り出して、通知を見た。

伊織からだった。

『今から帰る。何か買ってく物ある?』
というLINEで、少し考えたが、
『多分ない』
と返信した。

すぐに既読がついて、
『美咲ちゃんにも聞いて』
と来た。
正直に、
『今、昼寝してる』
と打った。

またすぐに既読がついたが、それ以降返信は来なかった。


…………。


美咲の頬を指で撫でる。

「ん…」

吐息が漏れた。


…………。


伊織に、どう説明するか————
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