逢瀬のルームシェア〜新入居者の少女を溺愛する話〜

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【第1部】すべてのはじまり

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仕事を終えて一度家に帰り、新幹線に乗って叔母さんの住所に向かった。新幹線を下りてからの路線は調べる気にならなかったから、タクシーにした。

着いたのはやはり夜で、木造平屋の家の前でタクシーが止まった。

インターホンを鳴らすと、玄関から母さんが出てきた。
「義人、やっと来たのね」
「他のみんなは?」
「兄さんは夜伽。ほかはみんな先にホテルで休んでるわ。私だけ家の片付けで残って…アンタも今夜はここに泊まって」
「叔母さんの家族は?独身?」
「んー…」
しかめた顔に、低い声。言いたくないのだろう。
「一人、いるけど」
家の中に入って靴を脱ぎ、荷物を置く。すぐそばに居間があり、ちょうど片付けてる最中だとわかった。しかし母さんの目線はそっちではなく、反対側の廊下の先にある、閉まっている引き戸を見ていた。

「あの子は、ほっときましょ」
「なんで」
「あの子は敦子の…何て言ったら良いのかしら…挨拶だけしたら部屋に籠っちゃって…敦子ったらどんな育て方を…」
ブツブツと独り言を言う母さんにイラついてきたが、俺が突っ込むと余計に話が進まなくなると思い、母さんが話すまで待った。

「養子、らしいのよ」
「……。えっ」
「敦子が孤児院から引き取ったみたいで…結婚もしなかったから家族なんてって思ってるのかと…」

ちょっと驚いた。まあ、世の中そういう家庭もあるだろうけど。
「じゃああれだ、その養子の子も一応俺のいとこになるわけだ」

「何ふざけたこと言ってるの!!」

母さんがキレた。
しまった。
どうやら地雷を踏んだらしい。

「どこの子かもわからないのに…うちの家系にそんな子がいるなんて周りに知られたら何て思われるか!! アンタは跡継ぎ候補なんだからちゃんと考えてよ!!」

すごい形相。

叔母さんの縁が切れてる上に、血のつながらない親族。
こりゃ一族にとってはかなりの痛手なのだろう。
うちの家系はこういう世間体に縛られ過ぎだとつくづく思う。

「とにかく、あの子のことはお葬儀の後みんなで話し合うから。でも誰も引き取りたがらないだろうし…どうしましょ…」
「あ、じゃあ俺ん家で預かろうか? ここからだいぶ遠いけど、シェアハウスで部屋も余ってるし」
「知らない女の子と一緒に住むなんてアンタ!!色目でも使われたらどうするの!!」

色目って。
ていうか、女なんだ。


それから何時間くらい経っただろうか。
掃除するのは居間だけだったからよかったが、部屋はかなりの量の本や新聞で床が埋まっていた。本やソファ、机を他の部屋に移して、夜中にもかかわらず掃除機をかけた。あるだけの座布団を押し入れから出して、リビングの床に置いた。
時計を見ると、0時を回ろうとしていた。

母さんはダイニングの机に突っ伏して、すぐに寝息が聞こえてきた。もう3月と言えど、夜はまだ肌寒いと思い、着て来たジャケットを母さんの肩に掛けてやった。

俺も寝るか、と思って鞄を枕代わりに床に寝転がったが、その直後にある疑問が浮かんだ。
(叔母さんの娘さんって、今部屋で何してんの)
挨拶しただけの親族に家片付けてもらって、自分は部屋から出てこない。十中八九、育ての親が亡くなって落ち込んでるのだろうが、水も飲みに来ないし、トイレにも行った様子がない。

(寝る前に、声だけでもかけるか)

普段学生と関わる仕事をしているせいか、子供に気を使うことには慣れている。少し様子を見て、必要があれば慰める程度のことはできるだろう。

引き戸の前に立ち、ノックする。
「あのー親戚のものですけど、居間の片付け終わりました。もう夜ですけど、明日のこととか少し話した方が…」

そう声をかけたものの、返事がない。しかし人間が動く気配はした。しゃーない、と思いきって引き戸を横にスライドさせる。
「失礼しま」


女の子と目が合った。
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