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第四話
しおりを挟む裏の井戸の側にある洗い場で、男性の服を洗い終わり干す。
「仕立ての良い服だったけど、あの男の人、やっぱり貴族かなぁ」
それか、富裕層の裕福な平民か。
男性であの肌の綺麗さは、ただの平民ではありえないし。
「……少しだけ見えた、青い瞳も綺麗だったな」
川辺で一瞬だけ意識を取り戻した時に垣間見えた、吸い込まれそうなくらい綺麗な青い瞳を思い出し、何故か鼓動が速くなった。
――ドォォォン‼︎
「ギャアァァァッ‼︎」
「――⁉︎なに?何の音⁉︎」
突然、家の中から大きな音がしたと思った瞬間、カエルが潰れたような凄い悲鳴も聞こえてきた。
慌てて家の中に入ると、何事かと家の中を見回していた母と目が合い、二階の客間から聞こえたのだと気付き、階段を駆け上がった。
男性が寝ているはずの客間の扉を開けると、とんでもない光景が広がっていて、一瞬理解が追いつかなかった。
「……姉さん、何してるの?」
「……リンネア!そのはしたない姿は何なのっ⁉︎」
思わず我が目を疑ったけど、そこには何故か、壁際にひっくり返った姉がいた。
それも、一糸纏わぬ姿で。
「ぅ……ぅ、痛ぁ……何なのよぉ、このイケメン」
よろよろと立ち上がろうとするも立てず、腰を打っていたみたいで腰をさすりながらもう一方の手をその場について、男性を恨めしそうに見る姉。
その鼻からは鼻血がスーッと垂れてきた。
「姉さん、鼻血……」
「ふぇっ?やだぁ!血が出てるーっ‼︎」
鼻の下に触れた指に着いた血を見て、更にパニックになる姉。
「早く服を着なさい!みっともない‼︎」
母は流石というか、この程度のことでは慌てて狼狽えることはないらしい。
母に一喝された姉は、しぶしぶ脱ぎ捨てていた服を手繰り寄せ、床に座り込んだまま痛むらしい体でなんとか着ることが出来た。
男性に目を向けると、きちんと掛けていたはずの毛布がはだけ、男性に着せた服の前身頃が開ききってしまっていた。
「――!姉さん!意識の無い人に何をしたの⁉︎」
着衣の乱れた男性を見て、何が起こったのかすぐにわかった。
姉は意識の無い男性のベッドに素っ裸で潜り込み、ちょっかいを出したのだ。
「何もしてないわよー!ただ寒そうだから温めてあげようとしただけじゃない!」
「……素っ裸で?」
「そうよ!だって寒い時は裸で温める方がいいんでしょぉ?」
「低体温ならね。でもこの男性はそこまでしなくても大丈夫なんだけど」
姉は本当に親切心でこんな事したのかな?
「じゃあ、なんで吹っ飛んでたの」
姉の言い訳をまったく信じていない様子の母が、険しい表情を強める。
「それは……ごにょごにょ」
なんとも歯切れが悪くなった。
やっぱり親切心ではなかったらしい。
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