【完】婚約者には好きな人がいるようなので身を引いて婚約解消しようと思います

咲貴

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イザイア視点②

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「おー、見事な庭園ですね」

 セレーネ嬢に案内されたのはモルテード邸裏庭の庭園。
 そこまで広くはないが、ピンクと白の薔薇が咲き誇り、真ん中にある大きな鳥籠の様なガゼボは、白い蔓薔薇に覆われていて見事な庭だ。

「ありがとうございます。こちらです」

 セレーネ嬢にガゼボへと促されると、すでに誰かが座っていた。

「初めまして、美しい人。私はダニエラ・モルテードと申します。以後、お見知り置きを」

 ――ズ……ッキュゥゥゥゥウンッ‼︎

 え、待って、何が起きた⁉︎心臓を撃ち抜かれたかと思った‼︎
 バクバクする胸を両手で押さえる。
 一目惚れってこういう事か!
 しかし、目の前で笑みを浮かべているのはどう見ても美丈夫だが、名前は女性だ。
 ――どっちだ⁉︎

「は、初めまして、ダニエラ様……イザイア・パルッソと申します」
「どうぞ、お掛けください」

 座る様にダニエラ様に促される。

「イザイア様、ダニエラは私の姉なのです」

 ――……っよし‼︎女性か⁉︎女性なんだな‼︎

 それにしても、なんて男装が似合うんだ。
 細かい仕草も男らしいが品がある。完璧じゃないか。

「セレーネ嬢の姉君でしたか、失礼しました。その……、男装が良くお似合いですね」

 婚約者とかいるのかな、いるよな。
 セレーネ嬢がヴァルフレードと婚約してたくらいだ。妹がしていて、姉がしてないわけない。

「ありがとうございます。イザイア様も大変お美しいですよ。オレンジ色のドレスと流れる様な赤い御髪が相まって、まるで炎の女神のようですね」

 ――ズッギュゥゥゥゥウン‼︎

 ……あぁ、もう……好き。
 ダニエラ嬢のエメラルドの様に輝く瞳が、眩しい物でも見る様に細められたのを見て、俺の心臓は2度目の銃撃を受けた。

「俺と結婚してください」

 思わずダニエラ嬢の手を握り求婚していた。

「……あ」

 ……やっちまった。
 嘘だろ!何やってんだ俺‼︎
 絶対、何だコイツって思われたじゃん‼︎

「いいですよ」

 俺を見てニッコリと笑むダニエラ嬢。

「――え?……本当ですか⁉︎」
「えぇ、勿論。ただ、私は長子なので当家に婿養子として入っていただきますが、よろしいですか?」
「よ、よろしいですっ‼︎」

 あー!俺、テンパリ過ぎ‼︎カッコ悪りぃ……っ!

「良かったですね、お姉様!」
「えぇ、本当に。聞いていた以上に素敵な方で良かった。イザイア様、本日のお茶会は私がセレーネに頼んで、イザイア様をお招きさせていただいたのです」
「えっ?」

 ダニエラ嬢がなぜ俺を?

「実は、イザイア様と同じく、お姉様も男装の趣味があるのです」
「なので、私のこの趣味を理解してくれるお方を探していました」
「――⁉︎」

 勢い良くヴァルフレードに目を向けると、顔色一つ変えずに言い放った。

「お前がセレーネの縁戚になるのが嫌だったんだ」
「……お前はそういう奴だよな。でも、よく会わせてくれたな?」
「……仕方無くな」

 わざと隠してやがった。
 セレーネ嬢の姉君の趣味を、子供の頃から付き合いのあるコイツが知らないはず無いからな。
 ただ、いよいよ猶予が無さそうな俺の事を考えて、ダニエラ嬢に引き合わせてくれたんだな。
 まったく、誤解されやすい性格してるぜ、親友。

「先日の、イザイア様の件をお姉様にお話ししたら、是非イザイア様にお会いしてみたいとお願いされたので、ヴァルフレード様にご相談させていただきました」
「……おい、ヴァルフレード。もし、セレーネ嬢から打診が無かったら?」

 セレーネ嬢の言葉に、ジロリとヴァルフレードを見る。

「黙ってたな」
「……」

 知ってたよ、こういう奴だよ。
 まあ、とか言いながら?本当にギリギリになったら話してくれてただろうな、なんだかんだ良い奴だし。

「イザイア様、結婚後はお互いの趣味を一緒に楽しみましょう」
「そうですね。結婚後の生活が今から楽しみです」
「お姉様とイザイア様、本当に良かった」
「……はぁ、コイツが義兄になるのか」


 俺がセレーネ嬢とヴァルフレードの婚約をぶち壊しかけたことも、結果オーライ!ってことで!

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